胞状卵胞数(AFC)と抗ミュラー管ホルモン(AMH)は、体外受精(IVF)における卵巣刺激への反応性を予測する指標として広く用いられています。ただし、これらはいずれも卵巣刺激を始める前の状態を映す、いわば「静止画」であり、実際にゴナドトロピン投与に対して卵巣がどの程度反応するかという「動き」までは十分に捉えきれません。
この課題を補う目的で提案されてきたのが、卵胞出力率(follicular output rate: FOR)や卵胞-卵子指数(follicle-to-oocyte index: FOI)といった動的指標です。FORはトリガー日の排卵前卵胞数をベースラインのAFCで割った値、FOIは採卵数をベースラインのAFCで割った値として定義され、卵巣の機能的な感受性を反映するとされています。しかしこれらの指標は分母にAFCしか用いていないため、卵胞の発育に影響する内分泌的な側面までは反映しきれないという限界があります。
AMHは前胞状卵胞や小さな胞状卵胞の顆粒膜細胞から分泌されるホルモンであり、AFCとは異なる角度から卵胞集団の状態を映すと考えられています。そこで、AMHとAFCを単純な比(AMH-AFC比)として組み合わせることで、卵巣の反応性についてより多くの情報が得られるのではないかという問いに答えたのが、Reproductive Biomedicine Online誌2026年(53巻5号、論文番号105893)に掲載された後方視的コホート研究です(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105893)。
方法──2162周期を後方視的に解析
本研究は、2015年5月から2023年10月までにアラブ首長国連邦の三次医療施設で実施された、GnRHアンタゴニスト法によるIVF/ICSI刺激周期2162件を対象とした後方視的観察研究です。対象は原発性または続発性不妊と診断された女性で、AMH測定はElecsys AMHアッセイを用い、刺激開始前6ヵ月以内に行われたものに限定されました。BMI 40kg/m²超の症例や、エストラジオール前投与などのホルモン前処置を受けた周期、経腟超音波以外でAFCや卵胞計測を行った周期は除外されています。1人につき1周期のみが解析対象とされました。
主要な曝露変数はAMH-AFC比で、主要アウトカムはFOR(トリガー日または前日の10mm以上の排卵前卵胞数をベースラインAFCで除した値)とFOI(採取された総卵子数をベースラインAFCで除した値)でした。年齢とBMIで調整した多変量回帰分析(線形回帰・負の二項回帰)により、AMH-AFC比とAMH単独、AFC単独、AMH+AFC併用モデルの予測性能が比較されています。
AMH-AFC比が高いほど──卵胞も卵子も、着実に増えていく
対象患者は年齢中央値36歳(四分位範囲[IQR]31-40)、BMI中央値27.1kg/m²(IQR 24.0-30.8)、AMH中央値1.8ng/ml(IQR 0.9-3.3)、AFC中央値10(IQR 8-15)でした。AMH-AFC比の四分位で群分けすると、最も低いQ1(0.10以下、n=539)から最も高いQ4(0.24超、n=541)にかけて、排卵前卵胞数の中央値は5個から16個へ、採卵数(COC)は5個から15個へ、成熟卵(MII)数は4個から12個へと、いずれも3倍前後に増加しました。機能的な反応性を示すFOIも0.6(IQR 0.3-0.9)から1.3(IQR 0.9-1.9)へ、FORも1.0(IQR 0.7-1.2)から1.7(IQR 1.2-2.4)へと、比例して上昇しています。AMH-AFC比とFOI・FORとの相関係数はいずれもr=0.62(95%信頼区間0.59-0.65、いずれもP<0.001)で、AMHまたはAFCを単独で用いた場合よりも強い相関が確認されました。
「感度」は映すが、絶対数の予測では単独指標に及ばない
