早発卵巣不全は増えている──最大の関連因子は子宮内膜症

早発卵巣不全(POI: premature ovarian insufficiency)は、40歳未満で卵巣機能が低下する状態を指します。世界的な有病率は3.5〜3.7%程度と推定されており、近年は増加傾向にあるとの報告もあります。遺伝性、自己免疫性、感染性、医原性など原因は多岐にわたりますが、医原性でない(非医原性の)症例の約7割では、原因が特定されないままです。

これまでのPOIの疫学研究は、自己申告による閉経年齢への依存、横断研究というデザイン上の制約、限られたサンプルサイズといった問題を抱えており、関連因子を十分に評価できていませんでした。こうした課題に対し、カナダ・オンタリオ州の公的医療保険データを用いた大規模住民ベースコホート研究がHuman Reproduction誌(2026年)に掲載されました。1995年から2019年までの四半世紀にわたり、363万人を超える女性を追跡し、POIの発生率とその関連因子を検証した内容です(doi:10.1093/humrep/deag111)。

方法──363万人を、四半世紀にわたって追跡した

対象は、1995年1月から2019年12月までにオンタリオ州に居住していた39歳以下の女性363万5702人です。追跡は、POIの診断、40歳到達、死亡、州の医療保険資格の喪失、または2021年末の追跡終了のいずれか早い時点まで続けられました。

POIは、行政health dataを用いて、①両側卵巣摘出などの手術性閉経の記録、または②40歳未満での閉経に関する医師診断コード(ICD-9 627)が1回以上あることのいずれかで定義されました。POIは、非医原性、手術性、化学療法・放射線療法後、手術と化学療法・放射線療法の併用、の4種類に分類され、年齢調整ポアソン回帰モデルを用いて、自己免疫疾患、染色体異常、子宮内膜症、がんに対する化学療法・放射線療法歴、喫煙・薬物使用といった臨床因子とPOIとの関連が、罹患率比(IRR)として算出されました。

16万8173人がPOIと診断された

追跡期間中央値11年(四分位範囲6〜18年)のあいだに、16万8173人の女性が何らかの原因によるPOIと診断されました。これは対象者全体の4.6%にあたり、全体の発生率は10万人年あたり389.4件でした。診断時の年齢中央値は31歳(四分位範囲25〜36歳)でした。

診断の内訳を見ると、非医原性POIの発生率が10万人年あたり351.4件と大部分を占め、手術性POIが30.2件、化学療法・放射線療法後のPOIが5.5件、手術と化学療法・放射線療法を併用した場合のPOIが2.3件でした。過去のメタ解析が示す世界的なPOI有病率(3.5〜3.7%程度)と比較すると、オンタリオ州における発生率は同程度か、やや高い水準にあったといえます。

2002〜2008年は減少、その後2019年まで増加が続いた

全体の発生率は、1999年から2008年にかけて低下したのち、2011年以降は2019年まで持続的に上昇するという、いわゆるU字型の推移を示しました。この上昇は主に非医原性POIによって牽引されていました。フィンランドの女性を対象とした先行研究では、1988年から2017年にかけて発生率がおおむね横ばいだったと報告されており、今回の結果とは異なる傾向です。この違いは、症例の把握方法や診断基準、医療制度の違いを反映している可能性があり、真の生物学的な変化とは限らないとされています。

一方、手術性POIの発生率は、1995年の10万人年あたり60件から、2019年には20件へと大きく減少しました。これは、カナダにおける子宮摘出術の実施率が1997年の10万人あたり484件から2017年には303件へと低下したことに加え、卵巣温存を意識した手術方針が広がったことを反映していると考えられます。対照的に、化学療法・放射線療法に関連するPOIは、追跡期間を通じて着実に増加していました。年齢層別に見ると、36〜39歳の群でもっとも顕著な上昇が見られ、2019年の発生率は10万人年あたり802.2件(95%信頼区間765.2〜840.5)に達しました。この年齢層では統計学的に有意な上昇トレンドが確認された一方(P<0.001)、より若い年齢層では有意な傾向は見られませんでした。

最大の関連因子は子宮内膜症──リスクは3.45倍

年齢調整後のIRRをまとめた解析では、子宮内膜症がもっとも強い関連因子でした(IRR 3.45、95%信頼区間3.39〜3.52)。これに、化学療法・放射線療法を伴うがん治療歴(IRR 2.01、95%信頼区間1.89〜2.14)、喫煙・薬物使用(IRR 1.59、95%信頼区間1.51〜1.67)、染色体異常(IRR 1.50、95%信頼区間1.42〜1.59)、自己免疫疾患(IRR 1.19、95%信頼区間1.17〜1.22)が続きました。子宮内膜症を持つ女性は、持たない女性に比べておよそ3.5倍、POIを発症しやすかったことになります。

