高所得国の多くでは、この30年ほど出生率の低下が続いています。少子化の背景として、子どもを持つこと自体を望まなくなったのか、それとも希望する時期が先送りされているだけなのかは、長く議論の対象となってきました。イタリアの国立統計研究所(ISTAT)によれば、子どもを持ちたいと考えている人のうち56.1%は2人以上を希望していますが、実際の合計特殊出生率は2024年時点で1.18人にとどまっています。希望する子どもの数と実際に持てる数のあいだのこの差は「fertility gap」と呼ばれ、晩婚化・晩産化や年齢による妊孕性低下への理解不足、生殖補助医療(ART)の効果に対する過大評価などが影響していると考えられています。
世界保健機関(WHO)は、生殖年齢にある人の6人に1人が不妊を経験すると推計しており、望む家族の形を実現することを基本的な生殖に関する権利の一つと位置づけています。ARTによって最初の子どもを授かった夫婦のうち、どれくらいが2人目・3人目を目指して治療に戻り、どのような要因がその復帰を左右するのかは、これまで十分に明らかにされてきませんでした。過去の系統的レビューでは、初回出産後にARTへ復帰する割合は研究間で25%から50%までばらつきがあると報告されています。
この問いに答えるため、イタリア・ミラノの単一施設で行われた大規模コホート研究が、Human Reproduction Open誌に2026年に掲載されました(doi:10.1093/hropen/hoag063)。2010年から2020年にかけてARTで最初の子どもを授かった5852組の夫婦を2024年12月まで追跡し、誰がどのような条件のもとで治療に戻り、2人目・3人目の出産に至ったのかを検討した研究です。
方法──5852組を、最長15年にわたって追跡した
対象は、2010年1月から2020年12月のあいだにイタリア・ミラノのHumanitas不妊治療センターでARTにより最初の子ども(index birth)を授かった夫婦です。着床前遺伝学的検査(PGT-A)を行った周期や、提供配偶子を用いた周期は除外されました。女性の年齢は18歳から46歳までとされており、これはイタリアの規制上の上限に基づく基準です。最終的に5852組が解析対象となり、2024年12月まで追跡されました。
追跡期間は、最初の出産がいつ起きたかによって夫婦ごとに約4年から15年まで幅があります。最初の出産後に、卵巣刺激・凍結胚移植・凍結卵子の融解移植のいずれかを含む治療周期を1回でも開始した夫婦は「復帰群」、そうでない夫婦は「非復帰群」に分類されました。治療を伴わない診察のみの受診は非復帰群に含まれています。解析では、母親の年齢や、凍結保存されている卵子・胚の有無によって夫婦を4群(凍結なし、卵子のみ、胚のみ、卵子と胚の両方)に分け、復帰率や2人目出産率を比較しました。
3組に1組が、二人目を目指して治療に戻った
5852組のうち、1978組(33.8%)が最初の出産後にARTへ復帰し、3874組(66.2%)は復帰していませんでした。復帰した夫婦は、最初の出産時点での母親の年齢が非復帰群より若く(平均34.5±3.7歳 対 35.6±3.9歳、P<0.001)、最初の出産が双子であった割合は大きく低くなっていました(2.7%対18.1%、P<0.001)。分娩時の妊娠週数はわずかに長く(平均38.8±2.3週対38.1±2.6週、P<0.001)、男性因子による不妊の割合(45.6%対37.8%)や母児の合併症の割合(23.6%対19.5%)も復帰群でやや高くなっていましたが、いずれも差自体は大きくありませんでした。BMIや、最初の出産までの卵巣刺激周期数には差が見られませんでした。
復帰した夫婦のうち、2人目の出産に至ったのは49.3%(974組/1978組)でした。3人目を目指して治療に戻る夫婦は少数にとどまりましたが、卵子と胚の両方が保存されている場合には、3人目の出産率も50%を超えていました。復帰から2人目出産までの期間は中央値36か月(範囲9〜113か月)で、凍結保存の有無による差は見られませんでした(P=0.620)。
凍結卵子・胚があると、復帰率は最大2倍近くに
復帰のしやすさを最も強く分けていたのは、凍結保存された卵子・胚の有無でした。凍結保存された生殖材料が残っている夫婦の復帰率は41.0%であったのに対し、残っていない夫婦では23.3%にとどまり、約1.8倍の差がありました(P<0.001)。さらに保存状況を4区分に細分化すると、凍結なし群23.3%、卵子のみ保存群28.7%、胚のみ保存群41.6%、卵子と胚の両方を保存している群44.3%と、保存している生殖材料が多いほど復帰率が段階的に高くなる傾向が見られました(P<0.001)。
2人目の出産に至った割合についても、同様のパターンが確認されています。復帰した夫婦の中で2人目を出産した割合は、凍結なし群39.5%、卵子のみ保存群48.8%、胚のみ保存群50.3%、卵子と胚の両方を保存している群では64.6%に達し、保存状況による差は明確でした(P<0.001)。多変量解析でも、凍結保存された生殖材料の有無は復帰の独立した予測因子であり(調整オッズ比〔aOR〕2.21、95%信頼区間〔CI〕1.95〜2.50、P<0.001)、年齢などで調整してもこの関連はほとんど弱まりませんでした。凍結された卵子・胚は単なる治療の予備ではなく、若い時点での妊孕性そのものを保存した資源として機能していると考えられます。
双子出産だった夫婦は、復帰の可能性が9割近く低かった
多変量解析では、凍結保存された生殖材料の有無以外にも、いくつかの要因が独立してARTへの復帰と関連していました。母親の年齢は1歳上がるごとに復帰のオッズが0.93倍(95% CI 0.92〜0.95、P<0.001)となり、年齢が上がるほど復帰しにくくなる傾向が示されています。最初の出産が双子であった場合は、単胎だった場合と比べて復帰のオッズが0.12倍(95% CI 0.09〜0.16、P<0.001)と、9割近く低くなっていました。双子出産によって早期に希望する家族の人数を達成したと感じる夫婦が多いことに加え、双子の育児が夫婦関係の解消リスクをやや高めるという先行研究の知見も、この関連の背景として指摘されています。
