不妊は、避妊をせずに1年以上性交渉を続けても妊娠に至らない状態と定義され、先進国では年間3.5〜16.7%、途上国では6.9〜9.3%程度の女性が経験するとされています。20〜44歳女性における原発性不妊の頻度は1.9%、続発性不妊は10.5%にのぼり、世界的な不妊の負担は年率0.37%で増加を続けています。
肥満は、この不妊リスクを高める要因のひとつとして知られてきました。過体重の女性は排卵障害を起こしやすく、自然妊娠の可能性が低下し、体外受精の成績も不良になりやすいことが報告されています。肥満の評価には従来、体格指数(BMI)が広く用いられてきましたが、BMIは体重と身長から算出されるため、脂肪と筋肉を区別できず、内臓脂肪の蓄積を正確に反映しにくいという限界があります。
こうした背景から、2013年に提唱された体型指標(body roundness index、BRI)が注目されています。身長とウエスト周囲径から算出されるこの指標は、内臓脂肪の量をより的確に反映するとされ、脂肪肝や糖尿病、心血管疾患のリスク評価での有用性が示されてきました。BRIと不妊の関連についても、これまでにいくつかの報告がありましたが、年齢や妊娠歴による違いを詳細に検討したものは限られていました。こうした課題に取り組んだ研究が、Gynecological Endocrinology誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1080/09513590.2026.2699531)。
方法──米国の3,597人の女性を、体型指標BRIで分類した
対象は、米国国民健康栄養調査(NHANES)の2013-2014年、2015-2016年、2017-2020年の3期のデータです。当初35,706人の参加者から、男性、18〜45歳の年齢範囲外の女性、子宮全摘または両側卵巣摘出を受けた女性、不妊に関する情報が欠損している女性、BRIデータが欠損している女性を順次除外し、最終的に3,597人の女性が解析対象となりました。
BRIは、身長とウエスト周囲径から算出される指標です。ウエスト周囲径は、非伸縮性のメジャーを用いて、通常の呼気後にへそのあたりで測定されました。不妊の有無は、「1年以上避妊せずに妊娠を試みても妊娠しなかった経験があるか」「妊娠できないことで医療機関を受診した経験があるか」という2つの質問への回答をもとに、いずれかに『はい』と答えた女性が不妊歴ありと判定されました。
年齢、人種、教育歴、婚姻状況、貧困率、BMI、喫煙・飲酒状況、睡眠、身体活動量、糖尿病・高血圧の既往、妊娠歴、初経年齢、骨盤内感染症治療歴、ホルモン使用歴、月経周期の規則性といった交絡因子を調整したうえで、多変量ロジスティック回帰分析によりBRIと不妊の関連が検討されました。あわせて、BRIを三分位に分けた解析、年齢・妊娠歴による層別解析、そして非線形の関連を捉えるための平滑化曲線解析も行われました。
BRIが1上がるごとに、不妊リスクは9%増加していた
解析対象となった3,597人のうち、483人(13.43%)が不妊歴ありと判定されました。不妊歴のある女性は、不妊歴のない女性に比べて年齢が高く(34.53歳 vs 32.09歳)、BMI(31.75 vs 29.38kg/m²)、BRI(6.34±3.07 vs 5.45±2.72)ともに高い値を示していました。
年齢、婚姻状況、貧困率、喫煙状況、睡眠トラブル、身体活動量、妊娠歴、骨盤内感染症治療歴、ホルモン使用歴、高血圧、糖尿病を調整した多変量解析でも、BRIと不妊の関連は保たれていました(調整オッズ比1.09、95%信頼区間1.05〜1.13)。これは、BRIが1単位上昇するごとに、不妊リスクがおよそ9%高くなることを意味します。
BRIを三分位に分けた解析では、その差はより顕著でした。BRIが最も低い群(Q1)を基準とすると、最も高い群(Q3)の不妊リスクは78%高いという結果でした(オッズ比1.78、95%信頼区間1.37〜2.32)。婚姻状況が離死別・別居の女性、女性ホルモン使用歴のない女性、高血圧のない女性を除く大半のサブグループで、BRIと不妊の正の関連は一貫して認められました。
S字カーブが示す「若い女性」「妊娠未経験」の特徴
年齢と妊娠歴については、BRIと不妊の関連に交互作用の可能性が示されました(P<0.05)。ただし、多重比較の補正(偽発見率補正)を行うと、この交互作用は統計学的に有意ではなくなりました。
一方、平滑化曲線による解析では、36歳未満の女性群と妊娠歴のない女性群において、BRIの上昇とともに不妊の可能性が急激に高まり、その後一定の水準で頭打ちになる『S字型』の関係が観察されました。36歳未満の女性では、BRIが9.45に達するまでは、BRIが1単位上がるごとに不妊リスクが20%増加していました(オッズ比1.20、95%信頼区間1.12〜1.28)。この値を超えると、リスクの上昇は統計学的に有意ではなくなりました。妊娠歴のない女性でも同様の傾向がみられ、BRIが7.39に達するまではBRIの上昇に伴い不妊リスクが34%増加していました(オッズ比1.34、95%信頼区間1.14〜1.56)が、その後は頭打ちとなりました。
