BMIは正常なのに――「お腹まわり」が示す妊娠率の差

体外受精(IVF)の成績と体格の関係を語るとき、これまで主に使われてきた指標は体格指数(BMI)でした。BMIは身長と体重だけから算出できる簡便な指標であり、肥満が生殖機能に及ぼす影響を評価する際に広く用いられています。一般に、BMIが高い女性ほど不妊のリスクが高く、周期のキャンセル率上昇や流産リスクの増加、そして出生率の低下と関連することが、これまでの観察研究で示されてきました。

ただし、BMIには構造的な弱点があります。脂肪量と筋肉量を区別できないため、筋肉量の多い人を過体重や肥満と誤分類してしまう可能性があること、そして何より、体脂肪がどこに分布しているか――特に内臓周囲に蓄積する「中心性脂肪(内臓脂肪)」の多寡を捉えられないことです。BMIが標準範囲にある女性の中にも、腹部に脂肪が集中し代謝異常を抱えているケースが一定数存在することが知られています。同じBMIでも、体組成や代謝状態、そして生殖機能への影響は個人差が大きいのです。

こうした限界を補う指標として近年注目されているのが、身長と腹囲(ウエスト周囲径)から算出する「体幹丸み指数(Body Roundness Index、BRI)」です。BRIは中心性脂肪をより的確に反映すると考えられており、糖尿病や心血管疾患などの代謝関連疾患のリスク予測において、BMIより優れた性能を示したとする報告も出てきています。しかし、BRIとIVFの妊娠成績との関連を検討した研究はこれまでほとんどなく、BMIだけでは見えないリスクをBRIが補足できるかどうかは、明らかにされていませんでした。この問いに、Human Reproduction Open誌に2026年8月に掲載された論文(DOI: 10.1093/hropen/hoag068)が答えを示しています。

方法──中国の2件のRCTデータを用いた二次解析

今回の研究は、中国で実施された2件の多施設共同ランダム化比較試験(RCT)のデータを用いた二次解析です。いずれも新鮮胚移植と全胚凍結後の融解胚移植の出生率を比較した試験で、1件目は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性1508人を14施設から2013年6月から2014年5月にかけて登録し、2015年7月まで追跡したもの、2件目は月経周期が規則的な女性2157人を20施設から2015年3月から2015年11月にかけて登録し、2017年3月まで追跡したものです。

胚移植を受け、BRIのデータが揃っていた3523人の女性が今回の解析対象となりました。BRIは、IVF治療開始前に測定した身長と腹囲から算出され、明確な臨床的カットオフ値がまだ確立されていないため、対象者は33パーセンタイルと66パーセンタイルの値に基づき3群に分けられました。BRI 2.54未満の群1(1171人)、2.54以上3.54未満の群2(1174人)、3.54以上の群3(1178人)です。主要評価項目は出生(妊娠28週以降に生存徴候のある新生児の分娩)で、修正ポアソン回帰(頑健分散推定)を用いて、年齢、不妊期間、不妊原因、胚移植の種類、PCOSの有無、採卵数、移植胚数で調整した調整リスク比(aRR)と95%信頼区間(CI)が算出されました。

BRIが高いほど、出生率は下がる

解析対象3523人全体でみると、出生率はBRIが高い群ほど低下していました。群1(BRI最低)で53.6%、群2で49.5%、群3(BRI最高)で45.2%(P<0.001)です。年齢や不妊原因などの背景因子を調整した後も、群3は群1と比べて出生の可能性が有意に低く、調整リスク比は0.89(95%CI 0.81〜0.97、P=0.008)でした。これは、BRIが最も高い群の女性は、最も低い群の女性と比べて出生に至る確率がおよそ11%低かったことを意味します。

妊娠喪失(生化学的妊娠の喪失と臨床的妊娠の喪失を合わせたもの)についても、同様の傾向がみられました。群3の総妊娠喪失リスクは群1と比べて調整リスク比1.31(95%CI 1.07〜1.61、P=0.009)と、約31%高くなっていました。また、BRIを連続変数として扱った解析でも、BRIが1単位増加するごとに、出生の可能性は3%低下(aRR 0.97、95%CI 0.93〜0.99、P=0.035)し、総妊娠喪失のリスクは9%上昇(aRR 1.09、95%CI 1.02〜1.16、P=0.014)するという結果が示されています。

「BMIは正常」でも――正常体重群だけに現れたリスク

この研究で最も注目すべき点は、BMIが正常範囲(18.5以上24未満)の女性に限定した解析です。この集団(2126人)では、出生率は群1で55.6%だったのに対し、群2で48.6%、群3で44.7%と、BRIが上がるにつれて明確に低下していました。調整リスク比は群2で0.89(95%CI 0.81〜0.98、P=0.019)、群3で0.84(95%CI 0.73〜0.96、P=0.009)と、いずれも統計的に有意な差でした。BRIを連続変数とした場合も、BMI正常群では1単位の増加ごとに出生の可能性が7%低下する(aRR 0.93、95%CI 0.87〜0.98、P=0.009)という結果が得られています。

さらに、この集団では総妊娠喪失のリスクも、BRIが最も高い群で群1と比べて調整リスク比1.38(95%CI 1.04〜1.85、P=0.028)と有意に上昇していました。つまり、BMIという指標だけを見ていては、体格が「標準」と判定される女性の中に潜む出生率の低下リスクを見逃してしまう可能性があるということです。

