卵巣予備能低下──その「原因」は治療成績を左右するか

卵巣予備能低下(DOR)は、卵巣内に残る卵子の数が加齢とともに生理的に減少していく現象を背景にした臨床概念です。血中の抗ミュラー管ホルモン(AMH)値は卵巣予備能を反映する代表的な指標とされ、体外受精・顕微授精(IVF/ICSI)における卵巣刺激への反応性を予測する目的で広く測定されています。しかし近年は、AMHをはじめとする卵巣予備能検査が、胚移植あたりの妊娠率や出産率を予測する力には限界があることも指摘されてきました。

DORの原因は一様ではありません。加齢に伴う生理的な減少のほか、抗がん治療による性腺への毒性、子宮内膜症などに対する卵巣手術など、多様な背景が存在します。原因によって卵巣予備能への影響の生じ方は異なると考えられる一方、DORの原因そのものが体外受精・顕微授精の治療成績に独立して影響するかどうかは、十分に検証されていませんでした。この問いに答えるため、日本産科婦人科学会生殖内分泌委員会が構築した全国規模のコホートを二次解析した多施設共同後方視的研究が、Journal of Obstetrics and Gynaecology Research誌(2026年)に報告されました(DOI: 10.1111/jog.70418)。2021年に初めてIVF・ICSI周期を開始した20〜40歳のDOR女性606人を対象に、原因別の治療成績が比較されています。

方法──606人を、原因別の4群に分けて解析した

対象は、血清AMH値が1.1 ng/mL未満で、2021年1月から12月に初めてIVF・ICSI周期を開始した20〜40歳の女性606人です。DORの原因は、特発性(加齢に伴う生理的低下を含む)、抗がん治療の既往、子宮内膜症に対する卵巣手術、それ以外の腫瘍に対する卵巣手術の4群に分類され、内訳は特発性511人、抗がん治療の既往9人、子宮内膜症の卵巣手術55人、それ以外の卵巣手術20人でした(原因不明の11人は除外)。最大4回までの胚移植周期における妊娠・出産の成否を、年齢、AMH値、DORの原因、卵巣刺激法、採卵数、良好胚数を説明変数とした多変量ロジスティック回帰分析で検討しています。

AMH値は原因で差があっても、治療成績には差がなかった

平均年齢は37.01±3.17歳で、原因による有意差はありませんでした(p=0.0538)。血清AMH値は原因間で有意差があり(p=0.0087)、抗がん治療の既往がある群が最も低値(0.29 ng/mL)、特発性と子宮内膜症の卵巣手術群が0.64 ng/mL、それ以外の卵巣手術群が0.58 ng/mLでした。しかしこの差にもかかわらず、採卵数(平均4.13±3.48個、p=0.1375)や良好胚数(p=0.7814)などに原因による有意差はなく、胚移植あたりの臨床妊娠率も36.5%(221/605周期)で群間差はありませんでした(p=0.8933)。

妊娠・出産を分けたのは、原因ではなく年齢と胚の質だった

移植可能な胚があるのに移植が実施されなかった31例を除いた多変量解析では、妊娠20週以降まで継続した妊娠および出産と独立して関連していたのは、年齢(オッズ比0.892、95%信頼区間0.835〜0.952、p<0.001)、採卵数(オッズ比1.179、95%信頼区間1.093〜1.271、p<0.001)、良好胚数(オッズ比1.572、95%信頼区間1.259〜1.963、p<0.001)の3因子でした。年齢が1歳上がるごとにオッズはおよそ11%低下し、良好胚数が1個増えるごとに約57%上昇する計算になります。一方、DORの原因(特発性を基準とした子宮内膜症の卵巣手術:オッズ比1.477、p=0.281、それ以外の卵巣手術:オッズ比2.351、p=0.121)やAMH値自体は、独立した関連を示しませんでした。最大4回の累積継続妊娠・出産率も、特発性50.3%、子宮内膜症の卵巣手術58.1%、それ以外の卵巣手術72.7%で、有意差は検出されていません。