これに対して、36歳以上の女性群や妊娠歴のある女性群では、BRIの上昇に伴い不妊リスクが緩やかに直線的に増加する関係が観察され、明確な頭打ち(飽和効果)は見られませんでした。
関連のしくみについては、内臓脂肪の蓄積が性ホルモンの分泌に影響を及ぼす可能性が論じられています。内臓脂肪は遊離脂肪酸の血中放出を増やし、インスリン抵抗性と代償性の高インスリン血症を引き起こします。この状態は肝臓での性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の合成を抑制し、アンドロゲンの生理活性を高めることで、視床下部-下垂体-卵巣系の働きを乱し、卵胞閉鎖や排卵障害につながると考えられています。こうした機序は、内臓脂肪の蓄積、高アンドロゲン血症、排卵障害を特徴とする多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)とも重なる部分が多いとされています。
また、肥満の女性では血中レプチン濃度が高くなる傾向があります。レプチンは正常範囲(10〜20ng/mL程度)では卵巣の顆粒膜細胞の働きや卵子の成熟を助けますが、極端に高い濃度になるとエストラジオールやプロゲステロンの分泌を妨げる方向に働くとされ、肥満に伴う高レプチン血症がレプチン抵抗性を通じてエストロゲン産生を妨げている可能性が指摘されています。
「BMIでは見えない」内臓脂肪リスクを、どう伝えるか
BRIはウエスト周囲径と身長から算出されるため、BMIが同じ値であっても、内臓脂肪の蓄積の程度を区別できる可能性があります。実際、内臓脂肪は末梢脂肪に比べて内分泌・代謝への影響が強いとされ、上半身型の脂肪分布を持つ女性は下半身型に比べて不妊リスクが高いことも報告されています。BRIは、体脂肪の『量』だけでなく『分布』の情報も反映しうる指標として位置づけられています。
日本では、不妊治療を検討する女性に対してBMIを用いた体重管理の指導が行われることは少なくありませんが、BRIのような体脂肪分布を反映する指標を併用する意義については、まだ十分に検討されているとは言えません。今回の結果は、特に36歳未満で妊娠歴のない女性において、BRIが一定の範囲を超えると不妊リスクが急激に高まる可能性を示しており、若い年代での体重・体脂肪管理の重要性を裏付ける材料になり得ます。一方で、36歳以上や妊娠歴のある女性では関連が緩やかであり、年齢や背景に応じた個別化された説明のあり方が、今後の臨床現場での検討課題になると考えられます。
研究の強みと限界
本研究の強みは、米国の代表的な健康調査であるNHANESの複数期のデータを統合し、3,597人という大規模な集団でBRIと不妊の関連を検討した点、そして年齢や妊娠歴による層別解析や非線形の関連まで踏み込んで解析した点にあります。
一方で、いくつかの限界も述べられています。第一に、横断研究であるため、BRIの上昇が不妊の原因なのか結果なのかを区別できず、因果関係ではなく仮説として捉える必要があります。第二に、不妊の判定は参加者の自己申告に基づいており、実際の診療記録と比べて自己申告による不妊歴の信頼性は低いことが知られているため、想起バイアスによる誤分類の可能性があります。第三に、男性側の要因や環境要因、遺伝的要因など、NHANESの質問票に含まれない交絡因子を完全には除外できていません。24時間食事調査については欠損や想起バイアスの問題から調整に用いられておらず、栄養摂取の影響も十分には検討されていません。第四に、対象が米国女性に限られているため、人種構成や医療制度、生活習慣が異なる他国への一般化には注意が必要とされています。第五に、身長やウエスト周囲径の測定には測定者間のばらつきなどの限界があり得るものの、NHANESでは標準化された測定手順や機器の定期校正など、精度管理の体制が整えられています。
おわりに
今回の研究は、米国の代表的な健康調査データを用いて、体型指標BRIと女性の不妊との関連を大規模に検証したものです。BRIが1単位上昇するごとに不妊リスクは9%、三分位で最も高い群では最も低い群に比べて78%高くなることが示されました。特に36歳未満の女性や妊娠歴のない女性では、BRIの上昇とともに不妊リスクが急激に高まり、その後頭打ちになるS字型の関係が観察されています。これらの知見は、BRIが内臓脂肪の蓄積を反映する指標として、女性の不妊リスク評価に活用できる可能性を示すものです。ただし、横断研究としての限界から、今後は前向きの縦断研究によって因果関係を検証していくことが必要とされています。
参考文献
1. Fang Z, Xu L, Zhang Y, Wang X. Association between body roundness index and infertility in US women: data from National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) 2013–2020. Gynecol Endocrinol 2026;42(1):2699531. doi:10.1080/09513590.2026.2699531.
