BMIは正常なのに――「お腹まわり」が示す妊娠率の差

体外受精(IVF)の成績と体格の関係を語るとき、これまで主に使われてきた指標は体格指数(BMI)でした。BMIは身長と体重だけから算出できる簡便な指標であり、肥満が生殖機能に及ぼす影響を評価する際に広く用いられています。一般に、BMIが高い女性ほど不妊のリスクが高く、周期のキャンセル率上昇や流産リスクの増加、そして出生率の低下と関連することが、これまでの観察研究で示されてきました。

ただし、BMIには構造的な弱点があります。脂肪量と筋肉量を区別できないため、筋肉量の多い人を過体重や肥満と誤分類してしまう可能性があること、そして何より、体脂肪がどこに分布しているか――特に内臓周囲に蓄積する「中心性脂肪(内臓脂肪)」の多寡を捉えられないことです。BMIが標準範囲にある女性の中にも、腹部に脂肪が集中し代謝異常を抱えているケースが一定数存在することが知られています。同じBMIでも、体組成や代謝状態、そして生殖機能への影響は個人差が大きいのです。

こうした限界を補う指標として近年注目されているのが、身長と腹囲(ウエスト周囲径)から算出する「体幹丸み指数(Body Roundness Index、BRI)」です。BRIは中心性脂肪をより的確に反映すると考えられており、糖尿病や心血管疾患などの代謝関連疾患のリスク予測において、BMIより優れた性能を示したとする報告も出てきています。しかし、BRIとIVFの妊娠成績との関連を検討した研究はこれまでほとんどなく、BMIだけでは見えないリスクをBRIが補足できるかどうかは、明らかにされていませんでした。この問いに、Human Reproduction Open誌に2026年8月に掲載された論文(DOI: 10.1093/hropen/hoag068)が答えを示しています。

方法──中国の2件のRCTデータを用いた二次解析

今回の研究は、中国で実施された2件の多施設共同ランダム化比較試験(RCT)のデータを用いた二次解析です。いずれも新鮮胚移植と全胚凍結後の融解胚移植の出生率を比較した試験で、1件目は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性1508人を14施設から2013年6月から2014年5月にかけて登録し、2015年7月まで追跡したもの、2件目は月経周期が規則的な女性2157人を20施設から2015年3月から2015年11月にかけて登録し、2017年3月まで追跡したものです。

胚移植を受け、BRIのデータが揃っていた3523人の女性が今回の解析対象となりました。BRIは、IVF治療開始前に測定した身長と腹囲から算出され、明確な臨床的カットオフ値がまだ確立されていないため、対象者は33パーセンタイルと66パーセンタイルの値に基づき3群に分けられました。BRI 2.54未満の群1(1171人)、2.54以上3.54未満の群2(1174人)、3.54以上の群3(1178人)です。主要評価項目は出生(妊娠28週以降に生存徴候のある新生児の分娩)で、修正ポアソン回帰(頑健分散推定)を用いて、年齢、不妊期間、不妊原因、胚移植の種類、PCOSの有無、採卵数、移植胚数で調整した調整リスク比(aRR)と95%信頼区間(CI)が算出されました。

BRIが高いほど、出生率は下がる

解析対象3523人全体でみると、出生率はBRIが高い群ほど低下していました。群1(BRI最低)で53.6%、群2で49.5%、群3(BRI最高)で45.2%(P<0.001)です。年齢や不妊原因などの背景因子を調整した後も、群3は群1と比べて出生の可能性が有意に低く、調整リスク比は0.89(95%CI 0.81〜0.97、P=0.008)でした。これは、BRIが最も高い群の女性は、最も低い群の女性と比べて出生に至る確率がおよそ11%低かったことを意味します。

妊娠喪失(生化学的妊娠の喪失と臨床的妊娠の喪失を合わせたもの)についても、同様の傾向がみられました。群3の総妊娠喪失リスクは群1と比べて調整リスク比1.31(95%CI 1.07〜1.61、P=0.009)と、約31%高くなっていました。また、BRIを連続変数として扱った解析でも、BRIが1単位増加するごとに、出生の可能性は3%低下(aRR 0.97、95%CI 0.93〜0.99、P=0.035)し、総妊娠喪失のリスクは9%上昇(aRR 1.09、95%CI 1.02〜1.16、P=0.014)するという結果が示されています。

「BMIは正常」でも――正常体重群だけに現れたリスク

この研究で最も注目すべき点は、BMIが正常範囲(18.5以上24未満)の女性に限定した解析です。この集団(2126人)では、出生率は群1で55.6%だったのに対し、群2で48.6%、群3で44.7%と、BRIが上がるにつれて明確に低下していました。調整リスク比は群2で0.89(95%CI 0.81〜0.98、P=0.019)、群3で0.84(95%CI 0.73〜0.96、P=0.009)と、いずれも統計的に有意な差でした。BRIを連続変数とした場合も、BMI正常群では1単位の増加ごとに出生の可能性が7%低下する(aRR 0.93、95%CI 0.87〜0.98、P=0.009)という結果が得られています。

さらに、この集団では総妊娠喪失のリスクも、BRIが最も高い群で群1と比べて調整リスク比1.38(95%CI 1.04〜1.85、P=0.028)と有意に上昇していました。つまり、BMIという指標だけを見ていては、体格が「標準」と判定される女性の中に潜む出生率の低下リスクを見逃してしまう可能性があるということです。

一方、過体重・肥満(BMI 24以上)の女性1137人の解析では、BRIが高い群ほど出生率が下がる傾向自体は観察されたものの(群1〜3で58.3%、52.5%、45.3%)、調整後の差は統計的に有意ではありませんでした(群3の調整リスク比0.80、95%CI 0.61〜1.04、P=0.089)。ただし、この集団では群1に該当する女性がわずか48人と少なく、検出力が限られていた点には注意が必要です。BMI区分とBRIの間に統計学的な交互作用(相乗的な影響)は、出生を含むいずれの妊娠転帰についても確認されませんでした(交互作用のP値はすべて0.05超)。

BRIとBMIはどこまで同じものを測っているのか

BRIとBMIは、全体としては強く相関していました(ピアソンの相関係数r=0.75、95%CI 0.74〜0.76、スピアマンのρ=0.73、いずれもP<0.001)。しかし、BMIの範囲を正常群と過体重・肥満群にそれぞれ分けて相関を見直すと、その強さは大きく弱まります。正常BMI群での相関係数は0.44(95%CI 0.41〜0.48)、過体重・肥満群では0.55(95%CI 0.51〜0.59)にとどまりました。つまり、BMIが同じ範囲に収まる女性同士であっても、BRIの値には相応のばらつきがあるということです。BMIを調整した上での感度分析でも、BRIと出生の関連はおおむね変わらず観察されており、BRIがBMIとは異なる情報を提供している可能性が支持されています。

肥満が着床や妊娠の継続に影響する機序としては、卵巣機能や子宮内膜の受容能への悪影響が想定されています。過去の研究では、BMIが高いほど胚盤胞形成率の低下や胚の質の低下、胚発生の異常との関連が報告されてきました。加えて、内臓脂肪の蓄積は慢性的な低度炎症や酸化ストレスと関連し、これが子宮内膜の受容能を損ない、着床や出生の可能性を下げる一因になりうると考えられています。BRIが腹囲を組み込んでいることから、BMIだけでは捉えきれない体形や中心性脂肪の情報を反映し、これが今回観察された関連の背景にあると論文では考察されています。

PCOSの有無で結果は変わるか

PCOSの診断状況で層別化した解析でも、BRIと妊娠転帰の関連はおおむね主要な結果と一致していました。出生についてみると、群1と比べた群3の調整リスク比は、PCOSのある女性で0.84(95%CI 0.73〜0.98、P=0.028)、PCOSのない女性で0.90(95%CI 0.80〜1.02、P=0.092)であり、BRIとPCOS診断の間に統計学的な交互作用は確認されませんでした(いずれの妊娠転帰についてもP>0.05)。母体年齢や胚移植の種類、卵管性不妊の有無による効果修飾も認められておらず、今回観察された関連は特定のサブグループに限られたものではないことが示唆されています。

日本の現場への含意

日本の生殖医療の現場では、体格の評価はBMIを中心に行われることが一般的です。しかし今回の結果は、BMIが標準範囲にあるというだけでは、体幹まわりの脂肪分布に由来するリスクを見落とす可能性があることを示しています。腹囲の測定は身長・体重の測定と同様に簡便であり、BRIの算出には身長と腹囲さえあれば追加の検査は必要ありません。IVFを受ける女性の体格評価に腹囲や体幹丸み指数を組み合わせることは、BMIだけでは捉えきれないリスクの層別化に役立つ可能性があります。

なお、BRIには現時点で国際的に統一されたカットオフ値が存在せず、この論文で用いられた2.54や3.54という閾値も、この集団内でのパーセンタイルに基づく相対的な区分にすぎません。臨床現場で個々の患者に適用する際の具体的な基準値は、今後の研究の蓄積を待つ必要があります。

研究の強みと限界

この研究の強みは、標準化された評価基準を用いた多施設共同RCTのデータを利用している点にあります。異なる施設間での結果のばらつきが抑えられ、結果の一般化可能性が高いと考えられます。また、身長や腹囲などの体格測定は、訓練を受けたスタッフが標準化された手順で実施しており、測定誤差や誤分類のリスクが比較的小さいことも利点です。

一方で、いくつかの限界も存在します。第一に、この解析は元のRCTの主目的とは異なる目的で行われた事後解析であり、BRIと妊娠転帰の間の関連が因果関係を意味するとは断定できません。第二に、過体重・肥満群における最低BRI群はわずか48人と規模が小さく、統計的な検出力が限られていた可能性があります。第三に、低体重の女性数が少なかったため、独立したサブグループとしての解析は行われておらず、この集団におけるBRIと妊娠転帰の関連は依然として不明です。第四に、年齢や不妊原因などの主要な因子は調整されているものの、特にPCOSに関連する未測定の代謝的特徴など、残余交絡の可能性は排除できません。

