高DNA断片化を伴う男性不妊──精巣内精子は、新鮮でも凍結でも成績は変わらないのか

精子のDNA断片化(sperm DNA fragmentation、SDF)は、精子のDNAにどれだけ損傷が生じているかを示す指標です。SDFの上昇は男性因子不妊や反復流産と関連することが知られており、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)の不成功を繰り返す夫婦や反復流産のカップルでは、精液検査に加えてSDFの評価を行うことが、米国泌尿器科学会(AUA)と米国生殖医学会(ASRM)のガイドラインでも推奨されています。

SDFが高い場合の対策の一つに、精巣内精子採取術(TESE)によって得られる精巣内精子の利用があります。精巣内精子は射出精子に比べてDNA断片化の程度が低く、これを用いたICSIのほうが妊娠・出産の成績が良いとする報告が積み重なってきました。採取した精巣内精子は、その場で新鮮なまま使う方法と、いったん凍結し必要なタイミングで融解して使う方法のいずれかが選択されます。凍結には、採卵日に確実に精子を確保できる、検査や培養の日程調整がしやすい、繰り返しの外科的採取を避けられるといった利点がある一方、凍結・融解の過程で精子の運動性や着床への影響が生じうるとする研究も存在し、両者の優劣ははっきりしていませんでした。

こうした中、Reproductive Biology and Endocrinology誌(2026年、Article in Press)に、SDFが高い男性を対象に、TESE後の新鮮精子と凍結精子でICSIの成績を比較した後方視的コホート研究が掲載されました(doi:10.1186/s12958-026-01594-1)。

方法──60人の高DNA断片化例を、新鮮精子と凍結精子で比較した

対象は、米国の複数施設からなるフェルティリティネットワーク(Shady Grove Fertility、RMA of New York、IVF Florida)において、2017年1月から2022年12月までにSDF高値を理由にTESEおよびその後のICSIを受けた男性です。SDFはHaloSperm G2 Kitを用いたSperm Chromatin Dispersion(SCD)法で測定され、20%以上を高値と定義しました。データベースから抽出された68人のうち、DNA断片化検査前にTESEを受けていた例や提供配偶子を用いた例などを除外し、最終的に60人が解析対象となりました。そのうち40人(66.7%)が新鮮精子を、20人(33.3%)が凍結精子を用いてICSIを受けています。両群は年齢、BMI、SDFの中央値(46.5% vs 48.0%、p=0.525)などの背景因子に有意差はありませんでした。主要評価項目は累積生児出生率、副次評価項目は受精率、胚盤胞到達率、臨床妊娠率、流産率です。

受精・胚盤胞到達率は、新鮮でも凍結でも同等だった

採取された成熟卵子数は新鮮群15.0個、凍結群19.0個(p=0.254)で有意差はなく、受精率も新鮮群48.8%、凍結群43.7%(p=0.937)とほぼ同水準でした。胚盤胞到達率は新鮮群16.7%、凍結群26.1%(p=0.106)とやや凍結群のほうが高い傾向はあったものの、統計学的な有意差には至りませんでした。着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)は全体の55%で実施され、8割超の周期で単一胚移植が行われています。なお60組中22組では、最初のICSI周期で移植可能な胚が得られませんでした。

生児出生率は42.5%対25.0%──ただし統計的有意差はなし

すべての開始周期を対象とした解析では、累積臨床妊娠率は新鮮群55.0%、凍結群35.0%(p=0.144)、流産率は新鮮群10%、凍結群5.0%(p=0.185)、そして主要評価項目である累積生児出生率は新鮮群42.5%、凍結群25.0%(p=0.656)でした。数値としては新鮮精子群のほうが高い傾向にありましたが、いずれも統計学的な有意差は認められていません。生児出生についての未調整リスク比は1.62(95%信頼区間0.70〜3.76)、PGT-A実施の有無と母体年齢35歳以上を考慮した感度分析でも1.71(95%信頼区間0.82〜3.57)と、信頼区間が1をまたいでおり、確実な差とまでは言えない結果でした。

