「かみ合わない」夫婦ほど、不妊治療のストレスに苦しむ──251組が示した4つの向き合い方

不妊は、WHOの2023年の報告によれば、生涯有病率が17.5%、直近12か月有病率が12.6%とされ、成人のおよそ6人に1人が経験する健康課題です。中国国内の大規模調査では、直近12か月の不妊有病率が2007年の約12.0%から2010年には15.5%、2020年には約18.0%へと上昇したことが報告されています。

不妊は身体的な問題にとどまらず、夫婦双方に心理的・関係的な負担をもたらします。女性では21.0〜52.2%、男性では14.0〜23.6%が抑うつ症状を経験するとされ、不妊治療中のカップルのおよそ45.0%が中等度から重度の心理的苦痛を報告するという調査もあります。近年の研究は、個人単位の分析から夫婦単位の分析へと視点を移し、パートナー同士が共同でストレスに対処する「ダイアディック・コーピング(2者間コーピング)」という概念に注目してきました。しかし、多くの研究は集団全体を均質なものとみなす手法に依拠しており、夫婦ごとの対処スタイルの多様性や、その心理的帰結の性差までは十分に検討されていませんでした。

こうした課題を踏まえ、Scientific Reports誌(2026年)に、中国湖南省衡陽市の生殖医療クリニックで実施された横断研究が掲載されました。2024年12月から2025年3月にかけて251組の不妊治療中の夫婦を対象に、個人ごとの対処パターンではなく夫婦単位の対処パターンを分類し、それが不安・抑うつとどう結びつくのかを検証した内容です(doi:10.1038/s41598-026-62111-3)。

方法──251組の夫婦を、4つの尺度で調べた

対象は、中国の2つの三次医療機関の生殖医療クリニックを受診した、異性愛の法律婚夫婦251組です。妻の平均年齢は31.27±4.38歳、夫は32.93±4.69歳で、76.9%が子どものいない夫婦でした。夫婦それぞれが独立した場所で、パートナーと相談せずに4種類の自己記入式質問票に回答しました。

用いられたのは、2者間の対処行動を測る「Dyadic Coping Inventory(DCI、37項目)」、病気や治療をどう捉えているかを測る「簡易版疾病知覚質問票(BIPQ)」、不安症状を測る「GAD-7」、抑うつ症状を測る「PHQ-9」の4種です。DCIは、ストレスの伝え合い、支援的な対処、委任的な対処、共同での対処、否定的な対処という5つの下位尺度からなり、この5つの得点パターンをもとに、統計的な手法である潜在プロファイル分析(LPA)を用いて、夫婦を対処スタイルごとにグループ分けしました。そのうえで、疾病知覚(不妊をどれだけ脅威と感じているか)が、対処スタイルと不安・抑うつとの関係をどう媒介するかを、夫婦それぞれのデータを組み込んだ統計モデル(APIMeM)で検証しています。

見えてきた「4つの向き合い方」

解析の結果、分類の精度を示すエントロピー値0.93という高い分類精度のもと、4つの対処プロファイルが識別されました。

最も多かったのは「夫が積極的・妻が受け身」タイプ(38.4%、95組)で、夫が支援的な対処に前向きに取り組む一方、妻の関与は相対的に低いという組み合わせでした。次に多かったのが「低関与・相互不関与」タイプ(31.6%、80組)で、夫婦とも対処のすべての側面で関与が乏しく、否定的な対処(責め合いや回避)の傾向も相対的に高いグループでした。3番目は「高い相互関与」タイプ(23.3%、59組)で、夫婦双方が対処のあらゆる側面で高い得点を示し、協働的に不妊というストレスに向き合っている組み合わせです。最も少なかったのは「妻が積極的・夫が支援役」タイプ(6.7%、17組)で、妻が主体的に働きかけ、夫はそれを支える形で応じるという組み合わせでした。

最も苦しんでいたのは、夫婦とも「関わりが薄い」グループ

4つのプロファイル間で、不安・抑うつの得点には明確な差が見られました。妻については、不安(F=27.999、p<0.001)、抑うつ(F=18.982、p<0.001)のいずれも群間で有意差があり、事後検定の結果、「低関与・相互不関与」タイプの妻が、他の3タイプの妻よりも一貫して高い不安・抑うつ得点を示しました。さらに、「夫が積極的・妻が受け身」タイプの妻は、「高い相互関与」タイプの妻よりも不安・抑うつがやや高い傾向も見られています。

夫についても同様の傾向で、不安(F=35.057、p<0.001)、抑うつ(F=12.194、p<0.001)のいずれも群間差が確認されました。「低関与・相互不関与」タイプの夫が、他のすべてのタイプの夫よりも不安が高く、「妻が積極的・夫が支援役」タイプの夫も、「夫が積極的・妻が受け身」タイプや「高い相互関与」タイプの夫より不安が高いという結果でした。総じて、夫婦双方が能動的に関わり合う「高い相互関与」タイプが、妻・夫のどちらにおいても最も心理的に安定した状態と結びついていました。

