「彼女の痛み」から「ふたりの課題」へ──内膜症カップル49組が語った、共に生きるということ

内膜症は、生殖年齢にある人の10〜15%が経験するとされる、エストロゲンの影響を受けて進行する慢性疾患です。慢性骨盤痛、月経困難症、性交痛、不妊、強い疲労感など症状は多岐にわたり、その重さや現れ方には個人差が大きいことが知られています。これらの症状は診断を受けた本人の心理的な苦痛につながるだけでなく、パートナーがいる場合にはその関係性にも影響を及ぼすことが、これまでの研究で繰り返し指摘されてきました。

内膜症を抱える人にとって、性的な親密さや情緒的な満足、パートナーとの関係は、しばしば大きな負担を伴う領域とされています。一方でパートナー自身も支える立場を担うなかで疾患の影響を受けている可能性がありますが、その経験はこれまで十分に取り上げられてきませんでした。研究にパートナーを含めるべきだという指摘は繰り返しなされてきたものの、カップルを一つの単位として同時にインタビューし、二人が共有する語りを分析した研究は、これまでごくわずかでした。

こうした知見のギャップに取り組んだのが、American Journal of Obstetrics and Gynecology誌に2026年に掲載された質的研究です(doi: 10.1016/j.ajog.2026.07.027)。内膜症と診断された49組のカップルに、パートナーと二人一緒に受ける半構造化面接を実施し、両者が共有する困難とその対処の工夫を明らかにしようとしました。

方法──49組のカップルに、二人一緒に話を聞いた

対象は、カナダまたはアメリカ合衆国に住み、18歳以上で臨床的または外科的に内膜症と診断され、過去12か月以内に症状を経験しており、12か月以上の交際期間があるカップル49組(合計98名)です。参加者はSNSや口コミ、医療従事者からの紹介を通じて募集され、妊娠中の人や産後12か月以内の人は除外されています。

カップルは、より大規模な混合研究法の調査の一部としてオンライン調査等を完了したのち、合同での半構造化面接(ビデオ通話、約30分)に招かれました。中心となる質問は「内膜症に関連して、あなたたちカップルにとって最大の課題は何であり、それをどのように二人で乗り越えてきたか」というもので、そこから対処の工夫について掘り下げる質問がなされました。

分析にはBraun & Clarkeの6段階からなる帰納的な質的テーマ分析の手法が用いられ、2名の独立したコーダーが逐語録をオープンコーディングし、比較・議論を重ねて最終的に2つの領域(共有された困難、ともに乗り越える)にまたがる5つのテーマへと整理されました。本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を受けています。

平均34〜35歳、交際7年半――参加したカップルの横顔

内膜症と診断された参加者の平均年齢は33.33歳(23〜53歳)、パートナーの平均年齢は34.79歳(24〜59歳)でした。診断を受けた参加者の97.9%が女性、パートナーの95.7%が男性で、両群とも約80%が白人(Caucasian/White)と、多様性という点では限られたサンプルです。居住地はカナダが36組、アメリカが13組。内膜症の罹病期間は平均5.61年(1〜20年)、交際期間は平均92.20か月、つまりおよそ7年8か月(19〜233か月)で、既婚・事実婚58.3%、同居25.0%、婚約中12.5%、交際中4.2%と、多くのカップルが長期にわたる安定した関係のなかで内膜症と向き合っていました。

痛みは、ふたり分の消耗になる──「複合的な疾病負担」

最初のテーマは「複合的な疾病負担(Compounded Illness Burden)」です。内膜症がもたらす身体的な負担は、痛みそのものにとどまらず、性的な親密さへの不安、疲労、妊よう性への懸念、食事や栄養管理、治療に伴う副作用の苦痛など広い範囲に及んでいました。一部のカップルは痛みの強い体位を避けるなど性行為を調整し、痛みが生じることを当然のこととして受け止めるようになっており、ある当事者は「痛みがあるときにセックスに関心を持つのは難しい。楽しめていないという気持ちになる」と語っています。

多くの当事者は、身体的な疲労感が生活のあらゆる側面に及び、意欲や関わりの姿勢を損なうと述べ、この疲労は孤独感や孤立感につながっていました。パートナーの側も、当事者の痛みを目の当たりにすること自体に独自の苦しさを感じており、あるパートナーは、「彼女がこの病気とどう向き合っているかを見ている辛さ[中略]彼女の人生は終わったようだった。ひどい状態で、寝たきりで[中略]がんを患っている知人よりもひどい状態だった」と述べています。

『声を上げ続けなければならない』疲弊──心理的な壁という重荷

2つ目のテーマ「心理的な壁(Psychological Barriers)」では、内膜症と向き合うことの情緒的な負担が両者の心の健康やつながりの感覚に影響を及ぼす様子が語られました。多くのカップルに共通していたのは、痛みを言葉にして訴え、治療を求め、配慮を要請する行為を絶え間なく続けなければならないことへの苛立ちや怒り、無力感です。カップルとしてのサポートの少なさやコミュニケーションの難しさが情緒的な苦痛の一因になっていたとも語られ、こうした感情は恋愛関係の内側にとどまらず、家族や友人、医療従事者との関わりのなかでも生じていました。

常に誤解されているという感覚は、当事者の自己評価や自信を揺るがすものでもありました。ある当事者は、「自分の日常だけでなく、彼の日常にも影響するから、罪悪感を覚える」と語っています。あるパートナーは無力感について、「あなたがどれほどの痛みを感じているか、私には決して分からない[中略]絆創膏を貼るようなわけにはいかない。気持ちを少しでも楽にする方法を、とにかく考え続けるしかない」と述べました。

