流産は生殖補助医療(ART)における妊娠不成立の主要な原因の一つであり、身体的・心理的・社会的な負担が大きいことが知られています。従来、早期の妊娠喪失は胚の染色体異数性に起因するところが大きいとされてきましたが、それ以外にも母体の免疫機能異常、血栓性素因、性器の形態異常、感染症、子宮因子など、複数の要因が関与すると考えられています。
子宮因子のなかでも、子宮筋腫は生殖年齢女性に最も多い良性腫瘍です。骨盤痛や不正出血、圧迫症状だけでなく、妊娠・出産の成績にも影響しうることが指摘されてきました。とりわけ筋層内筋腫(intramural fibroids)については、妊娠率や生児出生率を下げるとする報告がある一方、流産リスクとの関連は一致した結論が出ていません。多くの先行研究が「筋腫の有無」のみに着目し、大きさや個数といった定量的な特徴を十分に考慮してこなかったことが、結果のばらつきを生んだ一因とみられています。
こうした背景のもと、Fertility and Sterility誌(2026年)に、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)で正倍数性が確認された単一胚盤胞を移植した筋層内筋腫合併の不妊女性557例を対象とする、大規模な後方視的コホート研究が掲載されました。胚の染色体異常という流産の主要因をあらかじめ除外した状態で、筋腫のどのような特徴が流産リスクと関連するのかを検証した内容です(doi:10.1016/j.fertnstert.2026.07.008)。
方法──筋層内筋腫を持つ女性の、単一正倍数性胚移植を追跡した
対象は、北京大学第三医院で2018年1月から2025年4月までにPGT周期を実施し、経腟超音波検査で子宮腔の変形や子宮内膜への圧迫を伴わない筋層内筋腫(FIGO分類4型・5型)が確認された不妊女性です。次世代シークエンシング(NGS)で正倍数性と判定された単一の融解胚盤胞を移植し、胚移植後24〜30日の超音波検査で子宮内妊娠が確認された初回移植周期に限定されました。粘膜下筋腫(FIGO3型)や筋腫核出術の既往、子宮奇形、子宮内癒着、腺筋症や子宮内膜症の合併、自己免疫疾患や血栓性素因を有する例は除外されています。
妊娠成績は、妊娠12週未満での妊娠喪失(稽留流産・自然流産を含む)を「早期流産群」、12週以降も妊娠が継続した例を「妊娠継続群」として比較されました。筋腫については、個数(単発・多発)、FIGO分類、最大径、部位(前壁・後壁・側壁・子宮底部)が超音波で系統的に評価されています。統計解析では、早期流産の頻度がまれではなかった(子宮内妊娠の17.6%)ことから、多変量解析には修正ポアソン回帰が用いられ、母体年齢、BMI、抗ミュラー管ホルモン(AMH)、不妊期間、内膜調整法などの交絡因子を調整したうえで、筋腫最大径・胚盤胞発育日数(D5対D6/7)・内細胞塊(ICM)グレードとのリスク比(RR)が算出されました。
557例中98例(17.6%)が早期流産──筋腫径で明確な差
PGT周期を経て単一正倍数性胚盤胞移植を受けた1,421例のうち、子宮内妊娠が確認されたのは557例(39.2%)でした。このうち98例(17.6%)が早期流産、459例(82.4%)が妊娠を継続し、442例(79.4%)が出産に至りました。出産例における早産率は12.7%、低出生体重児の割合は5.7%でした。
背景因子の比較では、母体年齢やBMI、不妊期間、AMHなど多くの項目で両群に差はありませんでしたが、筋腫の最大径は早期流産群で有意に大きく(中央値1.8cm対1.5cm、P=0.046)、筋腫の個数や部位、子宮容積、頸管長には有意差が見られませんでした。胚の質に関しては、D5(採卵5日目)胚盤胞の割合が早期流産群で有意に低く(32.7%対45.5%、P<0.001)、ICMグレードも早期流産群で有意に不良でした(P=0.003)。
筋腫径1cmごとに流産リスク1.22倍、ICMグレードCはさらに大きなリスク
母体年齢、BMI、AMH、不妊期間、内膜調整法を調整した修正ポアソン回帰分析では、筋腫の最大径が1cm大きくなるごとに早期流産のリスクがおよそ1.22倍になることが示されました(RR 1.216、95%信頼区間1.043〜1.401、P=0.002)。ICMグレードCの胚は、グレードAの胚と比べて流産リスクがおよそ5.2倍でした(RR 5.199、95%信頼区間1.841〜13.946、P<0.001)。D6/7胚盤胞についても、D5胚盤胞と比べて流産リスクが高い傾向が見られましたが、95%信頼区間が1をまたいでおり(RR 1.493、95%信頼区間0.978〜2.325、P=0.044)、境界域の関連として慎重な解釈が求められています。
このモデルの識別能はAUC 0.656(95%信頼区間0.597〜0.714)にとどまり、キャリブレーションは良好でした(P=0.398)。流産が多因子性の現象であることを踏まえれば、この程度の識別能は想定内といえます。また、各説明変数の分散拡大係数(VIF)は1.021〜1.158と、多重共線性を疑う水準(10以上)を大きく下回っていました。
なぜ、これまでの研究では関連が見えなかったのか
