凍結胚移植の周産期リスク──犯人は「凍結」ではなく「ホルモン補充」だった

日本では2022年4月に不妊治療の保険適用が始まって以降、生殖補助医療(ART)による治療周期数は急増し、2023年には56万件を超えました。ART由来の出生8万件超のうち95%は凍結胚移植(FET)によるもので、新鮮胚移植(Fresh ET)は5%にとどまっています。

一方、ARTによる妊娠は自然妊娠に比べて妊娠高血圧症候群(HDP)、妊娠糖尿病(GDM)、前置胎盤、胎盤癒着症(PAS)、弛緩出血による産後出血(PPH)のリスクが高いことが繰り返し報告されてきました。中でもホルモン補充周期(HRC-FET)は、排卵を伴う自然周期(NC-FET)に比べてさらにリスクが高いとされています。ただし従来の研究の多くは「新鮮胚移植 対 凍結胚移植全体」あるいは「ホルモン補充周期 対 自然周期」という二群比較にとどまり、リスク上昇が凍結保存そのものに由来するのか、子宮内膜調整法(黄体形成の有無)に由来するのかを切り分けられずにいました。

この問いに、大阪の複数施設で2015年から2023年にかけて実施された7,593件の出産周期を対象とする大規模な後方視的研究が答えを示しました。Reproductive Medicine and Biology誌(2026年)に掲載されたこの研究は、新鮮胚移植・ホルモン補充周期凍結胚移植・自然周期凍結胚移植の3群を同時に比較し、リスクの所在を明らかにしています(doi:10.1002/rmb2.70072)。

方法──3つの胚移植方式を、7,593件の出産周期で比較した

対象は、2015年から2023年にかけて大阪市内の3施設で実施され、生児出生に至った胚移植周期です。新鮮胚移植908件、ホルモン補充周期凍結胚移植(HRC-FET)4,707件、自然周期凍結胚移植(NC-FET)1,978件の計7,593件が解析対象となりました。母体年齢、BMI、分娩歴、移植時の子宮内膜厚などで調整した一般化推定方程式(GEE)による多変量解析を用い、新鮮胚移植を基準として、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤、胎盤癒着症、弛緩出血による産後出血という5つの主要な周産期合併症のリスクを比較しました。さらに、ホルモン補充周期と自然周期を直接比較する感度分析、および母体年齢で層別化した感度分析も行われました。

リスクの正体は「凍結」ではなく「ホルモン補充」だった

新鮮胚移植を基準とした多変量解析の結果、ホルモン補充周期凍結胚移植は、妊娠高血圧症候群(調整オッズ比1.96、95%信頼区間1.46〜2.62)、胎盤癒着症(同4.71、95%信頼区間2.41〜9.21)、弛緩出血による産後出血(同3.29、95%信頼区間2.21〜4.90)のいずれについても、統計学的に有意なリスク上昇を示しました。5つの合併症のうち1つでも認めた割合も、新鮮胚移植のおよそ2.1倍(調整オッズ比2.09)に上っています。

一方、自然周期凍結胚移植では、これらいずれの合併症についても新鮮胚移植との間に有意差は見られませんでした(妊娠高血圧症候群の調整オッズ比0.98、胎盤癒着症1.45、弛緩出血1.37)。妊娠糖尿病と前置胎盤については、3群のあいだで明確な差は認められませんでした。

凍結保存そのものの影響を切り分けるため、凍結胚移植どうし(ホルモン補充周期 対 自然周期)を直接比較した感度分析でも、ホルモン補充周期は自然周期に比べて妊娠高血圧症候群(調整オッズ比1.99)、胎盤癒着症(同3.23)、弛緩出血(同2.41)のリスクが高いという結果が再現されました。母体年齢で層別化した解析でも、36歳未満・35歳超のいずれの年齢層でも同様の傾向が確認されています。これらの結果は、リスク上昇が胚の凍結保存という技術そのものに由来するのではなく、子宮内膜の調整方法、とりわけ黄体の有無に関わっている可能性を強く示唆しています。