一方、過体重・肥満(BMI 24以上)の女性1137人の解析では、BRIが高い群ほど出生率が下がる傾向自体は観察されたものの(群1〜3で58.3%、52.5%、45.3%)、調整後の差は統計的に有意ではありませんでした(群3の調整リスク比0.80、95%CI 0.61〜1.04、P=0.089)。ただし、この集団では群1に該当する女性がわずか48人と少なく、検出力が限られていた点には注意が必要です。BMI区分とBRIの間に統計学的な交互作用(相乗的な影響)は、出生を含むいずれの妊娠転帰についても確認されませんでした(交互作用のP値はすべて0.05超)。

BRIとBMIはどこまで同じものを測っているのか

BRIとBMIは、全体としては強く相関していました(ピアソンの相関係数r=0.75、95%CI 0.74〜0.76、スピアマンのρ=0.73、いずれもP<0.001)。しかし、BMIの範囲を正常群と過体重・肥満群にそれぞれ分けて相関を見直すと、その強さは大きく弱まります。正常BMI群での相関係数は0.44(95%CI 0.41〜0.48)、過体重・肥満群では0.55(95%CI 0.51〜0.59)にとどまりました。つまり、BMIが同じ範囲に収まる女性同士であっても、BRIの値には相応のばらつきがあるということです。BMIを調整した上での感度分析でも、BRIと出生の関連はおおむね変わらず観察されており、BRIがBMIとは異なる情報を提供している可能性が支持されています。

肥満が着床や妊娠の継続に影響する機序としては、卵巣機能や子宮内膜の受容能への悪影響が想定されています。過去の研究では、BMIが高いほど胚盤胞形成率の低下や胚の質の低下、胚発生の異常との関連が報告されてきました。加えて、内臓脂肪の蓄積は慢性的な低度炎症や酸化ストレスと関連し、これが子宮内膜の受容能を損ない、着床や出生の可能性を下げる一因になりうると考えられています。BRIが腹囲を組み込んでいることから、BMIだけでは捉えきれない体形や中心性脂肪の情報を反映し、これが今回観察された関連の背景にあると論文では考察されています。

PCOSの有無で結果は変わるか

PCOSの診断状況で層別化した解析でも、BRIと妊娠転帰の関連はおおむね主要な結果と一致していました。出生についてみると、群1と比べた群3の調整リスク比は、PCOSのある女性で0.84(95%CI 0.73〜0.98、P=0.028)、PCOSのない女性で0.90(95%CI 0.80〜1.02、P=0.092)であり、BRIとPCOS診断の間に統計学的な交互作用は確認されませんでした(いずれの妊娠転帰についてもP>0.05)。母体年齢や胚移植の種類、卵管性不妊の有無による効果修飾も認められておらず、今回観察された関連は特定のサブグループに限られたものではないことが示唆されています。

日本の現場への含意

日本の生殖医療の現場では、体格の評価はBMIを中心に行われることが一般的です。しかし今回の結果は、BMIが標準範囲にあるというだけでは、体幹まわりの脂肪分布に由来するリスクを見落とす可能性があることを示しています。腹囲の測定は身長・体重の測定と同様に簡便であり、BRIの算出には身長と腹囲さえあれば追加の検査は必要ありません。IVFを受ける女性の体格評価に腹囲や体幹丸み指数を組み合わせることは、BMIだけでは捉えきれないリスクの層別化に役立つ可能性があります。

なお、BRIには現時点で国際的に統一されたカットオフ値が存在せず、この論文で用いられた2.54や3.54という閾値も、この集団内でのパーセンタイルに基づく相対的な区分にすぎません。臨床現場で個々の患者に適用する際の具体的な基準値は、今後の研究の蓄積を待つ必要があります。

研究の強みと限界

この研究の強みは、標準化された評価基準を用いた多施設共同RCTのデータを利用している点にあります。異なる施設間での結果のばらつきが抑えられ、結果の一般化可能性が高いと考えられます。また、身長や腹囲などの体格測定は、訓練を受けたスタッフが標準化された手順で実施しており、測定誤差や誤分類のリスクが比較的小さいことも利点です。

一方で、いくつかの限界も存在します。第一に、この解析は元のRCTの主目的とは異なる目的で行われた事後解析であり、BRIと妊娠転帰の間の関連が因果関係を意味するとは断定できません。第二に、過体重・肥満群における最低BRI群はわずか48人と規模が小さく、統計的な検出力が限られていた可能性があります。第三に、低体重の女性数が少なかったため、独立したサブグループとしての解析は行われておらず、この集団におけるBRIと妊娠転帰の関連は依然として不明です。第四に、年齢や不妊原因などの主要な因子は調整されているものの、特にPCOSに関連する未測定の代謝的特徴など、残余交絡の可能性は排除できません。

おわりに

この研究は、IVFを受けた女性3523人のデータから、体幹丸み指数(BRI)が高いほど出生率が低下し、妊娠喪失のリスクが上昇することを示しました。この関連は、BMIが正常範囲にある女性においても明確に観察された一方、過体重・肥満の女性では統計的に有意な関連は確認されませんでした。BRIとBMIの相関は全体としては強いものの、BMIの範囲ごとに見ると中程度にとどまっており、BRIがBMI単独では捉えられない体脂肪分布の情報を提供している可能性が示唆されます。今後は、異なる集団におけるBRIのカットオフ値の検証や、BRIを用いた臨床的な介入がIVFの成績向上につながるかどうかの検討が課題として残されています。

参考文献

1. Fang Y, Yang Y, Li N, Zou J, Niu Y, Zhao D, Liao S, Liu Y, Chen Z-J, Wei D. 『Association between body roundness index and pregnancy outcomes of IVF』Hum Reprod Open 2026;2026(3):hoag068. doi:10.1093/hropen/hoag068

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です