凍結融解胚移植(FET)における子宮内膜の準備法には、大きく分けて自然排卵を利用する方法(真の自然周期、あるいはhCGでタイミングを合わせる修正自然周期)と、外因性のエストロゲンとプロゲステロンで子宮内膜を整える「プログラム周期(ホルモン補充周期)」がある。GnRHアゴニストトリガーの普及や凍結技術の進歩により、fresh胚移植を行わずすべての胚をいったん凍結する「フリーズオール」戦略が広がるなか、FETの実施件数自体が世界的に増加している。
プログラム周期は、通院回数が少なく移植日程を柔軟に組める利点がある一方、複数の非ランダム化研究では、黄体を伴う周期に比べて妊娠高血圧症候群や巨大児のリスク上昇との関連が指摘されてきた。エストロゲンの投与経路や用量、黄体補充の期間や中止方法など、臨床上の細部については明確なエビデンスが乏しく、施設ごとに運用が大きく異なっているのが実情である。
こうした未解決の論点を整理するため、Reproductive Biomedicine Online誌(2026年)に、国際的な生殖医療専門家によるデルファイ・コンセンサスの結果が報告された(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105820)。科学委員会が作成した17のステートメントについて、27名の拡大専門家パネルが5段階評価で賛否を投票し、最終的に17項目すべてが合意基準を満たすという結果になった。
方法──17のステートメントを、27名の専門家が3ラウンドで評価した
本コンセンサスは、1名の科学コーディネーターと5名の専門家からなる科学委員会が、文献と専門家意見に基づいて17のステートメントを作成することから始まった(ラウンド1)。続いて、科学委員会メンバーを含む27名の拡大専門家パネル(欧州13名、中東4名、北アフリカ1名、アジア3名、北米4名、南米2名)が、5件法(1=強く賛成〜5=強く反対)でオンライン投票を行った(ラウンド2)。参加者の66%以上が賛成または反対のいずれかに一致した場合に合意が成立したとみなされた。最後に、投票結果を共有するウェブ会議が開かれ、最終報告書がまとめられた(ラウンド3)。
ラウンド2の投票では、17項目すべてが1回の投票で合意基準を上回った。ステートメント2は100%の賛成を得たほか、6項目が90%超、9項目が80%超、残る1項目(ステートメント9)も74.1%の賛成を得ている。
プログラム周期か排卵周期か──「柔軟性」と引き換えの産科リスク
ステートメント1は「プログラム周期かどうかは、利点(予測可能性・柔軟性)と欠点(妊娠高血圧症候群、産後出血、在胎不当過大児のリスク約1.5倍の増加)を丁寧に説明したうえで、患者との共同意思決定とすべきである」というもので、81.5%の賛成を得た。根拠となったメタ解析では、プログラム周期は自然周期FETに比べて、妊娠高血圧症候群のオッズ比が1.90(95%信頼区間1.64〜2.20)、子癇前症が2.11(1.87〜2.39)、産後出血が2.53(2.19〜2.93)、帝王切開が1.62(1.53〜1.71)と、いずれも有意に高いことが示されている。ただし、これらは非ランダム化研究に基づく低〜非常に低い質のエビデンスであり、臨床実践への直接の勧告にはつながらないとされている。
2026年に発表された中国での大規模ランダム化比較試験(4,376名)でも、自然排卵周期のほうがプログラム周期より子癇前症のリスクが低いという結果(2.9% vs 4.6%、相対危険度0.63、95%信頼区間0.43〜0.94、p=0.02)が示された。もっとも、この上昇は妊娠34週以降に発症する軽症の子癇前症が中心であり、早発型の重症例が増えているわけではない点も付言されている。パネルは、排卵周期が可能な患者では優先すべきとしつつも、月経不順や無排卵などでプログラム周期しか選択肢がない患者も一定数存在することから、個々のリスクに応じた判断が重要だとしている。
GnRHアゴニストによる下垂体抑制は「原則不要」
ステートメント2「プログラム周期の前にGnRHアゴニストによる下垂体のダウンレギュレーションを日常的に行う必要はない」は、17項目のなかで唯一100%の賛成を得た。根拠となったコクランレビューでは、GnRHアゴニストの併用の有無で生児出生率(オッズ比0.92、95%信頼区間0.71〜1.19)に明確な差は認められておらず、パネルは固定用量のエストロゲン投与のみで大多数の患者の卵胞発育を十分に抑制できるとの見解を示した。
