体外受精において、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)で染色体数の異常がない「正倍数性」と判定された胚を移植しても、必ずしも1回目で妊娠・出産に至るとは限りません。移植を重ねて様子を見るべきか、それとも子宮内膜の検査や免疫学的検査といった別の対応に切り替えるべきか。この判断は、生殖医療の臨床現場で繰り返し問われてきた課題です。
これまでの研究では、正倍数性胚を3回連続で移植しても妊娠に至らない「真の反復着床不全」は、患者全体のごく一部にとどまることが示されてきました。2021年に発表された研究では、3回の移植後に95%を超える患者が着床に至ったと報告され、2024年には123,987人を対象とした多施設研究で、3回目までの累積生児出生率が92.6%、5回目までで98.1%に達したことが示されています。一方で、これらの検証はいずれも5回目までにとどまっており、6回目以降のデータや、妊娠に至らなかった場合の内訳(流産、生化学的妊娠、非妊娠)についての情報は限られていました。
こうした背景のもと、Fertility and Sterility誌(2026年)に、米国ニューヨークの大学附属生殖医療センターで2014年1月から2024年12月までに実施された正倍数性胚移植のデータをもとに、6回目までの累積生児出生率と、移植ごとの詳しい転帰を検証した後方視的コホート研究が掲載されました(doi:10.1016/j.fertnstert.2026.07.016)。
方法──5,811人、7,763回の移植を、生児出生に至るまで追跡した
対象は、2014年1月から2024年12月にかけて、1回以上の正倍数性胚を用いた単一胚移植(以下、SET)を受けた患者です。生児出生に至るか、6回のSETを完了するまで追跡されました。子宮腔の異常所見が未修正の患者、先天性子宮奇形(手術で修正した中隔を除く)、提供卵子を用いた患者、代理懐胎、非正倍数性胚の移植は除外されています。生児出生に至らなかった患者は、同じ採卵周期または新たな採卵周期由来の凍結胚を用いて、次のSETに進むことができました。治療を中断した患者は、その時点のSETで打ち切りとして扱われています。
主要評価項目は、(1)6回までの連続したSETにおいて、少なくとも1回の生児出生に至る累積確率(以下CP1LB)、(2)各回のSETごとの生児出生率でした。CP1LBは実測値に加え、生児出生を「イベント」、SET回数を「時間変数」としたKaplan-Meier法によっても推定されています。副次評価項目として、流産(超音波で確認された臨床妊娠の消失)、生化学的妊娠(血中hCGが陽性となった後に妊娠反応が消失)、非妊娠(hCG陰性)の割合も、各回のSETごとに評価されました。
最終的に、5,811人の患者、6,589件の採卵周期、7,763回の正倍数性胚SETが解析対象となりました。移植1回目の年齢中央値は37歳(四分位範囲34〜40歳)でした。
3回目で92%、6回目で98.8%――回数を重ねるほど確率は積み上がった
Kaplan-Meier法で推定されたCP1LBは、1回目のSET後63.1%(95%信頼区間61.8〜64.3%)、2回目後83.0%(81.9〜84.1%)、3回目後92.0%(91.0〜93.0%)、4回目後96.0%(95.1〜96.9%)、5回目後98.3%(97.4〜99.0%)、6回目後98.8%(97.8〜99.4%)でした。5回目までは統計学的に有意な上昇が続き、5回目と6回目の間には有意差が見られませんでした(P=0.2)。
言い換えると、90%程度の確率で生児出生に至りたいと望む場合、目安としておよそ3個の正倍数性胚(3回のSET)が必要という計算になります。実際、5,811人のうち81.0%(4,709人)が最終的に生児出生に至り、残る1,102人のうち1,097人(18.9%)が治療を中断し、6回のSETを終えても生児出生に至らなかったのはわずか5人(0.1%)にとどまりました。
なお、治療を中断せずに全員が継続したと仮定した、最も厳しい見積もり(感度分析)では、CP1LBは1回目63.1%、2回目76.1%、3回目79.7%、4回目80.7%、5・6回目とも81.0%となりました。実測値との差は、治療を中断した患者の存在による不確実性を反映していると考えられます。
移植1回あたりの成功率は、2回目以降ほぼ一定だった
移植1回あたりの生児出生率は、1回目の63.1%から2回目の54.0%(95%信頼区間51.3〜56.5%)へといったん低下したものの、2回目から5回目まではおおむね安定していました(2回目54.0%、3回目53.1%、4回目50.4%、5回目57.6%、いずれの差もP>0.05)。1回目の成功率が高いのは、グレードの良い胚が優先的に移植される傾向を反映していると考えられています。なお6回目の生児出生率は28.6%でしたが、対象がわずか7人であり、信頼区間も8.2〜64.1%と幅が広く、確定的な結論を導くには不十分とされています。
