不妊症は生殖年齢人口の15~20%が経験するとされ、体外受精(IVF)をはじめとする生殖補助医療(ART)は年々重要性を増しています。ハンガリーでは2024年に新生児の約3.5%がART由来の妊娠から生まれており、IVFは数十年にわたるエビデンスに基づく医療として定着した一方、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や早産、低出生体重などのリスクも伴うため、成功率を左右する要因の正確な把握が課題となっています。
これまで50を超える臨床パラメータがIVFの成功との関連で検討されてきましたが、どの要因がどの程度重要かは研究間で一致しないことも少なくありませんでした。近年、機械学習(ML)を用いた予測モデルがこの課題に取り組んでおり、多数の臨床変数の相対的な重要度を順位づけることを可能にしています。こうした背景のもと、ハンガリー・セゲド大学の研究グループによるナラティブレビューが、Orvosi Hetilap誌(2026年、167巻32号、1262-1268頁、doi:10.1556/650.2026.33608)に掲載されました。国際文献と同グループ自身の機械学習研究の成果を統合し、IVFの予測因子を整理した内容です。
方法――国際文献とセゲド大学の自験データを統合したナラティブレビュー
本総説は、機械学習を用いた先行研究と、セゲド大学Gametogenezis研究グループが発表してきた複数の後ろ向き研究を統合したナラティブレビューです。用いられた主なアルゴリズムはサポートベクターマシン(SVM)、ランダムフォレスト(RF)、勾配ブースティング(XGBoost)で、いずれも構造化された臨床データから教師あり学習を行い、IVFの成功・不成功を予測するとともに、各臨床変数の相対的重要度を順位づけます。ただし多くのモデルは後ろ向きデータでの検証にとどまっており、臨床応用には前向き・多施設・大規模データによる検証と、80%程度の予測精度が必要とされています。
最も強い予測因子は、やはり『年齢』と『胚の質』だった
複数の機械学習研究に共通して浮かび上がる予測因子は、母体年齢と移植胚の質(embryo score)の2つに集約されます。母体年齢は1980年代から報告される最古典的な予測因子で、35歳が一つの分水嶺とされ、加齢とともに臨床妊娠率、採卵数、正倍数性(染色体数が正常)卵子の割合が低下します。embryo scoreは、移植胚数や内膜厚、父親年齢、精液所見と比べても優れた予測因子とされ、セゲド大学の4件の研究(Nádasdiら、Kozinszkyら、Vedelekら、Bereczkiら)のいずれでも、重要度ランキングの1位または2位を占めていました。
体重は『量』だけでなく『機能』に影響する――BMIというもう一つの鍵
肥満は世界的に、そしてハンガリーでも拡大しており、2025年の調査では成人女性の28.9%、男性の32.5%が該当します。英国NICEガイドラインはART開始前の理想BMIを19~30kg/m²とし、この範囲を外れると成功率が低下すると報告されています。13件の研究を統合したメタ解析ではBMI 30kg/m²以上が内膜の受容能や卵子・胚の質を低下させ、別のメタ解析(約2500人、14件)では正常範囲を超えるBMIが妊娠成立までの期間を延長させ、中心性肥満では2倍に及ぶことが示されました。セゲド大学の研究では、BMI 29kg/m²超で臨床妊娠率への負の影響が確認され、機械学習モデルでも約50項目中上位15位以内に位置づけられています。またBMIとFSH・黄体形成ホルモン(LH)値の逆相関も報告されています。
正常範囲のTSHは、本当に介入不要なのか
