体外受精をはじめとする生殖補助医療(ART)によって生まれた子どもでは、先天異常のリスクがわずかに高いとする報告が複数示されてきました。しかし、その多くは治療によって妊娠した児と自然妊娠(unassisted conception)による児を比較したものであり、治療そのものの影響と、治療を必要とした背景にある不妊自体の影響とを明確に切り分けられていませんでした。この構造は「適応による交絡(confounding by indication)」と呼ばれ、生殖補助医療の安全性評価における長年の課題とされてきました。
不妊は、避妊をせずに規則的な性交渉を12か月続けても妊娠に至らない状態と定義されます。ただし、不妊と診断された女性のすべてが治療を受けるわけではなく、一部は治療を経ずに妊娠に至ります。近年の研究では、こうした女性から生まれた児でも先天異常のリスクがわずかに高い可能性が示唆されてきましたが、対象を先天異常全体に限定した報告が多く、臓器別・疾患別の詳細な検討は十分ではありませんでした。
こうした背景のもと、カナダ・オンタリオ州の医療データを用いた大規模コホート研究が、Paediatric and Perinatal Epidemiology誌(2026年、DOI:10.1111/ppe.70184)に発表されました。2006年から2021年までの141万件超の出生を対象に、不妊治療を受けなかった不妊女性から生まれた児と自然妊娠による児とで、先天異常全体・臓器系統別・特定疾患別のリスクを比較しています。
方法──141万件の出生を、不妊治療の有無で仕分けた
オンタリオ州の医療行政データ(BORN:Better Outcomes Registry & Network。州内出生の99%を捕捉する周産期登録)を用い、2006年4月から2021年3月までに、15〜50歳の女性から生まれた妊娠20週以降の生産児・死産児、計141万5324件が対象とされました。生殖補助医療によって妊娠した児と、代理出産による児は除外されています。妊娠前のオンタリオ州医療保険(OHIP)加入期間が5年未満の母子ペアも、不妊診断の把握不足を避けるため除外されました。曝露は、①自然妊娠と、②不妊治療を受けていない不妊(妊娠前2年以内に医師への不妊相談歴が1回以上あり、かつBORNの分娩記録に不妊治療の記載がない場合)の2群に分類されています。先天異常は、カナダ保健情報研究所の新生児退院要約データベースからICD-10コードで同定し、Metropolitan Atlanta Congenital Defects Programの分類に基づき、①先天異常全体、②臓器系統別異常、③特定疾患、の3段階で評価されました。解析には修正ポアソン回帰が用いられ、母体年齢、所得五分位、居住地域(都市・地方)、既存の糖尿病・慢性高血圧・肥満、妊娠中の喫煙・飲酒・薬物使用で調整した相対危険度(RR)が算出されています。
5.3%から5.9%へ──治療なしでも見えた小さな差
対象となった141万5324件のうち、118万5299件(83.7%)が自然妊娠、23万25件(16.3%)が不妊治療を受けていない不妊による妊娠でした。不妊群は自然妊娠群と比べ、母体年齢が高く(平均33.9歳 対 30.0歳)、高所得者・都市部居住が多く、既存の糖尿病・慢性高血圧を持つ割合が高い一方、妊娠中の喫煙・飲酒・薬物使用は少ない傾向がみられました。
先天異常の頻度は、自然妊娠群で5.3%(5.27%)、不妊群で5.9%(5.87%)でした。先天異常全体のリスクは不妊群でわずかに高く、調整後相対危険度はRR 1.12(95%信頼区間[CI] 1.09〜1.14)でした。これは、不妊群で先天異常が12%多いことを意味します。絶対的な差としては、調整後のリスク差は出生1000件あたり6.06件(95% CI 4.96〜7.14)であり、実数としては小さな差にとどまっています。
心臓、目、耳──臓器別に見えたリスク上昇
臓器系統別にみると、心血管系、中枢神経系、目、耳・顔・頸部、消化器系、泌尿生殖器系、筋骨格系、腫瘍性病変など、複数の系統で小さなリスク上昇が観察されました。相対危険度が最も高かったのは目の異常で、頻度は自然妊娠群0.11%に対し不妊群0.14%、RR 1.22(95% CI 1.03〜1.45)でした。次いで耳・顔・頸部の異常が、0.06%から0.08%への上昇、RR 1.19(95% CI 1.05〜1.35)を示しました。心血管系全体では1.02%から1.23%への上昇、RR 1.17(95% CI 1.12〜1.22)、泌尿器系では0.49%から0.58%、RR 1.12(95% CI 1.06〜1.19)という結果でした。いずれも頻度自体は1%台以下にとどまり、絶対的な発生数としては限定的です。
