体外受精(IVF)において、移植する胚の染色体が正常(正倍数性、ユープロイド)であるかどうかは、妊娠成立を左右する重要な因子として知られています。着床前遺伝子検査(PGT-A)によって正倍数性と判定された単一胚を移植する方法は、生児出生率を高め、多胎妊娠のリスクを減らすことが複数の研究で示されてきました。しかし、正倍数性胚を移植しても、すべての周期で妊娠が成立するわけではありません。染色体異常という要因を取り除いてもなお着床に至らない周期が一定数存在することは、体外受精を繰り返す患者にとって、身体的にも経済的にも大きな負担となります。
妊娠成立には、胚の染色体状態以外にも、母体年齢、内分泌環境、子宮内膜の状態、胚の形態学的な質、培養や凍結融解の条件など、多数の要因が関与すると考えられています。これらの要因は互いに複雑に影響し合うため、従来の統計手法だけでは、その全体像を捉えきれない側面がありました。近年、大量のデータから非線形な相互作用を検出できる機械学習を用いて、IVFの成績を予測しようとする研究が増えています。
こうした背景のもと、トルコの生殖医療センターで2011年10月から2023年2月にかけて実施されたガラス化保存-融解単一正倍数性胚移植4300周期を対象に、5種類の機械学習アルゴリズムを用いて臨床妊娠に関わる因子を特定した研究が、Reproductive BioMedicine Online誌2026年(53巻4号、論文番号105864)に掲載されました(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105864)。
方法──4300周期を、5つの機械学習モデルで解析した
対象となったのは、22歳から46歳までの女性が受けた、顕微授精(ICSI)または形態学的選択顕微授精(IMSI)による受精後のガラス化保存-融解単一正倍数性胚移植周期4300件です。通常の体外受精(conventional IVF)による周期、子宮形態異常(ミュラー管異常など)、未治療の内分泌疾患、内膜厚7mm未満の周期は解析から除外されました。臨床妊娠は、移植後7週の経腟超音波検査で胎児心拍が確認された場合と定義されています。
解析には、年齢や体格指数(BMI)、抗ミュラー管ホルモン(AMH)濃度、胚移植周期数、内膜厚、胚の質など、あらかじめ臨床的関連が想定された26項目の変数が用いられました。データは訓練用(70%)とテスト用(30%)に分割され、訓練データに対して5分割交差検証を行いながら、AdaBoost、Random Forest、XGBoost(Extreme Gradient Boosting)、LightGBM(LGBM)、Extremely Randomized Trees(ExtraTrees)という5種類の機械学習アルゴリズムのハイパーパラメータが最適化されました。モデルの性能は正解率、感度、特異度、適合率、F1スコア、AUC(ROC曲線下面積)で評価され、SHapley Additive exPlanations(SHAP)という手法を用いて、各変数が予測にどう寄与しているかが解析されています。
発見──浮かび上がった7つの因子
5つのモデルによるpermutation feature importance(変数を並べ替えた際の予測精度低下の大きさで重要度を測る手法)のランキングを統合するコンセンサス方式によって、臨床妊娠と関連する7つの変数が特定されました。前周期数(number of previous cycles)、AMH濃度、内膜厚、融解後の胚の質、母体年齢、凍結保存胚数、内膜調整法(自然周期か人工周期か)です。
SHAP解析からは、それぞれの変数が妊娠確率に与える方向性も示されています。前周期数が多いほど、また母体年齢が高いほど、臨床妊娠の確率は低下する方向に影響していました。一方、AMH濃度が高いほど、また融解後の胚の質が良好であるほど、臨床妊娠の確率は上昇する方向に影響していました。