エストロゲンの投与経路(経口・経皮・経腟)についても、経腟投与のデータはまだ限られるものの、いずれも同程度に有効とする見方が92.6%の賛成を得た(ステートメント3)。増量法と固定用量法の比較でも生児出生率に明確な差はみられず(ステートメント4、92.6%)、投与期間は7〜35日の幅があってよいが10〜28日がより望ましい可能性があるとされた(ステートメント5、88.9%)。ある単施設コホート研究では、投与が28日を超えると生児出生率が低下し(オッズ比0.66、p=0.026)、35日を超えると早期流産のオッズ比が2.37に上昇したと報告されている。
プロゲステロン投与開始前の血中エストラジオール値やLH値のルーチンモニタリングについても、パネルはその意義に懐疑的な立場をとった。生児出生は幅広いエストラジオール濃度域で成立しており(ステートメント6、92.6%)、LHについても投与前の測定が必須とはいえない(ステートメント7、88.9%)との判断が示されている。一方で、プロゲステロン投与開始前の血中プロゲステロン測定については、内因性プロゲステロンによる早期の黄体化(いわゆる「エスケープ排卵」、下垂体抑制を行わない周期の1.9〜7.4%で起こりうる)を見逃さないため、実施を検討すべきとされた(ステートメント8、81.5%、専門家意見)。
プロゲステロン補充──投与経路より「濃度」と「タイミング」が鍵
黄体補充の投与経路(経腟・皮下・筋肉内)については、同程度の成績が得られるとする見解が74.1%の賛成にとどまり、17項目のなかで唯一20%を超える反対(11.1%が「強く反対」)が示された、最も意見の分かれたステートメントとなった(ステートメント9)。経腟プロゲステロン単独では十分な血中濃度が得られない患者が一定数存在するため、複数経路の併用が臨床現場で広く行われている。特に米国では、生児出生率の観点から筋肉内投与が好まれる傾向がある。
移植日までのプロゲステロン投与期間については、初期胚(day3)では4日間、胚盤胞(day5)では6日間が目安とされ、day6で凍結された胚盤胞ではむしろ7日間の投与のほうが良好な成績(生児出生率44.8% vs 36.45%、p=0.039)につながる可能性が示された(ステートメント10、85.2%)。
移植当日(またはその前日)の血中プロゲステロン濃度が10ng/ml未満の場合、経腟投与単独では生児出生率が低下しうるとするステートメント11は92.6%の賛成を得た。メタ解析では、10ng/mlを上回る群は下回る群に比べて妊娠継続・生児出生の相対危険度が1.47(95%信頼区間1.28〜1.70)であったが、採血のタイミングが最終投与から何時間後かで測定値が変動するため、施設内での標準化が前提となる。低濃度が確認された場合には、注射剤・坐剤や経口ジドロゲステロンの追加投与(レスキュー)により、十分な濃度の患者と同程度の成績が得られる可能性が高いとする見解も96.3%の賛成を得た(ステートメント12)。
黄体補充の継続期間については、比較試験のデータが乏しいなかで、妊娠10〜12週まで継続するのが一般的な運用であるとされ(ステートメント13、81.5%、専門家意見)、中止の方法については急な中止と漸減のどちらでも大きな差はないと考えられている(ステートメント14、88.9%、専門家意見)。
生児出生率はプロトコル間でおおむね同等
プログラム周期、真の自然周期、修正自然周期のあいだで、生児出生率は同程度と考えられるとするステートメント15は88.9%の賛成を得た。2024年にLancet誌に発表されたベトナムでのランダム化比較試験では、1回の移植あたりの生児出生率は真の自然周期37%、修正自然周期33%、プログラム周期34%と、いずれも近い値であった。2026年に発表されたより大規模な中国での多施設ランダム化比較試験(4,376名)でも、健常な生児出生率は自然排卵群41.6%、プログラム周期群40.6%(相対危険度1.03、95%信頼区間0.96〜1.10)と、有意差は認められていない。プログラム周期は通院回数や超音波・ホルモンモニタリングの負担を軽減できる点が実務上の利点として挙げられ(ステートメント16、85.2%)、遠方から通院する患者にとっては、1回の受診で移植日程を確定できる柔軟性が特に有用とされている。
それでも残る産科リスクの差──排卵周期を「基本」とする根拠
