卵子凍結の「2回目」──急いでも、空けても、卵子はわずかに減る

計画的卵子凍結(将来の妊娠に備えて未受精卵を凍結保存する選択)は、生殖補助医療の中で急速に広がっている選択肢です。米国生殖医学会の集計によれば、2022年に実施された生殖補助医療周期の7.5%を計画的卵子凍結が占めるまでになりました。多くの患者は、将来希望する家族の人数を確保するために複数回の採卵を計画しますが、その際に必ず突き当たる問題が「1回目からどれくらい間隔を空けて2回目を行うか」という日程設計です。

仕事や生活の都合で短期間に連続して採卵を済ませたい患者もいれば、体への負担を考えて数か月空けたいと考える患者もいます。しかし、間隔の長さが2回目の卵子採取数にどう影響するかについては、これまでまとまったデータがほとんど存在しませんでした。1回目の刺激周期で発育しなかった卵胞が「プライミング」され、次周期で成熟卵子になりやすくなるという仮説がある一方、卵巣には黄体の消退を待つ回復期間が必要だという考え方もあり、臨床現場の判断は一定していませんでした。

こうした状況を受けて、2010年から2022年にかけて米国の複数の生殖医療施設ネットワークで採卵を受けた2412人のデータを解析し、採卵間隔が2回目の成熟卵子数に与える影響を検証した後ろ向きコホート研究が、Reproductive BioMedicine Online誌2026年53巻5号(論文番号105871)に掲載されました(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105871)。

方法──2412人を、間隔ごとに3グループに分けて解析した

対象は、2010年から2022年の間に計画的卵子凍結のために2回以上の採卵を受けた18歳から41歳の女性2412人です。1回目と2回目の採卵の間が180日を超えるケース、体外受精を目的とした緊急凍結、低刺激プロトコル(FSH総量500 IU未満)を用いた3人などは解析から除外されました。

1回目の採卵終了から2回目の刺激開始までの日数に応じて、対象は3群に分類されました。28日以内の「即時群」(n=399)、29日から90日の「標準群」(n=1448)、91日から180日の「延期群」(n=565)です。排卵後の初回消退出血までの平均日数(約10日)と卵巣周期の平均長(約28日)をもとに、標準群はおおむね卵巣周期を1〜3回空けたケースに相当するよう区分が設計されています。

主要評価項目は、1回目の成熟卵子数や年齢、刺激プロトコル、トリガー薬剤で調整したうえでの2回目の成熟卵子数です。副次評価項目として、総卵子数、刺激日数、ゴナドトロピン総投与量(IU)、周期のキャンセル率が設定されました。解析には過分散を考慮したポアソン回帰が用いられ、標準群を基準に、即時群・延期群それぞれとの比較でレートレシオ(発生率比)と95%信頼区間が算出されました。非劣性の判定基準は、卵子数の20%減少があらかじめ設定されています。

即時群は9%減、延期群は7%減──それでも「非劣性」の範囲内

年齢などの背景因子で調整した解析の結果、2回目の成熟卵子数は、標準群と比較して即時群で9%少なく(レートレシオ0.91、95% CI 0.86〜0.96)、延期群で7%少ないという結果でした(レートレシオ0.93、95% CI 0.89〜0.98)。数にすると、いずれの群も標準群よりおおむね卵子1個分程度少ない計算です。

あらかじめ設定された非劣性の基準は「20%以上の減少」でした。95%信頼区間の下限が0.8を上回れば非劣性と判定する枠組みで見ると、即時群・延期群のいずれも信頼区間の下限が0.86および0.89と0.8を上回っており、統計学的には非劣性の基準を満たす結果となりました。総卵子数についても同様の傾向で、即時群のレートレシオは0.90(95% CI 0.86〜0.95)、延期群は0.95(95% CI 0.91〜0.99)でした。

刺激期間の日数は、3群のあいだで有意な差は見られませんでした。一方、ゴナドトロピンの総投与量は、即時群が標準群より平均187 IU多く必要でした(95% CI 35〜339)。延期群と標準群のあいだでは、投与量に統計学的な有意差はありませんでした(平均差7 IU、95% CI -126〜141)。

周期のキャンセル率は全体で4.1%(101/2472周期)であり、間隔による差は認められませんでした(即時群4.6%、標準群4.0%、延期群3.9%、P=0.868)。また、卵巣予備能の指標であるAMH値のカテゴリー(1未満、1〜3、3超のng/mL)と間隔群のあいだに、成熟卵子数・総卵子数のいずれについても有意な交互作用は見られませんでした(それぞれP=0.890、P=0.661)。卵巣予備能が低い人ほど間隔の影響を強く受ける、といった関係は今回のデータでは確認されなかったことになります。