おわりに

この研究は、IVFを受けた女性3523人のデータから、体幹丸み指数(BRI)が高いほど出生率が低下し、妊娠喪失のリスクが上昇することを示しました。この関連は、BMIが正常範囲にある女性においても明確に観察された一方、過体重・肥満の女性では統計的に有意な関連は確認されませんでした。BRIとBMIの相関は全体としては強いものの、BMIの範囲ごとに見ると中程度にとどまっており、BRIがBMI単独では捉えられない体脂肪分布の情報を提供している可能性が示唆されます。今後は、異なる集団におけるBRIのカットオフ値の検証や、BRIを用いた臨床的な介入がIVFの成績向上につながるかどうかの検討が課題として残されています。

参考文献

1. Fang Y, Yang Y, Li N, Zou J, Niu Y, Zhao D, Liao S, Liu Y, Chen Z-J, Wei D. 『Association between body roundness index and pregnancy outcomes of IVF』Hum Reprod Open 2026;2026(3):hoag068. doi:10.1093/hropen/hoag068

AIが読み解くIVF成功のカギ――機械学習が示す最重要予測因子

不妊症は生殖年齢人口の15~20%が経験するとされ、体外受精(IVF)をはじめとする生殖補助医療(ART)は年々重要性を増しています。ハンガリーでは2024年に新生児の約3.5%がART由来の妊娠から生まれており、IVFは数十年にわたるエビデンスに基づく医療として定着した一方、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や早産、低出生体重などのリスクも伴うため、成功率を左右する要因の正確な把握が課題となっています。

これまで50を超える臨床パラメータがIVFの成功との関連で検討されてきましたが、どの要因がどの程度重要かは研究間で一致しないことも少なくありませんでした。近年、機械学習(ML)を用いた予測モデルがこの課題に取り組んでおり、多数の臨床変数の相対的な重要度を順位づけることを可能にしています。こうした背景のもと、ハンガリー・セゲド大学の研究グループによるナラティブレビューが、Orvosi Hetilap誌(2026年、167巻32号、1262-1268頁、doi:10.1556/650.2026.33608)に掲載されました。国際文献と同グループ自身の機械学習研究の成果を統合し、IVFの予測因子を整理した内容です。

方法――国際文献とセゲド大学の自験データを統合したナラティブレビュー

本総説は、機械学習を用いた先行研究と、セゲド大学Gametogenezis研究グループが発表してきた複数の後ろ向き研究を統合したナラティブレビューです。用いられた主なアルゴリズムはサポートベクターマシン(SVM)、ランダムフォレスト(RF)、勾配ブースティング(XGBoost)で、いずれも構造化された臨床データから教師あり学習を行い、IVFの成功・不成功を予測するとともに、各臨床変数の相対的重要度を順位づけます。ただし多くのモデルは後ろ向きデータでの検証にとどまっており、臨床応用には前向き・多施設・大規模データによる検証と、80%程度の予測精度が必要とされています。

最も強い予測因子は、やはり『年齢』と『胚の質』だった

複数の機械学習研究に共通して浮かび上がる予測因子は、母体年齢と移植胚の質(embryo score)の2つに集約されます。母体年齢は1980年代から報告される最古典的な予測因子で、35歳が一つの分水嶺とされ、加齢とともに臨床妊娠率、採卵数、正倍数性(染色体数が正常)卵子の割合が低下します。embryo scoreは、移植胚数や内膜厚、父親年齢、精液所見と比べても優れた予測因子とされ、セゲド大学の4件の研究(Nádasdiら、Kozinszkyら、Vedelekら、Bereczkiら)のいずれでも、重要度ランキングの1位または2位を占めていました。

体重は『量』だけでなく『機能』に影響する――BMIというもう一つの鍵

肥満は世界的に、そしてハンガリーでも拡大しており、2025年の調査では成人女性の28.9%、男性の32.5%が該当します。英国NICEガイドラインはART開始前の理想BMIを19~30kg/m²とし、この範囲を外れると成功率が低下すると報告されています。13件の研究を統合したメタ解析ではBMI 30kg/m²以上が内膜の受容能や卵子・胚の質を低下させ、別のメタ解析(約2500人、14件)では正常範囲を超えるBMIが妊娠成立までの期間を延長させ、中心性肥満では2倍に及ぶことが示されました。セゲド大学の研究では、BMI 29kg/m²超で臨床妊娠率への負の影響が確認され、機械学習モデルでも約50項目中上位15位以内に位置づけられています。またBMIとFSH・黄体形成ホルモン(LH)値の逆相関も報告されています。

正常範囲のTSHは、本当に介入不要なのか

甲状腺ホルモンは月経周期やゴナドトロピン調節に関与します。ESHREガイドラインは、甲状腺疾患のない女性の目標TSH値を0.4~4.0mU/l、橋本病陽性の女性では2.5mU/l未満としています。原因不明不妊の女性ではTSH値が対照群より有意に高く(1.95±0.66対1.66±0.51mIU/l)、2867人を解析した研究ではTSH 4.2µIU/ml超の群でAMH値が低いことが示されました(2.79対3.41ng/ml、P<0.001)。一方、正常範囲内(0.4~4.0µIU/ml)のTSH値自体はIVF成功や妊娠転帰と関連しないとする研究も複数あり、セゲド大学の研究でも、正常範囲内のTSHは自己免疫性甲状腺炎の有無にかかわらず、臨床妊娠や生産率に有意な影響を及ぼさないことが示されています。

子宮内膜は何ミリが『ちょうどいい』のか

子宮内膜の厚さは胚の着床のしやすさに関わる重要な因子とされ、経腟超音波検査で日常的に測定されます。内膜厚7mm未満では着床率・妊娠率・生産率が低下する傾向がある一方、14mmを超える厚い内膜では中間群(7~14mm)と有意差はみられません。多くのメタ解析では、排卵誘発時の内膜厚が7~8mmを超えるとより高い妊娠率・生産率が確認されています。セゲド大学の研究では、内膜厚7.5mm未満が予後不良因子である一方、測定タイミングによって意義が異なり、排卵誘発時・胚移植時は10~12mmでわずかな優位性、採卵時はより厚いほど良好な転帰と関連していました。

卵巣予備能を映す2つのホルモン――FSHとAMH

FSH基礎値の測定はIVF前の日常的な検査ですが、予測的価値には見解の相違があります。7件を統合したメタ解析ではFSH上昇が妊娠率低下と関連し、うち2件ではFSH 10IU/ml以下でより高い妊娠可能性が示されました。別のメタ解析では基礎FSHの予測価値は限定的で、極端な高値例のスクリーニングにのみ有用とされています。AMHは卵巣予備能を反映し加齢とともに低下するホルモンで、術前AMH 1.10ng/ml以上では採卵数・卵子の質・胚移植率が良好とされます。セゲド大学のBereczkiらはXGBoostモデルで14項目から母体年齢、AMH、BMI、FSH、LH、精子濃度・運動率、父親年齢、不妊期間の9項目に絞り込み、Nádasdiらは996人の解析で妊娠群(273人)が非妊娠群(723人)より有意に低いFSH・高いAMHを示し、両ホルモンとも43項目中上位15位以内に位置づけられたと報告しています。

臨床現場での指標の使い方が変わりつつある

日本の生殖医療の現場でも、母体年齢、embryo score、BMI、甲状腺機能、内膜厚、FSH・AMHは日常的に確認されている指標です。今回のレビューが示す意義は、機械学習によって多数の変数の相対的な重要度を序列化できるようになった点にあります。限られた診察時間の中で数値を総合的に評価する必要がある臨床現場では、こうした重要度の把握が説明や意思決定の優先順位づけに役立つ可能性があります。特にTSHについては、正常範囲内でも一律に低い目標値を目指すべきかという議論があり、今回の知見は過度に厳格な目標設定を見直す材料になり得ます。

研究の強みと限界

本総説の強みは、国際文献と単一グループが継続的に蓄積した複数の後ろ向き研究の重要度ランキングを比較可能な形で提示した点にあります。一方、系統的レビューのような網羅的な文献検索や質評価は行われておらず、引用されたモデルの多くは後ろ向きデータの検証にとどまり、前向き・多施設・大規模データによる外部検証が今後の課題です。データの異質性や施設間差、過学習リスクも臨床応用の制約となります。

おわりに

機械学習モデルは、IVFの成否を左右する多数のパラメータから相対的に重要な因子を特定する手法としての可能性を示しています。母体年齢と胚の質が突出した予測因子であることは、従来の知見をあらためて裏付けました。BMI、AMH、FSH、内膜厚も一定の役割を果たす一方、その影響の大きさは研究間で変動し、正常範囲内のTSHとの明確な関連は示されませんでした。IVFの成功は依然として多因子的な現象であり、機械学習に基づく予測モデルは個別化された治療戦略に向けた選択肢の一つとして位置づけられます。今後は標準化されたデータ収集に基づく大規模・国際的な多施設研究が求められています。

参考文献

1. Nádasdi B, Vedelek V, Bereczki K, et al.『Clinical and preprocedural factors influencing in vitro fertilization outcomes: a machine learning-based analysis』Orv Hetil. 2026;167(32):1262-1268. doi:10.1556/650.2026.33608

2. Boddeti S, Noor K, Ansar M, et al.『Impact of obesity on in vitro fertilization (IVF) outcomes: a systematic review』Cureus 2025;17:e90695.

3. Efstratiou M, Kantilafti M, Hadjikou A, et al.『The effect of obesity on fertility: a systematic review』Semergen 2026;52:102670.

4. Nádasdi B, Vedelek V, Bereczki K, et al.『Pre-IVF day 2 TSH levels and treatment success: a machine learning-based analysis』J Clin Med. 2025;14:4407.

5. Kozinszky Z, Bereczki K, Vedelek V, et al.『Pre- and procedural factors influencing IVF success in tubal factor infertility』J Clin Med. 2024;13:5754.

6. Vedelek V, Bicskei P, Tábi M, et al.『Endometrium development patterns and BMI groups in IVF patients: prognostic aspects』Front Endocrinol. 2024;15:1379109.

7. Bereczki K, Bukva M, Vedelek V, et al.『Machine learning-based prediction of IVF outcomes: the central role of female preprocedural factors』Biomedicines 2025;13:2768.

