胚選択も卵子診断も、AIに聞く時代へ──体外受精・顕微授精をめぐる人工知能活用の最前線

体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)を含む生殖補助医療(ART)は、不妊治療の中心的な選択肢として世界的に普及してきました。一方で、不妊の頻度は増加傾向にあり、治療にともなう心理的・経済的な負担も小さくありません。どの胚を移植すべきか、どの程度の刺激薬を投与すべきか、卵子や精子のどのような特徴が良好な結果につながるのか――こうした判断の多くは、依然として胚培養士や医師の経験と目視による評価に委ねられている部分が大きいのが実情です。

こうした判断の一部を、人工知能(AI)や機械学習(ML)によって支援しようとする研究が、この数年で急速に増えています。画像から胚や卵子の状態を評価するモデル、大量の臨床データから妊娠・出産の確率を予測するモデル、卵巣刺激の投与量を助言するモデルなど、対象は多岐にわたります。これらの研究を横断的に整理したレビューが、Tissue and Cell誌(2026年)に掲載されました(doi:10.1016/j.tice.2026.103777)。体外受精と顕微授精のそれぞれについて、AI・ML技術がどのような場面で使われ、どの程度の精度を示しているのかを、代表的な研究とともにまとめた内容です。

方法──体外受精と顕微授精に関わるAI研究を、技術別に整理した

本総説は、体外受精・顕微授精の各工程にAI・ML技術を適用した近年の研究を対象に、その手法と成果を整理したレビューです。取り上げられた研究では、ランダムフォレスト(RF)、サポートベクターマシン(SVM)、勾配ブースティング(XGBoost、LightGBMなど)といった従来型の機械学習に加え、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)や敵対的生成ネットワーク(GAN)などの深層学習(DL)技術が用いられています。対象となる工程は、卵巣刺激の投与量調整、卵子の成熟度評価、受精・胚発育の予測、胚盤胞の形態評価、着床前遺伝子検査(PGT-A)における染色体異数性の判定、そして妊娠・出産の予後予測まで、生殖医療のほぼ全工程に及んでいます。体外受精に関する研究と顕微授精に関する研究を分けて整理したうえで、AI・ML活用がもたらす臨床的意義と、今後の課題が論じられています。

卵から胚盤胞まで──AIが入り込む場面はここまで広がった

体外受精に関するAI応用のうち、まず注目されるのは非侵襲的な胚評価です。胚培養液中の代謝物をAIで解析し、着床能力を示す指標を算出する試みでは、148種類の代謝物バイオマーカーをもとに構築された予測モデルが、約85%の精度で胚の着床可能性を評価できたと報告されています。また、共焦点顕微鏡による定量的位相イメージングとAIを組み合わせ、胚の核の状態から健常性を評価する手法(EVATOM)も、良好な精度を示したとされています。

胚盤胞の画像そのものをAIで生成する試みも報告されています。敵対的生成ネットワークを用いて、実在の胚盤胞と見分けがつかない高精細な合成画像を作成する研究では、患者のプライバシー保護や、学習データが不足しがちな胚画像の水増しへの応用が期待されています。一方、着床前遺伝子検査(PGT-A)の分野では、AIを用いた標準化解析によって、正倍数性(染色体数が正常であること)の判定率が向上し、継続妊娠率・生児出生率が改善したという報告もあります。既存のAI評価システム(iDAScoreなど)や形態動態(モルフォキネティクス)による評価システム(KIDScoreなど)は、実際の染色体異数性率と一定の相関を示す一方で、これらのスコアだけで染色体の異常の有無を確定的に診断することはできず、胚生検を優先すべきだとする指摘もなされています。

卵巣刺激に関しても、AI活用が進んでいます。GnRHアンタゴニスト法による初回の体外受精周期を対象とした研究では、極体形成(卵子成熟)の割合が高くなるかどうかを、勾配ブースティング法(XGBoost)によって75%の精度で予測できたと報告されています。予測に寄与した主な因子は、ピーク時のエストラジオール値、アンタゴニスト投与開始日のエストラジオール値、ゴナドトロピンの平均投与量、トリガー日のプロゲステロン値でした。妊娠・出産アウトカムの予測についても、複数のアルゴリズムを比較検討した研究があり、LightGBMというアルゴリズムを用いたモデルでは、精度92.31%、再現率87.80%、AUC(予測性能を示す指標で、1に近いほど精度が高い)90.41%という結果が示されています。この研究で重視された特徴量は、体格指数(BMI)、不妊期間の長さ、エストロゲン濃度でした。

顕微授精でも同じ流れ──卵子1枚の画像から「使える胚になるか」を予測する

顕微授精に特化したAI応用も広がっています。とくに規模の大きな研究として、6カ国8施設から集めた10,677枚の顕微授精前の卵子画像をもとに、連合学習(複数施設のデータを直接共有せずに学習させる手法)によって卵子の発育能力を予測するモデルが開発されています。このモデルは、実際に利用可能な胚盤胞へと発育するかどうかを、感度83〜88%で予測できたと報告されており、施設ごとにデータの持ち出しが難しい医療分野において、複数施設のデータを活用する現実的な方法としても注目されています。

