びまん性子宮筋腫症(diffuse uterine leiomyomatosis, DUL)は、無数の小さな筋腫が子宮筋層全体に広がって置き換わってしまう、まれな疾患です。通常の子宮筋腫のように大きな結節を切除すれば済むわけではなく、子宮のかたちそのものが変化してしまうため、過多月経による強い貧血や、子宮内腔のゆがみによる不妊の原因となることが知られています。
生殖補助医療(ART)を行っても着床に至らないケースが少なくない一方、有効な治療戦略は依然として定まっていません。子宮内腔を取り戻す手段として、無数の筋腫をひとつずつ取り除く「拡大筋腫核出術」が提案されてきましたが、大量出血や子宮再建の難しさ、術後妊娠における子宮破裂・癒着胎盤といった産科的リスクが指摘されており、詳細な周産期管理まで含めて報告された症例は限られています。
こうした背景のもと、BMC Pregnancy and Childbirth誌(2026年)に、拡大筋腫核出術によって148個の筋腫を摘出した後に妊娠・出産に至った1症例が報告されました(doi:10.1186/s12884-026-09644-7)。反復着床不全の経過、手術手技、そして妊娠中の綿密な画像フォローアップまでを追った内容です。
経過──7回の胚移植不成功から、拡大筋腫核出術へ
患者は29歳、妊娠歴のない女性です。27歳のときに過多月経を主訴に前医を受診し、多発性子宮筋腫と診断されました。当初は筋腫の数が多いことから筋腫核出術は困難と判断され、自然妊娠が試みられましたが、妊娠には至らず、その後も筋腫は増大・増数していきました。MRI検査では筋層全体が無数の小さな筋腫に置き換わる所見が確認され、子宮鏡検査でも子宮内腔に突出する複数の粘膜下筋腫が認められ、びまん性子宮筋腫症と診断されています。
その後ARTが優先され、29歳から31歳にかけて3回の採卵周期と4回の単一胚盤胞移植が行われましたが、いずれもグレードの良好な胚(Gardner分類4AA、4BA、4BA、4BB)であったにもかかわらず着床には至りませんでした。32歳時には25個の筋腫を摘出する初回の筋腫核出術が行われましたが、術後さらに3回の胚移植を行っても着床は成立せず、この間に新たな筋腫の発生と既存筋腫の増大によって病状は進行しました。初回手術前後を通じて計7回の胚移植が不成功に終わったことになります。
148個の筋腫摘出──子宮を大きく開いて内腔を取り戻す
反復着床不全と病状の進行を受けて、34歳時に拡大筋腫核出術が施行されました。頸管に一時的なターニケットを装着し、希釈したバソプレシンを筋層内に注入したうえで、子宮を正中で長軸方向に切開し、露出した筋層面にも内腔と平行な追加切開を加えることで、びまん性に広がる筋腫結節をひとつずつ丁寧に核出していく手技です。摘出された筋腫は最終的に148個にのぼり、多くは3cm未満の小型結節でした。摘出後は子宮内膜腔を吸収糸で縫合し、筋層を2層に再建して3層構造で閉創しています。手術時間は250分、術中出血量は1,410mLで、400mLの自己血が術中に返血されましたが、同種血輸血は不要でした。病理検査では異型のない良性の平滑筋腫と確認されています。
術後3か月の子宮鏡検査では内腔に突出する粘膜下筋腫は認められなくなった一方、子宮内膜の再生は不十分でした。MRIでも明らかな筋腫結節は確認されず、内膜の回復を待つため胚移植は3か月見送られました。その後行われた最初の胚移植で妊娠が成立しましたが、この妊娠は流産に終わっています。続く2回目の移植(通算9回目の胚移植)で妊娠が成立し、このとき患者は35歳でした。
薄くなり続ける子宮筋層――妊娠中の綿密な画像フォローアップ
再建された子宮筋層は、妊娠10週の時点ですでに最小2.3mmまで菲薄化しており、17週のMRIでもこの菲薄化が確認されました。19週には超音波検査で複数の胎盤陰影(ラクナ)が検出され、26週のMRIでは菲薄化した筋層の軽度の膨隆が示唆されています。27週には胎盤付着部の境界不明瞭化(clear zoneの消失)が超音波で確認され、28週には頸管長の短縮を認めたため入院管理となりました。30週のMRIでは胎盤内にT2強調像での低信号帯(いわゆるT2-dark sign)が確認され、癒着胎盤(placenta accreta spectrum, PAS)が疑われる所見でした。34週のMRIでは胎盤組織が筋層の高度菲薄化部位まで及んでいる様子が示され、この時点での最菲薄部の筋層厚は約1mmと報告されています。
外来では2週間ごと、入院後は週1回の超音波検査、入院後4週ごとのMRI検査によって、筋層の状態、胎盤の形態、頸管長、胎児発育が継続的に評価されました。胎児発育は妊娠期間を通じて良好で、むしろ在胎週数に対してやや大きめに経過したため、術前に自己血を貯血したうえで妊娠36週に予定帝王切開が実施されています。
36週での計画帝王切開――胎盤剥離と止血との闘い
児は3,261gの健常な男児として出生しました。術前画像所見からPASが疑われていたため、術中超音波検査で胎盤の付着していない部位を確認したうえで、胎盤を切開しないよう下部子宮部にJ字型の変法切開が加えられました。胎児娩出後、子宮底側に付着していた胎盤は自然に剥離せず、用手剥離が行われましたが一部が遺残しました。筋層からの持続的な出血に対しては、子宮切開部の縫合と子宮内バルーンタンポナーデによって止血が得られ、子宮摘出には至っていません。総出血量(羊水込み)は2,068mLで、術中に1,200mLの自己血が返血されましたが、こちらも同種血輸血は不要でした。
