提供精子で生まれた子は、なぜ少し大きいのか──体重53gの差が語る「精子の質」

無精子症など男性側の要因で挙児が難しい夫婦にとって、提供精子を用いた人工授精や体外受精(いわゆるAID)は、長らく重要な選択肢の一つとなってきました。世界各国で精子バンクの整備が進み、提供精子を用いる治療周期の数は近年増加傾向にあると報告されています。治療の技術的な確立が進む一方で、提供精子によって生まれた子どもの出生体重や周産期の転帰が、パートナーの精子を用いた場合と比べてどう異なるのかという点は、これまでの研究間で結論が一致していませんでした。

一部のメタ解析では、提供精子を用いた妊娠は妊娠高血圧症候群や子癇前症、そしてsmall for gestational age(SGA、在胎週数に対して小さい新生児)のリスクがやや高いと報告される一方、別の研究では逆に低出生体重のリスクが下がるとする結果も示されており、方向性そのものが定まっていません。従来の研究の多くは症例数が少なく、女性側の不妊要因が十分にそろえられていないまま比較されているという限界も指摘されてきました。

こうした背景のもと、中国の大学病院で実施された後方視的コホート研究が、Andrology誌(2026年)に発表されました(DOI:10.1111/andr.70365)。2012年から2022年までの新鮮胚移植周期のうち、単胎で出生に至った3360周期を対象に、提供精子を用いた611周期と、乏精子無力精子症の男性パートナーの精子を用いた2749周期とを比較し、出生体重にどのような違いが見られるのかを検証した研究です。

方法──2012年から2022年までの3360周期を比較した

対象は、体外受精(IVF)または顕微授精(ICSI)による新鮮胚移植周期で単胎の生児出生に至った3360周期です。このうち611周期は精子バンクから提供された精子を、2749周期は乏精子無力精子症(精子濃度が1mLあたり1500万未満、かつ運動率32%未満)と診断された男性パートナーの精子を用いていました。卵子提供周期、凍結卵子を用いた周期、人工授精(子宮内・頸管内・腟内)、生児出生に至らなかった単胎妊娠、ベースラインデータが不完全な周期は除外されています。

出生体重は、INTERGROWTH-21st基準を用いて在胎週数・性別ごとの中央値からのZスコアに換算し、在胎週数や性差の影響を取り除いたうえで評価されました。女性の年齢、BMI、不妊の原因、初回IVFかどうか、卵巣刺激法、媒精方法、胚移植方法などを共変量とした多変量線形回帰分析とロジスティック回帰分析により、精子提供の有無と出生体重、およびLGA(large for gestational age、在胎週数に対して大きい)、SGA、高出生体重(HBW)、低出生体重(LBW)の発生率との関連が検討されています。

平均53gの差──だが「異常な体重」は増えなかった

背景因子を見ると、女性の年齢、BMI、経産回数、不妊の原因については、提供精子群とパートナー精子群のあいだに統計学的な有意差は認められませんでした。両群の比較可能性が高く保たれていた点は、この研究の特徴の一つです。

肝心の出生体重については、提供精子群のほうが有意に重いという結果が示されました。平均出生体重は提供精子群3366.16±401.12g、パートナー精子群3316.39±420.22gで、その差は約50g(p=0.009)。他の因子で調整した多変量解析でも、精子提供の使用は出生体重の増加と有意に関連しており(β=53.679、95%CI 13.375〜93.983)、Zスコアについても同様の傾向が確認されました(β=0.120、95%CI 0.026〜0.213、p=0.012)。

一方で、この体重の差が「異常な体重」の増加につながっているわけではありませんでした。LGA(オッズ比1.174、95%CI 0.924〜1.485)、SGA(オッズ比0.740、95%CI 0.443〜1.185)、高出生体重・HBW(オッズ比0.956、95%CI 0.289〜2.640)、低出生体重・LBW(オッズ比0.662、95%CI 0.376〜1.107)のいずれについても、提供精子群とパートナー精子群のあいだに統計学的な有意差は認められませんでした。早産の割合(提供精子群3.6%、パートナー精子群5.5%、オッズ比0.665、95%CI 0.400〜1.057)や出生児の性別比についても、有意な差はありませんでした。

なぜ重くなるのか──ドナー選定基準という手がかり

この体重差の背景として、本総説の著者らは提供精子そのものの質の違いを一つの説明として挙げています。今回の研究では個々の精液所見や父親側の詳細な特性までは把握できていませんが、両群の選定基準を比較すると、その差は小さくありません。パートナー精子群は精子濃度1mLあたり1500万未満・運動率32%未満という乏精子無力精子症の診断基準を満たす男性の精子であるのに対し、提供精子は精液量2mL以上、精子濃度1mLあたり6000万以上、運動率60%以上、正常形態率4%以上という、中国国内の精子バンクの厳格な適格基準を満たしたうえで、感染症や遺伝性疾患のスクリーニングも経たものに限られます。加えて、中国の精子バンクはドナーの年齢・身長・体重・学歴についてもWHOの基準より厳しい条件を設けており、結果として若く健康な男性がドナー集団を構成しやすい仕組みになっていると考察されています。