なぜ差が出るのか──先行研究との比較で見えてくること

このテーマをめぐっては、これまでにも小規模な研究が行われてきましたが、結果は一致していませんでした。721組の夫婦を対象とした先行研究では、2回の体外受精刺激周期のあいだに卵巣周期を1回空けた群と2回以上空けた群とで採卵数や治療成績に差は見られず、今回の結果と方向性が一致しています。一方、卵巣の反応が乏しい632組の夫婦を対象とした別の研究では、2回目を間を空けずに行った群のほうが採卵数の改善が大きかったという逆の結果も報告されています。対象が卵巣予備能のおおむね正常な計画的卵子凍結の患者か、卵巣反応不良の不妊治療患者かという集団の違いが影響している可能性が指摘されています。

ゴナドトロピン(排卵誘発剤)が次周期以降の卵胞動員を早めることはなく、反復した卵巣刺激が卵巣機能に悪影響を及ぼす明確な根拠もないとする既存の知見とも、今回の結果は矛盾しません。即時群でゴナドトロピンの必要量がやや多かった点は、短い間隔での刺激には多少多めの薬剤投与が必要になる可能性を示唆していますが、最終的な卵子数の改善にはつながらなかったことになります。

日本の生殖医療現場への示唆

日本では、卵子凍結を検討する女性が、仕事のスケジュールや心身の負担を考慮しながら次回採卵の時期を相談する場面は少なくありません。今回の結果を踏まえると、1回目の採卵から間を空けずに2回目を行っても、逆に数か月空けても、標準的な間隔(1〜3回の卵巣周期を空ける)と比べて成熟卵子数の差はわずか1個程度にとどまり、あらかじめ設定された臨床的に意味のある差(20%減少)には達しません。

臨床現場でも、患者の仕事や生活上の制約を踏まえたスケジューリングの柔軟性を後押しする材料になり得ます。ただし、間を空けずに2回目を行う場合はゴナドトロピンの投与量がやや多くなる可能性があり、薬剤費用の増加につながりうる点は、日程を相談する際に伝えておくべき情報といえます。また、この研究の対象は卵巣予備能がおおむね正常な計画的卵子凍結の患者であり、卵巣機能が低下している患者や不妊治療中の患者にそのまま当てはまるかどうかは、今回のデータからは判断できません。

研究の強みと限界

この研究の強みは、12年間、複数施設にわたる2412人という大規模なデータを用いている点です。多様な刺激プロトコルが混在していたことは、単施設・単一プロトコルの研究に比べて結果の一般化可能性を高める一方で、プロトコルの違いを完全には調整しきれていない可能性があります。ただし、両周期で同一のプロトコル・トリガー薬剤を用いた1551人に限定した感度分析でも、結果は変わりませんでした。

限界としては、まず後ろ向きコホート研究であり無作為化されていないため、群間の背景因子の違いによる残余交絡を完全には排除できません。AMHや胞状卵胞数には統計学的に有意な差があったものの、いずれも標準群で最も低い値であったため、むしろ群間差を小さく見積もる方向に働いた可能性があります。凍結した卵子そのものの妊孕性(将来の妊娠・出産につながる能力)は今回評価されておらず、間隔の違いが最終的な出産率に影響するかどうかは今後の課題です。加えて、患者は実際の卵巣周期数ではなく採取からの日数で分類されており、卵巣周期の長さには個人差があるため、一部の患者は分類が実態とずれている可能性があります。

おわりに

今回の解析では、計画的卵子凍結における2回目の採卵を、1回目から28日以内に行っても、91日から180日空けて行っても、29日から90日という標準的な間隔と比較して成熟卵子数は非劣性という結果が示されました。即時群で9%、延期群で7%という成熟卵子数の減少は統計学的に検出されたものの、あらかじめ設定された臨床的に意味のある差の基準には届きませんでした。周期のキャンセル率にも差はなく、刺激期間もおおむね同程度でした。

今後は、凍結された卵子の妊孕性そのものへの影響や、卵巣予備能が低下した集団における間隔の影響について、前向き研究によるさらなる検証が期待されます。現時点のデータからは、卵子凍結の日程を仕事や生活の事情に合わせて柔軟に組み立てることについて、一定の根拠が示されたといえます。

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