子宮筋腫(平滑筋腫)は婦人科診療で最も頻繁に遭遇する良性腫瘍のひとつで、生殖年齢を終えるまでに女性の3分の2以上が何らかの筋腫を経験すると報告されています。一方、臨床的な対応が必要になるほどの症状を示すのは一部にとどまります。過多月経や骨盤痛、不妊は筋腫と関連づけられやすい症状ですが、いずれも筋腫以外の原因でも起こり得るため、画像検査で筋腫が見つかっただけでは、その筋腫が症状の原因とは言い切れません。
この区別を誤ると、不要な処置が選択されたり、逆に治療が必要な筋腫への対応が遅れたりする可能性があります。前者は合併症のリスクを伴う介入を患者に強いることになり、後者は貧血や妊孕性の低下、妊娠合併症といった回避可能な問題を放置することにつながります。国際産科婦人科連合(FIGO)は、筋腫の疫学・病態・診断・妊孕性への影響・治療選択肢に関するエビデンスに基づく論文シリーズを発表してきました。International Journal of Gynecology & Obstetrics誌の2026年の総括論文(doi:10.1002/ijgo.71262)は、これらを統合し、筋腫の表現型、症状の帰属、患者の希望を結びつけて個別化した管理の枠組みを提示しています。
本総説の位置づけ――FIGOシリーズを統合した視点
本論文は独立した臨床試験ではなく、FIGOが公表してきた筋腫の疫学・病態、診断・分類、妊娠、薬物治療、画像下治療、不妊に関する一連の総説(2025~2026年)を横断的に統合し、臨床判断の指針を整理した特別論文です。既存知見を「表現型」「症状の帰属」「患者の希望」という3軸で束ね直した点に特徴があります。
「ある」だけでは足りない――3分の2が経験する腫瘍、治療が必要なのは一部
筋腫による負担は集団によって偏りがあることも報告されています。アフリカ系の女性は、より若い年齢で発症し、数が多く体積の大きい腫瘍を有する傾向があり、生活の質や生殖の健康により大きな影響を受けやすいとされています。また、診断時に懸念されやすい「悪性(平滑筋肉腫)の可能性」は、手術を受けた選択的な集団のデータに基づいて算出されることが多く、実際より過大に見積もられている場合があると指摘されています。過大評価は、経過観察や薬物療法で十分な場合にも、より侵襲的な手術を選ぶ方向に判断を傾けかねません。
発見①──FIGO分類0~7、症状を起こしやすい筋腫・起こしにくい筋腫
FIGO分類システムは、筋腫が子宮内膜・筋層・漿膜のどこにどう関係しているかを標準化して記述する枠組みです。子宮内膜下筋腫(Type 0、1、2)は過多月経などの異常子宮出血や妊孕性低下と関連しやすく、漿膜下筋腫(Type 5、6、7)がこうした症状を起こす可能性は低いとされます。中間に位置する筋層内筋腫(Type 3、4)は、サイズや子宮内膜への近さ、蠕動運動への影響によって意味合いが変わり、一律には判断できません。
論文はこの使い方を具体例で示しています。周期が24~38日と規則的で単発の2.5cmのType 4筋腫しかない患者の過多月経は、この筋腫が原因である可能性はほぼなく、腺筋症(AUB-A)や凝固異常(AUB-C)、子宮内膜そのものの異常(AUB-E)を検討すべきとされます。逆に不妊を訴える患者に3cmのType 6筋腫(漿膜下)しか見つからない場合、筋腫核出術で妊娠転帰が改善する可能性は低いと判断できるとされています。
発見②──症状を起こす仕組み:子宮内膜の止血と着床への影響
この論文は、筋腫が「なぜできるか」という病因と、「できた筋腫がどう症状を起こすか」という病態生理を区別しています。子宮内膜に近接する筋腫は、分子発現や周囲の代謝環境の変化を介して、子宮内膜の止血機構や着床に必要な受容能を局所的に変化させる可能性があるとされます。子宮内膜下筋腫はTGF-β3の分泌を介してBMP-2が関与する脱落膜化や抗凝固因子の発現を妨げるとの報告もあり、出血や着床障害と結びつく機序とされます。筋腫は蠕動運動にも影響し、精子輸送や着床に不利に働く可能性が指摘されていますが、臨床的な重要性は十分には解明されていません。
筋腫は周囲の筋層に浸潤せず、圧排しながら拡大し、偽被膜(pseudocapsule)と呼ばれる境界面で周囲組織と隔てられています。筋腫核出術でこの内側を剥離すれば、周囲の筋層が術後に再拡張し、子宮の構造と機能が保たれるとされています。
