不妊症は、避妊をせずに12か月間性交渉を続けても妊娠に至らない状態と医学的に定義されています。米国では生殖年齢の女性の約12.7%が毎年不妊治療を受けており、世界的にも生殖年齢のカップルの8〜12%が不妊を経験すると推定されています。排卵障害や卵管性の要因に加え、過体重や肥満といった体組成に関わる因子が不妊に関与することも、これまでの研究で繰り返し示されてきました。
肥満の評価にはこれまで体格指数(BMI)が広く用いられ、BMIが1kg/m²上昇するごとに不妊のオッズ比(OR)が1.03(95%信頼区間1.02〜1.05)上昇するとの報告があります。ただしBMIは身長と体重の比率を示すにすぎず、脂肪がどこにどの程度分布しているかは反映しません。腹部への脂肪蓄積は代謝異常や内分泌のバランスの乱れと関連が深く、生殖機能にも影響を及ぼす要素とされています。こうした限界を補う指標として2018年に提案されたのが、腰囲(cm)を体重(kg)の平方根で割って算出する体重調整済みウエスト指数(weight-adjusted waist index、WWI)です。WWIは筋肉量の影響を受けにくく、体脂肪の分布をより的確に反映するとされています。
両者を直接比較した研究はこれまで限られていました。この問いに取り組んだのが、米国の「2015〜2018年 国民健康栄養調査(NHANES)」のデータを用いた横断研究です。Medicine誌(2026年)に掲載されたこの研究では、20〜50歳の女性2393人を対象に、WWIとBMIそれぞれと不妊との関連が検討されました(doi:10.1097/MD.0000000000050059)。
方法──NHANESの女性2393人を、体組成の指標で分析
NHANES 2015〜2018年の調査対象19,225人から、男性(9449人)、WWIのデータが欠測している人(1699人)、不妊に関する質問票が未回答の人(4708人)、20〜50歳の範囲外の人(976人)が除外され、最終的に2393人の女性が解析対象となりました。不妊の有無は、生殖健康に関する質問票(RHQ074)の「少なくとも1年間、妊娠を試みても妊娠しなかったことがありますか」という質問への回答をもとに判定され、「はい」と回答した場合が不妊と分類されました。
WWIは腰囲(cm)を体重(kg)の平方根で割って算出され、BMIとともに曝露変数として扱われました。解析には年齢や人種、教育歴、喫煙状況、婚姻状況、初経年齢、骨盤内感染症の既往など複数の共変量が組み込まれ、多変量ロジスティック回帰分析は、調整なしのモデル1、年齢と人種のみ調整したモデル2、全共変量を調整したモデル3の3段階で構築されました。加えて、四分位ごとの用量反応関係、サブグループ解析と交互作用の検定、平滑化曲線による非線形関係の検討、ROC曲線による不妊予測能の評価もあわせて行われました。
「10人に1人」が不妊の基準に該当
解析対象となった2393人のうち、251人(10.49%)が不妊と判定されました。参加者の平均年齢は35.06±8.82歳、WWIの平均値は11.03±0.82、BMIの平均値は30.12±8.29と、集団全体としては肥満域に近い値でした。
最も低い第1四分位(Q1、WWI10.43未満)に比べ、WWIが高いグループほど年齢とBMIが高く、メキシコ系アメリカ人や喫煙者の割合が高く、家族の貧困所得比や教育歴は低い傾向にありました。不妊の割合も、WWIが高い第3・第4四分位群でより高く観察されました。
体重で調整した「腰の指数」ほど強い関連
WWIと不妊の関連は、調整の程度によらず一貫して認められました。共変量を一切調整しないモデル1では、WWIが1上昇するごとに不妊のオッズが1.61倍(95%CI 1.39〜1.85)に上昇していました。年齢・人種に加えて教育歴や喫煙状況など9項目を調整した完全調整モデル(モデル3)でもOR=1.61(95%CI 1.34〜1.95)と、有意な関連が維持されました。つまり、他の要因の影響を取り除いても、WWIが1単位高くなるごとに不妊のオッズはおよそ61%上昇するという結果です。四分位で比較すると、WWIが最も高い第4四分位群(Q4)は、最も低い第1四分位群(Q1)に比べて、完全調整モデルで不妊のオッズが3.63倍(95%CI 1.96〜6.73)でした(傾向性のP=0.0003)。
BMIとの比較──127%のリスク上昇、そしてWWIとの差
BMIについても同様に有意な関連が認められました。BMIが1kg/m²上昇するごとの不妊オッズは、完全調整モデルでOR=1.04(95%CI 1.02〜1.06)でした。四分位で見ると、最も高い第4四分位群(Q4、34.8以上)は最も低い第1四分位群(Q1、23.5未満)に比べて、不妊のオッズが2.27倍(95%CI 1.29〜4.01)、率にして127%高いという結果でした(傾向性のP=0.0045)。
ただしBMIとWWIを直接比較すると、1単位あたりのオッズ比の大きさはWWIのほうが際立っていました(WWI OR=1.61 対 BMI OR=1.04)。不妊を予測する能力についても、ROC曲線下面積(AUC)はWWIが0.581、BMIが0.574となり、いずれも判別力としては控えめながら、WWIがわずかに上回る結果でした。
「痩せすぎ」も「太りすぎ」もリスクに──BMI19.8を境に変わる関連の向き
平滑化曲線による解析では、WWIと不妊の関連はほぼ直線的で、WWIが高くなるほどリスクが単調に上昇する形を示しました。一方でBMIとの関連は非線形で、低い範囲ではリスクの上昇はわずかにとどまり、ある値を超えると急激にリスクが高まる2段階のパターンが見られました。