多変量解析では、AMH-AFC比がFOIの分散の20%、FORの分散の20%を説明しました。これに対し、AMH単独ではFOIの14%、FORの7%、AFC単独ではFOIの1%、FORの5%にとどまり、AMH-AFC比はいずれの単独指標よりも高い説明力を示しています。ただし、AMHとAFCを組み合わせたモデルはさらに優れており、FOIで26%、FORで31%の分散を説明し、AIC(赤池情報量規準)やRMSE(二乗平均平方根誤差)で見ても最も当てはまりの良いモデルでした。
一方、採卵数やMII数といった絶対的な卵子数の予測では、AMH-AFC比の優位性は認められませんでした。採卵数の予測誤差はAMH-AFC比単独でRMSE 6.99(AIC 12807.25、決定係数R² 0.50)であったのに対し、AMHとAFCを併用したモデルではRMSE 5.49(AIC 11656.41、R² 0.86)と大きく改善しており、MII数についても同様の傾向が確認されています。つまりAMH-AFC比は、卵巣が「どれだけ効率よく反応するか」という感度の指標としては単独指標より優れているものの、「最終的に何個採れるか」という絶対数の予測では、従来通りAMHとAFCを別々に評価し組み合わせて用いる方法が上回るということです。
臨床的意味・日本への含意
日本の生殖医療の現場でも、AMHとAFCはいずれも卵巣刺激プロトコルの選択やゴナドトロピン投与量決定の基本情報として広く用いられています。この研究が示唆するのは、AFCとAMHの数値がそれぞれ「一見問題ない」範囲であっても、AMHがAFCに対して相対的に低い場合、すなわちAMH-AFC比が低い場合には、卵巣の反応性が期待より鈍い可能性があるという点です。たとえば胞状卵胞数が十分にあるにもかかわらずAMH値が低めの患者では、ホルモンプロファイルをより注意深くモニタリングし、低反応のリスクを念頭に置いた対応が検討され得ます。逆に、AFCに対してAMHが著しく低い場合には、AMH分子自体の変異といった稀な可能性も考慮の対象になります。ただし著者らも述べる通り、この比はAMHとAFCを組み合わせた従来の評価法に取って代わるものではなく、あくまで補助的な情報として位置づけられています。
研究の強みと限界
本研究の強みは、単一の三次医療施設で臨床プロトコルとデータ収集の一貫性を保ちながら、2000周期を超える大規模なコホートを解析した点にあります。相関分析と回帰分析を組み合わせることで、AMH-AFC比の予測性能を多角的に評価している点も評価できます。
一方で限界もあります。第一に後方視的解析であるため、選択バイアスの可能性があり、因果関係の証明はできません。第二に、開始用量が卵巣予備能マーカーに基づいて個別化されていたため、適応による交絡が生じている可能性があります。第三に、AMH測定は必ずしも刺激周期と同一周期内で行われたわけではなく、AMH-AFC比の精度に影響した可能性があります。AFC計測にも検者間variabilityという測定バイアスの余地が残ります。さらに方法論上の注意点として、FOIとFORはいずれも分母にAFCを用いており、AMH-AFC比との間に数学的な依存関係が生じるため、相関の強さの解釈には注意が必要です。加えて本研究は単一施設のデータであり、異なる民族背景や臨床プロトコルを持つ集団への一般化可能性は限定的です。著者らは、AMH-AFC比の臨床的有用性を検証するには、多様な集団を対象とした前向き研究が必要であるとしています。
おわりに
本研究は、AMHとAFCを単純な比として組み合わせることで、ゴナドトロピンに対する卵巣の機能的な感受性――FOIやFORといった動的指標――をより強く反映できる可能性を示しました。一方で、採卵数や成熟卵数といった絶対的な収量の予測においては、従来通りAMHとAFCを個別に評価し組み合わせて用いる方法が優れていることも確認されています。AMH-AFC比は、AFCが十分にあるように見えても実際の反応性が伴わない、いわば「見かけと実態の乖離」を早期に察知するための補助的な指標として位置づけられ、今後は多様な集団を対象とした前向き研究によって、個別化された卵巣刺激プロトコルの構築に役立つかどうかが検証されていくことになります。
参考文献
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