8. Zhang H, Qiu H, Liu Z, et al.『Subclinical/overt hypothyroidism and diminished ovarian reserve in infertile women』Front Endocrinol. 2024;15:1477665.

9. Coussa A, Barber TM, Khrait Z, et al.『Maternal serum TSH and in vitro fertilisation-conceived pregnancy outcomes』J Hum Reprod Sci. 2022;15:163-170.

10. Liao Z, Liu C, Cai L, et al.『Endometrial thickness and pregnancy outcomes after IVF/ICSI: a systematic review and meta-analysis』Front Endocrinol. 2022;12:814648.

11. Van Loendersloot LL, van Wely M, Limpens J, et al.『Predictive factors in IVF: a systematic review and meta-analysis』Hum Reprod Update 2010;16:577-589.

12. Bancsi LF, Broekmans FJ, Mol BW, et al.『Basal FSH in the prediction of poor ovarian response and IVF failure: a meta-analysis』Fertil Steril. 2003;79:1091-1100.

喫煙はARTの成功率を本当に下げるのか?――「真の非喫煙者」と比べて見えた意外な結果

生殖補助医療(ART)を受ける女性への禁煙の助言は、生殖医療の現場で広く定着しています。世界保健機関(WHO)は生殖年齢にある人のおよそ6人に1人が不妊を経験すると推定しており、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といったARTは治療の柱です。治療成績を左右する生活習慣要因として、喫煙は以前から注目されてきました。

ただし、「喫煙はARTの成功率を下げる」という理解には方法論上の弱点が指摘されています。多くの先行研究は、対照群の「非喫煙者」に、一度も喫煙したことがない「真の非喫煙者」と過去の「元喫煙者」を区別せず含めてきました。喫煙の悪影響は禁煙で部分的に回復しうるため、この分類は効果を過小評価している恐れがあります。元喫煙者を除いた厳密な非喫煙者と比べたとき、喫煙の影響はどれほどの大きさで現れるのでしょうか。2026年のJournal of Gynecology Obstetrics and Human Reproduction誌のメタ解析が、26件・16,359人分のデータで答えています(DOI: 10.1016/j.jogoh.2026.103252)。

方法──26研究、16,359人を、真の非喫煙者と比較

研究はPROSPERO(登録番号CRD420251128852)に事前登録され、PRISMA 2020に準拠しました。10データベースの検索で26件のコホート研究(1986〜2025年、13か国、計16,359人)が採用され、比較対象は真の非喫煙者に限定されました。評価項目は出産率、臨床妊娠率、流産率、採卵数です。

出産率15%減、妊娠率18%減──まず出た「予想通り」の結果

13研究(9,555人)の統合では、能動喫煙は出産率の有意な15%低下と関連していました(危険度の比を示すリスク比 RR 0.85、95%CI 0.79〜0.92)。臨床妊娠率は21研究で18%低い結果(RR 0.82、95%CI 0.77〜0.88)、採卵数も18研究でわずかに減少、流産は7研究で有意差なし(RR 1.15)でした。従来の理解を裏づける結果に見えます。

「真の非喫煙者」と比べ直すと、有意差は消えた

ここが本研究の核心です。真の非喫煙者だけを対照とした研究に絞る感度分析を行うと、出産率・臨床妊娠率とも有意差は消失しました。出産率RR 0.88(95%CI 0.64〜1.21)、臨床妊娠率RR 0.88(95%CI 0.72〜1.08)と、いずれも1をまたぎます。全体解析の「15%減」「18%減」は、元喫煙者を非喫煙者群に含めた研究を合わせた場合に限り有意だったことになります。喫煙をやめた人は真の非喫煙者に近い成績を示したとする過去の報告とも符合し、悪影響が禁煙によって回復しうることを示唆します。

証拠の確実性はGRADEで「中」

GRADE評価では出産率・臨床妊娠率が「中程度」、流産・採卵数は「低い」でした。従来より確からしい証拠基盤である一方、正確なリスクの大きさは依然不確実です。

日本での臨床的意味

日本では、生殖医療を受ける女性への禁煙指導は既に一般的です。今回の結果はこの方向性を否定するものではなく、生物学的な妥当性や一貫した悪影響の傾向を踏まえれば、禁煙を勧める臨床的判断は引き続き支持されます。ただし「出産率が15%下がる」という数値は元喫煙者を含めた研究群に基づくものであり、真の非喫煙者だけとの比較では有意差が確認されていない点への留意が必要です。

研究の強みと限界

強みは事前登録されたプロトコル、PRISMA 2020への準拠、真の非喫煙者との厳密な比較設計です。一方、15研究が自己申告のみによる喫煙把握で誤分類のリスクが残り、研究間の異質性も大きいことが限界です。

おわりに

今回のメタ解析は、能動喫煙とART成績の関連を、より厳密な比較対象の定義で再検証しました。全体では出産率15%減・臨床妊娠率18%減という有意な関連が確認された一方、対照群を「真の非喫煙者」に限定すると有意差は消失しました。質の高い前向き研究が今後の課題です。

参考文献

1. Malasevskaia I, Rebellow D, Chalasani R, et al.『The effect of active cigarette smoking on reproductive outcomes in women undergoing assisted reproductive technology (ART): A systematic review and meta-analysis』J Gynecol Obstet Hum Reprod 2026;55:103252. doi:10.1016/j.jogoh.2026.103252

2. Waylen AL, Metwally M, Jones GL, et al.『Effects of cigarette smoking upon clinical outcomes of assisted reproduction: a meta-analysis』Hum Reprod Update 2009;15(1):31-44. doi:10.1093/humupd/dmn046

3. Budani MC, Fensore S, Di Marzio M, Tiboni GM.『Cigarette smoking impairs clinical outcomes of assisted reproductive technologies: a meta-analysis of the literature』Reprod Toxicol 2018;80:49-59. doi:10.1016/j.reprotox.2018.06.001

AIはART妊娠を予測できるか──20研究を統合した現在地

体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)などの生殖補助医療(ART)が広く行われるようになった一方、1回の治療周期でどの程度の確率で妊娠・出産に至るかを事前に見積もることは、患者にとっても医療者にとっても重要な課題です。世界保健機関(WHO)の推計では成人の6人に1人が生涯のいずれかの時期に不妊を経験するとされ、ART治療は多くの家庭にとって重要な選択肢になっている一方、1周期あたりの生産率は依然として限定的で、施設間・個人間のばらつきも大きいことが知られています。

従来の妊娠予測モデルは回帰分析を中心に、あらかじめ定めた少数の変数を用いるものが主流で、胚の形態情報や画像データ、複雑な相互作用までは十分に捉えきれないという限界がありました。近年は機械学習(ML)による予測モデルの開発が相次いでいますが、実際にどの程度の精度でART後の妊娠・出産を予測できるのかを体系的に検証した研究は限られていました。この空白を埋める目的で行われたのが、Journal of Assisted Reproduction and Genetics誌に2026年に掲載された系統的レビュー・診断精度メタ解析です(DOI:10.1007/s10815-026-03988-x)。PROSPEROに事前登録された上で(登録番号CRD420251108846)、9つのデータベースを横断的に検索し、機械学習モデルによるART妊娠・出産予測の診断精度と方法論的な質を統合的に評価しています。

方法──9つのデータベースを横断し、20研究を精査した

PubMed、Embase、Cochrane Library、IEEE Xplore、MEDLINE、ClinicalTrials.gov、CNKI、Wanfang、VIPの9データベースを対象に、開設時から2026年7月までの文献が検索され、PRISMA2020声明とコクラン診断精度レビューハンドブックに準拠して実施されています。最終的に2241件が抽出され、重複除去・スクリーニングと179件の全文評価を経て、20研究が組み入れ基準を満たしました。このうち完全な2×2データ(真陽性・偽陰性・偽陽性・真陰性)を報告していた14研究が診断精度メタ解析の対象です。20研究は2020〜2026年に発表され、アジア・欧州・北米・オーストラリア・ロシアなど世界各地で実施されましたが、多くが後方視的・単施設の研究で、前方視的研究はわずか2件、外部検証を報告していた研究も少数にとどまりました。

感度73.7%、特異度78.9%――『当たる』とはどこまで言えるか

14研究を対象とした診断精度メタ解析の結果、機械学習モデルの統合感度は0.737(95% CI、0.662〜0.799)、統合特異度は0.789(95% CI、0.709〜0.851)でした。感度73.7%は、実際に妊娠・出産に至った周期のうち、モデルが『陽性』と正しく判定できた割合が7割強にとどまることを意味し、裏を返せば成功する周期のおよそ4件に1件は『見込みが低い』と誤って分類される計算です。特異度78.9%についても、実際には妊娠・出産に至らなかった周期のうち5件に1件はモデルによって誤って『見込みがある』と判定されていたことになります。研究間のばらつきを示すI²統計量は感度97.7%、特異度99.0%(いずれもp<0.0001)と極めて高く、対象集団や施設によって成績が大きく異なっていたことがうかがえます。

感度と特異度のトレードオフを踏まえた統合診断オッズ比(DOR)は10.49(95% CI、6.28〜17.53)でした。DORは妊娠・出産に至った群でモデルが陽性となるオッズが、至らなかった群と比べて何倍かを示す値で、10.49という数字は成功した周期のオッズがおよそ10倍高いことを意味します。ばらつきは大きいものの(I²=96.2%、p<0.0001)、95%信頼区間の下限は1を大きく上回り、有意性そのものは比較的一貫していました。要約ROC曲線(SROC曲線)もROC空間の左上寄りに位置し、おおむね良好な判別能を示す一方、予測区間の幅は広く、臨床現場ごとの不確実性の大きさも示されていました。