甲状腺ホルモンは月経周期やゴナドトロピン調節に関与します。ESHREガイドラインは、甲状腺疾患のない女性の目標TSH値を0.4~4.0mU/l、橋本病陽性の女性では2.5mU/l未満としています。原因不明不妊の女性ではTSH値が対照群より有意に高く(1.95±0.66対1.66±0.51mIU/l)、2867人を解析した研究ではTSH 4.2µIU/ml超の群でAMH値が低いことが示されました(2.79対3.41ng/ml、P<0.001)。一方、正常範囲内(0.4~4.0µIU/ml)のTSH値自体はIVF成功や妊娠転帰と関連しないとする研究も複数あり、セゲド大学の研究でも、正常範囲内のTSHは自己免疫性甲状腺炎の有無にかかわらず、臨床妊娠や生産率に有意な影響を及ぼさないことが示されています。
子宮内膜は何ミリが『ちょうどいい』のか
子宮内膜の厚さは胚の着床のしやすさに関わる重要な因子とされ、経腟超音波検査で日常的に測定されます。内膜厚7mm未満では着床率・妊娠率・生産率が低下する傾向がある一方、14mmを超える厚い内膜では中間群(7~14mm)と有意差はみられません。多くのメタ解析では、排卵誘発時の内膜厚が7~8mmを超えるとより高い妊娠率・生産率が確認されています。セゲド大学の研究では、内膜厚7.5mm未満が予後不良因子である一方、測定タイミングによって意義が異なり、排卵誘発時・胚移植時は10~12mmでわずかな優位性、採卵時はより厚いほど良好な転帰と関連していました。
卵巣予備能を映す2つのホルモン――FSHとAMH
FSH基礎値の測定はIVF前の日常的な検査ですが、予測的価値には見解の相違があります。7件を統合したメタ解析ではFSH上昇が妊娠率低下と関連し、うち2件ではFSH 10IU/ml以下でより高い妊娠可能性が示されました。別のメタ解析では基礎FSHの予測価値は限定的で、極端な高値例のスクリーニングにのみ有用とされています。AMHは卵巣予備能を反映し加齢とともに低下するホルモンで、術前AMH 1.10ng/ml以上では採卵数・卵子の質・胚移植率が良好とされます。セゲド大学のBereczkiらはXGBoostモデルで14項目から母体年齢、AMH、BMI、FSH、LH、精子濃度・運動率、父親年齢、不妊期間の9項目に絞り込み、Nádasdiらは996人の解析で妊娠群(273人)が非妊娠群(723人)より有意に低いFSH・高いAMHを示し、両ホルモンとも43項目中上位15位以内に位置づけられたと報告しています。
臨床現場での指標の使い方が変わりつつある
日本の生殖医療の現場でも、母体年齢、embryo score、BMI、甲状腺機能、内膜厚、FSH・AMHは日常的に確認されている指標です。今回のレビューが示す意義は、機械学習によって多数の変数の相対的な重要度を序列化できるようになった点にあります。限られた診察時間の中で数値を総合的に評価する必要がある臨床現場では、こうした重要度の把握が説明や意思決定の優先順位づけに役立つ可能性があります。特にTSHについては、正常範囲内でも一律に低い目標値を目指すべきかという議論があり、今回の知見は過度に厳格な目標設定を見直す材料になり得ます。
研究の強みと限界
本総説の強みは、国際文献と単一グループが継続的に蓄積した複数の後ろ向き研究の重要度ランキングを比較可能な形で提示した点にあります。一方、系統的レビューのような網羅的な文献検索や質評価は行われておらず、引用されたモデルの多くは後ろ向きデータの検証にとどまり、前向き・多施設・大規模データによる外部検証が今後の課題です。データの異質性や施設間差、過学習リスクも臨床応用の制約となります。
おわりに
機械学習モデルは、IVFの成否を左右する多数のパラメータから相対的に重要な因子を特定する手法としての可能性を示しています。母体年齢と胚の質が突出した予測因子であることは、従来の知見をあらためて裏付けました。BMI、AMH、FSH、内膜厚も一定の役割を果たす一方、その影響の大きさは研究間で変動し、正常範囲内のTSHとの明確な関連は示されませんでした。IVFの成功は依然として多因子的な現象であり、機械学習に基づく予測モデルは個別化された治療戦略に向けた選択肢の一つとして位置づけられます。今後は標準化されたデータ収集に基づく大規模・国際的な多施設研究が求められています。
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