心のフィルター「不妊をどう捉えるか」が橋渡しをする

対処スタイルが、なぜ不安・抑うつの違いにつながるのか。その一つの経路として検討されたのが、不妊という状況をどれだけ脅威的・制御不能なものと捉えているかという「疾病知覚」です。統計モデルの結果、妻・夫のいずれにおいても、自分自身の疾病知覚が自分自身の不安・抑うつと正の関連を示しました(疾病知覚が脅威的であるほど、不安・抑うつが高い)。

妻については、「妻が積極的・夫が支援役」「夫が積極的・妻が受け身」「高い相互関与」という3つの対処タイプいずれにおいても、対処スタイルと妻自身の不安・抑うつとの関連の一部が、疾病知覚を介した間接的な経路で説明されました。つまり、より協働的な対処スタイルほど疾病を脅威と感じにくく、それが不安・抑うつの低さにつながっているという構図です。一方、夫についてはこの媒介経路がより限定的で、「夫が積極的・妻が受け身」タイプと「高い相互関与」タイプでは確認された一方、「妻が積極的・夫が支援役」タイプでは統計的に裏付けられませんでした。妻の疾病知覚が比較的どのタイプでも安定してその後の心理状態と結びついていたのに対し、夫の疾病知覚はどの対処スタイルに置かれているかによって関わり方が変わる、という違いが見られたことになります。

妻の不安な気持ちは、夫にもうつる

さらに注目されるのは、パートナーをまたいだ関連です。不安モデルでは、妻の疾病知覚が高いほど(=妻がより脅威的に感じているほど)、夫自身の不安も高くなるという、パートナー間の間接的な関連が3つの対処タイプいずれでも確認されました。一方、夫の疾病知覚から妻の不安への同様の関連は認められませんでした。また、抑うつモデルでは、こうしたパートナーをまたいだ関連はいずれの方向でも確認されず、不安と抑うつとで、パートナー間の伝わり方に違いがある可能性が示唆されています。ただし、本研究は一時点の横断調査であるため、これらの関連は時間的な前後関係を示すものではなく、あくまで統計的な結びつきとして解釈する必要があります。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本の不妊治療の現場では、心理的支援がしばしば妻(患者)を中心に組み立てられ、夫(パートナー)への支援は付随的な位置づけにとどまることが少なくありません。今回の結果は、夫婦の対処の組み合わせそのものに着目する視点を提供するものです。とりわけ「低関与・相互不関与」という組み合わせが、妻・夫のどちらにおいても不安・抑うつと結びついていたことは、コミュニケーションが乏しいまま治療が進む夫婦への注意を促すものと言えます。

一方で、夫婦のどちらか一方だけが積極的に関わるという非対称な組み合わせ(妻が積極的・夫が支援役、あるいはその逆)についても、心理的な帰結が夫婦で異なりうることが示されています。日本の臨床現場では、妻への説明や心理教育に重点が置かれがちですが、夫の疾病知覚や心理状態が対処スタイルによって変わりうるという知見は、夫への個別の関わり方を検討する材料になり得ます。ただし、著者らも述べているとおり、この研究で識別された4つの対処タイプは臨床的な分類として検証されたものではなく、今回の結果を直ちに支援方法の変更に結びつけるのではなく、今後の追試を踏まえて検討していく必要があります。

研究の強みと限界

本研究の強みは、夫婦251組という規模で、個人ではなく夫婦という単位で対処スタイルを分類し、疾病知覚を介した媒介経路を、妻・夫双方の視点から検証した点にあります。分類の精度を示すエントロピー値は0.93と高く、最も小規模なグループ(17組)についても分類の確からしさは高い水準でした。

一方で限界も複数指摘されています。第一に横断研究であるため、対処スタイルと不安・抑うつの前後関係は特定できません。第二に、統計モデルにおいて夫婦を最も可能性の高いグループに割り当てて扱っており、グループ分けの不確実性が十分に反映されていない可能性があります。第三に、全ての測定が自己報告によるものであり、共通の測定方法に由来するバイアスの可能性を完全には否定できません(ただし、いわゆるHarmanの単一因子検定では、単一因子が説明する分散は20.71%にとどまり、深刻な問題を示す水準ではありませんでした)。第四に、性役割に関する信念など、非対称な対処パターンの背景にありうる要因は測定されておらず、その解釈は今後の課題として残されています。また、夫を対象としたGAD-7・PHQ-9の信頼性係数がやや低め(それぞれ0.687、0.683)であった点も、夫における関連の弱さに影響した可能性があります。

おわりに

今回の研究は、不妊治療中の夫婦の対処スタイルが一様ではなく、夫婦がどのように役割を分担し、どちらがどれだけ関与しているかによって、心理的な帰結が異なりうることを示しました。妻の心理状態は、対処スタイルにかかわらず自身の疾病知覚と比較的安定して結びついていた一方、夫の心理状態は対処スタイルの組み合わせによって関わり方が変わるという、性差を伴う結果が得られています。これらの知見は因果関係を示すものではなく、今後の縦断研究や、対処スタイルに応じた心理的支援のあり方を検討するための、探索的な手がかりとして位置づけられています。

参考文献

1. Chen J, Qian S, Li Y, Wu Y, Zhang J, Zhou Y. Dyadic coping profiles and emotional distress in Chinese infertile couples. Sci Rep (2026). doi:10.1038/s41598-026-62111-3.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です