鍵を握るのは「黄体」の有無

ホルモン補充周期では排卵そのものを意図的に抑制し、エストロゲンとプロゲステロンの補充によって子宮内膜を整えるため、妊娠黄体が形成されません。一方、自然周期では排卵が起こり、黄体が形成されたうえで移植が行われます。黄体は、リラキシンや血管内皮増殖因子といった、妊娠初期の心血管系の適応や母体血管のリモデリングに関わる生理活性物質を分泌するとされ、これらが不足すると母体の血管機能が十分に整わないまま妊娠が進み、妊娠高血圧症候群のリスク上昇につながっている可能性が指摘されています。また、黄体の欠如は絨毛外栄養膜細胞の子宮筋層への過剰な侵入や胎盤形成の異常(胎盤癒着症)、血管の脆弱性を介した出血傾向(弛緩出血)にも関与しうるとされ、過去の胎盤の形態学的研究では、ホルモン補充周期由来の胎盤にフィブリノイド層の増加や脱落膜の減少といった組織学的変化が報告されています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、2022年の保険適用開始以降、凍結胚移植の件数がさらに増加しており、その大半はホルモン補充周期によって実施されています。今回の結果は、これまで「凍結胚移植だから」とひとまとめに語られがちだったリスクが、実際には子宮内膜調整法によって大きく異なる可能性を示しています。医学的・スケジュール上の制約が許す場合には、排卵を伴う周期による移植がリスク低減につながる選択肢として検討されうる一方、ホルモン補充周期には計画的に移植日を設定できる、頻回の受診が不要であるといった臨床上の利点もあり、患者ごとのリスクとベネフィットの検討が求められます。診察の場では、ホルモン補充周期を選択する場合に、妊娠高血圧症候群や胎盤癒着症、産後出血への注意深い経過観察が必要であることを、あらかじめ患者に説明しておくことの重要性も示唆されます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、7,593件という規模の大きさに加え、新鮮胚移植・ホルモン補充周期・自然周期という3群を同時に比較したことで、凍結保存そのものの影響と子宮内膜調整法の影響を切り分けた点にあります。単純な二群比較にとどまっていたこれまでの研究の限界を超える設計といえます。一方で限界もあります。後方視的研究であり、群間で母体年齢やBMI、分娩歴などの背景因子に一定の偏りがあったため選択バイアスの可能性は否定できません(解析ではこれらを統計学的に調整しています)。また大阪の3施設という単一の医療グループ内のデータであり、他地域への一般化には注意が必要です。さらに、前置胎盤や胎盤癒着症などまれな合併症は症例数が少なく、特に胎盤癒着症の年齢層別解析では信頼区間が非常に広くなっている点にも留意が必要です。

おわりに

今回の研究は、これまで凍結胚移植全体に帰属されがちだった周産期合併症リスクの多くが、実際にはホルモン補充周期という子宮内膜調整法に集中していることを、大規模なデータで示すものです。妊娠高血圧症候群、胎盤癒着症、弛緩出血による産後出血のリスク上昇は、いずれも黄体の欠如という生理学的背景と関連づけて説明されており、医学的・運用上可能な場合には排卵を伴う周期での移植を検討する根拠となり得ます。今後は、より多施設にわたる前向き研究によって、この知見の一般化可能性がさらに検証されていく必要があるとされています。

参考文献

1. Fujioka S, Matsumoto H, Konishi H, Terawaki N, Nakaoka Y, Fukuda A, Morimoto Y. Hormone Replacement Cycle Frozen–Thawed Embryo Transfer Is Associated With Elevated Perinatal Risk Compared With Natural Ovulatory Cycle Frozen–Thawed and Fresh Embryo Transfers: Retrospective Analysis of 7,593 Live Birth Cycles. Reprod Med Biol 2026;25:e70072. doi:10.1002/rmb2.70072.

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