抗がん治療後のDOR──症例数は少なくても、注意が必要な理由

抗がん治療の既往がある群は9人と少数で、うち4人は移植1回のみで妊娠に至らず、累積継続妊娠・出産率は0%でした。この結果は症例数の少なさによる可能性が大きく、抗がん治療後のDORが他の原因と同等の成績であることを意味するものではないと論文は注意を促しています。月経が再開していても一部の抗がん治療薬は卵巣機能に不可逆的な影響を及ぼすリスクが高く、治療後は重度のDORを想定し、AMH値を経時的にモニタリングすることが推奨されています。可能な場合には、治療前の胚の凍結保存が妊孕性温存の選択肢として信頼性の高い方法とされています。

卵巣手術とDOR──子宮内膜症は本当に不利なのか

子宮内膜症に対する卵巣嚢胞摘出術後には血清AMH値が低下することが知られ、術後は受精率や胚数が多い一方で臨床妊娠率がむしろ低いとする報告や、周期あたりの中止率が高いとする報告もあります。しかし今回の研究では、子宮内膜症の手術群とそれ以外の手術群のあいだで術後AMH値に大きな差はなく、特発性群と卵巣手術群のあいだで治療成績にも有意差は認められませんでした。子宮内膜症の手術群では採卵数がやや少ない傾向がみられたものの有意差はなく、手術に伴う採卵の技術的な難しさや骨盤内環境の影響がわずかに残る可能性が示唆されています。手術前にあらかじめ胚を凍結し、術後に移植する方法で良好な成績が得られたとする報告もあり、選択肢として検討する余地があるとされています。

日本の現場に、この結果は何を示すか

日本では保険適用の開始以降、年間の体外受精・顕微授精の実施周期数が50万件を超え、治療を受ける女性の平均年齢はおよそ37歳とされています。今回の結果は、DORの原因を特定すること自体よりも、年齢や採卵数、良好胚数といった、より直接的に治療成績を左右する因子に注目した診療方針の重要性を示すものといえます。臨床現場では、原因の種類にかかわらず、年齢が進む前の早期の対応や卵巣刺激・採卵計画の最適化、必要に応じた妊孕性カウンセリングが一貫して重要になると考えられます。抗がん治療を予定している患者には、治療前の妊孕性温存の選択肢を早い段階で提示することも課題のひとつです。

研究の強みと限界

この研究の強みは、全国規模の多施設コホートを用い、606人という一定数のDOR女性を対象に、原因別の治療成績を統一した基準で比較した点にあります。一方、後方視的研究であるため卵巣刺激法の選択にはバイアスが生じうること、参加施設間でAMH測定法や刺激プロトコルにばらつきがあった可能性、抗がん治療群の症例数が9人と少なく治療内容の詳細が把握できなかったこと、胚の発生段階の情報が収集されていないことなどが限界として挙げられます。特に抗がん治療後のDORについては、より大規模な研究による検証が必要とされています。

おわりに

今回の研究では、DORの原因による交絡因子を調整したうえで、卵巣の反応性や妊娠・出産率に原因間の有意差は認められませんでした。体外受精・顕微授精の治療成績は、DORの背景にある原因そのものよりも、年齢と採卵数、良好胚数といった要因により強く関連していたことが示されています。DORのリスクを早期に把握し、状況に応じた妊孕性カウンセリングや介入のタイミングを検討することが、今後の課題として位置づけられます。

参考文献

1. Kobayashi M, Asada Y, Sugishita Y, et al.『Impact of the Etiology of Diminished Ovarian Reserve on Assisted Reproductive Technology Outcomes: A Multicenter Retrospective Cohort Study』Journal of Obstetrics and Gynaecology Research 2026;52:e70418. doi:10.1111/jog.70418.

2. Kobayashi M, Asada Y, Sugishita Y, et al.『Cumulative Ongoing Pregnancy and Live Birth Rates After Assisted Reproduction Among Women With Diminished Ovarian Reserve: A Multi-Institutional Retrospective Cohort Study』Journal of Obstetrics and Gynaecology Research 2025;51(6):e16336.

3. Roustan A, Perrin J, Debals-Gonthier M, Paulmyer-Lacroix O, Agostini A, Courbiere B.『Surgical Diminished Ovarian Reserve After Endometrioma Cystectomy Versus Idiopathic DOR』Human Reproduction 2015;30(4):840–847.

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