卵子凍結は、女性の妊孕性を保存する標準的な技術として広く用いられ、近年は着床前遺伝学的検査(PGT-A)の文脈でも重要性を増しています。加齢や卵巣予備能低下がある女性では、複数回の採卵で卵子を凍結・蓄積し、検査にまわせる胚の数を増やす「卵子蓄積」という戦略が使われることがあります。一方、凍結・融解が染色体分配を担う紡錘体に与える影響は以前から懸念され、その形態の一時的な変化も報告されてきましたが、これが実際にヒト胚の染色体異常パターンをどう変えるのかは、染色体単位ではあまり検討されてきませんでした。2026年、Reproductive Biomedicine Online誌に掲載された観察研究が、122人の高年齢患者から得た新鮮卵子と凍結融解卵子を同一個人内で比較し、この問いに答えを示しました(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105841)。
方法――同じ女性から採った「新鮮」と「凍結」の卵子を比べた
対象は2019〜2022年にイタリアの民間クリニックでIVF・PGT-Aを受けた高年齢女性122人(平均39.7±2.7歳)。組み入れ基準は採卵時年齢35歳以上、AMH1.5ng/mL以下など、染色体異常リスクが高い集団です。研究の核は「卵子蓄積」で、1回目の採卵で得た卵子を凍結保存し、2回目の採卵で得た新鮮卵子とともに、融解した凍結卵子を同時に授精させます。同一患者から新鮮・凍結融解両方の胚が得られるため、個人差の影響を抑えて比較できます。441個の新鮮卵子と343個の凍結融解卵子が授精に用いられ、新鮮由来184個、凍結融解由来80個の胚盤胞に生検が行われ、次世代シーケンシングで全染色体が解析されました。
染色体異常の「頻度」は、凍結でも変わらなかった
検出された異数性胚は163個(新鮮114個、凍結融解49個)。分節性異数性を除外した152個(新鮮107個、凍結融解45個)を解析した結果、胚盤胞あたりの整倍体率は新鮮38.0%(70/184)、凍結融解38.8%(31/80)とほぼ同じで有意差はなく(P=0.91)、染色体ごとの異数性の分布パターンにも有意な違いはみられませんでした(P=0.58)。トリソミー・モノソミーの内訳比率も両群で同様でした。
「お決まりの染色体」――加齢パターンも凍結の影響を受けない
加齢に伴う異数性で知られる16・22・21・15・18・13番の6本は、両群とも年齢が上がるほど頻度が高くなる、よく似た年齢依存パターンを示しました。加齢との関連が知られていない19番も両群で高頻度にみられた点は興味深い所見です。38歳以上と未満を比較したオッズ比解析でも、両群で年齢が高いほどオッズ比が上昇する傾向が一致し、信頼区間も重なっていました。異数性を単純型・多発型・複雑型に分類した解析でも、複雑型が加齢とともに増える傾向は新鮮群(P=0.14)・凍結融解群(P=0.16)で共通し、群間差はありませんでした。
「もうひとつの数字」――卵子1個から、いくつ授かるか
染色体異常のパターンに差がなかった一方、授精した成熟卵子(MII)1個あたり何個の整倍体胚盤胞が得られるかという「卵子の底力(oocyte resilience)」の指標には明確な違いが現れました。この数値は新鮮群0.15±0.23個、凍結融解群0.08±0.19個となり、新鮮群が有意に高いことが示されました(P=0.004)。染色体異常の起こりやすさは変わらないのに、最終的に移植可能な胚にたどり着く確率は、凍結卵子ではおよそ半分程度にまで低下していたことになります。
差が最も開くのは「40代前半」
年齢層別では、39歳未満は新鮮群0.19±0.26個対凍結融解群0.14±0.24個(P=0.14)、40〜42歳は0.15±0.23個対0.05±0.13個(P=0.008、有意差あり)、43歳以上は0.01±0.05個対0個(P=1、両群とも極めて低い)という結果でした。少なくとも1個の整倍体胚盤胞を得られた患者の割合も同様の傾向で、39歳未満48.1%対31.5%、40〜42歳40.0%対15.6%、43歳以上4.3%対0%。差がもっとも顕著だったのは40〜42歳という、妊孕性温存や卵子蓄積を検討する層と重なる年齢帯でした。
臨床的意味・日本への含意
日本でも、加齢に伴う不妊への対応として卵子凍結や卵子蓄積が徐々に広がりつつあります。今回の結果は二つを示唆します。ひとつは、凍結・融解そのものが染色体異常を新たに生み出すわけではないという点。染色体異常の多くは受精前、卵子成熟の過程(減数分裂)ですでに決まっており、主な原因は加齢であって、凍結保存の有無がその質を大きく左右するわけではないと考えられます。もうひとつは、凍結卵子は染色体の質を保っていても、胚盤胞まで発育しきる力はやや弱い可能性がある点です。背景には細胞質の成熟度やミトコンドリア機能などが関わっている可能性が指摘されています。臨床現場では、「染色体異常のリスクは上がらないが、使える胚の数はやや少なくなり得る」という前提をカウンセリングに反映させ、とくに40代前半で凍結を検討する患者には、より多くの卵子を確保する計画をあらかじめ説明しておくことが望ましいと考えられます。
研究の強みと限界
強みは、同一患者内で新鮮卵子と凍結融解卵子を直接比較し、個人差の影響を抑えたうえで染色体レベルと年齢層別の解析を組み合わせた点です。限界としては、観察研究であり対象数は患者122人・異数性胚152個と限られること、胚発生を追跡するタイムラプスモニタリングがないこと、胚盤胞に到達する前に発育停止した胚の染色体解析や受精後由来のモザイク型異数性が対象外であることが挙げられます。したがって、胚盤胞に到達しなかった胚でごくわずかな染色体不安定性が生じていた可能性までは否定できません。
おわりに
今回の研究は、卵子凍結が高年齢患者の染色体特異的な異数性パターンを大きく変えるものではないことを、詳細な染色体レベルの解析によって示しました。一方で、凍結された卵子は染色体の質を保ちながらも、胚盤胞まで到達する発生能においてはやや劣る傾向があることも明らかになっています。この知見は、PGT-Aの結果を解釈する際や、高年齢患者に妊孕性温存・卵子蓄積を提案する際のカウンセリングに、新たな枠組みを提供するものといえます。今後は、より大規模な集団やタイムラプスモニタリングを組み込んだ研究による、発生能低下の背景メカニズムのさらなる解明が期待されます。
参考文献
1. Canosa S, Ottolini CS, Capalbo A, Coticchio G, Cimadomo D, Revelli A, Gennarelli G, Bongioanni F, Rienzi L.『Impact of oocyte vitrification on chromosome-specific aneuploidy patterns and oocyte resilience in advanced maternal age patients』Reproductive Biomedicine Online 2026;53(4):105841. doi:10.1016/j.rbmo.2026.105841
2. Canosa S, Cimadomo D, Maggiulli R, Revelli A, Gennarelli G, Ottolini CS, Capalbo A, Bongioanni F, Rienzi L, Coticchio G.『Oocyte vitrification reduces blastocyst yield but preserves reproductive competence in advanced maternal age patients undergoing oocyte accumulation with PGT-A』Reproductive Biomedicine Online 2026;53(1):105503. doi:10.1016/j.rbmo.2026.105503
3. Tsai S, Johal J, Malmsten J, Spandorfer S.『Embryo ploidy in vitrified versus fresh oocytes: Is there a difference?』Journal of Assisted Reproduction and Genetics 2023;40(10):2419-2425.