画像診断――「筋腫を見つける」ではなく「表現型を決める」ために
臨床的な意味合いが大きい子宮内膜下筋腫は触知が難しい一方、触知しやすい漿膜下筋腫は出血や妊孕性への影響との関連が乏しく、画像診断の役割は「筋腫の発見」にとどまらず表現型の正確な決定にあるとされます。経腟超音波検査は第一選択ですが、FIGO分類の判定には限界があります。生理食塩水などを注入するソノヒステログラフィーは、比較的安価で輪郭をより正確に描出できます。MRIは複雑な症例で有用ですが必須ではなく、血清バイオマーカーを組み合わせた平滑筋肉腫リスク評価も感度・特異度が一貫せず今後の課題です。
治療の選択肢――閉経までの橋渡しか、根治的な切除か
多くの患者では閉経移行期を境に過多月経などの症状が軽快・消失するとされます。そのため、特に生殖年齢後期で処置が適さない患者では、閉経までの「橋渡し」として薬物療法が合理的とされます。エストロゲンとプロゲスチンを組み合わせ、低エストロゲン状態や子宮内膜腫瘍化のリスクを抑えながら長期使用できる薬剤により、処置を回避できる患者も増えています。ただし不妊が主訴の場合、薬物療法単独では妊孕性の改善に有効とはいえません。
手術が選択される場合、アプローチはサイズ・FIGOタイプ・個数によって決まります。子宮内膜下筋腫は開腹・腹腔鏡より子宮鏡下切除が優先され、アクセスできない筋層内筋腫などには筋腫核出術が適切とされます。不妊症例における筋腫核出術は現時点でも標準治療ですが、他の介入にも一定の可能性が示されています。
手術を選ぶなら――鉄欠乏対策が予後を左右する
過多月経は貧血の有無にかかわらず鉄欠乏を伴うことが多く、鉄欠乏そのものが認知・身体機能の低下を通じて生活の質を損なうとされます。経口または静注鉄剤による是正は、出血量の軽減に加え全身状態の改善にもつながります。手術を要する患者では術前に貧血を評価・是正しておくことが重要で、手術時の貧血は合併症・死亡率の上昇と関連するとされます。輸血を希望しない患者や大きい筋腫を有する患者では、自己血回収を含めた血液管理と高度な手術技術が重要で、十分な設備と経験を備えた施設での管理が望ましいとされています。
研究の強みと限界
強みは、疫学・病態・診断・治療という複数領域のFIGOシリーズを統合し、臨床判断の一貫した枠組みを提示した点にあります。一方、どの筋腫が将来問題になるかを予測する方法は確立されておらず、表現型だけでは症状の発症や妊孕性への影響を予測できません。成長速度には個人内でもばらつきがあり、ビタミンD欠乏など修飾可能とされる因子の役割も未解明です。因果関係の証明も難しく、生殖転帰のエビデンスも不足しており、治療間の比較効果データや医療アクセスの地域差に関するエビデンスも限られています。
日本の臨床現場への示唆
日本の産婦人科診療でも、画像検査で偶発的に見つかった筋腫にどこまで介入すべきかという判断は日常的に生じます。この総括論文が示す「表現型・症状の帰属・患者の希望」という枠組みは、過多月経や不妊を訴える患者において、筋腫が本当に原因なのか、腺筋症や凝固異常、子宮内膜そのものの問題が背景にあるのかを整理する参考になります。子宮鏡下切除が優先される子宮内膜下筋腫と、経過観察や薬物療法で対応可能な漿膜下・小さな筋層内筋腫とを区別する視点は、不要な手術を避けつつ治療を遅らせない指針になります。術前の貧血・鉄欠乏の評価と是正を計画に組み込むことも、周術期リスク低減につながる取り組みです。
おわりに
子宮筋腫は、高い有病率と多様な臨床的影響が併存する疾患の典型例とされています。このFIGOシリーズが示すのは、筋腫診療の焦点が単なる「筋腫の検出」ではなく、表現型・症状の帰属・患者個々の希望を統合した評価にあるという点です。筋腫の存在が必ずしも臨床的な重要性を意味するわけではなく、症状の帰属を誤れば過剰治療にも過小治療にもつながりかねないことが、この枠組みの中心に据えられています。どの筋腫が重要になるかを予測する精度を高めるには、分子・遺伝子・表現型情報を統合した縦断的研究の蓄積が今後の課題とされています。
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