特定疾患で最もリスクが高かったのは「陰茎の奇形」
個別疾患では、心房中隔異常、心室中隔異常、肺動脈狭窄、口蓋裂(詳細不明)、舌小帯短縮症、頭蓋骨早期癒合症、斜頭症、腎臓の奇形、停留精巣、陰茎の奇形、尿道下裂(詳細不明)、鼠径ヘルニアなど、幅広い疾患で小さな上昇がみられました。相対危険度が最も高かったのは「その他の陰茎奇形」で、頻度は0.03%から0.04%への上昇、RR 1.41(95% CI 1.09〜1.83)でした。肺動脈狭窄はRR 1.33(95% CI 1.14〜1.55)、鼠径ヘルニアはRR 1.29(95% CI 1.08〜1.53)、斜頭症はRR 1.28(95% CI 1.03〜1.60)と続きました。一方、ファロー四徴症(RR 1.17、95% CI 0.96〜1.43)や口蓋裂と口唇裂の合併(RR 0.93、95% CI 0.76〜1.15)など、有意差が認められなかった疾患も少なくありません。
感度分析とE値──交絡因子だけでは説明しきれない
多胎妊娠は先天異常のリスクを高めることが知られています。今回のコホートでは多胎の割合が自然妊娠群1.0%に対し不妊群2.3%と高く、単胎に限定した感度分析も実施されました。結果、口蓋裂(詳細不明)と斜頭症を除き関連はおおむね維持され、妊娠中の喫煙・飲酒の変数を除外した解析でも結果は大きく変わりませんでした。
さらに、測定されていない交絡因子(人種など)の影響を評価するE値解析が行われ、観察された関連を完全に説明するには、未測定の交絡因子が曝露とアウトカムの双方に対して1.37(下限95% CI 1.21)から2.79(下限95% CI 1.99)以上の関連を持つ必要があると推定されました。想定されるメカニズムの一つとして、子宮内膜の受容能の変化や妊娠初期の胎盤機能不全が、栄養交換や胎児の器官形成に影響している可能性が挙げられています。
日本では、不妊治療の安全性評価に「不妊そのもの」を切り分ける視点が求められる
日本では、生殖補助医療によって生まれる子どもの割合が世界的にみても高い水準にあります。生殖補助医療の安全性を検討する研究の多くは、これまで治療によって妊娠した児と自然妊娠による児を比較する設計が中心で、治療の影響と、治療を必要とした不妊そのものの影響とが混在しやすいという課題を抱えてきました。今回の知見は、不妊治療を受けていない不妊女性の児でも先天異常のリスクがわずかに高いことを示しており、生殖補助医療の安全性を評価する際には、自然妊娠だけでなく「治療を受けていない不妊」を比較対照群に含める設計が、より公平な評価につながる可能性を示しています。診察の場では、不妊治療を検討する患者に対し、先天異常のリスクは治療そのものだけでなく不妊という背景要因によっても一定程度左右されうることを、あくまで確率としての小さな増加であることを添えて説明する材料になり得ます。
研究の強みと限界
この研究の強みは、大規模かつpopulation-basedな設計に加え、「不妊治療を受けていない不妊」という比較対照群を設定した点にあります。これにより、生殖補助医療の児のアウトカムを評価する研究で長年の課題とされてきた適応による交絡を緩和できています。
一方で、限界も複数指摘されています。妊娠20週未満で終了した妊娠はBORNに記録されないため、先天異常を理由とした自然流産や人工妊娠中絶が不妊群で多く起きていた場合、真の関連が過小評価されている可能性があります。また、行政データでは妊娠を試みた期間を把握できないため、12か月間の不妊という臨床的定義をそのまま適用できず、医師への相談歴という代替指標が用いられており、曝露の誤分類につながる可能性は否定できません。さらに、医療保険の加入期間による除外基準が選択バイアスを生んでいる可能性、人種や父方の要因など測定されていない交絡因子による残余交絡の可能性も残ります。
おわりに
今回のpopulation-basedコホート研究は、生殖補助医療を受けていない不妊女性から生まれた児においても、先天異常全体、複数の臓器系統、特定の疾患で、小さなリスク上昇が観察されることを示しました。上昇したリスクの絶対値は小さく、出生1000件あたり6件程度の差にとどまっており、不妊であることが先天異常を運命づけるものではなく、あくまで確率としてわずかに高まる要因の一つであることを裏づけています。研究チームは、多嚢胞性卵巣症候群や子宮内膜症、男性因子不妊など、不妊の原因ごとの詳細な検討が今後の課題であるとしています。生殖補助医療の安全性を評価する研究デザインにおいて、不妊そのものの影響を切り分ける比較対照群の重要性は、今後さらに議論が深まっていくとみられます。
参考文献
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