女性不妊は、妊娠を希望する女性の生活の質や心理面に大きな影響を及ぼすだけでなく、社会全体の健康課題としても関心が高まっています。世界保健機関(WHO)は、生殖年齢にある人のおよそ6人に1人が不妊を経験すると報告しており、その負担は先進国・途上国を問わず広がっています。ただし、原因や増加の背景は地域によって大きく異なると考えられており、社会経済的な発展度と不妊負担との関係を、時間軸と地域軸の両方から整理した研究はこれまで限られていました。
こうした背景のもと、世界疾病負担研究(Global Burden of Disease Study、GBD)2021のデータを用いて、1990年から2021年までの女性不妊の有病率と障害調整生存年(DALYs)を204か国・地域について分析し、2050年までの将来予測まで行った研究が、Gynecological Endocrinology誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1080/09513590.2026.2697103)。社会人口統計学的指数(Socio-demographic Index、SDI)という、教育水準・所得・出生率などから算出される発展度の指標をもとに国・地域を5段階に分け、年齢層別の傾向や将来予測まで踏み込んで検証した点が特徴です。
方法──204か国のデータを、発展度と年齢で層別化した
解析には、371の疾患・傷害について204か国・地域、1990年から2021年までのデータを収録するGBD 2021のデータベースが用いられました。女性不妊は、国際疾病分類第10版(ICD-10)のN97コード(避妊なしの性交を12か月以上続けても妊娠に至らない状態)に基づいて定義され、15〜49歳の女性を対象に、有病率・年齢調整有病率(ASPR)・DALYs・年齢調整DALY率(ASDR)が算出されました。
時間的な傾向は、年間推定変化率(Estimated Annual Percentage Change、EAPC)という指標で定量化されました。また、204か国は社会人口統計学的指数(SDI)によって高・高中・中・低中・低の5段階に分けられ、地域間の比較が行われました。将来予測には、ベイズ流の年齢・期間・コホートモデル(BAPCモデル)が用いられ、国連の人口予測と組み合わせる形で2050年までの推計が行われています。
世界全体で84%増、伸び率は横ばいではなかった
世界全体の女性不妊の有病数は、1990年の5,969万人から2021年には1億1,009万人へと、84.4%増加しました。単なる人口増加によるかさ上げではないことを示すのが年齢調整有病率(ASPR)で、こちらも10万人あたり2267.26人から2764.62人へと上昇し、年間推定変化率(EAPC)は0.70(95%信頼区間0.53〜0.87)でした。DALYsで見ても、32万5,940人相当から60万1,130人相当へとほぼ倍増しており、年齢調整DALY率のEAPCも0.71(95%信頼区間0.54〜0.88)と、有意な増加傾向が確認されています。
負担が重いのは中所得国、伸びが速いのは高所得国という逆説
社会人口統計学的指数(SDI)による5段階の分類で見ると、対照的な構図が浮かび上がりました。2021年時点で年齢調整有病率・DALY率がもっとも高かったのは高中SDI地域(それぞれ10万人あたり3180.18人、17.04人)で、中SDI地域(3027.65人)、低中SDI地域(2940.52人)もこれに次ぐ高い水準でした。一方、高SDI地域の年齢調整有病率は10万人あたり1415.80人ともっとも低く、絶対的な負担は軽いという結果でした。
ところが、増加のスピードだけを見ると様相が一変します。もっとも急激な増加を示したのは高SDI地域で、有病率のEAPCは1.43(95%信頼区間1.28〜1.58)、DALYsのEAPCも1.41(95%信頼区間1.25〜1.56)と、5段階の中で最大でした。低中SDI地域も有病率EAPC1.24、DALYs EAPC1.19と目立った増加を示した一方、低SDI地域の有病率EAPCは0.10と、ほぼ横ばいにとどまっています。つまり、現時点での負担の重さと、将来に向けた増加スピードとは、必ずしも一致しない構図が示されたことになります。
中央アフリカ共和国は10万人あたり5751人、中国は絶対数で世界最多
国別に見ると、2021年に有病数が世界最多だったのは中国(2,930万人、95%不確実区間1,457万〜5,210万人)で、DALYsの絶対数が最大だったのはインド(16万1,470人相当)でした。一方、年齢調整有病率・DALY率がもっとも高かったのは中央アフリカ共和国で、有病率は10万人あたり5751.56人、DALY率は31.4人に達しています。人口規模の大きさが絶対数を押し上げる要因と、医療体制の弱さが率を押し上げる要因とは、別々に働いていることがうかがえます。
