止まらない出生率低下──世界人口の4分の1が「超低出生率」国に暮らす時代

合計特殊出生率(TFR、女性一人が生涯に産む子どもの推定人数)は、多くの高所得国・中所得国で過去最低水準を更新し続けています。世界人口の半数以上が、人口置換水準とされるTFR2.1以下の国に暮らしており、移民の流入がなければ、これらの国では長期的に人口が減少していく計算になります。

低出生率への移行そのものは、教育水準の上昇や経済成長、都市化、女性の社会進出、避妊技術の普及といった要因から、人口学や経済学の理論によってある程度予測されていたことでした。しかし近年の出生率低下は、想定されていたよりも速く、深く、そして持続的であり、地理的にもはるかに広い範囲に及んでいます。かつては欧米や日本など一部の高所得国に限られていた低出生率は、東アジアだけでなく、中南米や南アジアの中所得国にも急速に広がりました。

こうした「出生率の自由落下」とも呼べる現象の全体像と、その背景にある要因を包括的に整理した総説が、Reproductive BioMedicine Online誌(2026年、53巻3号)に掲載されました(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105831)。ウィーン人口統計研究所の研究者による本総説は、国連や各国統計局のデータをもとに、高所得国・中所得国における低出生率の現状と、そこに関わる複数の要因を整理しています。

世界人口の4分の1が、TFR1.3未満の国に暮らしている

今日、TFRが1.3を下回る国・地域に暮らす人口は、20億人を超え、世界人口の4分の1以上に達しています。中でもTFRが1.0を下回る「極端な低出生率」の国・地域は8つあり、その人口は合計15.5億人(世界人口の19%)にのぼります。中国、韓国、ウクライナ、プエルトリコなどが含まれ、マカオは2023年に0.66という記録的な低さを記録しました。韓国は2025年時点で0.75、香港は0.84、シンガポールは0.87、台湾は0.88、ウクライナと中国はともに0.90と報告されています。

TFRが1.0〜1.3の範囲にある国・地域は23か国あり、合計人口はおよそ5億人です。ルクセンブルクやスイスといった富裕国から、日本、タイ、ポーランド、スペインといった人口規模の大きな国、さらにチリ、コスタリカ、ウルグアイなど中南米の中所得国まで、経済水準を問わず幅広い国が含まれます。ソウルや上海のような大都市では、TFRが0.5〜0.8という極端な水準まで落ち込んでいる地域もあります。

一方でイスラエルは高所得国の中で例外的に高いTFRを維持していますが、これは超正統派ユダヤ教徒のコミュニティがTFR6前後を保っていることが大きく影響しています。中央アジアの一部や、2000〜2010年代の中東欧の一部の国では、経済成長や家族政策の拡充にともなって出生率が回復した時期もありました。

「一時的な落ち込み」では説明できなくなった

歴史的に見ると、出生率は好況期に上昇し、不況期に低下するという景気循環的な動きを示すことが多くありました。しかし2008〜2010年の世界金融危機以降、この関係性は崩れています。危機後の2010年代には多くの国で経済成長が続いたにもかかわらず、出生率は回復せず、低い水準で横ばい、あるいはさらに低下する国が相次ぎました。北欧諸国やフランスのように、手厚い家族政策やジェンダー平等が進んでいるとされてきた国々でも、出生率の急落が観察されています。

中南米地域全体のTFRは1980年の4.1から2023年には1.8まで低下しました。中央アジア・南アジア地域(インドを含む)でも、1980年の5.1から2023年には世界平均並みの2.2まで下がっています。イランは1980年の6.6から2009年には1.6へと、世界でも際立って急速な出生率低下を経験した国の一つです。ブラジル、トルコ、タイもそれぞれ1.6、1.5、1.2まで低下しており、かつて高出生率だった中所得国が、次々と低出生率国の仲間入りをしている状況がうかがえます。

何が出生率を押し下げているのか──複合的な要因

本総説は、出生率低下の背景に単一の要因ではなく、複数の要因が絡み合っていると整理しています。第一に、雇用の不安定化や実質賃金の伸び悩みです。失業率の上昇や消費者信頼感の低下は出生率と負の相関を示すことが、複数の研究で報告されています。ただし2010年代の経済回復期に出生率が伴わなかったことから、雇用情勢だけでは説明がつかないとも指摘されています。

第二に、住宅コストの上昇です。経済協力開発機構(OECD)加盟国では、2013年以降、家賃や住宅価格が物価上昇を上回るペースで上がり続けており、出産の先送りに関与している可能性が示唆されています。ただし、住宅価格の上昇が出生率に与える影響については、研究によって結果が分かれており、賃貸コストの上昇は出生率を押し下げる一方、持ち家の資産価値上昇はむしろ出生率を押し上げるという報告もあり、一貫した結論には至っていません。

第三に、将来に対する悲観的な見通しです。多くの高所得国で、今日の子どもたちは親の世代より経済的に恵まれない生活を送るだろうと考える人が多数を占めています。将来への悲観的な見方は、出産に踏み切る可能性の低さと関連することが示されており、気候変動への不安も一部の調査では出産意欲の低下と結びつけられていますが、この関連については研究間で結果が一致していません。

第四に、ジェンダー不平等です。女性が教育や就労の機会において男性と同等の立場を得た一方、家事・育児の負担が女性に偏ったままの社会では、出生率が低くなる傾向が報告されています。東アジアでは、根強い雇用差別と家事・育児負担の偏りを背景に、結婚や出産そのものを選ばない女性が増えているとされています。