『自分の一存では決められない』──失われる自律性

3つ目のテーマ「損なわれた自律性(Undermined Agency)」は、両者が経験する自由や自己決定感の喪失を捉えたものです。多くの当事者は、痛みの発作を恐れて家事や外出の予定を立てることが難しくなったと語り、内膜症による制約は社会的な活動からの撤退や家族の集まりからの疎外感の主要な理由として挙げられ、ある当事者は「毎日何をするかを100%自分だけで決められるわけではない。身体が許すことしかできない」と述べています。あるパートナーは、症状がパートナーの「やりたいことを選ぶ自由」を奪っていると表現し、「快適にやりたいことをやるのは簡単ではない。それが一番の課題」と語っています。

支えは、当事者だけのものじゃない──相互支援という土台

「ともに乗り越える(Coping Together)」という2つ目の領域では、まず「相互支援(Mutual Support)」というテーマが浮かび上がりました。カップルは相互支援を、疾病負担に対応する中心的な関係的プロセスとして挙げています。注目すべきは、支援が当事者だけに向けられたものとしてではなく、ユーモアや二人の時間、社交、セラピーへの参加といった、互いに前向きな感情をもたらす行動の積み重ねとして語られていた点です。

カップルの語りには、抱擁やスキンシップ、湯たんぽの用意、マッサージといった具体的な支援や、そばにいて安心感を与える存在であることの大切さが含まれていました。パートナーが活動や日課を調整したり、通院に付き添ったりする姿も、前向きな支援として捉えられていました。あるパートナーは、支援と主体性のバランスについて、「彼女が周囲に理解されていないとき、自分で声を上げられるように支える。それは彼女の問題だけれど、私たちの問題でもある」と語り、当事者自身は「お互いに対する敬意と思いやりこそが大切」と述べています。

『設定しなおす』ことがもたらす強さ──心理的レジリエンス

最後のテーマ「心理的レジリエンス(Psychological Resilience)」では、内膜症による課題にどう向き合ってきたかを尋ねた際、受容や理解、忍耐、共感といったプロセスが対処にとって重要であるという語りが繰り返し見られました。カップルは、互いの気持ちを理解し、期待値を調整し、共有の目標を定めるために率直なコミュニケーションと協働的な工夫を用いていたと語っており、身体的なつながりが痛みによって制約される時期には、情緒的なつながりに重点を置くことが特に価値あるものとして語られていました。

ある当事者は、「一緒にいて、できることを一緒にやれるということが一番大切。『やるべきこと』という期待を、『できること』という考え方に変えていった」と述べています。同じカップルのパートナーは、諦めではなく受容を選び取ることの大切さについて、「期待をどう管理するかということ。どんな範囲の中で幸せに生きられるかを知っているだけ」と語っています。こうした語りは、カップルのレジリエンスが、情緒的なつながりや関係の安定を協働して維持しようとする継続的なプロセスに根差していることを示唆しています。

臨床的意味・日本への含意

本研究の知見は、症状の重さや対処の可能性についての信念が意思決定に影響するとするHealth Belief Model(健康信念モデル)とも整合的です。参加者は、内膜症が困難をもたらす一方で、パートナーの支援的な関わりによってその困難を乗り越えられる可能性を見出しており、対処の余地についての信念そのものが介入の対象になりうることを示しています。

臨床現場では、カップルが語った自律性の低下や医療現場での困難は、意思決定支援や心理教育を通じて当事者の主体性を回復させる仕組みの必要性を示しています。カップルを基盤とした関わりの一例として、パートナーを診療上の対話に同席させること、関係性の苦痛を訴える患者を感情焦点化カップルセラピーやセックスセラピーなどにつなぐことが挙げられ、こうした関わりは全ての診療機会に一律に組み込むのではなく、柔軟に患者中心の形で提供されることが望ましいとされています。

日本では、内膜症の診療は薬物療法や手術といった身体的な治療を中心に進められることが多く、パートナーを含めた心理社会的支援が体系的に提供される機会はまだ限られています。本研究の知見は、当事者だけでなくパートナーも視野に含めた多職種連携モデルの必要性を示唆しており、婦人科医、心療内科医や精神科医、臨床心理士などが連携する体制づくりの手がかりになり得ます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、当事者とパートナーの語りを共有された一つの物語として扱い、疾病負担や心の健康、性の健康だけでなく、内膜症とともに適応していく力についても立体的に描き出した点にあります。一方で限界として、サンプルの多様性が限られていること、選択バイアスの可能性が挙げられます。人種的な多様性や同性・非異性愛カップルの語りが十分に含まれておらず、また、二人そろって語るという面接形式自体が関係性のうまくいっているカップルを引き寄せやすく、内膜症とうまく向き合えていない、あるいは葛藤を抱えるカップルの経験が十分に反映されていない可能性も指摘されています。

おわりに

本研究が示したのは、パートナーが単なる傍観者ではなく、内膜症という病の経験に能動的に関わる存在であるという点です。カップルの語りには、慢性的で理解されにくい疾患と向き合いながら、つながりや自律性、心の健康を維持しようとする絶え間ない努力の軌跡が表れていました。医師や心の健康の専門家、研究者にとって、この知見は、診断を受けた本人の治療だけでなく関係性や心理社会的な力学を視野に入れた多職種的な関わりの重要性を示すものです。コミュニケーションや思いやり、共同での意思決定、パートナーを含めたケアのあり方は、内膜症が親密な関係にもたらす心理社会的な負担を和らげる一助になると考えられます。

参考文献

1. Chenny-Ramkissoon M, Stragapede E, Huber JD, Horwood G, Singh S, Corsini-Munt S.『Coping Together: A Qualitative Exploration of Challenges Identified by Couples Living with Endometriosis』American Journal of Obstetrics and Gynecology 2026(in press). doi:10.1016/j.ajog.2026.07.027

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