体外受精における胚移植では、胚の質だけでなく、子宮内膜が着床を受け入れられる状態にあるかどうかも成績を左右します。子宮内膜が胚を受け入れられる限られた期間は「着床の窓(Window of Implantation、WOI)」と呼ばれ、標準的なホルモン補充周期(HRT)では、この窓がすべての患者で同じタイミングに訪れるという前提のもとで移植日が決められてきました。しかし実際には、窓の時期が標準よりも前後にずれている患者が一定数存在することがわかってきています。
この「窓のずれ」を遺伝子発現解析で調べ、個々の患者に合わせて移植日を調整する手法は、個別化胚移植(personalized embryo transfer、pET)と呼ばれています。反復着床不全(recurrent implantation failure、RIF)の患者を対象とした一部の観察研究やランダム化比較試験ではpETによる成績改善が報告されてきた一方、対象を限定しない集団や初回の体外受精周期を含む研究では、明確な効果が確認できていないという報告も多く、両者の結果は一致していません。この違いが、患者集団の選び方によるものなのか、検査手法の違いによるものなのか、あるいは着床の窓そのものが時間とともに変化する性質を持つためなのかは、これまで十分に検討されていませんでした。
こうした背景のもと、Reproductive Medicine and Biology誌(2026年)に、日本の生殖医療クリニックで実施された前向きコホート研究が掲載されました。RT-qPCR法による子宮内膜受容能検査(ERPeakSM)を用いたpETが、RIF患者と非RIF患者それぞれでどの程度成績に影響するのかを比較するとともに、着床の窓が時間の経過とともにどれほど安定しているのかを、繰り返し検査を受けた患者のデータから検証した内容です(doi:10.1002/rmb2.70081)。
方法──RIFと非RIF、二つの集団で移植成績を比較した
対象は、2022年8月から2023年12月にかけて日本の民間生殖医療クリニックで凍結融解胚移植(FET)を受けた患者1,295人です。RIFは、グレードの高い胚盤胞(Gardnerスコア3BB以上)を1個または2個移植する胚移植を3回以上連続して受けても臨床妊娠に至らなかった場合と定義されました。ホルモン補充周期(HRT)による主解析では、RIF群725人のうち199人がpET、272人が標準タイミングでの移植(npET)を受け、非RIF群570人のうち74人がpET、351人がnpETを受けています。
子宮内膜受容能検査には、48種類の遺伝子発現を調べるRT-qPCR検査(ERPeakSM)が用いられました。この検査は子宮内膜の状態を「レセプティブ(至適タイミング)」「プレレセプティブ(窓がまだ開いていない状態で、24時間の移植延期が必要)」「ポストレセプティブ(窓を過ぎた状態で、24時間の移植前倒しが必要)」の3つに分類します。pET群では、検査結果に応じて移植日が個別に調整されました。
背景因子の違いを調整するため、母体年齢、父親年齢、抗ミュラー管ホルモン(AMH)値、BMI、妊娠・分娩歴、不妊期間、これまでの胚移植回数、移植胚数を用いた傾向スコアマッチング(PSM)が行われ、RIF群では161組、非RIF群では67組のペアが作成されました。さらに、より生理的な状態に近いとされる修正自然周期での凍結融解胚移植(mNC-FET)についても、逆確率重み付け(IPTW)を用いた副次解析が行われています。加えて、複数回の検査を受けた患者のデータから、着床の窓の時間的安定性がカプランマイヤー法で評価されました。
RIF患者では生児出生率が2.25倍、非RIF患者では差なし
PSMで背景をそろえたRIF群(161組)では、pET群の生児出生率が41.0%だったのに対し、npET群は23.6%にとどまり、調整オッズ比は2.25(95%信頼区間1.39〜3.64、p<0.001)でした。数字で見ると、pETを受けた場合、生児出生に至る確率がおよそ2.25倍に高まったことになります。流産率についても、pET群17.4%に対しnpET群36.2%と、pET群のほうが明らかに低く、調整オッズ比は0.37(95%信頼区間0.17〜0.82、p=0.014)でした。臨床妊娠率も、pET群54.0%、npET群32.9%(調整オッズ比2.40、p<0.001)と、pET群で高い値が確認されています。移植された胚が正倍数性(染色体数に異常がない)と確認された胚に限定したサブ解析でも、RIF患者における生児出生率はpET群54.5%、npET群24.2%(p<0.05)と、有意な差が保たれていました。
一方、同じくPSMで背景をそろえた非RIF群(67組)では、pET群の生児出生率35.8%、npET群25.4%と数値上はpET群のほうが高いものの、調整オッズ比は1.54(95%信頼区間0.73〜3.24、p=0.26)で統計学的な有意差には至りませんでした。流産率にも有意差はありませんでした(22.6% vs. 29.2%、p=0.54)。窓のずれが確認された患者の割合そのものは、RIF群48.3%、非RIF群46.6%とほぼ同程度であり(p=0.82)、窓のずれの有無だけでは、pETの効果がRIF患者に限って現れた理由を十分に説明できないとされています。論文では、非RIF患者のうち検査を選択した層に、高齢や卵巣予備能低下といった別の予後不良因子が重なっていた可能性が指摘されており、残余交絡の影響も否定できないとされています。
修正自然周期でも、個別化移植の効果が示唆された