閾値効果分析では、調整後のモデルで変曲点(BMI 19.8kg/m²)が特定されました。この値を下回る範囲では、BMIが高くなるほど不妊のオッズはむしろ低下し(OR=0.71、95%CI 0.52〜0.98)、上回る範囲では逆にオッズが上昇する(OR=1.03、95%CI 1.01〜1.05)という、方向の異なる2つの関連が確認されました。痩せすぎと太りすぎのいずれもが女性の生殖機能に不利に働きうることを示唆する所見で、複数の先行研究とも一致します。
どの集団でも成り立つのか──年齢・人種・学歴で見えた違い
年齢、人種、教育歴、婚姻状況、喫煙状況、初経年齢、月経の規則性、骨盤内感染症の既往、経口避妊薬の使用歴を軸にサブグループ解析と交互作用の検定が行われました。WWIと不妊の関連は、年齢(35歳未満でOR=2.13、35歳以上でOR=1.32、交互作用P=0.0016)、人種(交互作用P=0.0087)、教育歴(交互作用P=0.0466)で強さに統計学的に有意な差が見られた一方、それ以外の因子では有意な交互作用は認められませんでした。
これに対してBMIと不妊の関連は、検討したすべてのサブグループで一貫しており、有意な交互作用を示す因子はありませんでした。WWIのほうが集団による関連の強さの違いが大きい一方、BMIはより「均一」に作用する指標であるとも解釈できます。
何が起きているのか──肥満と不妊を結ぶ生物学的な経路
今回の研究は横断的な観察データに基づくため、因果関係を直接証明するものではありません。ただし肥満や過剰な脂肪組織は、子宮内膜の遺伝子発現や免疫寛容に変化をもたらし卵子の質や着床のしやすさに関わるほか、インスリン抵抗性と代償性の高インスリン血症を通じて卵巣での性腺刺激ホルモンのシグナル伝達を妨げ、アンドロゲン合成を過剰に高めるなど、複数の経路で生殖機能に影響しうると考えられています。脂肪組織自体も活発な内分泌器官であり、レプチンやアディポネクチンの分泌異常がホルモン環境を乱し着床受容性を低下させる可能性、肥満の女性に多い多嚢胞性卵巣症候群や月経不順、慢性炎症・酸化ストレスの上昇も指摘されています。さらに、不妊であること自体が心理社会的な負担となり体重増加を招く悪循環が生じる可能性も議論されています。
日本の臨床現場への示唆
日本では生殖年齢女性の肥満の頻度は米国など欧米諸国に比べて低いとされていますが、腹部への脂肪蓄積を反映する指標が体格指数だけでは捉えきれないリスクを可視化しうる点は、日本の臨床現場にとっても示唆に富みます。ウエスト周囲径と体重から簡便に算出できるWWIは特別な検査機器を必要とせず、不妊治療や体重に関する相談を受ける診察の場で、BMIに加えて評価しやすい指標です。
ただし今回の結果は、あくまで体重管理と不妊リスクの「関連」を示したものであり、体重を減らせば不妊が改善するという因果関係を証明したものではありません。センシティブな話題であるだけに、体重や体形を理由に患者を責めるような説明は避け、確率としてのリスクであって運命ではないという前提を踏まえた対話が求められます。体重管理を含む介入が実際に妊娠率を改善するかどうかは、今後の前向き研究や介入試験による検証が必要とされています。
研究の強みと限界
この研究にはいくつかの限界があります。横断研究であるため因果関係は証明できず、多数の共変量を調整してはいるものの、生活習慣や心理的要因、遺伝的な疾患など測定されていない交絡因子の影響は排除できません。データベースの制約による変数の不足や、自己申告に基づく判定に伴う情報バイアス・選択バイアスの可能性も残ります。一方で、全米を代表する大規模データを用い、多くの交絡因子を調整し、複数のサブグループで一貫性を検証していること、そして従来のBMIと新しいWWIを直接比較し相対的な有用性を示したことは、この研究の強みといえます。
おわりに
今回の研究は、WWIとBMIのいずれもが女性の不妊のオッズと正の関連を示すことを明らかにしました。WWIはBMIに比べてオッズ比が大きく、AUCもわずかに上回っており、腹部の脂肪分布を反映する指標としての価値が示唆されています。ただし両指標のAUCはいずれも0.6を下回り、単独で不妊を診断できる精度ではない点には注意が必要です。今後は、より精度の高い予測モデルの開発と、体重管理を目的とした介入の効果について、前向きな介入試験による検証が待たれます。
参考文献
1. Zhang S, Liao B, Zhou Y, He Y, Cao J, Huang X.『Relationship of weight-adjusted waist index and body mass index with infertility: A NHANES 2015 to 2018 cross-sectional study』Medicine 2026;105(32):e50059. doi:10.1097/MD.0000000000050059
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3. Broughton DE, Moley KH.『Obesity and female infertility: potential mediators of obesity’s impact』Fertil Steril 2017;107(4):840–7.
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