生検なしで、胚の染色体はわかるのか──使用済み培養液が示した新しい可能性

着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は、染色体数の異常がない胚を選んで移植することで、流産率の低下や治療効率の向上につながる可能性があるとされています。しかし従来のPGT-Aは、胚盤胞の一部の細胞(トロフェクトダーム、TE)を切り取って調べるトロフェクトダーム生検を必要とし、胚の発生能力やその後の妊娠転帰への影響が指摘されてきました。トロフェクトダームは単なる採取対象ではなく、着床や胎盤の形成に関わる重要な細胞群であることが、この懸念を後押ししています。

こうした侵襲性の問題を避ける方法として、胚を培養した後の培養液(使用済み培養液、SCM)に漏れ出す細胞外DNA(cfDNA)を解析する、非侵襲的な染色体スクリーニング(niPGT-A)が注目されています。2016年に報告された先駆的な研究では、胚を生検しなくても染色体評価が可能になりうることが示されましたが、SCM中のcfDNAは量・質ともに限られ、診断精度にばらつきが残ってきました。近年は、NGSのライブラリ調製後に測定される「ライブラリ濃度」が、niPGT-Aの成績を左右する指標になりうることも示唆されています。

Reproductive Medicine and Biology誌2026年号(25:e70085、DOI:10.1002/rmb2.70085)に掲載された研究は、凍結融解した胚盤胞を8時間培養した後に採取したSCMを用いたniPGT-Aの実行可能性を検証するとともに、ライブラリ濃度を組み合わせることでSCMの判定精度が向上するかどうかを調べました。

方法──廃棄予定の胚盤胞26個を、3通りの方法で調べた

対象は、生殖補助医療を終えた患者のうち廃棄予定となった凍結融解胚盤胞26個(17人の患者由来、年齢中央値32歳、四分位範囲31〜37歳)です。融解した胚盤胞を8時間培養したのち、漏出した胞胚腔液を含むSCMを採取し、続いてトロフェクトダーム生検、さらに残った胚盤胞全体(WB)も回収しました。同一の胚から得たSCM・TE生検・WBの3種類をすべてNGSで解析し、互いの結果を比較しています。

染色体の判定は、PGDISガイドラインに基づき、正常(カテゴリーA、異常細胞20%未満)、モザイクないしモザイク疑い(カテゴリーB、20〜79%)、異数性(カテゴリーC、80%以上)、判定不能(カテゴリーD)の4群に分類しました。一致率は、WBと完全に一致するかを見る「染色体レベル」と、4分類のいずれかが一致するかを見る「カテゴリーレベル」の2段階で評価しています。ライブラリ調製後のDNA濃度はQubitで定量し、ROC解析によるAUCの比較、探索的な決定木分析、リーブワンアウト交差検証も行われました。

SCMは9割超で判定可能、しかし染色体レベルの一致率はTEに届かず

26個すべての胚でSCM、TE、WBの検体が解析されました。判定可能率は、SCMが92.3%(24/26)であったのに対し、TEとWBはいずれも100.0%(26/26)でした。WBとの染色体レベルの一致率は、SCMが30.8%(8/26)、TEが57.7%(15/26)で、TEのほうが有意に高い結果でした(McNemar検定、p=0.0348)。一方、カテゴリーレベルの一致率は、SCMが69.2%(18/26)、TEが76.9%(20/26)となり、両者に有意差は見られませんでした(p=0.5271)。厳密な染色体単位の一致ではTEに及ばないものの、正常・モザイク・異数性という大まかな分類での一致率は、SCMもTEに近い水準まで迫っていたことになります。

WBで検出された23件の染色体異常のうち、SCMで検出できたのは11件にとどまり、検出率は47.8%でした。SCMとWBのカテゴリー判定が食い違った8例のうち、3例は実際より軽い方向への判定(過小評価)、2例は過大評価、3例はSCMが判定不能でした。過小評価の1例は、WBでモザイクと判定された胚がSCMでは正常と判定されており、臨床的にはより注意を要する食い違いといえます。

ライブラリ濃度が高い胚ほど、異数性のリスクが高い

SCMとWBのカテゴリー判定が一致した胚は、一致しなかった胚に比べてライブラリ濃度が有意に高いことがわかりました(中央値[四分位範囲]、8.45[3.0〜13.5]対2.1[0.4〜4.7]ng/μL、p=0.0098)。さらに、WBで正常(カテゴリーA)と判定された胚は、モザイクないし異数性(カテゴリーB/C)の胚に比べてライブラリ濃度が有意に低いことも示されました(2.3[1.1〜10.5]対6.7[4.1〜13.9]ng/μL、p=0.0402)。感覚的に言えば、ライブラリ濃度が低めの胚ほど正常である可能性が高く、高めの胚ほど染色体異常を伴っている可能性が高いという関係です。

なお、SCMが判定不能(カテゴリーD)となった胚のうち2個は、WB解析では正常胚でした。判定不能という結果は「異数性の代わりのサイン」ではなく、解析上の情報不足として扱うべきであると論文は指摘しています。従来の胚盤胞形態評価との間には統計学的に有意な関連はありませんでしたが、形態の良い胚ほどライブラリ濃度が低くなる傾向が示唆されました(片側p=0.062)。