臨床妊娠と生産で差はなし、アルゴリズムの種類でも優劣つかず

アウトカムの種類・アルゴリズム・研究デザイン・施設の種類・検証方法という5つの観点から探索的サブグループ解析が行われています。臨床妊娠(8研究)の統合DORは11.09、生産(6研究)は10.63で有意差なし(p=0.936)。アルゴリズム別ではアンサンブル学習9.47、深層学習6.03、従来型機械学習24.27で、数字上は従来型機械学習が高く見えますが対象研究が2件と少なく信頼区間も極めて広いため優劣は判断できません(p=0.553)。施設の種類(単施設11.62 対 多施設8.76、p=0.556)、検証方法(内部検証12.42 対 外部検証6.09、p=0.109)でも有意差はなく、外部検証の方が点推定値が低い傾向は、モデルが施設内のデータで最適化されている可能性を示唆します。唯一有意差が出たのは研究デザイン別(後方視的9.27 対 前方視的200.00、p=0.0009)ですが、前方視的群はわずか1研究で信頼区間も極端に広く、この結果から前方視的研究の優位性を結論づけることはできないと、論文中でも慎重な解釈が求められています。

20研究のうち『低リスク』はわずか1本――方法論の質という課題

論文はPROBASTを用いて、対象・予測因子・アウトカム・解析の4領域、12項目にわたり各研究の質を評価しています。20研究中、全体としてバイアスリスクが『低い』と判定されたのはわずか1研究(5.0%)で、『高い』が8研究(40.0%)、『不明』が11研究(55.0%)を占めました。特にアウトカム評価の領域は低リスクが2研究のみで、評価手順や追跡期間の記載が不明瞭な研究が目立ちました。出版バイアスはDeeksのファネルプロット検定で有意な非対称性は認められませんでしたが(p>0.05)、対象が14研究と少なく検出力自体が限られている点には留意が必要です。

臨床現場への示唆――『補助ツール』としての機械学習

臨床現場では、機械学習モデルの位置づけをどう捉えるかが今回の結果から改めて問われます。感度73.7%・特異度78.9%という成績は、単独の診断ツールとして意思決定を委ねるには不十分な水準であり、論文でも『臨床家の判断や共同意思決定を補完する補助的な意思決定支援ツール』として位置づけるべきだと指摘されています。頭蓋内動脈瘤の破裂リスク予測など他領域の機械学習モデルと比較しても同程度のDORにとどまり、ART分野に限らず機械学習による予測モデル全般に共通する現状ともいえます。

日本では、胚の形態評価や患者背景をもとにした妊娠・出産の見込みの説明が診療の一部として行われていますが、今回の結果はAIによる予測スコアを『決定的な根拠』として扱うことへの慎重さを裏付けるものです。内部検証を行った研究の方が外部検証を行った研究よりDORが高い傾向にあったことは、単一施設で最適化されたモデルを他施設にそのまま適用すると期待した精度が得られない可能性を示唆しており、国内複数施設を横断した外部検証を伴う研究が、今後の実装判断において重要な材料になると考えられます。

研究の強みと限界

この系統的レビューの強みは、9つのデータベースを横断した網羅的な検索と、PRISMA2020声明・コクラン診断精度レビューハンドブックに準拠した厳密な手順、PROBASTによる体系的な質評価を組み合わせている点にあります。一方で、完全な2×2データを報告していたのは20研究中14研究にとどまり、主要な解析のほぼすべてで研究間の異質性が高く、その要因を研究レベルの共変量だけでは十分に説明できませんでした。対象研究の多くが後方視的・単施設研究で一般化可能性にも限界があり、較正(キャリブレーション)や正味の利益、実装環境に関する報告も不十分で、臨床的有用性を深く評価することはできなかったとされています。

おわりに

今回のメタ解析は、機械学習モデルがART後の妊娠・出産をおおむね中程度の精度で予測できる一方、その精度は臨床判断を単独で代替できる水準には達していないことを定量的に示しました。研究間の異質性の大きさ、後方視的・単施設研究への偏り、外部検証の乏しさ、方法論的な質の課題(20研究中、低リスクと判定されたのは1研究のみ)は、いずれもこの分野が抱える構造的な課題として浮かび上がっています。論文は、今後の研究がTRIPOD+AIおよびPROBASTに準拠した透明性の高い報告、較正と臨床的有用性の評価、前方視的な多施設外部検証を優先すべきだと結論づけています。機械学習モデルがART診療に組み込まれる段階に至るには、こうした知見の蓄積が今後の鍵になると考えられます。

参考文献

1. Li B, Liu H, Yu F, et al. Machine learning-enabled prediction of ART pregnancy outcomes: a systematic review and meta-analysis. J Assist Reprod Genet. 2026. doi:10.1007/s10815-026-03988-x

不妊症は豊かな国でこそ急増している──GBD 2021が描く地域差と2050年予測

女性不妊は、妊娠を希望する女性の生活の質や心理面に大きな影響を及ぼすだけでなく、社会全体の健康課題としても関心が高まっています。世界保健機関(WHO)は、生殖年齢にある人のおよそ6人に1人が不妊を経験すると報告しており、その負担は先進国・途上国を問わず広がっています。ただし、原因や増加の背景は地域によって大きく異なると考えられており、社会経済的な発展度と不妊負担との関係を、時間軸と地域軸の両方から整理した研究はこれまで限られていました。

こうした背景のもと、世界疾病負担研究(Global Burden of Disease Study、GBD)2021のデータを用いて、1990年から2021年までの女性不妊の有病率と障害調整生存年(DALYs)を204か国・地域について分析し、2050年までの将来予測まで行った研究が、Gynecological Endocrinology誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1080/09513590.2026.2697103)。社会人口統計学的指数(Socio-demographic Index、SDI)という、教育水準・所得・出生率などから算出される発展度の指標をもとに国・地域を5段階に分け、年齢層別の傾向や将来予測まで踏み込んで検証した点が特徴です。

方法──204か国のデータを、発展度と年齢で層別化した

解析には、371の疾患・傷害について204か国・地域、1990年から2021年までのデータを収録するGBD 2021のデータベースが用いられました。女性不妊は、国際疾病分類第10版(ICD-10)のN97コード(避妊なしの性交を12か月以上続けても妊娠に至らない状態)に基づいて定義され、15〜49歳の女性を対象に、有病率・年齢調整有病率(ASPR)・DALYs・年齢調整DALY率(ASDR)が算出されました。

時間的な傾向は、年間推定変化率(Estimated Annual Percentage Change、EAPC)という指標で定量化されました。また、204か国は社会人口統計学的指数(SDI)によって高・高中・中・低中・低の5段階に分けられ、地域間の比較が行われました。将来予測には、ベイズ流の年齢・期間・コホートモデル(BAPCモデル)が用いられ、国連の人口予測と組み合わせる形で2050年までの推計が行われています。

世界全体で84%増、伸び率は横ばいではなかった

世界全体の女性不妊の有病数は、1990年の5,969万人から2021年には1億1,009万人へと、84.4%増加しました。単なる人口増加によるかさ上げではないことを示すのが年齢調整有病率(ASPR)で、こちらも10万人あたり2267.26人から2764.62人へと上昇し、年間推定変化率(EAPC)は0.70(95%信頼区間0.53〜0.87)でした。DALYsで見ても、32万5,940人相当から60万1,130人相当へとほぼ倍増しており、年齢調整DALY率のEAPCも0.71(95%信頼区間0.54〜0.88)と、有意な増加傾向が確認されています。

負担が重いのは中所得国、伸びが速いのは高所得国という逆説

社会人口統計学的指数(SDI)による5段階の分類で見ると、対照的な構図が浮かび上がりました。2021年時点で年齢調整有病率・DALY率がもっとも高かったのは高中SDI地域(それぞれ10万人あたり3180.18人、17.04人)で、中SDI地域(3027.65人)、低中SDI地域(2940.52人)もこれに次ぐ高い水準でした。一方、高SDI地域の年齢調整有病率は10万人あたり1415.80人ともっとも低く、絶対的な負担は軽いという結果でした。

ところが、増加のスピードだけを見ると様相が一変します。もっとも急激な増加を示したのは高SDI地域で、有病率のEAPCは1.43(95%信頼区間1.28〜1.58)、DALYsのEAPCも1.41(95%信頼区間1.25〜1.56)と、5段階の中で最大でした。低中SDI地域も有病率EAPC1.24、DALYs EAPC1.19と目立った増加を示した一方、低SDI地域の有病率EAPCは0.10と、ほぼ横ばいにとどまっています。つまり、現時点での負担の重さと、将来に向けた増加スピードとは、必ずしも一致しない構図が示されたことになります。

中央アフリカ共和国は10万人あたり5751人、中国は絶対数で世界最多

国別に見ると、2021年に有病数が世界最多だったのは中国(2,930万人、95%不確実区間1,457万〜5,210万人)で、DALYsの絶対数が最大だったのはインド(16万1,470人相当)でした。一方、年齢調整有病率・DALY率がもっとも高かったのは中央アフリカ共和国で、有病率は10万人あたり5751.56人、DALY率は31.4人に達しています。人口規模の大きさが絶対数を押し上げる要因と、医療体制の弱さが率を押し上げる要因とは、別々に働いていることがうかがえます。

地域内の差も際立っていました。南アジアでは、インド(EAPC=2.53)やバングラデシュ(EAPC=2.96)で有病率が上昇した一方、パキスタン(EAPC=−5.60)では低下しています。東南アジアでもベトナム(EAPC=2.07)とミャンマー(EAPC=−3.51)で対照的な傾向が見られました。高所得国の中でも一様ではなく、ドイツ(EAPC=4.70)、スペイン(EAPC=4.91)、ニュージーランド(EAPC=4.31)は上昇が目立つ一方、日本(EAPC=−0.36)やオーストラリア(EAPC=−0.19)はほぼ横ばいでした。もっとも急激な増加を示したのはアンデス地域のラテンアメリカで、有病率のEAPCは8.22(95%信頼区間6.7〜9.76)に達しています。

