ストレスを1日3回はかっても──体外受精の成績はほぼ動かなかった

不妊治療を受ける女性は、心理的ストレスを強く感じやすいことが知られています。ストレスと妊娠の関係については、極度のストレスが視床下部・下垂体・卵巣系(HPO系)を抑制し、排卵障害につながりうるという生理学的な仕組みが説明されてきました。一方で、月経周期が規則的な不妊症患者において、日常的なストレスが実際にどの程度生殖機能に影響するのかは、これまで十分に解明されていませんでした。

従来の研究の多くは、ストレスを1回きりのアンケートで評価するものでした。しかし心理的ストレスは日々変動するものであり、単発の測定では見えてこないパターンがある可能性があります。こうした背景から、体外受精(IVF)の周期に沿って1日3回、テキストメッセージでストレスを繰り返し測定し、その変動パターンと治療成績の関係を検証した研究が、Journal of Assisted Reproduction and Genetics誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1007/s10815-026-03972-5)。

この研究は、ストレス測定の手法そのものの実施可能性(feasibility)を検証する探索的な位置づけですが、日常的な心理状態が生殖医療の現場でどこまで臨床的な意味を持つのかを考える材料になります。

方法──1日3回のテキストメッセージで、2つの周期を追跡した

対象は、米国の単一の大学病院で黄体期エストロゲン先行(luteal priming)プロトコルによる体外受精を予定していた18〜42歳の女性です。2023年6月から11月にかけて93人がスクリーニングされ、32人が適格と判定され、26人が同意、最終的に25人が試験を完了しました。平均年齢は36.0歳(標準偏差3.6)でした。

このプロトコルでは、まず薬剤を使わない「先行周期」で排卵を確認し、その後に排卵誘発剤を用いる「調節卵巣刺激(COS)周期」で採卵を行います。研究チームは、この2つの周期それぞれの卵胞期(月経開始から排卵または採卵まで)にわたり、参加者に「今どのくらいストレスを感じていますか(1〜10のスケール)」という質問を、朝8時・午後2時・夜8時の1日3回、テキストメッセージで送信しました。あわせて、家庭用のホルモン測定機器を用いて尿中のLH(黄体形成ホルモン)やプロゲステロン代謝物なども毎日測定し、排卵の有無を確認しました。

集められたストレスの推移データは、関数主成分分析(FPCA)という手法で解析されました。これは、日々ばらつくストレスの波形を、いくつかの典型的な「パターン(主成分)」に分解する統計手法です。得られた主成分の得点と、排卵の有無、卵胞期の長さ、LHのピーク値、そして体外受精の成績(採卵数、胚盤胞の発育、妊娠・出産など)との関連が検討されました。

ストレスは周期を通じて緩やかに変動していた

テキストメッセージへの回答率は、先行周期で55.6%、COS周期で75.7%(いずれも参加者あたりの平均)でした。ストレスの得点は、多くの参加者で1〜10のスケールのうち概ね2〜5点程度の「軽度〜中等度」の範囲に収まっていました。

FPCAの結果、先行周期・COS周期のいずれにおいても、ストレスの変動パターンの9割前後は、単一の主成分(第1主成分、PC1)で説明できました。先行周期ではPC1とPC2をあわせて96.5%(PC1が92.0%、PC2が4.5%)、COS周期では95.0%(PC1が88.7%、PC2が6.3%)の変動が説明されています。PC1は、周期の前半でストレスが下がり、その後横ばいになるという、多くの参加者に共通する緩やかなパターンを表していました。

先行周期では、25人全員が排卵しました。ストレスのパターン(PC1・PC2)は、排卵の有無や卵胞期の長さとは統計的に関連していませんでした(卵胞期長との関連:PC1のβ=−0.28[95%信頼区間−0.71〜0.16]、PC2のβ=−0.74[95%信頼区間−2.17〜0.68])。

体外受精の成績にも、ストレスパターンとの関連は見られなかった

COS周期では、平均10.5日間(標準偏差2.2)の刺激を経て、平均13.9個(標準偏差6.9)の卵子が採取され、平均4.8個(標準偏差3.2)の胚盤胞が得られました。一方で、10人(40%)が「周期の中止」「採卵数4個未満」「胚盤胞が得られない」「正倍数性の胚盤胞が得られない」のいずれかに該当する、あらかじめ定義された不良な治療成績の基準を満たしていました。

