体脂肪率は精液の質を映す鏡──BMIより鋭く関連

肥満の世界的な有病率はこの数十年で急速に上昇し、現在では世界人口のおよそ3分の1が過体重または肥満に該当するとされています。この傾向は、精子数の減少や不妊症の増加、生殖補助医療(ART)の利用増加という報告とも時期的に重なっています。世界保健機関(WHO)の推計では、不妊症は世界のカップルの17.5%に影響し、男性因子はそのうち最大50%に関与するとされています。

過体重や肥満は、ホルモン動態の変化、活性酸素種の増加、陰嚢温度の上昇、内分泌かく乱化学物質の蓄積、エピジェネティックな変化などを介して、男性の生殖機能に影響しうると考えられています。これまでの疫学研究の多くは、肥満度の指標としてBMI(体格指数)を用いてきました。しかしBMIは、身長と体重から算出される複合的な指標であり、筋肉量の多い痩せ型の人ではBMIが実際の体脂肪量を過大評価することが知られています。体脂肪率を生体電気インピーダンス法で直接測定する方法は、より正確に体脂肪量を反映すると考えられていますが、これまで精液所見との関連を検討した研究は限られていました。

体脂肪率は精液所見、精巣容積、生殖ホルモンとどのように関連するのか。またBMIやウエスト身長比よりも鋭敏な指標となりうるのか、そしてBMI上は「標準体重」とされる男性においても、体脂肪率の高さが精液所見に影響するのか。こうした問いに答えたのが、Human Reproduction誌(2026年)に掲載された、デンマークの出生コホート内で実施された横断研究です(doi:10.1093/humrep/deag104)。

方法──1,058人の若年男性を、体組成・精液・ホルモンで解析した

この研究は、デンマーク全国出生コホート(DNBC)の中に設置された「精液の質の胎児期プログラミング(FEPOS)」コホートのデータを用いています。DNBCに参加した母親から生まれた男性のうち、2017年から2019年にかけて18歳9か月時点で招待された5,697人中、1,058人(19%)が参加しました。参加者は臨床施設で身長、体重、ウエスト周囲径、体脂肪率(生体電気インピーダンス法)を測定され、精液サンプルと血液サンプルを提供し、プラダー・オーキドメーターを用いて精巣容積を自己測定しました。

体脂肪率は、WHOのBMI分類(低体重・標準・過体重・肥満)に対応するよう、8%未満(低)、8〜19%(標準、基準群)、20〜24%(高)、25%以上(非常に高い)の4群に分類されました。主要な解析には負の二項回帰モデルが用いられ、両親の教育歴、母親の妊娠前BMIや妊娠中の喫煙、出生体重、参加者本人の喫煙・飲酒・運動習慣など、詳細な交絡因子で調整されています。低い参加率(19%)による選択バイアスを補正するため、選択重み付けも行われました。

体脂肪率20〜24%で総精子数が23%減、25%以上でも15%減

標準的な体脂肪率(8〜19%)の男性と比較して、高体脂肪率(20〜24%)の男性では総精子数が23%低下していました(95%信頼区間:−35%〜−9%)。非常に高い体脂肪率(25%以上)の男性でも15%の低下が見られましたが、こちらは信頼区間が広く(−35%〜13%)、統計学的な確実性はやや劣ります。体脂肪率を連続変数として扱い、1標準偏差(5.7%相当)の増加あたりで見ると、総精子数は8%低下していました(95%信頼区間:−13%〜−2%)。

具体的な数値で見ると、総精子数の平均は標準体脂肪率群で1億500万(105 mill)であるのに対し、高体脂肪率群では8,100万、非常に高い体脂肪率群では8,900万まで低下する計算になります。いずれもWHOが定める精液所見の下限基準値(3,900万)は上回っており、多くの男性にとって直ちに不妊を意味する変化ではありません。ただし、精液所見が境界域にある男性にとっては、この程度の低下が臨床的な意味を持つ可能性があると論文は指摘しています。精液量や精子濃度についても、体脂肪率が高いほど低下する傾向が見られましたが、いずれも信頼区間はゼロをまたいでおり、確実な関連とまでは言えませんでした。運動率、正常形態率、精巣容積については、体脂肪率との一貫した関連は見られませんでした。

ホルモンにも乱れ──SHBGとテストステロンが低下、LHとエストラジオールが上昇

体脂肪率が高い男性では、生殖ホルモンのプロファイルにも変化が見られました。1標準偏差の体脂肪率増加あたり、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)は13%低下し(95%信頼区間:−15%〜−10%)、総テストステロンは7%低下していました(95%信頼区間:−9%〜−5%)。一方で、黄体形成ホルモン(LH)は4%上昇し(95%信頼区間:0%〜8%)、エストラジオールは5%上昇し(95%信頼区間:2%〜9%)、遊離アンドロゲン指数(FAI)も5%上昇していました(95%信頼区間:2%〜8%)。FAIの上昇は、SHBGの低下を反映したものと考えられます。卵胞刺激ホルモン(FSH)については、明確な関連は見られませんでした。