発症のピーク年齢は35〜39歳、高所得地域だけ40〜44歳へ

年齢層別に見ると、1990年・2021年のいずれにおいても、世界全体および5段階のSDI地域すべてで、35〜39歳が有病率・DALY率ともに最大でした。次いで負担が大きいのは30〜34歳で、多くのSDI地域でこの傾向が共通していましたが、高SDI地域だけは異なり、ピークが40〜44歳にずれていました。晩産化が進んだ地域ほど、不妊のリスクが高まる年齢帯そのものが後ろにずれていることを示す結果と考えられます。将来予測でも、2050年に向けてすべての年齢層で有病率・DALYsの増加が続くと見込まれています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本の年齢調整有病率のEAPCは−0.36と、今回の分析ではほぼ横ばいと評価されています。ただし、これは日本において不妊の負担が軽いことを直接意味するわけではなく、もともとの有病率の水準や、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)関連の不妊、晩産化の進み具合など、複数の要因が背景にある可能性があります。高SDI地域全体でピーク年齢が40〜44歳にシフトしているという知見は、加齢に伴う卵巣予備能や卵子の質の低下が主要な関連因子であることを示唆しており、日本の生殖医療の現場でも、年齢に応じたカウンセリングや治療計画の重要性を裏づける材料になり得ます。

一方で、中〜高中SDI地域に見られる、感染症由来の続発性不妊と加齢関連の原発性不妊とが重なり合う「移行期」の構図は、生殖補助医療へのアクセスや公的支援のあり方を検討するうえで参考になります。臨床現場では、患者の年齢層や既往歴に応じてリスク評価や説明の重点を調整する、地域・個別化されたアプローチの必要性が、今回のデータからも読み取れます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、204か国・地域、1990年から2021年までの長期データを一貫した方法論で解析し、社会人口統計学的指数による層別化と2050年までの将来予測を組み合わせた点にあります。地域間の比較可能性を担保するGBDの標準化された枠組みを用いることで、これまで断片的だった知見を統合的に示すことができています。

一方で限界も指摘されています。第一に、この分析は女性不妊のみを対象としており、不妊の要因のおよそ半数を占めるとされる男性因子は含まれていないため、不妊全体の負担を過小評価している可能性があります。第二に、GBDの推計は各国の報告データに依存しており、診断基準や報告の質は国・地域によって差があるため、国際比較には一定の留保が必要です。第三に、この研究は記述的な設計であるため、環境要因や社会経済的要因と不妊負担との関連について、因果関係を証明するものではありません。文化的な要因や医療機関の受診行動といった、データ化しにくい要因も十分に捉えられていない点が挙げられています。

おわりに

今回の研究は、女性不妊の世界的な負担が1990年から2021年にかけて一貫して増加してきたこと、そしてその背景が地域によって大きく異なることを、これまでで最大規模のデータで示しました。中〜高中SDI地域では感染症由来の続発性不妊が引き続き大きな比重を占める一方、高SDI地域では晩産化に伴う加齢関連の負担が急速に増加しているという二重の構造が明らかになっています。2050年まで負担の増加が続くと予測されるなか、地域ごとの主要な原因に応じた対策――中所得国での感染症対策や生殖補助医療へのアクセス改善、高所得国での晩産化を見据えた支援策など――を検討していくことが、今後の課題として位置づけられています。

参考文献

1. Ning B, Wang X, Zhang M, Nan S, Bur R, Ma H, Liu K, La X. The global impact of female infertility: regional disparities and future projections from the GBD 2021 study. Gynecol Endocrinol 2026;42(1):2697103. doi:10.1080/09513590.2026.2697103.

不妊患者の「人づきあいの回避」を予測する──機械学習が浮かび上がらせた5つの要因

不妊は世界的に見て珍しい問題ではなく、世界保健機関(WHO)の報告では生殖年齢にある人々の8〜12%が経験するとされています。長期にわたる検査や治療の過程では、身体的な負担に加えて、周囲との関係にも変化が生じやすいことが指摘されてきました。妊娠や出産の話題を避けるようになったり、友人や親族との交流そのものを控えるようになったりする傾向は、「人づきあいの回避と苦痛(social avoidance and distress、以下SAD)」と呼ばれ、不妊患者の心理的な課題のひとつとして近年注目されています。

SADがどのような要因と関連して生じるのかを、機械学習の手法を用いて検証した研究が、Journal of Psychosomatic Obstetrics & Gynecology誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1080/0167482X.2026.2699110)。中国の医療機関で実施された後方視的研究で、205人の不妊患者を対象に、LASSO回帰とXGBoostという性質の異なる2つの機械学習アルゴリズムでリスク因子を絞り込み、その上でロジスティック回帰によって独立した関連因子とその予測力を検証した内容です。

方法──205人の不妊患者を、DSM-5-TR基準でSAD群と非SAD群に分けた

対象は、2022年10月から2025年7月にかけて、単一の医療機関で不妊の診断・治療を受けた205人です。全員が同じ精神科医チームによる構造化面接を受け、精神疾患の診断基準であるDSM-5-TRの基準に基づいてSADの有無が判定されました。この結果、SAD群93人、非SAD群112人に分けられています。年齢、教育歴、居住地、世帯収入などの基本情報に加え、不妊にまつわるスティグマ(負の烙印感)を測る「不妊スティグマ尺度(ISS)」、自尊感情を測る「ローゼンバーグ自尊感情尺度(SES)」、心理的な回復力を測る「コナー・デビッドソン・レジリエンス尺度(CD-RISC)」、家族や友人との関係の質を測る「社会関係の質尺度(SRQS)」という4つの心理尺度が用いられました。

統計解析では、まず単変量解析で2群間に差のある項目を洗い出し、その中からLASSO回帰(変数どうしの相関を調整しながら重要な因子に絞り込む手法)と、XGBoost(非線形の関係やより複雑なパターンをとらえる機械学習手法)という2種類のアルゴリズムを並行して用い、双方に共通して選ばれた因子だけを最終的な候補としました。その候補をロジスティック回帰に投入して独立したリスク因子・保護因子を特定し、さらにROC曲線(受信者操作特性曲線)を用いて、それぞれの因子が単独でSADをどの程度予測できるかを評価しています。

教育歴や収入も関係はしていたが、最終的に残った因子は5つだけだった

単変量解析の段階では、年齢、教育歴、居住地(都市部か農村部か)、世帯月収、ISS、SES、CD-RISC、SRQSのすべてでSAD群と非SAD群のあいだに統計学的な差が見られました(いずれもP<0.05)。しかし、LASSO回帰とXGBoostの両方を通して重要度を評価した結果、教育歴・居住地・世帯月収の3項目は、XGBoostにおける重要度がいずれも10%未満(教育歴7.02%、居住地5.38%、世帯月収6.67%)にとどまり、最終モデルからは除外されました。ほかの心理指標と重なる部分が大きく、独立した予測力としては相対的に弱かったためと考えられています。

最終的に、年齢、ISS、SES、CD-RISC、SRQSの5つが、2つの機械学習アルゴリズムの双方から共通して選ばれた因子となりました。

加齢1歳ごとにリスクは33%上昇、自尊感情の高さはリスクを下げる

ロジスティック回帰分析の結果、年齢(オッズ比1.333、95%信頼区間1.159〜1.533)とISSスコア(オッズ比1.101、95%信頼区間1.056〜1.148)はSADのリスクを高める因子でした。年齢が1歳上がるごとにSADのオッズが33.3%上昇する計算になります。一方、SESスコア(オッズ比0.726、95%信頼区間0.644〜0.818)、CD-RISCスコア(オッズ比0.876、95%信頼区間0.826〜0.929)、SRQSスコア(オッズ比0.863、95%信頼区間0.794〜0.938)は、いずれもSADのリスクを下げる保護因子として働いていました。自尊感情や心理的な回復力、周囲との関係の質が高いほど、人づきあいを回避する傾向が抑えられていたことになります。モデルの当てはまりの良さを示すHosmer-Lemeshow検定でもχ²=4.091、P=0.849と、良好な適合が確認されています。

ただし年齢のオッズ比については注意が必要です。今回の対象集団は生殖年齢に絞られており、SAD群の平均年齢が31.11±3.38歳、非SAD群が28.75±3.02歳と、年齢の分布そのものが比較的狭い範囲に集中していました。狭い年齢幅の中での1歳の違いが大きなオッズ比として表れた可能性があり、論文中でもこの点は今後の課題として挙げられています。

AUC 0.69〜0.72──単独の指標では「確実な予測」にはならない

ROC曲線による評価では、年齢・ISS・SES・CD-RISC・SRQSのAUC(曲線下面積)は、それぞれ0.694、0.710、0.719、0.723、0.700でした。AUCは0.5であれば偶然と変わらず、1.0に近いほど予測力が高いとされる指標です。今回の値はいずれも0.6を上回るものの、0.7台前半にとどまり、低〜中程度の予測力と位置づけられています。裏を返せば、これらの指標のどれか1つだけでSADのハイリスク者を確実に見分けることは難しく、複数の指標を組み合わせた評価が必要であることを示す結果でもあります。

背景にある心理的なメカニズム

論文では、それぞれの因子がSADに関わる背景についても考察が加えられています。不妊に伴うスティグマ(ISS)が強い患者ほど、自分を「不完全な存在」ととらえやすく、他者からの否定的な評価や詮索を避けるために、家族や友人との交流そのものを控えるようになりやすいと説明されています。自尊感情(SES)は、こうした否定的な自己評価を和らげる緩衝材としての役割が指摘されており、自尊感情が高い患者は、妊娠・出産以外の場面でも自分の価値を見いだしやすく、周囲に助けを求めることへの抵抗も少ない傾向があるとされます。心理的な回復力(CD-RISC)が低い患者は、社会的な場面での些細な失敗を人間関係の破綻のように過大に受け止めやすく、それが対人場面への回避につながりやすいことも述べられています。そして家族や友人との関係の質(SRQS)は、困ったときに助けを求められるかどうかに直結しており、関係の質が乏しいほど内面を打ち明けにくく、孤立が進みやすいと考察されています。

提案された「ナラティブ・ナーシング」という枠組み

今回明らかになったリスク因子・保護因子をふまえ、論文では「ナラティブ・ナーシング」と呼ばれる看護介入の枠組みも提案されています。患者との信頼関係づくりに始まり、患者が不妊にまつわる体験や感情を語る場を設け(externalization)、周囲からどう見られていると感じているかを対話の中で整理し(deconstruction)、前向きな認知の再構築を促し(rewriting)、配偶者を交えた心理的サポートや、闘病日記やピアサポートのグループを通じて社会的なつながりを広げていく、という段階的な構成になっています。ただし、この枠組みはあくまで今回の研究結果から導かれた理論的な提案であり、臨床での実施や効果検証はまだ行われていません。