実際に胚移植まで進んだ38組でも、差は認められなかった

移植可能胚が得られず胚移植自体を行わなかった22組を除き、実際に凍結融解胚移植(FET)を受けた38組に限定した解析でも、累積生児出生率は新鮮群65.4%、凍結群41.7%(p=0.167)、累積臨床妊娠率は新鮮群84.6%、凍結群58.3%(p=0.108)、流産率は新鮮群15.4%、凍結群8.3%(p>0.999)と、いずれも群間に統計学的有意差はありませんでした。

新鮮精子で胚ができなかった10組では

新鮮精子を用いた最初のICSI周期で移植可能胚が得られなかった10組は、続けて凍結精子を用いた追加のICSI周期を受けています。この10組内で新鮮周期と凍結周期の成績を比較すると、成熟卵子数(中央値の差−2.5個、p=0.238)、受精率(同−17.9ポイント、p=0.102)、胚盤胞到達率(同−18.3ポイント、p=0.156)のいずれも凍結周期のほうがやや良い傾向が見られましたが、統計学的な有意差はなく、この解析自体の対象数がごく少数であることに注意が必要です。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、SDF高値例に対するTESE精子の利用や、新鮮精子と凍結精子のどちらを選ぶかについて、統一的な指針が整備されているとは言えない状況です。凍結精子には、採卵日程の調整がしやすくなる、繰り返しの外科的採取を避けられるといった実務上の利点があります。今回の結果は、少なくともSDF高値例に限定したこの規模の後方視的データにおいて、新鮮精子と凍結精子のあいだで受精率・胚盤胞到達率・妊娠出産成績に統計学的な差が見出されなかったことを示しています。診察室で凍結精子の利用を検討する際、この結果は選択肢の一つとしての説明材料になり得ますが、生児出生率で見られた数値上の差(42.5%対25.0%)が偶然によるものか実際の差を反映しているのかは、今回の研究だけでは判断できません。

研究の強みと限界

本研究の強みは、SDF高値でTESEを受けた患者に限定して新鮮精子と凍結精子を比較した、現時点で最大規模のコホートである点です。6年間にわたり3つの大規模生殖医療施設のデータを用い、受精率や胚盤胞到達率だけでなく、実際の妊娠・出産成績まで追跡しています。

一方で限界も少なくありません。第一に、症例数が少なく統計学的検出力が不足しており、著者らの検出力計算では、凍結精子群での生児出生率41%減少を80%の検出力で検出するには、現在の4倍を超える参加者数が必要とされています。第二に、観察された生児出生の件数が少なかったため、交絡因子を調整した多変量解析ができず、報告されているのは未調整の関連のみです。第三に、後方視的研究であるため、喫煙歴や発熱・感染症の既往、SDF検査を行った具体的な理由といった情報が診療録に一貫して記録されておらず、解析に組み込むことができませんでした。第四に、単一の親会社が運営する施設群のデータであるため、他の医療環境への一般化には注意が必要です。

おわりに

今回の研究は、SDFが高い男性に対してTESEを行った際、精巣内精子を新鮮のまま使うか、いったん凍結してから使うかによって、受精率や胚盤胞到達率、妊娠・出産成績に統計学的に明確な差は見出されなかったことを示しています。生児出生率で見られた数値上の開き(42.5%対25.0%)は臨床的に意味のある差である可能性も否定できず、著者らはこの結果を仮説生成的な位置づけと位置づけています。凍結精子の利用がもたらす実務上の利点とあわせて、より大規模で前向きな研究による検証が今後の課題とされています。

参考文献

1. Siegel DR, Kaizer LK, Sammel MD, Roeca C. The impact of fresh versus cryopreserved testicular sperm on in-vitro fertilization outcomes in couples with elevated sperm DNA fragmentation: a retrospective cohort study. Reprod Biol Endocrinol. 2026. doi:10.1186/s12958-026-01594-1.

2. Schlegel PN, Sigman M, Collura B, et al. Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline PART II. J Urol. 2021;205(1):44-51.

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