子宮内膜症とPOIの関係──手術だけでは説明できない

子宮内膜症を持つPOI女性2402人の内訳を見ると、55.8%が非医原性、43.2%が手術性に分類されており、手術によるものは半数に満たない結果でした。別のメタ解析では、子宮内膜症を持つ女性のおよそ44%に子宮内膜腫が存在すると報告されており、こうした病変による卵巣への直接的な損傷に加え、骨盤内の炎症や線維化そのものが卵巣予備能を低下させている可能性が指摘されています。先行研究では、子宮内膜症を持つ女性、とくに罹患側の卵巣で、抗ミュラー管ホルモン値や胞状卵胞数の低下が示されており、手術の有無にかかわらず卵巣機能への影響が生じうることを裏づけています。

研究チームは、オンタリオ州における子宮内膜症手術に関する過去の住民ベース研究から、卵巣温存を意識した術式がすでに広く普及していることを踏まえ、現代の外科的管理だけでは、今回観察されたPOIリスクの高さを十分に説明できないと考察しています。手術による濾胞の活性化や、局所の炎症反応が濾胞の減少やアポトーシスを促進するといった機序が、疾患そのものによる影響と重なり合っている可能性があります。

FSH値を用いた感度分析でも、同様の傾向が確認された

診断コードに基づく分類の妥当性を検証するため、2007年以降に測定された血中FSH(卵胞刺激ホルモン)値を用いた感度分析も行われました。25万2276人分のFSHデータのうち、閉経相当の範囲(25.8〜134.8 IU/L)にある値が1回以上見られた場合をPOIと定義したところ、2007年から2019年にかけて、すべての年齢層で上昇傾向が確認され、行政診断データに基づく結果と整合していました。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、子宮内膜症の診療において妊孕性温存を意識した卵巣温存術式が広がりつつありますが、今回の結果は、手術方針の変化だけでは子宮内膜症に伴う卵巣機能低下のリスクを十分に相殺できない可能性を示しています。日本の臨床現場では、子宮内膜症を持つ患者に対して、手術の有無にかかわらず、将来的な卵巣予備能の低下を見据えた長期的なフォローアップや、必要に応じた妊孕性温存に関する情報提供のあり方が、あらためて検討課題になると考えられます。また、がんに対する化学療法・放射線療法を受ける若年女性に対しても、生存率の向上に伴ってPOIのリスクを踏まえたカウンセリングの重要性が増していくと見られます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、363万人を超える住民ベースのコホートを四半世紀にわたって追跡した規模の大きさ、そしてFSH値を用いた感度分析によって診断の頑健性を確認した点にあります。オンタリオ州の公的医療保険制度は住民のほぼ全体をカバーしており、選択バイアスの影響が比較的小さいことも特徴です。

一方で限界もあります。行政データに基づく解析であるため、アウトカムの誤分類が生じている可能性があり、教育歴、人種、家族歴といった詳細な背景因子は把握できていません。染色体異常についても、脆弱X症候群の前変異やY染色体material等を含む詳細な内訳を区別することはできませんでした。さらに、子宮内膜症の病期や病変の左右差、実際に行われた手術の術式(卵巣温存を伴う嚢胞摘出術かどうかなど)についての情報も得られておらず、手術に関連したPOIの一部が非医原性に分類されている可能性が指摘されています。

おわりに

オンタリオ州における今回の大規模住民ベース研究は、POIの発生率が2011年以降増加傾向にあり、その主な要因が非医原性POIであることを示しました。関連因子のなかでもっとも強い関連を示したのは子宮内膜症であり、手術性・非医原性いずれの経路もPOIに関与している可能性が示唆されています。一方で、卵巣温存を意識した手術方針の普及により、手術に起因するPOIは大きく減少してきました。これらの知見は、POIのリスク層別化やカウンセリングのあり方を検討するための基礎資料となるものであり、今後は病期や治療内容といった臨床的な詳細を組み込んだ研究によって、子宮内膜症とPOIを結ぶ機序のさらなる解明が求められるとされています。

参考文献

1. Macintyre JN, Pudwell J, Shellenberger J, Velez MP. Incidence and factors associated with premature ovarian insufficiency: a population-based cohort study. Hum Reprod 2026;00(00):1-10. doi:10.1093/humrep/deag111.

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