先天異常は乳児の罹患や死亡の主要な原因の一つであり、家族や医療体制に長期的な負担をもたらします。不妊治療、とりわけ体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)を受けた妊娠では、先天異常のリスクがやや高いことが複数の研究で報告されてきました。
しかし、その多くは不妊治療を受けた女性の出生と、不妊のない女性の出生を比較したものであり、不妊そのものが持つ影響(交絡)を十分に取り除けていない可能性が指摘されています。また、不妊治療は多胎妊娠の確率を大きく高めることも知られており、多胎は単胎に比べて先天異常のリスクが高いことが分かっています。そのため、不妊治療と先天異常の関連が治療そのものによるものか、それとも多胎という結果を介した間接的なものかは、これまで十分に切り分けられてきませんでした。
この問いに答えるため、カナダ・オンタリオ州の医療行政データを用いた大規模な集団ベースコホート研究がHuman Reproduction誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1093/humrep/deag124)。不妊治療を受けなかった不妊女性の出生を対照群とし、「媒介分析」という統計手法を用いて、多胎が先天異常リスクの上昇をどの程度説明するのかを定量的に検証しています。
方法──27万件の出生を、媒介分析で解析した
対象は2006年から2021年にオンタリオ州で妊娠22週以降に出生した27万4893件。母親は15〜50歳で、妊娠前2年以内に不妊の受診歴があった女性です。曝露群は、①不妊治療を受けなかった不妊、②排卵誘発またはIUI(子宮内人工授精)、③IVFまたはICSI、の3群に分類されました。先天異常は生後1年以内のICD-10診断コードに基づき、米国疾病予防管理センター(CDC)が1967年に確立したサーベイランス手法(MACDPアルゴリズム)を用いて分類されています。
解析には修正ポワソン回帰モデルが用いられ、母体年齢、所得五分位、糖尿病や慢性高血圧などの既往、喫煙・飲酒・薬物使用、居住地域、肥満、出生年で調整した相対リスク(aRR)が算出されました。統計的に有意なリスク上昇がみられた項目については、因果媒介分析によって総効果を「直接効果」と「多胎を介した間接効果」に分解し、多胎が説明する割合(媒介割合)が推定されています。加えて、未測定の交絡因子がどの程度強ければ結果を説明し得るかを示すE-valueによる感度分析も行われました。
IVF/ICSI後の先天異常は28%増、排卵誘発後は11%増
27万4893件のうち、22万9932件(83.6%)が不妊治療を受けなかった不妊女性の出生、2万525件(7.5%)が排卵誘発/IUI後、2万4536件(8.9%)がIVF/ICSI後の出生でした。多胎率はそれぞれ2.3%、7.2%、13.3%と、治療の強度が上がるにつれて明確に上昇しています。
先天異常の発生率は、不妊治療を受けなかった群で5.9%、排卵誘発/IUI後で6.7%、IVF/ICSI後で7.6%でした。不妊治療を受けなかった不妊女性の出生を基準とすると、何らかの先天異常の調整相対リスク(aRR)は排卵誘発/IUI後で1.11(95% CI 1.05〜1.17、約11%の上昇)、IVF/ICSI後で1.28(95% CI 1.22〜1.34、約28%の上昇)でした。
肺動脈狭窄・尿道下裂──臓器別に見えた差
臓器系統別では、IVF/ICSI後に心血管系(aRR 1.31、95% CI 1.17〜1.45)、中枢神経系(aRR 1.67、95% CI 1.35〜2.08)、消化器系(aRR 1.14、95% CI 1.03〜1.26)、生殖器系(aRR 1.46、95% CI 1.26〜1.69)、筋骨格系(aRR 1.44、95% CI 1.27〜1.63)、腫瘍性病変(aRR 1.71、95% CI 1.35〜2.16)、呼吸器系(aRR 1.72、95% CI 1.21〜2.46)で有意なリスク上昇が確認されました。排卵誘発/IUI後は中枢神経系(aRR 1.39、95% CI 1.07〜1.80)と呼吸器系(aRR 1.53、95% CI 1.07〜2.17)でリスク上昇がみられています。
個別の異常では、心房中隔欠損(排卵誘発/IUI後aRR 1.24、IVF/ICSI後aRR 1.32)、肺動脈狭窄(排卵誘発/IUI後aRR 1.56、IVF/ICSI後aRR 1.57)、ファロー四徴症(IVF/ICSI後aRR 1.67)、特定不能の尿道下裂(排卵誘発/IUI後aRR 1.51、IVF/ICSI後aRR 1.99、およそ2倍)、血管腫(IVF/ICSI後aRR 2.22)、斜頭症(IVF/ICSI後aRR 1.81)、毛巣嚢胞(IVF/ICSI後aRR 1.35)などでリスク上昇が確認されました。
多胎が説明できるのは、リスク上昇のうちせいぜい2〜4割
