肥満が女性の不妊に関わることは広く知られていますが、体格指数(BMI)には限界もあります。BMIは身長と体重だけから算出されるため、筋肉と脂肪の比率や、内臓脂肪がどこにどれだけついているかを区別できません。見た目の体重が標準的でも、お腹まわりに脂肪が集中している場合、代謝面のリスクが過小評価される可能性が指摘されてきました。近年、腰囲と身長から算出する「ボディラウンドネス指数(BRI)」が、こうした内臓脂肪の分布をより精密に反映する指標として注目されています。
一方で、不妊治療を受けている女性のあいだでは、抑うつ症状の頻度が高いことも報告されています。肥満と抑うつのあいだには双方向的な関係があるとされ、肥満のある人は抑うつを発症するリスクが1.5〜2倍高い一方、抑うつのある人は生活習慣や生理的な要因を通じて肥満になりやすいことも知られています。では、内臓脂肪の蓄積と不妊との関係のなかで、抑うつはどのような役割を果たしているのでしょうか。この問いに、大規模な全米代表データを用いて答えを試みた研究が、Journal of Obstetrics and Gynaecology Research誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1111/jog.70415)。
方法──米国代表データ4,429人を、体格と気分の両面から追跡した
対象は、米国国民健康栄養調査(NHANES)の2013〜2018年サイクルに参加した29,400人のうち、女性14,948人から18歳未満を除いた9,318人です。このうち、不妊に関する質問と抑うつ症状に関する質問の両方に回答があり、追跡情報や主要な共変量に欠損がない4,429人が最終的な解析対象となりました。
不妊は、1年以上にわたり避妊なしで性交を続けても妊娠に至らなかったという自己申告に基づいて定義されました。BRIは、腰囲と身長を用いた計算式から算出され、体形の“丸み”を数値化する指標です。抑うつ症状は、9項目からなる自己記入式の質問票(PHQ-9、0〜27点)で評価され、10点以上は臨床的に意味のある抑うつとされました。年齢、人種・民族、教育歴、世帯の貧困所得比、喫煙状況、運動習慣、脂質異常症、糖尿病、高血圧といった因子を調整したうえで、BRIと不妊の関連、そして抑うつ症状がその関連をどの程度媒介しているかが解析されました。
BRIが高いほど、不妊リスクは着実に上がった
4,429人のうち527人(11.89%)が不妊と診断されていました。不妊のある女性は、ない女性に比べて年齢が高く、BRIの平均値も高く(6.37 対 5.77)、抑うつ症状の程度も強い傾向がありました。BRIを連続変数として扱った解析では、年齢・人種・教育歴・貧困所得比に加え、抑うつの程度や運動習慣、脂質異常症、糖尿病、高血圧まで調整したモデルでも、BRIが1単位上昇するごとに不妊リスクが8%高くなるという関連が残りました(オッズ比1.08、95%信頼区間1.02〜1.12、p=0.014)。
BRIを四分位に分けた解析でも同様の傾向がみられました。調整前の解析では、BRIが最も高い群(第4四分位)は最も低い群に比べて不妊のオッズが1.84倍でした(95%信頼区間1.26〜2.69、p=0.002、傾向性検定p=0.001)。共変量をフルに調整したモデルでは、この差はやや縮小し統計学的な有意水準にわずかに届きませんでしたが(オッズ比1.55、95%信頼区間1.00〜2.42、p=0.06)、BRIが高いほど不妊リスクも高くなるという右肩上がりの傾向自体は、調整の仕方を変えても一貫して認められています。
「うつ」が橋渡しする割合は、BRIが高い人ほど大きくなった
この研究の中心的な問いは、BRIと不妊の関連のうち、どの程度が抑うつ症状を介した間接的な経路によるものかという点でした。媒介分析の結果、対象者全体では、BRIが不妊に及ぼす総合的な影響のうち4.46%が抑うつ症状(PHQ-9スコア)を介したものと推定されましたが、この割合自体は統計学的に有意ではありませんでした(p=0.11)。つまり全体としては、BRIから不妊への影響の大部分は、抑うつを介さない直接的な経路によるものだったことになります。