日本の不妊治療現場にとっての意味

日本の生殖医療の現場でも、心理的なサポートの必要性は以前から指摘されてきましたが、どの患者を優先的に支援すべきかを見極める客観的な指標は十分に整理されているとは言えません。今回の研究は、年齢、スティグマの強さ、自尊感情、心理的な回復力、周囲との関係の質という5つの観点が、心理的なスクリーニングの手がかりになり得ることを示しています。ただし、対象は中国の単一施設のデータであり、家族観や不妊に対する社会的な受け止め方には文化差があることから、日本の患者にそのまま数値を当てはめることには慎重さが求められます。診察や問診の中で、こうした心理的側面に目を向けること自体の重要性を示すデータとして受け止めるのが実際的だと考えられます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、単変量解析だけでなく、性質の異なる2つの機械学習アルゴリズムを組み合わせて変数を絞り込み、多重共線性の影響を抑えながら因子を特定した点にあります。診断についても、担当医の主観に頼らず、DSM-5-TRの基準に基づく構造化面接で統一的に判定されています。

一方で限界も少なくありません。第一に単一施設の後方視的研究であり、一般化には限界があります。第二に、臨床データが完全にそろっている患者のみを対象としているため、選択バイアスの可能性が残ります。第三に、横断的なデータであるため、これらの因子とSADのあいだに因果関係があるとまでは言えず、あくまで関連が示されたにとどまります。第四に、前述の通り年齢のオッズ比は狭い年齢分布に影響された可能性があり、論文では今後5歳刻みなどのカテゴリ化を用いた検証が必要と述べられています。第五に、SRQS(社会関係の質)の項目にはもともと人づきあいの回避に関する内容が含まれており、予測因子と評価対象(SAD)の内容が一部重なることで、結果の解釈に循環的な要素が入り込む可能性も指摘されています。さらに、今回示された予測モデルは外部データによる検証を経ておらず、実際のスクリーニングツールとして使うにはさらなる検証が必要とされています。

おわりに

今回の研究は、不妊患者における人づきあいの回避と苦痛(SAD)について、年齢・スティグマ・自尊感情・心理的回復力・社会関係の質という5つの因子が独立して関連することを、2種類の機械学習アルゴリズムを組み合わせた手法で示したものです。それぞれの因子の予測力は単独では中程度にとどまり、この結果だけでハイリスク者を確実に見分けられるわけではありませんが、心理的な評価を診療プロセスに組み込む意義を裏づけるデータといえます。今後は多施設・前向き・大規模なデザインでの追試や、外部データによるモデルの検証、そして提案されたナラティブ・ナーシングの枠組み自体の効果検証が課題として残されています。

参考文献

1. Zhao S, Zhang S, Han W, Bian Y, Yue R. Analysis of influencing factors for social avoidance and distress among infertile patients based on LASSO and XGBoost algorithms. J Psychosom Obstet Gynaecol 2026;47(1):2699110. doi:10.1080/0167482X.2026.2699110.

妊活サプリは効くのか──体外受精を待つ213組が示した自然妊娠率の差

不妊は世界的に見て、カップルの10〜15%が経験するとされる問題です。体外受精(IVF)をはじめとする生殖補助医療は有効な選択肢である一方、身体的・経済的な負担が大きく、リスクもゼロではありません。そのため、IVFに進む前、あるいはIVFの順番を待つあいだに、より負担の少ない方法で自然妊娠の可能性を高められないかという関心が、以前から寄せられてきました。

葉酸やビタミンD、亜鉛、セレン、オメガ3脂肪酸といった個々の栄養素については、それぞれ妊よう性(妊娠のしやすさ)との関連を示す報告が積み重ねられています。しかし、複数の栄養素を組み合わせたサプリメントを、女性だけでなく男性パートナーにも同時に用いた場合に、自然妊娠率がどの程度変わるのかについては、これまで十分なデータがありませんでした。

こうした背景のもと、Revista da Associação Médica Brasileira誌(2026年)に、体外受精の順番を待つ213組のカップルを対象とした後方視的研究が掲載されました。夫婦そろって複合的な栄養補助食品を摂取した群と、女性のみ葉酸を摂取した群とで、6か月間の自然妊娠率を比較した内容です(doi:10.1590/1806-9282.20260081)。

方法──体外受精を待つ213組を、サプリの有無で追跡した

対象は、2021年1月から2022年1月にかけて、オーストリアとセルビアの生殖医療施設で体外受精の待機リストに登録されていた213組のカップルです。原因不明の不妊、または多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの妊よう性に影響する状態を持つ、18〜40歳の女性が対象とされました。卵管が両側とも閉塞している場合や、パートナーの精子所見が高度に不良な場合などは除外されています。

119組の治療群では、女性がオメガ3脂肪酸・ビタミンE・コエンザイムQ10・葉酸・セレン・カテキン・グリチルリチンを含む製剤を、男性パートナーがLカルニチン・Lアルギニン・コエンザイムQ10・ビタミンE・亜鉛・葉酸・グルタチオン・セレンを含む製剤を、それぞれ6か月間、または妊娠が成立するまで摂取しました。94組の対照群では、女性のみ葉酸400μgを摂取し、男性パートナーへの介入は行われませんでした。主要評価項目は、6か月以内の自然妊娠(血中ヒト絨毛性ゴナドトロピンと胎児心拍で確認)です。

自然妊娠率は66.4% vs 39.4%──オッズ比は4.13倍

6か月間の自然妊娠率は、サプリメント併用群で66.4%(119組中79組)、対照群で39.4%(94組中37組)となり、両群のあいだに明確な差が見られました(P<0.001)。月ごとの妊娠率を見ると、併用群では6.7%、16.8%、9.2%、18.5%、6.7%、8.4%と、対照群(6.4%、6.4%、8.5%、9.6%、2.1%、7.4%)を多くの月で上回る傾向が続いていました。

女性の年齢、BMI、喫煙・飲酒の有無、排卵誘発の有無、抗ミュラー管ホルモン(AMH)値、パートナーの精液所見を調整した多変量解析でも、サプリメント併用は妊娠のオッズを4.13倍(95%信頼区間2.12〜8.04、P<0.001)に高めるという結果でした。あわせて、母体年齢が高いほど(オッズ比0.87、P=0.002)、BMIが高いほど(オッズ比0.86、P=0.02)妊娠のオッズは下がり、AMH値が高いほど(オッズ比1.45、P=0.043)妊娠のオッズが上がることも示されています。これらは、サプリメントの効果とは別に、もともと妊よう性に関わることが知られている因子であり、今回の解析でも同じ方向の関連が確認された形です。

何が変わったのか──子宮内膜の厚さと、想定される作用機序

副次評価項目として、排卵期(月経周期12〜15日目)の子宮内膜の厚さも比較されました。開始前はサプリメント併用群9.1mm、対照群9.4mmとほぼ差がなかったのに対し、6か月後には併用群10.3mm、対照群9.5mmとなり、併用群でのみ有意な増加が見られました(95%信頼区間 -1.24〜-0.37)。子宮内膜の厚さは着床のしやすさに関わる指標のひとつとされており、この変化がサプリメントの効果を裏づける所見のひとつに位置づけられています。

想定される作用機序としては、葉酸やビタミンB群がホモシステイン代謝を整えることで排卵や胚の質への悪影響を減らす経路、オメガ3脂肪酸やコエンザイムQ10が卵子の質や酸化ストレスに関わる経路、そして男性側ではLカルニチンやセレン、亜鉛などが精子の運動率やDNA損傷に関わる経路が挙げられています。これらは主に他の研究で示されてきた機序であり、今回の研究自体が作用機序を直接検証したものではない点には注意が必要です。

研究の強みと限界

本研究の強みは、女性だけでなく男性パートナーにも標準化された介入を行い、実際の妊娠成立という臨床的に意味のある指標を追跡した点にあります。夫婦そろってのサプリメント併用を検討した研究はこれまで少なく、その意味でも価値のあるデータといえます。

一方で限界も少なくありません。第一に後方視的な研究であり、サプリメントを希望した夫婦とそうでない夫婦のあいだに、もともとの妊よう性や生活習慣の違いがあった可能性を否定できません。実際、卵管が片側閉塞していた割合は治療群42.9%、対照群62.8%と有意な差があり(P=0.004)、対照群のほうが妊娠しにくい背景を持っていた可能性があります。第二に、サンプルサイズは中規模にとどまり、食事内容など介入以外の要因は統制されていません。第三に、追跡されたのは臨床的妊娠までであり、その後の生児出生率については明らかにされていません。第四に、服薬遵守は自己申告に基づいており、客観的な指標による検証は行われていません。著者ら自身も、今後は多施設共同のランダム化比較試験によって、これらの知見を確認する必要があるとしています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、体外受精を希望しても順番待ちとなる期間や、保険適用の回数制限との兼ね合いで、自然妊娠を目指す期間が生じる場面が少なくありません。このような待機期間の過ごし方について、これまで明確なエビデンスに基づく指針は乏しいのが実情です。今回の結果は、複合的な栄養補助食品の摂取が、少なくとも短期的な自然妊娠率の向上と関連しうることを示しており、待機期間中の一つの選択肢として位置づけられる可能性があります。

ただし、今回示されたのは特定の配合による製剤を用いた場合の結果であり、あらゆるサプリメントに同様の効果が期待できるわけではありません。また、後方視的研究である以上、因果関係を断定することはできず、標準的な診療として推奨するには、前向きのランダム化比較試験による検証が求められます。臨床現場では、他の妊よう性関連因子(年齢、BMI、卵管の状態など)への配慮と組み合わせたうえで、患者への説明のあり方を検討することが出発点になると考えられます。

おわりに

今回の研究は、体外受精を待つカップルにおいて、夫婦そろっての複合的な栄養補助食品の摂取が、自然妊娠率の向上と関連することを示したものです。子宮内膜の厚さの変化など、生物学的に説明可能な所見もあわせて報告されていますが、後方視的研究としての限界があることも事実です。生児出生率を含めた前向きの多施設共同研究による検証が、今後の課題として残されています。

参考文献

1. Bauer MJ, Halat H, Chedraui P, Lipovac M, Imhof M, Mitrovic Jovanovic A. Effect of patient and partner preconceptional nutraceutical supplementation on the onset of natural pregnancy: a retrospective study. Rev Assoc Med Bras. 2026;72(5):e20260081. doi:10.1590/1806-9282.20260081.

