AI胚評価は従来法に匹敵する──しかし、染色体異常は見抜けない

体外受精における胚選択は、各周期で得られた複数の胚盤胞の中から、出生に至る可能性が最も高い1個を選ぶ試みです。染色体が正常な状態(正倍数体)であることは着床のしやすさを左右する最も強い予測因子とされ、正倍数性が確認された胚盤胞を移植した場合、着床前遺伝学的検査(PGT-A)を行わずに移植した場合と比べて生児獲得率が高く、流産率も低いことが複数の報告で示されています。しかしPGT-Aには栄養外胚葉の生検という侵襲的な手技と専門設備が必要で、労力とコストが増えるため、米国生殖医学会(ASRM)と米国生殖補助医療技術学会(SART)の合同委員会は、一般集団への一律導入の利益は不確実だと指摘しています。

そのため非侵襲的な胚選択は従来、固定された時点での形態評価に頼ってきましたが、この方法は評価者間・評価者内でのばらつきが大きいという限界を抱えています。タイムラプス技術の登場により胚の発生過程を連続的に観察できるようになり、近年はAIを組み込んで形態動態の自動アノテーションやスコアリングを行うツールが普及しつつあります。ただし、多くのAIモデルは移植優先順位の効率化を目的に開発されたものであり、「AIがPGT-Aの代替として染色体異常を予測できる」という理解は、現時点のエビデンスでは支持されていません。きょうだい胚(同一周期で得られた複数の胚)の中で、AIが実際に正倍数体を優先的に選び出せるかどうかを直接検証した研究は、これまで数少なかったのが実情です。

この点を検証したのが、Fertility and Sterility誌(2026年)に掲載された研究です(DOI: https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2026.07.025)。3個以上のきょうだい胚盤胞のうち少なくとも1個が正倍数体、少なくとも1個が異数体であった279周期を対象に、従来の形態評価、形態動態評価、2種類のAIモデル、ランダム推測という5通りの方法で、それぞれが正倍数体をどれだけ正確に「1位」に選び出せるかを比較しています。

方法──786周期から279周期を絞り込んで比較

2013年から2020年にかけて、イタリア・ローマの生殖医療施設で実施された786件のPGT-A周期(タイムラプスインキュベーターでの培養を経て胚盤胞が得られた周期)を対象に、生検された胚盤胞が3個未満の423周期と、全ての胚が正倍数体または全て異数体だった84周期を除外しました。残る279周期(胚盤胞1,260個)が解析対象です。各胚盤胞は、2名の胚培養士がPGT-A結果を伏せた状態で独立して評価し、結果が食い違った場合は3人目が判定しました。評価方法は、①Gardnerスコアによる静的形態評価(内細胞塊・栄養外胚葉の組み合わせで1点[AA]から9点[CC]まで採点)、②Gardnerスコアに拡張胚盤胞到達時刻(tEB)と到達時の面積という形態動態パラメータを加えた評価、③AIモデルversion-1、④AIモデルversion-2(いずれもVitrolife社のiDAScore、1~9.9点のスケール)の4通りです。加えて、偶然の水準を推定するため、random.orgを用いたランダム推測も比較対象に含めました。各周期内で1位にランクされた胚が実際に正倍数体だった割合を、各方法の的中率として算出しています。

68%対58%――AIが上回ったのは「静的形態評価」だけ

正倍数体を1位に選び出せた周期の割合は、AIモデルversion-2が68%(190/279周期、95%信頼区間62.4~73.3%)で最も高く、次いで形態動態評価が64%(179/279周期、95%CI 58.4~69.7%)、AIモデルversion-1が62%(174/279周期、95%CI 56.6~67.9%)、Gardnerスコアによる静的評価が58%(163/279周期、95%CI 52.6~64.0%)という順でした。統計的に有意差が確認されたのはAIモデルversion-2のみで、静的評価を有意に上回っていました(p=0.022)。参考として、ランダム推測での的中率は44%(124/279周期、95%CI 38.7~50.3%)にとどまり、これは静的評価より有意に低い水準でした(p=0.001)。つまり、いずれの方法も偶然よりは正倍数体を選び出せているものの、最も成績の良かったAIモデルversion-2でも、約3割(32%)の周期では、正倍数体のきょうだいがいるにもかかわらず異数体を1位に選んでしまう計算になります。