修正自然周期での凍結融解胚移植(mNC-FET)を受けたRIF患者72人(ERPeakSM群19人、対照群53人)を対象とした副次解析では、IPTWで背景因子を調整した後、ERPeakSM群の生児出生率46.3%に対し、対照群は19.2%で、オッズ比は3.63(95%信頼区間1.17〜11.30、p=0.026)でした。修正自然周期は内因性のホルモン変動に沿うため、標準的なHRT周期よりも生理的な着床の窓に近いと考えられてきましたが、この結果は、自然周期であっても一部のRIF患者では窓のずれが残っている可能性を示しています。ただし対象数が19人と少なく、信頼区間の幅も広いため、論文では今後より大規模な前向き研究での確認が必要とされています。
着床の窓は一生同じではない──加齢とともに変化する
この研究のもう一つの特徴は、着床の窓が時間とともに変化するかどうかを検証した点にあります。複数回のERPeakSM検査を受けた105人、117件のデータを解析したところ、検査間隔の中央値は24.0か月(範囲6〜48か月)で、そのうち52件(44.4%)で窓の状態に変化(シフト)が確認されました。従来、患者ごとの着床の窓は一定であるという前提が置かれてきましたが、今回のデータは、半数近い患者で窓の位置が変わりうることを示しています。
カプランマイヤー分析では、窓が変化しないまま維持される期間の中央値は全体で34.0か月でした。年齢で層別化すると、38歳以上の患者(78人)では中央値30.0か月と、より早い時期に窓の変化が生じていたのに対し、38歳未満の患者(39人)では観察期間中に中央値に達しませんでした(ログランク検定、p=0.0059)。検査後12か月以内という短期間で見ても、37歳以下では窓の変化が確認された患者はゼロだった(0/7、0%)のに対し、38歳以上では31.3%(5/16)で変化が見られており、この差自体は統計学的有意には至らなかったものの(p=0.130)、加齢に伴う窓の不安定化を示唆する所見とされています。論文では、こうした変化の背景として、子宮内膜のホルモン受容体発現の低下や、細胞老化、血流の変化といった加齢に伴う生理的変化が挙げられています。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本の生殖医療現場では、子宮内膜受容能検査は先進医療の枠組みで評価が進められている段階にあり、その臨床的位置づけについて議論が続いています。今回の結果は、少なくともRIF患者においては、個別化された移植タイミングが妊娠・出産成績を押し上げうることを、比較的大規模な国内データで示した点に意義があります。一方で、RIF歴のない患者に対する一律の検査実施については、今回のデータからは明確な根拠が得られていません。日本の先進医療制度のもとでは、非RIF患者への検査は高齢や良質胚移植を予定する場合などに限って認められていますが、今回の結果は、その適用範囲をさらに慎重に検討する必要性を示すものといえます。
また、着床の窓が加齢とともに変化しうるという知見は、一度検査を受ければその結果が長期にわたって有効という前提を見直す材料になります。論文では、38歳以上の患者については18〜24か月ごとの再検査を検討する余地があるとされており、特に貴重な正倍数性胚を移植する場面では、こうした再評価のタイミングが臨床上の判断材料になり得ます。
研究の強みと限界
本研究の強みは、1,295周期という規模で、RIFと非RIFという二つの集団を分けて比較した点、そして傾向スコアマッチングやIPTWによる背景因子の調整に加え、着床の窓の時間的安定性という新しい視点を組み合わせて検証した点にあります。
一方で限界も述べられています。第一に、日本国内の単一施設による観察研究であり、他の集団への一般化には注意が必要です。第二に、検査を受けるかどうかは無作為に決められておらず、傾向スコアマッチングで測定された因子は調整されているものの、患者ごとの服薬状況や黄体ホルモンの吸収の個人差といった、測定されていない要因の影響は排除できません。第三に、mNC-FETの副次解析は対象数が小さく、効果の大きさについては一定の不確実性が残ります。第四に、着床の窓のシフトが起きた正確な時期は、2回の検査の間のどこかでしか特定できない(区間打ち切り)ため、今回示された再検査間隔は、あくまで保守的な目安とされています。また、pET群では移植前のモック周期で子宮内膜生検が行われており、この生検自体が着床を促す「エンドメトリアル・スクラッチング効果」を持つ可能性も、レセプティブと判定された患者でも成績が改善していた一因として指摘されています。
おわりに
今回の研究は、遺伝子発現解析に基づく個別化胚移植が、反復着床不全の患者においてはHRT周期・修正自然周期のいずれでも妊娠・出産成績を高めうることを示す一方、反復着床不全のない患者への一律の適用は支持しないという結果を提示しています。あわせて、着床の窓が固定されたものではなく、加齢とともに変化しうる動的な性質を持つことも示されました。これらの知見は、対象を選んだ検査運用や、年齢に応じた再評価のあり方を検討する土台になり得るものであり、今後は多施設でのランダム化比較試験による検証が必要とされています。
参考文献
1. Ohara Y, Abe K, Saito S, Karino A, Doshida M, Takeuchi T, Matsubayashi H, Ishikawa T, Handa M, Takiuchi T, Kodama M. Personalized Embryo Transfer Improves Live Birth Rates in Recurrent Implantation Failure: A Propensity Score-Matched Prospective Cohort Study With Window of Implantation Stability Analysis. Reprod Med Biol 2026;25:e70081. doi:10.1002/rmb2.70081.