治療しなくても授かれる確率──7086組のデータで作られた個別予測モデル

不妊症と診断された場合、多くの診療現場では、原因への初期対応がうまくいかなければ体外受精(IVF)へと治療方針が進んでいきます。とくに原因不明とされる場合には、一定期間の自然妊娠を試みたのち治療を検討する運用が一般的ですが、実際にはどの程度の期間、どの程度の確率で自然妊娠が期待できるのかを示す明確な根拠が乏しいまま、早期の治療介入が選択されることも少なくありません。

これまでにも自然妊娠の確率を予測するモデルはいくつか報告されてきましたが、その多くは原因不明不妊や軽度の男性因子、軽症の子宮内膜症といった、比較的予後の良い集団を対象にしたものでした。卵管性不妊や排卵障害など、他の原因を持つカップルにも自然妊娠の可能性は残されているにもかかわらず、原因を問わず幅広く適用できる予測モデルはこれまで存在していませんでした。

こうした課題に対し、英国の単一施設で1998年から2015年までに登録された7086組のカップルを対象とした大規模コホート研究が、Human Reproduction Open誌(2026年)に掲載されました。診断後1年以内に、治療を行わずに自然妊娠し出産に至る確率を、年齢や不妊の原因別に個別予測するモデルが提示されています。

方法──7086組を、不妊の原因別に1年間追跡した

対象は、英国スコットランド北東部の全域をカバーする単一の生殖医療専門施設に1998年から2015年にかけて初めて登録した9757組のカップルです。データ利用への同意がない場合や、居住地域外で出生記録の追跡ができない場合、女性の年齢が18歳未満または50歳を超える場合などを除外し、最終的に7086組が解析対象となりました。

診断確定までの検査期間は、排卵障害では30日、それ以外の原因では3か月と設定され、この期間を終えた時点を「診断時点」として、その後1年間のうちに治療を開始せずに妊娠し出産に至ったかどうかが追跡されました。年齢、不妊期間、BMI、喫煙・飲酒歴、既往妊娠の有無、そして卵管性・男性因子・排卵障害・原因不明・子宮内膜症・その他という不妊の原因区分を組み込んだCox比例ハザードモデルによって、1年以内の自然妊娠による出産確率が推定されています。

8組に1組が、治療なしで出産に至っていた

追跡の結果、7086組のうち891組(13%)が、治療を開始する前に自然に妊娠し、出産に至っていました。自然妊娠が成立するまでの期間は中央値で140日(四分位範囲70〜230日)でした。これは、不妊症という診断を受けたカップルであっても、原因を問わず一定の割合で自然な妊娠・出産の可能性が残されていることを示す数字です。

年齢と不妊期間は、自然妊娠による出産の確率をもっとも大きく左右する因子でした。女性の年齢が28歳から36歳に上がると、出産に至る確率はハザード比0.62(95%信頼区間0.55〜0.70)まで低下し、不妊期間が1.3年から3年に延びた場合も同様にハザード比0.64(0.57〜0.72)まで低下していました。逆に、女性側に既往妊娠がある場合はハザード比1.30(1.12〜1.50)、原因不明不妊の場合は1.29(1.00〜1.67)と、いずれも出産確率を押し上げる方向に働いていました。

不妊の原因別に見ると、卵管性不妊はハザード比0.62(0.47〜0.81)、男性因子不妊は0.71(0.57〜0.90)と、いずれも自然妊娠による出産の可能性を明確に下げる因子でした。一方、排卵障害(1.12〔0.87〜1.43〕)や子宮内膜症(0.83〔0.55〜1.24〕)は、統計学的に有意な影響を示しませんでした。喫煙歴がある女性ではハザード比0.74(0.62〜0.89)と出産確率が下がっていた一方、飲酒歴の有無に有意な差は見られませんでした。

同じ「不妊症」でも、確率は原因と年齢で大きく違う

このモデルの特徴は、年齢と不妊の原因の組み合わせによって、個別の確率を算出できる点にあります。たとえば25歳で原因不明不妊のカップルでは、1年以内に自然妊娠による出産に至る予測確率は20.7%(95%信頼区間16.1〜25.0%)でした。これに対し、同じ25歳でも卵管性不妊のカップルでは10.4%(7.3〜13.5%)と、およそ半分の確率にとどまっています。

既往妊娠や不妊期間の違いも予測確率を大きく動かします。25歳で二次性(既往妊娠あり)の原因不明不妊、不妊期間1年というカップルでは予測確率が33.8%に達する一方、35歳で卵管性不妊、一次性(既往妊娠なし)の不妊期間1年というカップルでは、予測確率は6.0%にとどまりました。年齢が上がるにつれて確率が下がる傾向は、排卵障害・子宮内膜症・男性因子・その他いずれの原因区分でも共通して見られ、たとえば排卵障害では25歳14.0%から40歳5.7%へ、男性因子不妊では25歳11.8%から40歳4.7%へと、いずれも年齢とともにおよそ半分以下まで低下していました。

予測モデルとしての精度は

モデルの識別能力(高確率群と低確率群を区別する力)を示すC統計量は、内部検証による最適化後の補正値で0.647(95%信頼区間0.644〜0.649)でした。これは同種の先行モデルと同程度の水準です。予測確率と実際の観察結果の一致度を示すキャリブレーションは、観察値と予測値の比(O/E比)が1.000(0.991〜1.009)と良好で、予測の精度全体を示すスケール化ブライアスコアでは、何も予測しないモデルに比べて3.6%の改善が確認されました。

さらに、このモデルを実際の治療方針の判断にどこまで役立てられるかを検証する解析(意思決定曲線分析)では、「自然妊娠の予測確率が20%未満のカップルにのみ治療を行う」という運用を、「全員に一律で治療を行う」運用と比較したところ、100組あたり約7.2組多く、不要な治療を避けつつ適切に治療対象を絞り込めることが示されました。研究チームはこのモデルをもとに、誰でも利用できるオンライン計算ツールを公開しています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、不妊症と診断された後の治療開始のタイミングについて、施設や医師の裁量に委ねられる部分が大きいのが実情です。診断がついた時点で速やかにIVFへ進む運用が広がる一方、原因や年齢によっては自然妊娠の可能性がなお相応に残されている場合もあり、その情報が診療の中で十分に共有されているとは限りません。

今回のモデルは英国の単一施設のデータに基づくものであり、そのまま日本の臨床現場に当てはめられるわけではありません。しかし、年齢・不妊期間・既往妊娠の有無・不妊の原因という、日本の初診時にも通常収集される情報の組み合わせから、自然妊娠による出産確率を具体的な数字として示せることは、患者と医師のあいだで治療開始のタイミングを話し合ううえでの手がかりになり得ます。とくに卵管性不妊のように自然妊娠の確率が一貫して低い群では早期の治療介入が支持される一方、原因不明不妊で若く既往妊娠がある群のように確率が3割を超える場合には、一定期間の経過観察という選択肢も現実的な検討対象になり得ることが、今回のデータから読み取れます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、卵管性・排卵障害・男性因子・原因不明・子宮内膜症・その他という、不妊のほぼすべての原因区分を対象に含めた点、そして単一の地域を長期間カバーする医療圏データを用いることで、追跡漏れの少ない大規模コホートを構築できた点にあります。ブートストラップ法による内部検証や意思決定曲線分析など、モデルの信頼性を多角的に検証している点も特徴です。

一方で限界もあります。データは2016年までの単一施設のものであり、他地域への一般化には注意が必要です。また、卵巣予備能を示す指標や子宮内膜症の重症度、排卵障害のサブタイプ、精液所見の詳細といった、予後に影響し得る情報は収集されておらず、モデルに組み込まれていません。診断確定までの検査期間を一律の日数で仮定している点や、後方視的コホート研究であることに伴う選択バイアスの可能性についても、結果の解釈における留保点として挙げられています。

おわりに

今回の研究は、不妊の原因を問わず、診断後1年以内の自然妊娠による出産確率を個別に予測できるモデルを、大規模な実臨床データに基づいて示したものです。原因や年齢によって確率は大きく異なり、卵管性不妊のように一貫して低い群がある一方、原因不明不妊や既往妊娠のある群のように相応の可能性が残る場合もあることが、具体的な数字として提示されました。研究チームは、他の医療圏のデータによる外部検証や、より新しい年代のコホートでの再評価が今後の課題であるとしています。

参考文献

1. Cameron NJ, Brian K, McLernon DJ, Bhattacharya S. Predicting natural conception leading to live birth for couples with infertility: a single-centre population-based cohort study of 7086 couples. Hum Reprod Open 2026;2026(3):hoag056. doi:10.1093/hropen/hoag056.