顕微授精そのものの手技を支援するAIも報告されています。卵子や割球期胚の画像から、注入に適した部位を自動的に認識する深層学習モデルでは、98%を超える精度が得られたとされ、手技の標準化や客観性の向上に役立つ可能性が示されています。また、無精子症のために精巣内から精子を採取する手術(顕微鏡下精巣内精子採取術)を受けた患者において、新鮮精子と凍結保存精子のどちらを用いるべきかを予測するモデルや、ブライトフィールド顕微鏡画像から採取困難な希少精子を自動検出するモデルなど、男性不妊の診療を支援する応用も進んでいます。総説では、こうした男性側の評価をAIで補うことが、これまで見過ごされがちだった「男性不妊学的な知見の不足」を補う手段になりうるとも論じられています。

精度が上がっても、超えられない壁がある

複数の研究に共通して見られるのは、AI・MLモデルが従来の形態評価よりも高い予測精度を示す一方で、それだけで診断や治療方針を確定させるには至っていないという点です。たとえば、834人の患者から得られた3,573個の胚盤胞を対象にした研究では、AIによる評価(iDAScore)、形態動態による評価(KIDScore Day 5)、従来の形態評価基準(Gardner分類)のいずれも、染色体異数性の割合とは一定の相関を示したものの、個々の胚の染色体異常の有無を正確に診断することはできず、確定診断には胚生検を優先すべきだと結論づけられています。106,640件という大規模な体外受精・顕微授精周期のデータを用いてベイジアンネットワークモデルを構築した研究でも、受精率の低下や完全受精失敗のリスクを高い精度で予測できた一方、モデルはあくまで補助的な位置づけとして扱われています。

総説はまた、遺伝子検査に関するAI活用が、文化的・宗教的な背景によって受け止められ方が大きく異なる可能性にも触れています。着床前遺伝子検査そのものに対する考え方は国や地域、個々の価値観によって幅があり、AIによる判定精度の向上が、そのまま臨床導入の是非を決めるわけではないという点は、今後の議論において重要な視点とされています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、体外受精・顕微授精の症例数が世界的に見ても多い一方、胚選択や卵巣刺激の投与量調整は、依然として個々の施設や医師の経験に基づいて行われている場面が少なくありません。今回のレビューが示すように、海外ではすでに、卵子や胚の画像評価、卵巣刺激の投与量支援、PGT-Aの判定支援など、複数の工程でAI・MLモデルの実装が試みられています。こうした技術は、多数の症例データを持つ施設ほど恩恵を受けやすい一方、モデルの多くが単一施設や特定地域のデータで構築されている点には注意が必要です。日本の患者集団や診療体制にそのまま適用できるかどうかは、別途の検証が求められます。

また、遺伝子検査に関するAI活用については、日本国内でも技術的な精度向上だけでなく、患者への説明のあり方や、検査を受けるかどうかの意思決定支援のあり方について、臨床現場での議論が今後さらに必要になると考えられます。

研究の強みと限界

本総説の強みは、体外受精と顕微授精のそれぞれについて、卵巣刺激から胚評価、遺伝子検査、妊娠予後予測まで、生殖医療のほぼ全工程にわたるAI・ML研究を横断的に整理した点にあります。個々の研究がどのような手法を用い、どの程度の精度を示したかを一覧できる点は、臨床家がこの分野の全体像をつかむうえで有用です。

一方で限界もあります。第一に、本総説はシステマティックレビューではなく、対象研究の選定基準や網羅性が明示されているわけではありません。第二に、取り上げられた個々の研究の多くは単一施設による後方視的研究であり、外部データセットでの検証や前向き試験を経たものはまだ限られています。第三に、報告された精度指標(正解率、感度、AUCなど)は研究ごとに定義や算出方法が異なり、単純に数値だけを横並びで比較することはできません。第四に、AIモデルの性能は学習に用いたデータセットの質や患者背景に強く依存するため、ある施設で高い精度を示したモデルが、別の医療環境でも同様の性能を発揮するとは限りません。

おわりに

今回のレビューは、体外受精・顕微授精のほぼすべての工程において、AI・ML技術の応用が試みられている現状を示すものです。胚培養液の代謝物解析、胚盤胞の画像評価、卵巣刺激の投与量支援、PGT-Aの判定支援、そして顕微授精前の卵子画像からの発育能力予測まで、対象は多岐にわたり、いずれの分野でも従来の評価法と同等かそれ以上の予測精度が報告されています。同時に、これらのモデルの多くが単一施設のデータに基づく後方視的研究にとどまっており、より大規模で多施設にわたる前向き検証と、遺伝子検査をめぐる倫理的な論点の整理が、今後の実装に向けた課題として指摘されています。

参考文献

1. Jamshidvand H, Mohsennezhad A, Salehisedeh N, Riahi A, Sahbafar H, Sabbaghian M. Applications of artificial intelligence and machine learning in assisted reproductive technology: Focus on In Vitro fertilization (IVF) and intracytoplasmic sperm injection (ICSI). Tissue and Cell 2027;104:103777. doi:10.1016/j.tice.2026.103777.

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