腟内には乳酸桿菌(ラクトバチルス)を中心とする細菌叢が存在し、これが女性の生殖にかかわる健康と深く関係することは、これまでの研究で繰り返し示されてきました。一方で、腟から子宮頸管、子宮内膜へと続く生殖管の細菌叢がどこまで共通しているのか、さらにその外側にある尿路や直腸との関係がどうなっているのかについては、十分に整理されていませんでした。とりわけ、腟のすぐ隣にある尿路や直腸の細菌叢を、不妊症の女性を対象に系統立てて調べた研究はまれでした。
こうした背景のもと、子宮内膜症や着床不全といった婦人科疾患において細菌叢の乱れ(ディスバイオーシス)が関与している可能性が指摘されてきましたが、報告ごとに結果が一致せず、議論には決着がついていませんでした。
このような状況で、Reproductive Biology and Endocrinology誌(2026年)に、スペインの大学病院で実施された横断研究が掲載されました。136人の不妊症女性を対象に、腟・子宮頸管・子宮内膜・尿・直腸という5つの部位から同時に検体を採取し、生殖管とその隣接部位の細菌叢を包括的に地図化するとともに、子宮内膜症と着床不全(RIF)との関連を検証した内容です(doi:10.1186/s12958-026-01595-0)。
方法──5部位から同時に検体を採取した
対象は、2019年3月から2024年3月にかけてスペイン・グラナダの大学病院生殖医療部門に登録された、生殖年齢の不妊症女性136人です。全員が排卵検査薬で黄体形成ホルモン(LH)のピークを確認し、その7〜9日後にあたる着床期(中黄体期)に、腟・子宮頸管の擦過検体、子宮内膜の擦過検体、中間尿、直腸の擦過検体という5種類の検体を連続して採取しました。ホルモン治療を受けていない自然周期の女性に限定し、骨盤内炎症性疾患や全身性疾患を有する女性は除外されています。
検体は16S rRNA遺伝子(V4領域)の解析にかけられ、細菌の属レベルでの同定が行われました。子宮内膜や尿のように菌量が少ない検体については、陰性コントロールに含まれる菌を差し引く除染処理が行われ、結果の精度が高められています。最終的に、5部位すべての検体が揃った104人、合計520検体が解析対象となりました。このうち74人については、子宮内膜症(24人)、着床不全(22人)、男性因子による不妊(対照群、28人)という3群に分けた比較解析も行われています。
腟から子宮頸管へ、そして子宮内膜へ──緩やかに変わる細菌叢
腟・子宮頸管・子宮内膜・尿の細菌叢を比較すると、乳酸桿菌属(Lactobacillus)の存在量には明確な勾配が見られました。乳酸桿菌の相対存在量(中央値)は、腟で98.4%、子宮頸管で98.7%と、下部生殖管ではほぼ独占的でした。子宮内膜になると46.3%まで下がり、尿では69.7%という中間的な値を示しました。対照的に、直腸ではわずか0.4%にとどまっています。
腟と子宮頸管の細菌叢は非常によく似ており、この2部位間で有意な差が見られた細菌はわずか15属にとどまりました。一方、子宮頸管と子宮内膜のあいだでは172属、腟と子宮内膜のあいだでは166属もの細菌で存在量に有意差が認められています。全体の傾向として、腟から子宮内膜に向かうにつれて細菌の種類の豊富さ(多様性)は増える一方、菌の総量(バイオマス)自体は減っていくという構図が示されました。
個人ごとの細菌叢の類似度(Bray-Curtis類似度)を見ると、腟と子宮頸管のあいだでは中央値78.9%と高い一致を示した一方、子宮頸管と子宮内膜では54.7%、腟と子宮内膜では49.1%にとどまりました。対象者の93.3%(97人)で、腟と子宮頸管の細菌叢の類似度は50%を超えていました。この結果は、腟から子宮頸管にかけては連続的な細菌叢の広がりがある一方、子宮内膜はやや独自性を保っていることを示唆しています。
直腸だけが、まったく違う顔をしていた
全5部位を対象にした統計解析(PERMANOVA)では、5部位間の細菌叢の組成に有意な違いが確認されました(調整後P値=0.001、R2=0.259)。個別の部位同士を比較したところ、有意差が見られなかったのは腟と子宮頸管の組み合わせだけで(調整後P値=0.052)、それ以外のすべての組み合わせで統計学的に有意な違いが検出されています。
なかでも直腸の細菌叢は、他の4部位(腟・子宮頸管・子宮内膜・尿)とは明確に異なる独自の構成を示しました。直腸で最も多い属はプレボテラ(Prevotella)属で、次いでバクテロイデス(Bacteroides)属、フィネゴルディア(Finegoldia)属、ペプトニフィルス(Peptoniphilus)属と続き、腟や子宮頸管の顔ぶれとは大きく異なっていました。多様性の指標(シャノン多様性指数)でも、直腸は他のどの部位よりも高い値を示しています。
尿の細菌叢は、乳酸桿菌が優位という点で腟・子宮頸管に近い性質を持ちつつも、ガードネレラ(Gardnerella)属やプレボテラ属といった菌も一定量含まれており、生殖管と直腸の中間的な位置づけにあることがうかがえました。研究チームは、尿がまず先に採取された後に生殖管の検体が採られたという採取順序が、この類似性の一部に影響した可能性にも触れています。
子宮内膜症と着床不全──細菌叢の違いは「わずか」だった