2回目のIVFはむしろチャンス──再挑戦は「早いほど良い」

体外受精(IVF)の累積生児出生率は、治療を完遂した場合でも一般集団でおよそ33%にとどまるとされ、母体年齢や採卵数によって大きく変動します。しかし、実際にIVFに挑む女性のうち、自分自身の成功確率を正確に見積もれていたのはわずか4人に1人であり、多くは自らの成功率を過大評価していたことも報告されています。この期待と現実のギャップは、1回目の治療がうまくいかなかったときの落胆や、その後の治療中断につながりやすいと指摘されてきました。

実際、1回目のIVFが不成功に終わった後、治療を中断してしまう患者の割合は37〜50%にのぼるとする報告があり、なかでも4人に1人はその時点で治療から離脱するとされています。この傾向は医療費が公的にカバーされている制度下でも一定程度みられることから、経済的な要因だけでは説明がつかないと考えられています。こうした背景のもと、1回目の治療結果が2回目の治療成績をどの程度予測しうるのかは、患者への説明や治療計画を組み立てるうえで重要な問いとなっています。

この問いに答えるため、Journal of Assisted Reproduction and Genetics誌(2026年)に、イタリア・ローマの生殖医療施設で2015年から2020年にかけて実施された、2年以内に2回の刺激周期を受けた1,190組を対象とする後方視的研究が掲載されました(doi:10.1007/s10815-026-03961-8)。1回目の治療結果が2回目の胚培養や妊娠成績とどう関連するのか、そして周期間の間隔がどのような影響を持つのかを検証した内容です。

方法──1,190組の2回連続の顕微授精周期を追跡した

対象は、ローマの単一施設で2015年から2020年に、胚盤胞培養を予定した刺激周期による顕微授精(ICSI)を2年以内に2回受けた1,190組です。平均母体年齢は38.7±3.8歳、平均AMH(抗ミュラー管ホルモン、卵巣予備能の指標)は1.7±1.5ng/mlで、重度男性因子による不妊は18.8%に認められました。1回目と2回目の平均間隔は3.1か月、336組(28%)は同一月経周期内で2回採卵を行う「デュオスティム」法を用いていました。1回目で胚盤胞が1個以上得られた796周期のうち、着床前染色体異数性検査(PGT-A)が実施されたのは699周期(87.8%)でした。

検討された主な指標は、採取された卵子(正確には卵丘卵子複合体、COC)の数、得られた胚盤胞の数、COCあたりの胚盤胞形成率(卵子の発育能の指標)、そして2回目の周期で少なくとも1回の生児出生に至る割合(累積生児出生率、CLBR)です。1回目の周期の特徴(母体年齢、不妊の原因や期間、基礎ホルモン値、胚培養・臨床成績、周期間隔、デュオスティムの有無、刺激プロトコルの違いなど)との関連が、単変量・多変量の統計モデルで解析されました。

採卵数は半数の患者で増加、卵子ゼロだった患者の87%が2回目で獲得

2回目の周期では、主要な指標すべてで有意な改善がみられました。COC数は平均7.8±5.8個から8.6±6.3個へと増加し(+0.7個、95%信頼区間0.5〜1.0、p<0.001)、得られた胚盤胞数は1.5±1.6個から2.0±2.0個へ(+0.5個、95%信頼区間0.3〜0.6、p<0.001)、COCあたりの胚盤胞形成率は17.9%から21.2%へ(+3.3ポイント、95%信頼区間1.8〜4.8、p<0.001)、いずれも改善しました。1回目と2回目のCOC数の相関は比較的強かった一方(相関係数0.74)、胚盤胞数や形成率の相関は弱く、卵子の量は再現性がある一方で、卵子の質的な発育能は周期ごとに変動しやすいことを示しています。

2回目の採卵では、患者の50%がより多くのCOCを獲得し、12%が同数、2回連続で採卵に至らなかった患者は全体のわずか1%でした。とりわけ注目されるのは、1回目に卵子が1個も採れなかった49人のうち、87%が2回目にはCOCを獲得できたという結果です。周期間隔が1か月延びるごとに、より多くのCOCを獲得できる可能性が4%相対的に低下することも示されました(オッズ比0.96、95%信頼区間0.93〜0.98、p<0.001)。一方、FSH開始用量の変更やLH活性の追加・除去、デュオスティムの採用は、いずれもCOC数の増加とは関連していませんでした。

胚盤胞ゼロだった33%のうち、6割は2回目で成功

1回目に胚盤胞が1個も得られなかった患者は全体の33%を占めましたが、そのうち2回連続で胚盤胞を得られなかったのは13%にとどまり、61%は2回目に胚盤胞形成に成功しました。より多くの胚盤胞を得られる可能性は、母体年齢が1歳上がるごとに6%相対的に低下し(オッズ比0.94、95%信頼区間0.91〜0.97、p<0.001)、AMH値が高いほど上昇し(オッズ比1.02、95%信頼区間1.01〜1.02、p<0.001)、周期間隔が1か月延びるごとに5%相対的に低下しました(オッズ比0.95、95%信頼区間0.93〜0.98、p<0.001)。

卵子の発育能(COCあたりの胚盤胞形成率)についても、26%の患者で変わらず、42%で改善しました。改善の可能性は、母体年齢が1歳上がるごとに3%(オッズ比0.97、95%信頼区間0.93〜0.99、p=0.04)、周期間隔が1か月延びるごとに4%(オッズ比0.96、95%信頼区間0.94〜0.99、p=0.004)、それぞれ相対的に低下しました。重度男性因子による不妊がある患者でも、2回目の周期で成績が改善する傾向がみられ、男性因子は初期の胚発育には影響しても、正倍数性が確認された胚盤胞1個あたりの妊孕性そのものは損なわない可能性が示唆されています。

2回目の生児出生率は23.2%、1回目の成否とは無関係

2回の周期を完遂した1,134組のうち、1回目で生児出生に至らなかった1,089組の23.2%(253組)が、2回目で少なくとも1回の生児出生を達成しました。一方、1回目で生児出生に至った45組(1回目のCLBR 24.4%)のうち11組は、2回目でも追加の生児出生を得ています。2回目の生児出生の可能性は、1回目に生児出生があったかどうかとは有意に関連しておらず(オッズ比0.82、95%信頼区間0.41〜1.63、p=0.568)、AMHで調整しても結果は変わりませんでした。

2回目の生児出生と有意に関連していたのは、母体年齢と1回目のCOC獲得数の2つのみでした。母体年齢が1歳上がるごとに、2回目で生児出生に至る可能性はおよそ11%相対的に低下し(オッズ比0.89、95%信頼区間0.86〜0.92、p<0.001)、1回目のCOC獲得数が多いほど2回目の成功率は高まっていました(オッズ比1.06、95%信頼区間1.04〜1.09、p<0.001)。刺激プロトコルの変更(FSH用量、LH活性の追加・除去、デュオスティムの採用)は、いずれの主要な成績とも関連していませんでした。

鍵は「間隔」──効果は6か月でプラトーに

周期間隔が短いほど、COC数、胚盤胞数、胚盤胞形成率のいずれも改善する傾向が一貫して認められました。研究チームは、1回目の刺激により卵巣の内分泌・傍分泌環境が変化し、二次卵胞が刺激に反応しやすい前胞状卵胞の段階へと移行することが、この効果の背景にある可能性を挙げています。二次卵胞がこの段階に到達するまでにはおよそ2〜3か月を要するとされ、これは今回の研究で観察された周期間隔の中央値(3.1か月)とも符合します。ただし、この良い効果は1回目の採卵からおよそ6か月で消失し、それ以降は母体年齢の上昇による悪影響が上回っていく可能性が示されています。

デュオスティム(同一月経周期内での2回目の刺激・採卵)を用いた場合、2回目の採卵までにかかる期間はおよそ18日に短縮されます。今回の解析では、デュオスティムの採用自体は主要な成績の改善とは統計学的に関連していませんでしたが、周期間隔を最短化する手段として、治療の中断を防ぎ、卵巣の加齢による影響を抑える効果的な選択肢になりうると位置づけられています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本の生殖医療の現場では、1回目のIVFが不成功に終わった場合、次の治療再開までの時期や、そもそも治療を継続するかどうかについて、患者ごとに判断が分かれる場面が多くみられます。今回の結果は、1回目の採卵数がゼロであったり、胚盤胞が得られなかったりした場合でも、それが2回目の治療成績を直接的に予測するものではないことを示しています。特に、1回目に卵子が全く採れなかった患者の87%が2回目にはCOCを獲得できたという結果は、初回不成功が必ずしも治療継続の意欲を削ぐ根拠にはならないことを裏づける材料になります。

一方で、周期間隔が短いほど成績が良好であるという知見は、患者への説明や治療計画において、1回目の結果を受けてすぐに次の一手を検討する「マルチサイクル」の考え方を後押しするものといえます。日本の臨床現場でも、1回目の不成功をどう受け止め、いつ次の治療に進むかについて、母体年齢や卵巣予備能を踏まえた個別化された説明のあり方が、今後の議論の出発点になると考えられます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、1,190組という規模の大きさと、同一施設内で1回目・2回目の治療成績を直接比較できた点、そして胚培養の成績だけでなく妊娠・出産まで追跡した点にあります。

一方で限界もあります。第一に、POSEIDON分類やボローニャ基準といった予後別のサブグループでの解析は、サンプル数の制約から実施できませんでした。第二に、平均母体年齢が38.7歳とやや高く、刺激プロトコル(ゴナドトロピンの種類・用量、トリガー法)が3分の1超の症例で変更されていた点も、結果の解釈に留意が必要です。第三に、単一施設のデータであるため、他施設への一般化には慎重さが求められます。第四に、2回目の治療に進んだ患者群は、一般的な初回IVF患者と比べて年齢がやや高い一方でAMH値もやや高い傾向にあり、卵巣予備能に恵まれているために治療継続への意欲が高い患者群である可能性も指摘されています。

おわりに

今回の研究は、1回目のIVF周期の結果が2回目の治療成績を予測するものではないことを、これまでにない規模のデータで示すものです。COCの獲得数、胚盤胞の形成、生児出生のいずれについても、1回目の不成功は2回目の成功を妨げるものではなく、むしろ周期間隔を短く保つことが良好な成績と関連していました。母体年齢と卵巣予備能が依然として最も重要な予後因子であることに変わりはありませんが、1回目の治療結果にかかわらず早期の再挑戦を選択肢として提示する「マルチサイクル」型のカウンセリングのあり方が、今後の診療の土台になりうると考えられます。

参考文献

1. Ruffa A, Cimadomo D, Taggi M, Innocenti F, Pittana E, Battista F, Fabozzi G, Morelli M, Guido M, Albricci L, Fiorentino G, Rienzi L, Ubaldi FM, Vaiarelli A. Another round, another chance: oocyte developmental competence and outcomes in second IVF attempts—the earlier, the better. J Assist Reprod Genet 2026. doi:10.1007/s10815-026-03961-8.