粘膜下筋腫が妊娠・出産に悪影響を及ぼすことはほぼ確立された知見ですが、筋層内筋腫と流産リスクの関係は長らく議論の的でした。5,512例の妊婦を対象とした前向きコホート研究では、交絡因子を調整すると筋腫の有無による流産リスクの増加は認められず(調整ハザード比0.83、95%信頼区間0.63〜1.08)、1,394例の筋腫合併例と20,435例の非合併例を含むメタ解析でも、有意差は示されていません(リスク比1.16、95%信頼区間0.80〜1.52)。
今回の研究チームは、こうした結果の食い違いについて、多くの先行研究が筋腫の「有無」だけに着目し、大きさや個数といった個人差の大きい特徴を十分に考慮してこなかった点を指摘しています。筋腫の負担は個人によって大きく異なるため、量的な特徴を反映しない解析では、異なる集団間で一貫しない結果が生じやすいという考え方です。今回のように、胚の染色体異常という交絡因子をPGTであらかじめ除外したうえで、筋腫径という連続変数を用いて評価したことが、この研究の特徴になっています。
胚の質も、独立した予測因子だった
興味深いのは、正倍数性が確認された胚同士を比べても、胚の質そのものが流産リスクと関連していた点です。D6/7胚盤胞はD5胚盤胞に比べて代謝活性やエピジェネティックな調節に違いがある可能性があり、着床後の発育を維持する力に差が出ることが考えられます。また、ICMは将来の胎児となる部分であるため、そのグレードが低いことは、胚そのものの発育能力が低いことを反映している可能性があります。染色体数に異常がない「正倍数性」の胚であっても、形態学的な質、とくにICMグレードは、移植胚を選ぶ際の重要な判断材料になりうることを、この結果は示しています。
筋腫を摘出すれば流産は防げるのか
筋腫核出術(筋腫を外科的に摘出する手術)は、生殖に対する悪影響を軽減する手段として期待されてきました。しかし、別のメタ解析では、筋腫核出術を受けた群と筋腫を温存した群のあいだで、臨床妊娠率に有意差は認められていません(オッズ比1.10、95%信頼区間0.77〜1.59)。手術による子宮への侵襲や筋層の構造変化が、筋腫を取り除く利益を相殺している可能性が考えられます。今回の研究は筋腫が大きいほど流産リスクが高いことを示しましたが、一定の大きさを超えた筋腫について筋腫核出術が実際に流産率を下げるかどうかは、依然として明らかになっていません。無作為化比較試験を含む前向き研究による検証が必要とされています。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本では、筋層内筋腫を持つ患者への胚移植の可否について、筋腫の大きさを定量的に組み込んだ統一的な基準が確立されているとは言えない状況です。今回の結果は、筋腫の「有無」だけでなく「大きさ」を評価に組み込むことの重要性を示しています。とくに、比較的大きな筋層内筋腫を持つ患者に対して移植の可否や説明の仕方を検討する場面では、筋腫径を一つの参考指標として位置づけられる可能性があります。
一方で、この研究のRRは1cmあたり1.22倍というゆるやかな傾きであり、ICMグレードによるリスクの大きさ(5.2倍)と比べれば影響は限定的です。臨床現場では、筋腫径のみを理由に移植の可否を判断するのではなく、胚の質や母体背景を含めた総合的な評価のなかに、筋腫径という一つの情報を加えるという位置づけが妥当と考えられます。
研究の強みと限界
本研究の強みは、PGTによって胚の染色体異常という主要な交絡因子を除外したうえで、筋腫の大きさという定量的な指標と流産リスクの関係を検証した点にあります。単一施設で1,421周期という規模のデータを、系統的に記録された臨床情報から解析している点も特徴です。
一方で限界も少なくありません。第一に、後方視的な単一施設研究であり、生活習慣や培養条件など測定されていない交絡因子の影響を完全には排除できません。第二に、筋腫の内膜への近接度や血流、筋腫全体の体積といった特徴は評価されておらず、これらが独立した影響を及ぼしている可能性が残ります。第三に、そして最も重要な点として、この研究の対象は「子宮内妊娠が成立した」患者に限定されています。筋腫が着床そのものを妨げていた可能性のある症例は、この時点で解析対象から除外されてしまっているため、今回示されたリスク比は、着床が成立した後に限定された関連(条件付きの関連)として解釈する必要があり、筋腫が妊娠成立全体に及ぼす影響を過小評価している可能性があります。
おわりに
今回の研究は、胚の染色体異常を除外した条件下で、筋層内筋腫の最大径が早期流産の独立した予測因子であることを示すとともに、ICMグレードという胚の質的指標も同様に重要な役割を果たすことを明らかにしました。筋腫の「有無」ではなく「大きさ」に着目する視点は、これまで一致しなかった先行研究の結果を整理するうえでの手がかりになり得るものです。今回の知見をただちに一律の診療変更に結びつけるのではなく、前向き研究や筋腫核出術の効果を検証する臨床試験によって、さらに検証を重ねていく必要があるとされています。
参考文献
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