なお、26項目すべてを用いた解析(特徴量選択を行わない設定)でも、胚移植日(Day 5かDay 6か)、融解後の胚の質、前周期数、内膜調整法、除去された細胞(excluded cells)の有無といった変数が上位に挙がっており、選択された7因子と重なりが確認されています。
妊娠した群としなかった群、何が違ったのか
4300周期のうち、臨床妊娠が成立したのは2902周期(67.5%)、成立しなかったのは1398周期(32.5%)でした。妊娠成立群は非成立群に比べて、母体年齢が若く(平均33.9±4.8歳 対 34.4±4.9歳、p=0.004)、不妊期間が短く(4.6±3.6年 対 5.0±3.8年、p=0.001)、それまでの移植周期数が少ない(4.6±2.6回 対 5.9±3.1回、p=0.001)という特徴がありました。内膜厚(10.2±1.9mm 対 9.9±1.8mm、p=0.001)、AMH濃度(2.9±2.3ng/ml 対 2.7±2.2ng/ml、p=0.002)、凍結保存胚数(5.7±3.9個 対 5.1±3.7個、p=0.001)は、妊娠成立群のほうが高い値を示しています。
胚の質についても差がみられ、融解後にトップクオリティと評価された胚の割合は、妊娠成立群で61.6%、非成立群で49.6%でした(p=0.001)。反対に、中程度の質と評価された胚の割合は、妊娠成立群で5.1%、非成立群で12.2%でした。内膜調整法は、自然周期(mNC-FET)を用いた割合が妊娠成立群で66.0%、非成立群で58.8%と、妊娠成立群のほうが高くなっていました(p=0.001)。壊死巣(necrotic foci)がない胚の割合(96.4% 対 93.0%、p=0.001)、除去細胞のない胚の割合(87.4% 対 82.3%、p=0.001)、Day 5移植の割合(94.1% 対 88.0%、p=0.001)も、いずれも妊娠成立群で高くなっていました。
予測精度はAUC0.76〜0.78──モデル間の差は大きくなかった
7つの因子に絞った設定での5モデルの性能は、正解率0.702〜0.726、感度0.711〜0.741、特異度0.672〜0.703、適合率0.809〜0.825、F1スコア0.758〜0.779、AUC0.760〜0.778という、比較的狭い範囲に収まりました。もっとも高いAUCを示したのはXGBoost(0.778)で、もっとも低かったのはAdaBoost(0.760)でした。1000回の反復によるブートストラップ解析では、XGBoostとRandom ForestのAUCの間にのみ統計学的な有意差が認められ(p=0.048)、それ以外のモデル間の組み合わせでは有意差はありませんでした。
較正(キャリブレーション、予測確率と実際の発生割合の一致度)の評価では、26項目すべてを用いた設定においてRandom Forest(Brierスコア0.178)とLGBM(0.179)がもっとも良好な較正を示し、7因子に絞った設定ではXGBoost(0.201)が最良でした。ただし、7因子に絞った設定では、各モデルが出力する予測確率が0.4〜0.7という狭い範囲に集中する傾向があり、確率としての識別力がやや低下することも確認されています。この点は、変数を絞り込むことで解釈しやすさを得る一方、予測確率の細かな識別力を犠牲にしうるという、特徴量選択に伴う既知のトレードオフとして論文中で言及されています。
なぜこれらの因子が妊娠に影響するのか──メカニズムの手がかり
前周期数の多さは、反復着床不全(RIF)と呼ばれる状態を反映している可能性があります。RIFの背景には免疫学的要因や子宮の形態異常、内分泌異常など複数の要因が関わるとされ、正倍数性胚を移植してもなお妊娠に至らない周期が積み重なっている場合、胚以外の要因の検討が必要になると指摘されています。AMH濃度は卵巣予備能を反映する指標として知られ、一般に若い年齢と関連します。今回、AMH濃度が高いほど妊娠確率が上昇する方向に働いていたのも、卵巣予備能や母体年齢との関連を反映していると考えられますが、AMH濃度と妊娠転帰の関連についてはこれまでの研究でも一貫した結果が得られておらず、正倍数性胚移植に限定した検討はまだ少ないのが現状です。