しかし、ストレスの変動パターン(PC1・PC2)は、この不良な治療成績とも、刺激期間の長さとも、統計的に有意な関連を示しませんでした。移植を受けた参加者における臨床妊娠率・生児出生率(いずれも初回移植後66.7%)についても、ストレスパターンとの関連は認められませんでした。卵胞期を前期・中期・後期の3つに分けて解析した探索的な検討でも、COS周期の成績との関連は見られませんでした。

唯一関連が見えたのは、LHのピーク値だけだった

排卵や妊娠・出産といった主要な指標には関連が見られなかった一方、先行周期における第2主成分(PC2、卵胞期の中頃にストレスのピークがあり、その後緩やかに上昇するパターン)は、排卵直前のLHピーク値の低さと関連していました(β=−2.64、95%信頼区間−4.89〜−0.39、p=0.024)。この関連は、他の交絡因子を調整した解析でも維持されました(β=−2.52、95%信頼区間−4.14〜−0.90、p=0.006)。

この結果は、動物実験などで示されてきた仮説──ストレスによるホルモン変化が、キスペプチンという脳内の神経細胞群を介してLHの分泌パターンに影響しうるという仕組み──と方向性が一致するものです。ただし、この関連は排卵そのものの成否や卵胞期の長さの変化としては表れておらず、研究チームは「臨床上の主要な結果には影響しない、比較的軽微な生理学的変化」と位置づけています。なお、先行周期とCOS周期のストレス水準を比較したところ、両者はおおむね同程度で、参加者が日々報告した「最も低いストレス」の値のみ、先行周期のほうがわずかに低い傾向が見られました(p<0.05)。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、不妊治療に伴う心理的ストレスへの関心が高まる一方で、日々のストレスをどこまで治療方針に反映させるべきかについては、明確なコンセンサスがあるわけではありません。今回の結果は、軽度から中等度のストレスを経験している患者において、日常的なストレスの変動そのものが、排卵や体外受精の主要な治療成績を大きく左右するわけではない可能性を示しています。

診察室で不妊治療に関わる医師や心理士にとっては、この知見は「ストレスを感じること自体が治療の失敗に直結するわけではない」という説明の裏付けの一つになり得ます。ただし、この研究で測定されたのは特定の集団における軽度〜中等度のストレスであり、より強いストレスを抱える患者や、うつ・不安症状が顕著な患者における影響までを否定するものではない点には注意が必要です。

研究の強みと限界

本研究の強みは、1日3回のテキストメッセージという実施可能性の高い手法で、2つの周期にわたる心理的ストレスの推移をリアルタイムに追跡した点、そして家庭用のホルモン測定機器を用いて毎日の排卵関連ホルモンを客観的に評価した点にあります。関数主成分分析という手法により、単純な「高い・低い」の二分類では捉えられない、時間的な変動パターンを可視化できたことも特徴です。

一方で限界もあります。第一に、参加者は25人と少なく、大きな効果しか検出できるだけの検出力しかありません。小さな効果や、サブグループごとの違いを検出するようには設計されていませんでした。第二に、コルチゾールなど客観的な生理学的ストレス指標は測定されておらず、あくまで主観的な自己申告のストレスに基づく結果です。第三に、用いられたストレス指標は不妊症に特化したものではなく、参加者が経験していたストレスの水準自体も、軽度〜中等度の範囲にとどまっていた可能性があります。生殖機能に影響を及ぼすほどの強いストレスを抱えた集団であれば、異なる結果が得られる可能性は否定できません。

おわりに

今回の研究は、体外受精を受ける女性の日常的な心理的ストレスを、テキストメッセージによる反復測定という形で丁寧に追跡した探索的な検討です。軽度から中等度のストレスを経験している集団では、ストレスの変動パターンは比較的安定しており、排卵や体外受精の主要な治療成績とは明確な関連を示しませんでした。一方で、特定のストレスパターンとLHピーク値との関連は示唆されており、ストレスがHPO系の生理機能に微細な影響を及ぼしている可能性は残されています。今後、より多様なストレス水準の集団を対象とした、より大規模な前向き研究による検証が期待されます。

参考文献

1. Strohl H, Do N, Ryu H, Dayo O, Ho E, Hu J, Kauffman A, Stelzer I, Lang A, Church K, Zou J, Su I. Association of daily perceived stress with fertility outcomes in natural and controlled ovarian stimulation cycles: a feasibility study. J Assist Reprod Genet 2026. doi:10.1007/s10815-026-03972-5.

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