一方で、男性因子による不妊(aOR 1.26、95% CI 1.12〜1.42、P<0.001)、最初の出産時の母児合併症(aOR 1.29、95% CI 1.12〜1.49、P<0.001)、分娩時の妊娠週数が長いこと(1週あたりaOR 1.03、95% CI 1.01〜1.06、P=0.021)は、いずれも復帰の可能性をやや高める方向に関連していました。男性因子不妊との関連は、女性側の妊孕性が比較的保たれている夫婦が多いことを反映している可能性があります。また、分娩時の妊娠週数や合併症の経験といった産科的な体験も、次の妊娠に踏み出すかどうかの判断に関わっていることがうかがえます。
年齢が上がるほど、復帰も出産も難しくなる
年齢層別(30歳未満、30〜37歳、38歳以上)に見ると、いずれの年齢層でも凍結保存された生殖材料がある夫婦のほうが復帰率は高いという傾向は共通していましたが、年齢が上がるにつれて全体の復帰率自体は低下していました。30歳未満では、凍結なし群35.0%から卵子・胚両方保存群46.5%までの範囲、30〜37歳では28.1%から45.1%、38歳以上では14.0%から38.6%まで、年齢が上がるほど群間の値そのものも下がっていく形です。
2人目の出産に至った割合についても、年齢による差は顕著でした。30歳未満で復帰した夫婦では69.4%から75.8%が2人目を出産していたのに対し、30〜37歳では42.8%から67.1%、38歳以上では17.7%から38.2%まで低下しています。いずれの年齢層でも、凍結保存された生殖材料がある場合のほうが出産率は高く保たれており、卵子・胚を保存しておくことの効果は、年齢が上がった後にこそ大きく現れる形となっています。
日本の生殖医療現場への示唆
日本では、ARTによる出生数が増加を続ける一方で、2人目・3人目を目指す治療への理解や支援体制は、初回治療ほど整理されていない面があります。今回の結果は、最初の出産の時点で凍結保存された卵子・胚が残っているかどうかが、その後の家族形成の可能性を大きく左右することを示しています。診察の場では、1回の治療周期・1人の子どもの誕生だけを目標とするのではなく、その後の家族計画も視野に入れた説明や、余剰胚・卵子の凍結保存についての情報提供が、長期的な視点でのカウンセリングとして意味を持つと考えられます。
イタリアの制度では、治療に厳密に必要な数の胚しか作成・凍結できないという規制があり、胚の作成数に事実上の制限がない国とは異なります。それでも、若い年齢で得られた卵子・胚の保存が、将来の妊孕性低下を部分的に補う手段になり得るという知見は、規制の枠組みが異なる国の臨床現場にも参考になります。
研究の強みと限界
この研究の強みは、5852組という大規模なコホートを最長15年にわたって追跡し、単一施設の完全なデータベースに基づいているため追跡からの脱落がない点にあります。一方で限界も指摘されています。非復帰を選んだ夫婦の心理社会的・経済的な背景は評価されておらず、自然妊娠に関するデータも把握されていません。イタリアでは凍結卵子・胚を他施設へ移送することが制度上認められているため、他施設での治療継続による過小評価の可能性も否定できません。さらに単一施設・単一国での研究であり、イタリア特有の制度的・文化的背景が結果に影響している可能性があるため、他の医療制度への一般化には注意が必要です。
おわりに
今回のコホート研究は、ARTで最初の子どもを授かった夫婦のうち約3組に1組が、その後2人目を目指して治療に戻ること、そしてその可能性は母親の年齢、最初の出産が単胎か双子か、そして凍結保存された卵子・胚の有無によって大きく左右されることを示しました。凍結保存された生殖材料の有無は、年齢などで調整した後も独立した予測因子であり続けており、若い時点で保存された妊孕性が、その後の家族形成を後押しする資源として働くことを裏づけています。今後は、心理社会的・経済的要因が復帰の判断にどう関わるのかを含め、生物学的要因と社会的要因が長期的な生殖選択をどのように形づくるのかについて、さらなる研究が必要とされています。
参考文献
1. Viciglione F, Immediata V, Morenghi E, Alviggi C, Baggiani A, Cirillo F, Levi-Setti PE. 『From a single child to family planning: determinants of returning to ART to build the desired family in a monocentric Italian cohort』Hum Reprod Open 2026;2026(3):hoag063. doi:10.1093/hropen/hoag063
2. Li Piani L, Esposito G, Reschini M, Donnez J, Parazzini F, Somigliana E. 『Family planning of infertile couples: a systematic review of intentions regarding parenthood and return to ART』Hum Reprod 2026;41:204–213.
3. Choi SKY, Lazzari E, Venetis C, Chambers GM. 『Childbirth timing and completed family size by the mode of conception-the role of medically assisted reproduction: a population-based cohort study in Australia』Lancet Reg Health West Pac 2023;33:100686.