内膜厚については、7〜10mm程度が着床に適した範囲とされ、この範囲内で内膜の血流やホルモン応答が良好に保たれると考えられています。薄い内膜は着床不全や早期の妊娠喪失と関連することが、これまでの複数の研究で示されています。内膜調整法をめぐっては、自然周期(mNC-FET)のほうが人工周期(AC-FET)よりも妊娠転帰が良好とする報告が近年相次いでおり、人工周期では黄体が形成されないことによる血管新生の乏しさや脱落膜の発達の違いが理由として挙げられています。ただし、両者に差がないとする報告もあり、内膜調整法の選択は依然として議論が続いている領域です。
母体年齢については、卵子の染色体異常リスクが上がることは知られていますが、正倍数性胚に限定した場合でも年齢の影響が残るかどうかは、これまで研究間で結果が分かれてきました。11,375件の正倍数性胚移植を対象としたメタ解析では、胚の染色体正常性を考慮してもなお母体年齢が高いほど体外受精の成功率が低下することが示されており、今回の結果はこの知見と一致する方向です。
臨床的意味・日本への含意
日本の生殖医療の現場でも、正倍数性胚移植を行っても着床に至らない周期は珍しくなく、反復着床不全(RIF)としてどのように評価・対応するかは、日々の診療で直面する課題のひとつです。今回示された7因子は、いずれも日本の臨床現場で日常的に測定・記録されている項目であり、既存の検査データから患者ごとのリスクをある程度層別化できる可能性を示しています。
特に、前周期数の多さと母体年齢の高さは変更が難しい因子である一方、内膜厚や内膜調整法は周期ごとに調整可能な要素です。内膜厚については本研究でも妊娠成立群のほうが有意に厚い値を示しており、7〜10mm程度を目安とした内膜の状態確認や必要に応じた調整が、正倍数性胚移植であっても着床の可能性に影響しうることを示唆しています。内膜調整法として自然周期を選ぶか人工周期を選ぶかは患者の周期の規則性や施設の運用方針によって異なりますが、今回の結果は自然周期を用いた群で妊娠成立率が高い傾向を裏付けるものであり、個々の患者に応じた調整法の選択を検討する材料のひとつになりうると考えられます。
いずれの因子も、単独で妊娠の成否を決定づけるものではなく、あくまで確率に影響する要因であるという位置づけで理解される必要があります。
研究の強みと限界
本研究の強みは、4300周期という大規模なデータセットを対象に、5種類の機械学習アルゴリズムを用いて一貫した結果を確認した点、また染色体異常のある胚をあらかじめ除外することで、胚のプロイディ(染色体数の状態)による交絡を取り除いたうえで他の因子の影響を検討した点にあります。
一方で、いくつかの限界も述べられています。欠測データ(全体の10%未満)は平均値・最頻値による補完で対応されており、この手法が変数間の関連をやや弱めた可能性があります。また、単一施設での後方視的研究であるため、他施設や他集団への一般化には限界があり、独立したデータセットによる外部検証が必要とされています。さらに、7因子に絞った設定では予測確率の識別力がやや低下する傾向がみられており、論文では、今後の前向き研究において、予測精度(discrimination)だけでなく較正(calibration)も含めた評価を、PROBAST-AI(AIを用いた予測モデルのバイアスリスク評価のための指針)に沿って行う必要があると指摘されています。
おわりに
今回の研究は、正倍数性胚移植という、胚の染色体異常という交絡因子をあらかじめ取り除いた条件のもとでも、前周期数、AMH濃度、内膜厚、融解後の胚の質、母体年齢、凍結保存胚数、内膜調整法という7つの因子が、臨床妊娠の成否に関連することを、複数の機械学習モデルを用いて一貫して示しました。これらの因子に基づくリスク層別化は、今後、個々の患者に応じた体外受精のプロトコル調整や、治療方針の検討に役立つ可能性があります。今後は、外部データセットを用いた検証や、予測確率の較正を含めた前向き研究による確認が期待されます。
参考文献
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