ステートメント17は「観察研究、メタ解析、および1件のランダム化比較試験によれば、プログラム周期は自然周期・修正自然周期・軽刺激周期などの排卵周期に比べて、母体・産科リスクの増加と関連する」という内容で、92.6%の賛成を得た。56,445例の自然周期FETと57,231例のプログラム周期FETを含むメタ解析では、自然周期FETのほうが、在胎不当過大児(オッズ比0.88)、巨大児(0.81)、低出生体重(0.81)、早期流産(0.73)、早産(0.80)、超早産(0.66)、妊娠高血圧症候群(0.60)、子癇前症(0.50)、前置胎盤(0.84)、産後出血(0.43)のいずれについても、リスクが低いという結果が示されている。
この絶対リスク差から算出された「治療必要数(何人にプログラム周期を行うと1人に有害事象が増えるか)」を見ると、産後出血は19.2人、子癇前症は27.8人、妊娠高血圧症候群は45.5人に1人という水準であった。数値としては決して低くはないものの、多くの患者にとって絶対リスクの上昇自体は限定的であることも示唆される。パネルは、排卵周期が可能な女性ではこちらを基本の選択肢とすべきとしつつ、個々の産科リスク因子を踏まえた判断の必要性を強調している。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本では、月経不順や遠方からの通院、仕事との両立などを理由に、プログラム周期による凍結胚移植が広く選択されている。今回の合意は、GnRHアゴニストによる下垂体抑制やLH・エストラジオールのルーチンモニタリングを省略しても、大多数の患者では成績に影響しない可能性を示しており、通院負担の軽減という観点からは後押しとなる内容といえる。一方で、産科リスクに関する複数のメタ解析やランダム化比較試験の結果は、可能な場合には排卵周期を優先する方向性を支持しており、月経が規則的で通院に大きな制約がない患者への説明のあり方について、あらためて検討する余地があることを示している。
黄体補充については、経腟プロゲステロン単独で十分な血中濃度が得られない患者が一定数存在することを踏まえ、移植前後の血中プロゲステロン測定と、必要に応じた複数経路の併用という考え方が、日本の臨床現場でも参考になりうる。ただし、測定のタイミングを施設内で標準化しなければ、値の解釈自体が難しくなる点には注意が必要である。
研究の強みと限界
本コンセンサスの強みは、欧州・中東・北アフリカ・アジア・北米・南米という6地域から集まった27名の専門家が議論に参加し、地域による診療実態の違いを反映した合意を形成した点にある。17項目すべてが1回目の投票で合意基準に達したことも、論点の整理が的確であったことを示している。
一方で限界も存在する。各ステートメントはあくまで専門家の集合的な見解であり、根拠として引用された研究の多くは観察研究で、交絡因子の調整が不十分なものも含まれる。ステートメント9のように意見が分かれた項目もあり、投与経路の選択には依然として施設間・地域間のばらつきが大きいことがうかがえる。また、スポンサーとなった製薬企業の関係者が原稿の一部作成に関与しているため、利益相反の観点からの留意も必要である。
おわりに
今回のデルファイ・コンセンサスは、プログラム周期による凍結融解胚移植について、GnRHアゴニストによる下垂体抑制の省略やモニタリングの簡略化が可能な範囲、黄体補充における投与経路・期間・レスキューの考え方、そして排卵周期との産科成績の違いまでを、国際的な専門家の視点から整理したものである。プロトコル選択は一律の答えを求めるものではなく、個々の患者の月経パターン、既往歴、通院可能な範囲、施設の運用体制などを踏まえた個別化が求められる。今後は、どの患者群がプログラム周期による産科リスク上昇の影響を特に受けやすいのかを明らかにする、質の高い比較試験の蓄積が課題として残されている。
参考文献
1. Ata B, Devine K, Humaidan P, Mumusoglu S, Garcia Velasco J, Wu IH, Schwarze JE, D’Hooghe T, Yarali H, on behalf of the Collaborators in the Programmed FET Delphi Consensus Group. Expert opinion on best practice in programmed frozen embryo transfers: a Delphi consensus. Reprod Biomed Online 2026;53(3):105820. doi:10.1016/j.rbmo.2026.105820.