見え方の違い――AIは胚の「ばらつき」を人間ほど感じ取らない

研究チームは、各周期内でのスコアのばらつき(変動係数、CV=標準偏差÷平均)を計算し、これが的中率とどう関係するかも調べています。胚培養士によるスコアのばらつきの中央値は0.75(第1四分位0.57~第3四分位0.96)で、AIモデルversion-1の0.29(0.17~0.37、p<0.001)やversion-2の0.60(0.41~0.74、p<0.001)より明らかに大きく、胚培養士の目にはきょうだい胚間の違いがより大きく映っていたことがわかります。胚培養士のスコアとAIモデルの相関はversion-1でr=0.358、version-2でr=0.330と、いずれも有意ではあるもののゆるやかな相関にとどまり、AIモデルversion-1とversion-2同士の相関はr=0.647と強い相関を示しました。さらに、胚培養士の評価ではばらつき(CV)が大きい周期ほど正倍数体を正しく選べる傾向があり、この関連は母体年齢で調整した後も有意でした(p=0.009)。一方、AIモデルのCVと的中率のあいだにはこうした関連は見られませんでした。これは、AIが胚培養士とは異なる画像的特徴に基づいて判断している可能性を示唆する結果です。

年齢が上がるほど、どの方法も「当たらなく」なる

母体年齢が上がるにつれて、いずれの方法でも的中率は低下する傾向が見られました。静的評価は35歳未満の87%から42歳超では17%に、ランダム推測は66%から22%に、形態動態評価は84%から39%に、AIモデルversion-1は79%から33%に、それぞれ低下しています。これに対しAIモデルversion-2は、42歳未満までは65%以上を維持し、42歳以上でも44%と、他の方法ほど大きく落ち込みませんでした(全体の傾向としては有意差なし、p=0.161)。ただし42歳以上の対象は18周期のみで、解析対象279周期全体の9.5%にすぎない点には注意が必要です。

臨床的意味・日本への含意

日本では、体外受精・PGT-Aの実施件数は増加傾向にあり、非侵襲的な胚の優先順位付けとAI活用への関心も高まっています。今回の結果が示すのは、AIモデルが従来の形態評価に対して統計的に有意な改善を示した一方で、その改善幅は的中率にして10ポイント程度にとどまり、しかもどの方法を用いても3割前後の周期で異数体が正倍数体より優先されてしまうという実態です。既存の系統的レビュー・メタ解析(6,879個の胚を対象)では、AIによる正倍数性予測の統合感度は0.71、特異度は0.75、AUCは0.80と報告されており、一定の予測能力は示されているものの、確定診断としての精度には至っていません。臨床現場では、PGT-Aが倫理的・法的・技術的な制約で実施できない状況において、AIによる胚ランキングが非侵襲的な優先順位付けの補助となり得る一方、染色体異常の有無を判定する目的では使用できないという位置づけを明確にしておく必要があります。異数体の胚が着床した場合、約9割が流産に至るとされており、優先順位付けの精度向上は、患者の心理的・身体的負担の軽減という観点からも意味を持ちます。

研究の強みと限界

この研究は単一施設・後ろ向きコホートという設計上の制約を持ちます。対象を「3個以上の胚盤胞のうち正倍数体・異数体が両方含まれる周期」に限定しているため対象集団は限られており、他の患者集団や施設にそのまま一般化できるとは限りません。また、この研究はシミュレーションであり、実際の臨床判断に使用されたものではなく、着床や生児獲得といった最終的な臨床アウトカムに対する検証は行われていません。解析対象にはDay7の胚盤胞や、通常の臨床では除外されがちな低グレード(BB未満)の胚も含まれており、これらは現行のAIモデルの学習データに十分反映されていない可能性があります。加えて、「正倍数体が1位に選ばれるか」という指標は、「生児に至る胚が1位に選ばれるか」とは異なる点にも留意が必要です。ただし正倍数性は全てのきょうだい胚について判定できる指標である一方、生児獲得は移植された胚だけに観察される選択バイアスを伴う指標であるため、代替指標としての妥当性は一定程度支持されます(異数体の胚盤胞が出産に至る割合は2%未満である一方、移植された正倍数体胚の生児獲得率は約50%と報告されています)。

おわりに

今回の研究は、AIによる胚ランキングが従来の非侵襲的評価と同等かそれをやや上回る成績を示す一方、染色体異常の有無を診断する精度には達していないことを示しました。正倍数体のきょうだいが存在するにもかかわらず異数体を優先してしまうケースは、AIを含むいずれの評価方法でも一定数残されており、遺伝学的検査に代わる診断ツールとしてAIを扱うことには慎重さが求められます。今後は、AIモデルの継続的な学習と、解釈可能性を高めた「グラスボックス」型モデルの開発、そして人間の判断とAIを組み合わせた運用の検証が、生殖医療における胚選択の精度向上に向けた課題として位置づけられています。

参考文献

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