結婚しない、パートナーを持たない人が増えている

出生率の低下には、パートナーシップのあり方の変化も深く関わっています。生殖年齢人口のうちパートナーと同居する人の割合が減少していることが、出生率低下の一因として挙げられています。オーストラリアでは、2008年から2019年にかけてのTFR低下(2.02から1.68)のうち、およそ半分が結婚からの離脱によって説明されるとされ、フィンランドでは2010年から2018年にかけての第一子出生率低下のうち、およそ2割が結婚・同棲率の低下によるものと分析されています。

東アジアでは、結婚を経ずに出産することが依然として一般的でないため、未婚化が出生率低下に直結しやすいとされています。日本では、20〜30代で未婚かつ交際相手もいない人の割合が上昇しており、2015年時点で独身者のおよそ半数が交際そのものに関心を持たないと回答したとする調査結果も紹介されています。

希望する子ども数そのものも変化しています。フランスでは18〜24歳女性が希望する子ども数の平均が、2005年の2.5人から2024年には1.9人へと低下しました。アメリカでも2012年から2018年にかけて出産意欲が低下し、その傾向は18〜24歳の若年層でより顕著でした。中国では2017年から2021年にかけて、一人っ子政策の緩和が進む中でも希望・予定する子ども数が低下し、2021年時点で20〜44歳女性の平均予定子ども数は1.64人にとどまっています。

「産む時期」が遅くなることのリスク

出産年齢の上昇も、出生率低下を後押ししている要因の一つです。日本、イタリア、ドイツ、スペインなどでは、女性の平均初産年齢が30〜32歳前後まで上昇し、1970年代と比べておよそ8年遅くなりました。韓国はさらに高く、平均初産年齢は33歳です。出産の先送りは、期間出生率(その年に生まれた子どもの数をもとに算出する指標)を押し下げるだけでなく、不妊のリスクを高め、次の子どもを持つための残された期間を狭めることにもつながります。

イタリア、スペイン、日本など一部の国では、1960年代から1980年代前半生まれの女性のうち、生涯子どもを持たない割合が25〜30%に達しています。生殖補助医療(体外受精など)を受ける人が増えていることも、加齢に伴う不妊が広がっていることの間接的な裏付けとされていますが、生殖補助医療の成功率には限界があり、費用や利用機会の格差もあるため、出産の先送りを完全に補う手段にはなっていないと指摘されています。

一方で、避妊技術の普及は、望まない妊娠・出産を減らす方向に働いています。アメリカでは2007年から2019年にかけて、避妊の効果的な利用や性行為の頻度低下などにより、意図した出生数が8.5%、意図しない出生数が22%減少したと分析されています。ウルグアイでは、皮下埋め込み型避妊具の普及拡大により、2015年から2018年にかけての10代女性の出生数減少のおよそ3分の1が説明されるとする報告もあります。

政策で出生率を反転させるのは難しい

本総説は、出生率を引き上げることを目的とした政策の効果について、慎重な見方を示しています。多くの国が現金給付などの家族政策を拡充してきましたが、子育てにかかる金銭的コストの上昇や、雇用の不安定さ、住宅費の高さ、将来への不安といった、出産をためらわせる根本的な要因には十分に対応できていないとされています。所得や雇用が個人の成功や社会的地位と強く結びついた現代社会の構造そのものが、子どもを持つことと両立しにくい仕組みになっている可能性が指摘されており、こうした構造的な問題に踏み込まない限り、出生率の反転は難しいという見方が示されています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本は、TFR1.3未満の「超低出生率」国の一つに数えられ、平均初産年齢の上昇や生涯未婚率・生涯子どもを持たない女性の割合の高さにおいても、本総説が取り上げる東アジアの傾向を色濃く反映しています。生殖医療の現場では、加齢に伴う不妊相談や生殖補助医療の需要増加という形で、こうした社会全体の変化が個々の患者の経験として現れていると考えられます。出産年齢の上昇が生殖補助医療への需要を押し上げる一方で、その成功率や費用負担には限界があるという本総説の指摘は、患者への説明や治療選択の場面でも踏まえておくべき視点といえます。

また、出生率低下の背景に経済的要因だけでなく、パートナーシップの変化や将来への不安といった心理・社会的要因が複合的に関わっているという整理は、生殖医療を提供する医師と患者のあいだで、治療そのものだけでなく、人生設計や将来への見通しについて対話する必要性を示唆するものとも言えます。

研究の強みと限界

本総説の強みは、国連や各国統計局、Human Fertility Databaseなど複数の公的データソースを横断的に統合し、世界規模での出生率動向を経済・社会・心理的要因から包括的に整理した点にあります。単一の国や地域の分析にとどまらず、高所得国から中所得国までを比較の対象としている点も特徴です。

一方で、本総説は個別の実証研究ではなく、既存の研究知見を統合した解説記事であるという性質上の限界があります。引用されている個々の研究の方法論や対象集団は多岐にわたり、国や時代を越えた単純な比較には注意が必要です。また、住宅価格や気候変動不安が出生率に与える影響のように、研究間で結論が一致していない論点も複数含まれており、今後さらに実証的な検証が必要とされています。

おわりに

今回の総説は、世界的な出生率低下が一時的な現象ではなく、経済的な構造条件、将来への悲観的な見通し、パートナーシップのあり方の変化、そして子どもを持つことへの価値観の変化が複合的に絡み合った、より広範で持続的な現象であることを示しています。今後、出生率をめぐる政策や生殖医療のあり方を検討する上でも、こうした複合的な背景を踏まえた議論が求められると考えられます。

参考文献

1. Sobotka T. The global fertility freefall: trends, drivers and uncertainties. Reprod Biomed Online 2026;53(3):105831. doi:10.1016/j.rbmo.2026.105831.

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