SCM判定+ライブラリ濃度で、AUCは0.81から0.95へ

SCMのカテゴリー判定とライブラリ濃度を組み合わせた探索的な決定木分析では、全体の正常胚率50.0%に対し、SCMが正常/判定不能(A/D)に分類された群は91.7%、モザイク/異数性(B/C)に分類された群は14.3%と大きな差が見られました。さらにA/D群の中でも、ライブラリ濃度が4.9ng/μL未満の胚はすべて正常(100.0%)であったのに対し、4.9ng/μL以上では正常胚率が80.0%(4/5)にとどまりました。SCMでカテゴリーBと判定された胚では、正常胚は33.3%(2/6)にすぎませんでした。

ROC解析では、SCMのカテゴリー判定単独よりも、ライブラリ濃度を加えたモデルのほうが有意に高い判別性能を示しました(AUC 0.9527対0.8077、p=0.0158)。過学習の影響を確認するリーブワンアウト交差検証でも、26個中23個(88.5%)を正しく分類し、感度84.6%、特異度92.3%、交差検証後のAUCは0.896と良好な性能が保たれていました。誤分類の3例のうち2例は偽陰性で、いずれもSCMでカテゴリーBと判定された胚でした。

臨床現場への含意

日本では、PGT-Aを実施しないまま胚盤胞を凍結し、治療の経過の中で後になって染色体評価の必要性が生じる場面が想定されます。今回の方法は融解後わずか8時間の培養だけで実施でき、追加の生検を要さないため、そうした状況での運用に組み込みやすい特徴があります。染色体レベルの一致率が限定的であることを踏まえると、SCM単独の結果を確定的な染色体診断とすることは避け、正常胚である可能性が高い胚を絞り込むための補助的な情報として位置づけることが妥当と考えられます。

臨床現場では、特にカテゴリーB(モザイク疑い)の解釈に注意が必要です。SCMでカテゴリーBと判定された結果は、真の胚モザイシズムを反映している場合もあれば、DNA量の少なさや増幅時のノイズに由来する場合もあり、生検に基づく確定的なモザイク診断と同列に扱うことは適切ではありません。また、正常であるべき胚がSCMでは軽度に見誤られる「過小評価」は、染色体異常を伴う胚を誤って優先移植してしまうリスクにつながるため、過大評価よりも臨床的な影響が大きい可能性がある点にも留意が必要です。

研究の強みと限界

この研究の強みは、SCMのカテゴリー判定とライブラリ濃度という技術的指標を組み合わせた評価がこれまで直接的には検証されていなかった点、そして融解後わずか8時間の培養のみで実施可能という点にあります。

一方で、対象は17人の患者に由来する胚盤胞26個にとどまり、サンプルサイズは小さいものでした。決定木モデルは同じ小規模な探索的データセットで構築と内部検証の両方が行われており、ライブラリ濃度4.9ng/μLというカットオフ値は確立された臨床的閾値ではなく、独立したコホートでの外部検証が今後の課題です。また、比較基準としたWB解析も、トロフェクトダーム由来のDNAの影響を強く受けている可能性があり、完全な標準とは言えず、現時点で得られる最良の参照基準として位置づけられています。なお、本研究はOVUS株式会社から研究費・試薬・解析支援の提供を受けており、著者の1人は同社の学術アドバイザーを務めていることが利益相反として開示されています。

おわりに

凍結融解胚盤胞を8時間培養して得られたSCMを用いたniPGT-Aは、実行可能であることが示されました。染色体レベルの一致率は限定的である一方、カテゴリーレベルの一致率はトロフェクトダーム生検に近い水準に達し、ライブラリ濃度を組み合わせることで正常胚である可能性が高い胚の識別精度が向上することが示されています。この知見は、PGT-Aを行わずに凍結された胚を後から遺伝学的に再評価する場面で実用的な情報を提供しうる可能性を示すものですが、サンプルサイズが限られた探索的な結果であり、より大規模で独立したコホートによる検証が今後の課題として残されています。

参考文献

1. Oikawa S, Kobayashi T, Kishida T, et al.『Library Concentration After Whole Genome Amplification Improves Interpretation of Spent Culture Medium-Based Noninvasive PGT-A in Vitrified-Warmed Human Blastocysts』Reproductive Medicine and Biology 2026;25:e70085. doi:10.1002/rmb2.70085

2. Xu J, Fang R, Chen L, et al.『Noninvasive Chromosome Screening of Human Embryos by Genome Sequencing of Embryo Culture Medium for In Vitro Fertilization』Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2016;113(42):11907-11912.

3. Huang J, Yao Y, Jia J, et al.『Library Concentration of Cell-Free DNA in Spent Culture Medium: A Potential Indicator for Clinical Outcomes of Blastocyst Transfer』Reproductive Biomedicine Online 2025;51(2):104752.

4. Takeuchi H, Morishita M, Uemura M, et al.『Conditions for Improved Accuracy of Noninvasive Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy: Focusing on the Zona Pellucida and Early Blastocysts』Reproductive Medicine and Biology 2024;23(1):e12604.

5. Ardestani G, Banti M, Garcia-Pascual CM, et al.『Culture Time to Optimize Embryo Cell-Free DNA Analysis for Frozen-Thawed Blastocysts Undergoing Noninvasive Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy』Fertility and Sterility 2024;122(3):465-473.

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