子宮内膜症(24人)、着床不全(22人)、対照群(男性因子による不妊、28人)の3群を比較したところ、細菌叢全体の多様性や組成パターン(アルファ多様性・ベータ多様性)には、どの部位でも統計学的に明確な差は見られませんでした。個々の細菌の存在量を比較する解析では、多重検定の補正前の段階では複数の候補となる細菌が見つかったものの、統計的な誤検出を防ぐための補正(FDR補正)を行うと、そのほとんどが有意水準を下回らなくなりました。
唯一、補正後も有意差が残ったのは腟の細菌叢でした。子宮内膜症群では、ベイロネラ科(Veillonellaceae)に属する未同定の細菌が対照群より多く、逆にビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、アシネトバクター(Acinetobacter)属、ハワーデラ(Howardella)属という3つの細菌は対照群でより多く検出されました。これらの傾向は、これまでの複数の研究でも同様の方向性が報告されており、今回の結果と一致しています。
これらの細菌のうち、ビフィドバクテリウム属やハワーデラ属は腸内細菌としてエストロゲン代謝への関与が知られており、研究チームは、肛門と腟の距離が短いといった解剖学的な近さを介して、腸内の細菌が腟へと移行している可能性を議論しています。子宮内膜症はエストロゲン依存性の疾患であるため、こうした細菌がエストロゲンの活性化にかかわる酵素(β-グルクロニダーゼ)を持つ場合、局所のホルモン環境に影響する経路になりうるという仮説です。ただし、これはあくまで関連の域を出るものではなく、因果関係を示すものではありません。
さらに、遺伝子データから代謝経路を推定する解析(PICRUSt2による機能予測)でも、子宮内膜症群・着床不全群・対照群のあいだで、統計学的に有意な代謝経路の違いは見つかりませんでした。子宮内膜については、子宮内膜症群でフソバクテリウム(Fusobacterium)属がやや多い傾向が見られましたが、こちらも多重検定補正後には有意水準に届いていません。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本では、子宮内膜や腟の細菌叢を着床不全や子宮内膜症の評価に用いる検査が一部で提供されていますが、今回の結果は、細菌叢の違いを臨床的な指標として扱うことへの慎重さを改めて示すものといえます。腟の一部の細菌を除けば、子宮内膜症や着床不全において細菌叢全体の組成に明確な違いは見出されておらず、単一の細菌の存在や不在をもって疾患の有無を判断することの難しさが浮き彫りになりました。
一方で、腟の細菌叢と子宮内膜症との関連は、複数の独立した研究で同じ方向の結果が積み重なりつつある分野でもあります。臨床現場では、腟内細菌叢が将来的に子宮内膜症の非侵襲的な補助的指標(バイオマーカー)になりうるかという観点から、今後の研究の動向を追っていく価値があると考えられます。着床不全については、腟から直腸に至る細菌叢の全体像を見る限り、明確な関連は今回示されませんでした。
研究の強みと限界
本研究の強みは、同一の女性から5部位の検体を同時に、かつ着床期という同じ周期段階に統一して採取した点、また尿と直腸という、これまで手薄だった隣接部位までを含めて解析した点にあります。104人・520検体という規模も、この種の研究としては大きい部類に入ります。
一方で限界もあります。第一に横断研究であり、細菌叢の違いが疾患の原因なのか結果なのかを判断することはできません。第二に、16S rRNA遺伝子のV4領域のみを対象とした解析であるため、属より細かい菌種レベルの同定はできておらず、他の領域を用いた先行研究との単純な比較には注意が必要です。第三に、経頸管的に採取する子宮内膜検体は、特殊な二重シールド器具を用いても下部生殖管からのコンタミネーションを完全には排除できず、子宮内膜における乳酸桿菌の検出割合が実際より高く出ている可能性が指摘されています。第四に、単一の医療施設におけるデータであるため、他の集団への一般化には注意が必要です。
おわりに
今回の研究は、腟から直腸に至る女性の泌尿生殖・消化管軸の細菌叢を、同一女性から同時に採取した検体で包括的に描き出したものです。腟・子宮頸管・子宮内膜・尿は互いに関連し合う細菌叢を持つ一方、直腸は明確に異なる独自の細菌叢を持つことが示されました。子宮内膜症や着床不全との関連については、腟における一部の細菌を除いて、細菌叢全体としての明確な違いは確認されませんでした。個人差が部位による違いを上回るという知見は、細菌叢を臨床応用へと結びつけるうえで、今後さらに大規模かつ縦断的な研究による検証が必要であることを示しています。
参考文献
1. Folch BA, Pérez-Prieto I, Salas-Espejo E, Sola-Leyva A, Canha-Gouveia A, Molina NM, Vargas E, Leonés-Baños I, Gámiz-Aguilera M, Tenorio CM, Sáez-Lara MJ, Ruíz-Durán S, Sánchez-Ruíz R, Romero B, Castilla JA, Altmäe S. Assessing the female urogenital-rectal axis microbiome: focus on endometriosis and recurrent implantation failure. Reprod Biol Endocrinol. 2026;24:75. doi:10.1186/s12958-026-01595-0.