地域内の差も際立っていました。南アジアでは、インド(EAPC=2.53)やバングラデシュ(EAPC=2.96)で有病率が上昇した一方、パキスタン(EAPC=−5.60)では低下しています。東南アジアでもベトナム(EAPC=2.07)とミャンマー(EAPC=−3.51)で対照的な傾向が見られました。高所得国の中でも一様ではなく、ドイツ(EAPC=4.70)、スペイン(EAPC=4.91)、ニュージーランド(EAPC=4.31)は上昇が目立つ一方、日本(EAPC=−0.36)やオーストラリア(EAPC=−0.19)はほぼ横ばいでした。もっとも急激な増加を示したのはアンデス地域のラテンアメリカで、有病率のEAPCは8.22(95%信頼区間6.7〜9.76)に達しています。
発症のピーク年齢は35〜39歳、高所得地域だけ40〜44歳へ
年齢層別に見ると、1990年・2021年のいずれにおいても、世界全体および5段階のSDI地域すべてで、35〜39歳が有病率・DALY率ともに最大でした。次いで負担が大きいのは30〜34歳で、多くのSDI地域でこの傾向が共通していましたが、高SDI地域だけは異なり、ピークが40〜44歳にずれていました。晩産化が進んだ地域ほど、不妊のリスクが高まる年齢帯そのものが後ろにずれていることを示す結果と考えられます。将来予測でも、2050年に向けてすべての年齢層で有病率・DALYsの増加が続くと見込まれています。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本の年齢調整有病率のEAPCは−0.36と、今回の分析ではほぼ横ばいと評価されています。ただし、これは日本において不妊の負担が軽いことを直接意味するわけではなく、もともとの有病率の水準や、多囊胞性卵巣症候群(PCOS)関連の不妊、晩産化の進み具合など、複数の要因が背景にある可能性があります。高SDI地域全体でピーク年齢が40〜44歳にシフトしているという知見は、加齢に伴う卵巣予備能や卵子の質の低下が主要な関連因子であることを示唆しており、日本の生殖医療の現場でも、年齢に応じたカウンセリングや治療計画の重要性を裏づける材料になり得ます。
一方で、中〜高中SDI地域に見られる、感染症由来の続発性不妊と加齢関連の原発性不妊とが重なり合う「移行期」の構図は、生殖補助医療へのアクセスや公的支援のあり方を検討するうえで参考になります。臨床現場では、患者の年齢層や既往歴に応じてリスク評価や説明の重点を調整する、地域・個別化されたアプローチの必要性が、今回のデータからも読み取れます。
研究の強みと限界
本研究の強みは、204か国・地域、1990年から2021年までの長期データを一貫した方法論で解析し、社会人口統計学的指数による層別化と2050年までの将来予測を組み合わせた点にあります。地域間の比較可能性を担保するGBDの標準化された枠組みを用いることで、これまで断片的だった知見を統合的に示すことができています。
一方で限界も指摘されています。第一に、この分析は女性不妊のみを対象としており、不妊の要因のおよそ半数を占めるとされる男性因子は含まれていないため、不妊全体の負担を過小評価している可能性があります。第二に、GBDの推計は各国の報告データに依存しており、診断基準や報告の質は国・地域によって差があるため、国際比較には一定の留保が必要です。第三に、この研究は記述的な設計であるため、環境要因や社会経済的要因と不妊負担との関連について、因果関係を証明するものではありません。文化的な要因や医療機関の受診行動といった、データ化しにくい要因も十分に捉えられていない点が挙げられています。
おわりに
今回の研究は、女性不妊の世界的な負担が1990年から2021年にかけて一貫して増加してきたこと、そしてその背景が地域によって大きく異なることを、これまでで最大規模のデータで示しました。中〜高中SDI地域では感染症由来の続発性不妊が引き続き大きな比重を占める一方、高SDI地域では晩産化に伴う加齢関連の負担が急速に増加しているという二重の構造が明らかになっています。2050年まで負担の増加が続くと予測されるなか、地域ごとの主要な原因に応じた対策――中所得国での感染症対策や生殖補助医療へのアクセス改善、高所得国での晩産化を見据えた支援策など――を検討していくことが、今後の課題として位置づけられています。
参考文献
1. Ning B, Wang X, Zhang M, Nan S, Bur R, Ma H, Liu K, La X. The global impact of female infertility: regional disparities and future projections from the GBD 2021 study. Gynecol Endocrinol 2026;42(1):2697103. doi:10.1080/09513590.2026.2697103.