術後経過は良好で、産褥期に特記すべき合併症はありませんでした。月経は帝王切開後4か月で再開し、遺残していた胎盤組織も次第に不明瞭となりました。術後1年のMRIでは小さな筋腫がわずかに残る程度でびまん性子宮筋腫症の再発は認められず、子宮鏡検査でも滑らかな子宮内腔が確認されています。患者は2度目の妊娠を希望しており、出産後2年が経過した現在もフォローアップが継続されています。
びまん性子宮筋腫症の病型分類と、それぞれに応じた治療戦略
びまん性子宮筋腫症に対する妊孕性温存治療としては、子宮鏡下手術、GnRHアゴニストなどの薬物療法、高密度焦点式超音波治療(HIFU)、そして拡大筋腫核出術など複数の選択肢が報告されてきましたが、それぞれに長所と限界があり、標準治療は確立していません。子宮鏡下手術は粘膜下筋腫には有効ですが、びまん性の筋層内病変には対応が難しく、薬物療法は筋腫そのものを取り除くものではないため治療中止後の再燃が課題となります。
最近報告された日本国内の大規模観察研究では、びまん性子宮筋腫症は筋腫の発生部位に応じて「全置換型」「筋層置換型」「粘膜下筋腫優位型」の3つの病型に分類できることが示されています。粘膜下筋腫優位型では子宮鏡下手術による内腔の是正が有効な場合がある一方、今回の症例は筋層のほぼ全体が筋腫結節に置き換わる全置換型に分類され、子宮鏡単独での妊孕性温存は難しく、拡大筋腫核出術が選択されています。良好な胚が反復して着床しなかった経過や、手術後2回連続の胚移植で着床が成立した事実は、子宮内腔の是正とびまん性病変の軽減が、子宮内膜の着床能改善に寄与した可能性を支持するものです。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本では、びまん性子宮筋腫症そのものが頻度の低い疾患であり、拡大筋腫核出術は技術的難度が高く、施行できる施設も限られています。今回の報告は、148個という国内外でも有数の摘出数を扱いながら、術後の妊娠経過をMRIと超音波検査で継続的に追跡し、出産後の長期フォローアップまで示した点で、実地臨床への示唆に富む症例です。拡大筋腫核出術後の妊娠は、子宮破裂やPASのリスクが通常の筋腫核出術後よりも高いと考えられているため、頻回の画像評価と多職種による周産期管理計画が不可欠になります。今回のように、筋層厚が妊娠早期から菲薄化し、経過とともにさらに薄くなっていく症例では、腹痛や子宮収縮といった臨床症状の有無とあわせて、入院や早期分娩のタイミングを個別に判断していく必要があります。
一方で、筋層厚がどこまで薄くなれば子宮破裂のリスクが高いといえるのか、確立された基準値は現時点で存在しません。日本の臨床現場では、こうした症例の集積とともに、病型分類に応じたリスク層別化や、施設間での情報共有が今後の課題になると考えられます。
研究の強みと限界
本症例報告の強みは、148個という摘出数の多さに加え、妊娠経過を通じた頻回の画像評価と、出産後2年にわたる長期フォローアップを詳細に記録している点にあります。拡大筋腫核出術後の生児出生例はこれまでにも複数報告されていますが、妊娠中の筋層厚の推移やPAS所見の変化を経時的に示した報告は限られています。
一方で限界もあります。第一に、単一症例の報告であり、一般化には慎重さが求められます。第二に、術中および画像所見からPASが強く疑われたものの、組織学的な確定診断は得られておらず、あくまで「疑い例」としての報告にとどまります。第三に、遺伝性平滑筋腫症・腎細胞癌症候群(HLRCC)のような遺伝性疾患の可能性についても、今回は遺伝学的検査が行われておらず、鑑別が完全にはなされていません。
おわりに
今回の報告は、拡大筋腫核出術によって148個の筋腫を摘出したびまん性子宮筋腫症の症例において、反復着床不全を乗り越えて妊娠・出産に至った経過を、妊娠中の詳細な画像評価とともに示すものです。拡大筋腫核出術は、慎重に選択された症例においては妊孕性温存の選択肢となりうる一方、妊娠成立や安全な分娩が保証されるものではなく、綿密な生殖医療管理と産科管理の両立が引き続き求められます。今回得られた知見は、病型に応じた個別化治療の議論を進めるための一資料であり、今後さらに症例が蓄積されていくことが期待されます。
参考文献
1. Okunaka A, Ishikawa H, Sato M, Saito Y, Omoto A, Nishida M, Kawai K, Koga K. Successful pregnancy following extensive myomectomy for diffuse uterine leiomyomatosis. BMC Pregnancy Childbirth. 2026 (in press). doi:10.1186/s12884-026-09644-7.
2. Ishikawa H, Asano R, Ono M, Kitade M, Kusumi M, Tsuji S, et al. Novel subtype classification of diffuse uterine leiomyomatosis based on a Nationwide Survey in Japan. J Obstet Gynaecol Res. 2025;51:e70150.