なお、体脂肪率が低い群(8%未満)では、多くの項目でおおむね逆方向の傾向が見られましたが、いずれも信頼区間がゼロをまたいでおり、一貫した関連とまでは言えませんでした。

BMIより体脂肪率のほうが鋭く反応する

この研究のもう一つの焦点は、体脂肪率がBMIやウエスト身長比よりも鋭敏な指標かどうかという点でした。1標準偏差増加あたりの総精子数の低下幅を比較すると、体脂肪率では8%(95%信頼区間:−13%〜−2%)であったのに対し、BMIでは2%(95%信頼区間:−9%〜4%)、ウエスト身長比では4%(95%信頼区間:−10%〜3%)にとどまり、いずれも信頼区間がゼロをまたいでいました。精液量や精子濃度についても、体脂肪率のほうがBMIやウエスト身長比より一貫して強い関連を示す傾向がありました。一方、SHBGやテストステロンなどのホルモン指標については、体脂肪率・BMI・ウエスト身長比のいずれでも同程度の関連が見られました。

「標準体重」の男性に絞っても、関連は消えなかった

BMIが18.5〜24.9(WHO基準の標準体重)に該当する男性に限定して解析したところ、体脂肪率と総精子数の関連はむしろ強まり、1標準偏差増加あたり13%の低下(95%信頼区間:−21%〜−5%)が見られました。正常形態率についても、全体解析では1%の低下にとどまっていたのに対し、標準体重男性に限ると7%の低下(95%信頼区間:−14%〜0%)が見られました。一方、SHBGやテストステロンなど生殖ホルモンとの関連は、標準体重男性に限定するとおおむね弱まりました。つまり、BMI上は「標準体重」と判定される男性の中にも、体脂肪率が高く、それが精液所見と関連しうる一群が存在することを示唆する結果です。

研究の強みと限界

この研究の強みとして、大規模な研究集団、生体電気インピーダンス法による体脂肪率測定、BMIやウエスト身長比との比較、詳細な交絡因子調整、選択重み付けによる参加バイアスへの対応が挙げられます。横断研究であるため、体脂肪率の増加が精液所見の悪化の原因なのか、あるいは逆の因果(精液所見が悪いことと関連する何らかの要因が、体脂肪率の高さにも影響しているだけなのか)を完全には排除できません。この点については、11歳時点の小児期BMIを曝露として用いた感度分析が行われ、成人期のBMIを用いた場合と同様の結果が得られたことから、逆の因果関係が生じている可能性は低いと論文は考察しています。

また、招待された5,697人のうち参加したのは19%(1,058人)にとどまり、これは選択バイアスの可能性を残します。生体電気インピーダンス法自体も、ゴールドスタンダードとされる二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)との相関は0.852であり、完全な精度ではありません。ただし、この種の測定誤差は一般に関連を弱める方向(帰無仮説側)に働くとされ、今回観察された関連を消し去るのではなく、むしろ過小評価している可能性の方が高いと考えられます。

臨床的意味・日本への含意

日本では、男性の肥満や体脂肪率と精液所見の関連を検討した大規模な疫学データは限られています。不妊症の診療では、これまでBMIが体格の簡便な指標として広く用いられてきましたが、この研究の結果は、BMIだけでは体脂肪の蓄積を十分に反映できない男性が一定数存在することを示唆しています。特に、BMI上は標準体重であっても体脂肪率が高い、いわゆる「隠れ肥満」に相当する男性では、精液所見への影響が見過ごされている可能性があります。

臨床現場では、精液所見が境界域にある男性に対する生活指導の一環として、体重だけでなく体脂肪率を含めた体組成の評価が、今後より重要な情報を提供する可能性があります。また、今回の関連が因果関係を反映しているのであれば、体脂肪の蓄積を減らす生活習慣の改善が、精液所見の改善につながる可能性も考えられますが、この点は今後の介入研究による検証が必要です。

おわりに

今回の研究は、体脂肪率が高い男性ほど総精子数が低く、精液量や精子濃度にもその傾向が見られること、また性ホルモン結合グロブリンやテストステロンの低下、黄体形成ホルモンやエストラジオールの上昇といったホルモンプロファイルの乱れを伴うことを示しました。体脂肪率はBMIやウエスト身長比よりも鋭敏に精液所見と関連しており、BMI上は標準体重とされる男性においても、その関連は消えませんでした。これらの関連が因果関係を反映しているとすれば、体脂肪組織の蓄積そのものが精子形成やホルモンバランスに悪影響を及ぼしている可能性を示唆します。動物実験からは、体脂肪と相関する満腹ホルモンであるレプチンが媒介因子である可能性も指摘されており、今後の研究でその機序のさらなる解明が期待されます。

参考文献

1. Brix N, Ernst A, Gaml-Sørensen A, Arendt LH, Toft G, Tøttenborg SS, Hougaard KS, Bonde JPE, Ramlau-Hansen CH. Body fat percentage in relation to semen characteristics, testicular volume, and reproductive hormones: a cross-sectional study. Hum Reprod 2026;00(00):1–10. doi:10.1093/humrep/deag104.

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