流産、生化学的妊娠、非妊娠の割合も、1回目から2回目にかけて上昇したのち、3回目以降はほぼ横ばいで推移しました。流産率は1回目7.1%から2回目9.8%、生化学的妊娠率は1回目8.4%から2回目11.0%、非妊娠率は1回目20.0%から2回目23.8%へとそれぞれ上昇しましたが(いずれもP<0.02)、2回目から6回目の間には有意差が見られませんでした。異所性妊娠、死産、人工妊娠中絶といった転帰は全体を通じてまれで、研究期間全体でそれぞれ36件、15件、56件が報告されています。
胚盤胞の発育日数による違いも確認されました。1回目・2回目のSETでは、day7胚(受精後7日目に胚盤胞へ到達した胚)の生児出生率が、day5・day6胚に比べて低い傾向が見られましたが(1回目56.3% vs 66.5〜66.8%、2回目47.1% vs 58.0〜58.5%、いずれもP<0.01)、3回目以降はこの差は見られなくなりました。
「反復着床不全」は、実際にはどのくらいの頻度なのか
正倍数性胚を3回連続で移植しても生児出生に至らない状態は、しばしば「反復着床不全」と呼ばれます。今回のコホートでこの基準に該当したのは、5,811人中184人(3.2%)でした。この184人のその後を見ると、32.1%(59人)が4回目のSETで、10.3%(19人)が5回目で、1.1%(2人)が6回目で生児出生に至り、残る56.5%(104人)は研究期間内に生児出生に至りませんでした(うち99人は6回のSET完了前に治療を中断、5人は6回すべてを終えても生児出生に至らず)。3回目までの内訳を見ると、18.5%が着床すら成立せず、43.5%が1回以上の生化学的妊娠を、48.9%が1回以上の流産を、12.0%が異所性妊娠・死産・人工妊娠中絶のいずれかを経験していました。
つまり、3回移植して結果が出なかった患者のうち、3人に1人以上が4回目以降の移植で生児出生に至っています。これは、初期の移植の失敗が、その後の移植の成功を予測するものではないことを示唆しています。今回の結果は、2021年の研究や2024年の多施設研究とも一致しており、失敗を重ねた移植歴そのものが患者個人の着床能力の低さを意味するわけではなく、確率的なばらつきの範囲内であることを裏づけています。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本の臨床現場では、正倍数性胚を用いた移植が不成功に終わった場合、子宮内膜受容能検査や免疫学的検査といった追加の検査、あるいは治療方針の変更が検討されることがあります。今回の結果は、こうした追加の介入なしに、標準的なプロトコルのまま移植を継続すること自体が、多くの患者にとって合理的な選択肢であり得ることを示しています。特に、3回目までの移植で結果が出なかった患者に対しても、4回目以降の移植で3人に1人以上が生児出生に至っている点は、今後の治療方針を話し合ううえでの目安になります。
一方で、今回のデータは単一施設・後方視的研究であることに加え、6回目のSETは対象がごく少数(7人)にとどまっており、6回目以降の判断にはなお慎重さが求められます。日本では、治療の身体的・経済的・心理的負担も考慮したうえで、患者ごとの正倍数性胚の在庫数や年齢、個々のリスク許容度に応じて、何回まで移植を継続するかを個別に話し合っていくことが、今後の診療の出発点になると考えられます。
研究の強みと限界
本研究の強みは、5,811人・7,763回という大規模なデータであること、6回目までの移植を対象とした点、そして生児出生だけでなく流産・生化学的妊娠・非妊娠といった転帰の内訳まで詳細に追跡した点にあります。単一施設のデータであるため、体外受精や胚移植のプロトコルが標準化されている一方、他施設への一般化には注意が必要です。
限界としては、第一に後方視的研究であり、CP1LBに影響しうる要因を完全には制御できていません。第二に、治療を中断した患者は継続した患者に比べて年齢が高い傾向があり、中断者がそのまま治療を続けていれば生児出生に至った可能性も否定できないため、CP1LBの実測値は本来の累積成功率を過大評価している可能性があります。第三に、10年間という研究期間中に胚培養やPGT-Aの技術自体が進歩しており、時期による違いが解析に反映しきれていない可能性があります。第四に、3回を超える移植を受けた患者数は相対的に少なく、4回目以降の推定精度には限りがあります。
おわりに
今回の研究は、正倍数性胚を用いた単一胚移植について、6回目までの累積生児出生率と移植ごとの転帰を、これまでで最大規模のデータで示すものです。3回目までの累積生児出生率は92.0%、5回目・6回目までではいずれも98%を超え、移植1回あたりの成功率も2回目以降は安定していました。反復して不成功に終わった場合でも、その後の移植で生児出生に至る患者が一定数存在することも確認されています。これらの知見は、正倍数性胚の在庫数や個々のリスク許容度に応じた、根拠に基づくカウンセリングの土台になり得るものであり、今後はより多施設での検証や、6回目以降のデータの蓄積が期待されます。
参考文献
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