ところが、BRIが5.2を超える群に限って解析すると、様相が変わりました。この高BRI群では、抑うつ症状を介した間接効果が統計学的に有意となり(p=0.018)、総合効果に占める媒介割合は9.13%まで上昇しました。研究チームが示した予測モデルでは、BRIとPHQ-9スコアを組み合わせ、5.2という閾値でスクリーニングを行うと、従来の不妊関連の検査よりも高い82%の特異度で生殖能力の低下を検出できるとも報告されています。内臓脂肪の蓄積が強い層ほど、気分の状態が不妊リスクに関与する余地が大きくなる可能性を示すデータといえます。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本の診療の場では、不妊の背景因子として体重やBMIに基づく指導が行われることが一般的です。今回の結果は、BMIが正常範囲であっても、腰囲に反映される内臓脂肪の蓄積が不妊リスクと関連しうることを示しており、体重だけでは見えにくいリスクを拾い上げる視点の必要性を示唆しています。加えて、抑うつ症状の評価を、内臓脂肪の蓄積が強い患者に対してはより意識的に組み込むという考え方も、今後の議論の材料になり得ます。
ただし、この研究で用いられた不妊の定義は医師による診断ではなく自己申告に基づくものであり、また対象は米国の成人女性です。日本の臨床現場でそのまま同じ数値を適用することはできず、体形や体格の分布、生活習慣の違いを踏まえた検証が別途必要になります。
研究の強みと限界
本研究の強みは、全米を代表する大規模な公的調査データを用い、4,429人という規模で、BRIと抑うつ症状という二つの要因を同時に評価した媒介分析を行った点にあります。BMIに代わる指標としてBRIの有用性を示すとともに、内臓脂肪と気分の状態がどのように不妊リスクに関わりうるかを定量的に検討した点は、今後の研究の土台となるものです。
一方で限界も少なくありません。第一に横断研究であるため、抑うつが不妊のリスクを高めるのか、不妊という経験自体が抑うつをもたらすのか、時間的な前後関係を明らかにすることはできません。第二に、不妊の判定が自己申告に基づいており、医学的な診断や原因の分類を伴わない点で、実際の臨床上の不妊とは異なる可能性があります。第三に、運動習慣や食事内容など一部の変数も自己申告に基づいており、測定の誤差が生じ得ます。第四に、対象者の年齢は18〜45歳の米国成人女性に限られており、他の年齢層や集団への一般化には注意が必要です。そして、対象者全体でみた媒介効果の割合(4.46%)自体は統計学的に有意ではなく、抑うつ症状が果たす役割は限定的、あるいはBRIが高い一部の層に限られる可能性がある点も踏まえて解釈する必要があります。
おわりに
今回の研究は、内臓脂肪の蓄積を反映するBRIが女性の不妊リスクと関連すること、そしてその関連の一部が、特にBRIが高い層において抑うつ症状によって媒介されうることを、大規模な公的データから示しました。体重だけでなく体形の分布と気分の状態の両面から不妊リスクを捉える視点は、今後の予防や個別化された支援を考えるうえでの一つの手がかりになり得ます。今回の知見を臨床の場に直接反映させるには、前向き研究による時間的関係の検証や、日本を含む他の集団での再現性の確認が今後の課題とされています。
参考文献
1. Ding H, Fei Y, Chai Y, Liu Y, Xu J, Kai G, Sun Y, He Y, Zhang L. Mediating Role of Depression in the Association Between the Body Roundness Index and Female Infertility: A Cross-Sectional Study Using Data From the National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES) 2013–2018. J Obstet Gynaecol Res 2026;52:e70415. doi:10.1111/jog.70415.