因果媒介分析の結果、多胎が説明する割合(媒介割合)は異常の種類によって大きく異なりました。最も媒介割合が高かったのは肺動脈狭窄で、排卵誘発/IUI後33.9%、IVF/ICSI後44.4%が多胎によって説明されています。次いで中枢神経系異常(排卵誘発/IUI後30.2%、IVF/ICSI後32.2%)、心房中隔欠損(排卵誘発/IUI後27.1%、IVF/ICSI後25.1%)の順でした。何らかの先天異常全体でみると、媒介割合は排卵誘発/IUI後26.3%、IVF/ICSI後19.7%にとどまり、超過リスクの残り7〜8割は多胎とは独立に存在することになります。
以前に行われた別のコホート研究(不妊のない女性を対照群とした研究)では、何らかの先天異常の47.5%、心臓の異常の63.2%、非心臓系異常の36.2%、ファロー四徴症の42.7%、尿道下裂の50.2%が多胎によって説明されると報告されていました。今回の結果はこれより明らかに低く、対照群の設定の違いが影響していると考えられます。不妊治療を受けなかった不妊女性を対照群とすることで不妊そのものによる交絡が減り、多胎が担う役割をより特異的に推定できた可能性があります。
E-valueによる感度分析では、最も小さい値が何らかの先天異常(排卵誘発/IUI後1.46、IVF/ICSI後1.74)で示され、比較的小さな未測定交絡でも関連が説明されうることが示唆されました。一方、E-valueが4.0に近い関連もあり、これらはかなり強い未測定交絡がなければ説明できないと考えられています。
尿道下裂は「多胎」ではなく、親由来の要因を映すかもしれない
特定不能の尿道下裂のリスク上昇は、多胎によってほとんど説明されませんでした(媒介割合は排卵誘発/IUI後10.2%、IVF/ICSI後18.8%)。これは、尿道下裂を多胎という産科的な経路よりも、男性因子不妊など親由来の要因と結びつける仮説と一致します。尿道下裂は、アンドロゲン産生に関わる遺伝的な変化やY染色体の微小欠失といった、父親側の因子を反映する可能性が指摘されており、北欧の大規模コホート研究でも、男性因子不妊に対するICSI後に尿道下裂リスクの上昇が報告されています。
さらに、関連する研究グループによる別の解析では、子宮内膜症を持つ女性の出生でも尿道下裂を含む先天異常のリスク上昇(aRR 1.47、95% CI 1.04〜2.09)が報告されており、不妊治療そのものよりも背景にある不妊の原因が関与している可能性が示唆されています。
臨床現場での説明にどう活かすか
日本では、生殖補助医療の実施件数が世界的にも高い水準にあり、単一胚移植の普及によって多胎率は大きく低下してきました。今回の結果は、多胎対策を進めても先天異常リスクの上昇を完全には解消できないことを示しています。臨床現場で不妊治療を検討するカップルに説明を行う際には、多胎そのものだけでなく、不妊治療あるいは背景にある不妊の原因自体が先天異常リスクにわずかに関与しうるという情報を、過度に不安を煽らない形で共有することが求められます。
何らかの先天異常のaRRは1.11〜1.28程度であり、多くの場合、絶対リスクの上昇は数パーセントの範囲にとどまります。これは「治療を受ければ異常が起こる」という運命論的な話ではなく、確率のわずかな変化として理解される必要があります。
研究の強みと限界
この研究の強みは、27万件を超える大規模な集団ベースコホートであること、公的資金による不妊治療を提供するオンタリオ州の多様な集団を対象としていること、出生の99%を捕捉するデータベースと連結していること、そして不妊治療を受けなかった不妊女性を対照群とすることで交絡の制御を工夫した点にあります。
一方で限界もあります。行政データに基づく診断のため、受診歴があっても確定診断に至っていない場合など、不妊の分類に誤分類が生じる可能性があります。新鮮胚移植か凍結胚移植か、卵割期か胚盤胞期での移植か、アシステッドハッチングや着床前遺伝学的検査の有無といった治療の詳細情報は含まれていません。オンタリオ州は公的医療制度下にあるため、医療アクセスや資金モデルが異なる他地域への一般化には注意が必要です。また、ICSI後の特定の異常については症例数が少なく統計的検出力が限られたため、IVFと統合して解析されています。人種・民族などの未測定交絡因子が残る可能性も指摘されています。
おわりに
今回の集団ベースコホート研究は、不妊治療後にみられる先天異常リスクのわずかな上昇が、多胎によって部分的に説明されるものの、その大部分は多胎とは独立に存在することを示しました。多胎妊娠を減らす取り組みは超過リスクの一部を軽減しうると考えられる一方で、子宮内膜症や男性因子不妊といった個々の不妊診断や、胚移植の方法など治療関連要因が先天異常リスクにどう関与するかを解き明かすことが、今後の課題として残されています。
参考文献
1. Milne BM, Velez MP, Shellenberger J, Brogly SB. 『Increased risk of congenital anomalies after fertility treatment is partially mediated by multiple birth: a population-based cohort study』Human Reproduction 2026;00(00):1-15. doi:10.1093/humrep/deag124