もう一つの視点として挙げられているのが、精子の凍結保存の影響です。今回の研究では、提供精子は原則としてすべて凍結融解を経たものである一方、パートナー精子の大部分は新鮮精子でした(凍結が用いられたのは5%未満)。凍結融解が受精能そのものには大きな影響を与えないとする報告がある一方、凍結精子の使用がIVFやICSI後の流産リスク上昇と関連するとの報告や、凍結保存に伴うDNA損傷が胚の着床や新生児の健康に影響しうるとする報告も存在し、凍結という工程が出生体重にどう作用しているのかは、この研究だけでは切り分けられていません。加えて、精子DNA断片化指数(DFI)は男性の加齢とともに上昇することが知られており、ドナー精子の提供者が比較的若年層に偏っていることも、精子の質の違いに寄与している可能性があります。

日本の現場への含意

日本では、AID(非配偶者間人工授精)は長年にわたり実施されてきた歴史を持つ一方、精子提供の担い手不足や、提供精子・提供者情報の管理体制のあり方は、依然として議論が続いているテーマです。今回の研究が示したのは、「提供精子を用いた出生児の体重がわずかに重い」という統計学的な差であって、それが低出生体重や過大児といった臨床的に問題となる転帰の増加につながっていたわけではないという点です。診察や説明の場面では、平均値の差と、実際に健康上の懸念となりうる異常値の増減とを区別して伝えることが、当事者の不安を過度にあおらないうえで重要になります。

また、精子バンクにおけるドナー選定基準の厳格さや、凍結保存という工程の影響は、国や施設によって基準が異なる部分です。日本国内で精子提供を実施・検討する施設にとっても、提供精子の適格基準の設計や、凍結精子とパートナーの新鮮精子との違いを踏まえた情報提供のあり方は、今後整理していく価値のある論点だといえます。

研究の強みと限界

この研究の強みは、まず単一施設で2012年から2022年までの3400周期という比較的大規模なデータを扱っている点です。加えて、パートナー精子群の対象を乏精子無力精子症の男性に限定することで、女性側の不妊要因に由来するばらつきを抑え、両群の女性の背景因子をそろえやすくした点も特徴です。

一方で限界も複数指摘されています。IVFとICSIの選択比率が両群で大きく異なっており、多変量解析で調整はされているものの、残存する交絡の影響を完全には排除できません。また、後方視的研究であることや倫理的制約から、個々の精液所見や父親側の詳細な健康情報は得られておらず、精子の質・凍結保存・治療手技のどれが体重差にどの程度寄与しているのかを、この研究だけで切り分けることはできません。単一施設で得られたデータであることも、他の集団への一般化には注意を要する点です。

おわりに

今回のコホート研究は、提供精子を用いたIVF・ICSI治療によって生まれた子どもの出生体重が、パートナー精子(乏精子無力精子症)を用いた場合と比べてわずかに重い一方、低出生体重や過大児といった臨床的に問題となりうる転帰の増加は認められなかったことを示しました。これは、提供精子を用いた治療の安全性を支持する結果であると同時に、父親側の要因が出生体重に一定の影響を及ぼしうることを示すものでもあります。体重差の背景にあるのが精子の質そのものなのか、凍結保存という工程なのかを明らかにするには、精液所見や父親側の特性を含めた前向きの多施設研究、そして子どもの長期的な健康転帰を追跡する研究が今後必要とされています。

参考文献

1. Li M, Sun Y, Tang W, et al.『Comparison of Birth Weight Outcomes Between Donor Sperm and Partner Sperm in Fresh Embryo Transfer Cycles: A Single-Center Clinical Cohort Study』Andrology 2026;0:1–7. doi:10.1111/andr.70365

2. Allen CP, McLernon DJ, Bhattacharya S, Maheshwari A.『Perinatal Outcomes of 221,709 Singleton and Twin Pregnancies After the Use of Donor versus Partner Sperm』Fertility and Sterility 2022;118(5):948–958. doi:10.1016/j.fertnstert.2022.08.015

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4. Allen CP, Marconi N, McLernon DJ, Bhattacharya S, Maheshwari A.『Outcomes of Pregnancies Using Donor Sperm Compared With Those Using Partner Sperm: Systematic Review and Meta-Analysis』Human Reproduction Update 2021;27(1):190–211. doi:10.1093/humupd/dmaa030

5. Pohjonen EM, Söderström-Anttila V, Bergh C, et al.『Obstetric and Perinatal Risks After the Use of Donor Sperm: A Systematic Review and Meta-Analysis』European Journal of Obstetrics, Gynecology, and Reproductive Biology 2022;274:210–228. doi:10.1016/j.ejogrb.2022.05.031

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