凍結胚の融解はもっとシンプルでいい──1ステップでも成績は同等

体外受精や顕微授精で得られた胚を凍結保存し、必要な時期に融解して移植する「ガラス化保存法」は、現在の生殖補助医療の標準的な手法として定着しています。融解の際には、凍結保護剤を細胞外に安全に取り除くため、複数の溶液に段階的に浸す方法が一般的にとられてきました。急激な浸透圧の変化は細胞に低張ストレスを与え、不可逆的な障害につながりうるという凍結生物学の考え方に基づく手順です。

一方で、この段階的な融解操作は手技の熟練度が求められ、時間もかかります。近年は、溶液を1回または2回にとどめる簡易な融解プロトコルでも、胚盤胞の生存率や妊娠成績が従来法と変わらないとする報告が相次いでおり、培養室の作業負担を減らす方向での見直しが進んでいます。ただし、これまでの研究の多くは胚盤胞のみを対象としており、発育段階や形態評価、胚盤胞に到達した日数といった胚の特性によって簡易法の効果に差が出るのか、また卵割期胚にも同様に適用できるのかは、十分に検証されていませんでした。

こうした課題に答えるため、Reproductive BioMedicine Online誌(2026年)に、日本国内の単一施設で2024年1月から12月にかけて実施された1,501周期を対象とした後方視的研究が掲載されました。従来の3ステップ融解法と、簡易な2ステップ法・1ステップ法とを比較し、胚の特性別にも成績を検証した内容です(doi:10.1016/j.rbmo.2026.105799)。

方法──1,501周期の胚移植を、三つの融解法で比較した

対象は、単一胚移植を行った1,501周期で、内訳は卵割期胚150周期、胚盤胞1,351周期でした。融解法は、融解液1分・希釈液2分・洗浄液3分からなる従来の3ステップ法(742周期)、融解液1分・希釈液2分の2ステップ法(461周期)、融解液1分のみで完了する1ステップ法(298周期)の3群に分けられました。3ステップ法は2024年1〜9月、1ステップ法は同年4〜9月に導入され、両者が重なる期間は割り付けを交互に行うことで比較の公平性が図られています。2ステップ法は同年10〜12月に単独で使用されました。

胚盤胞についてはさらに、患者の年齢や体格指数(BMI)などの背景因子を調整した多変量ロジスティック回帰分析に加え、発育段階(完全胚盤胞か拡張胚盤胞か)、形態評価(グレードの良し悪し)、胚盤胞に到達した日数(5日目か6日目か)別のサブグループ解析が行われました。

卵割期胚:すべてのプロトコルで生存率100%

卵割期胚150個では、融解直後の生存率はいずれのプロトコルでも100%でした。移植後の継続妊娠率(心拍確認まで至った妊娠の割合)は、3ステップ法11.1%、2ステップ法12.5%、1ステップ法10.8%で、統計学的な差はありませんでした(P=1.0000)。

一方で、妊娠に至った例のうち、その後に妊娠が継続しなかった割合(流産率)は、簡易な2群のほうが高い傾向が見られました(P=0.0284)。ただし卵割期胚の症例数自体が少なく、妊娠の絶対数はごくわずかであるため、この結果は探索的な所見にとどまり、慎重な解釈が必要とされています。

胚盤胞:3ステップも1ステップも、妊娠率は変わらなかった

胚盤胞1,351個における融解後の生存率は、3ステップ法100%、2ステップ法99.3%、1ステップ法99.6%と、いずれも極めて高い水準で保たれ、統計学的な差はありませんでした(P=0.1112)。移植後の継続妊娠率も、47.7%、46.2%、43.9%と近い値にとどまり、有意差はありませんでした(P=0.5765)。

この同等性は、胚の特性によらず一貫していました。発育段階別に見ると、完全胚盤胞では43.2%・39.6%・33.7%(P=0.3111)、拡張胚盤胞では49.6%・49.5%・49.1%(P=0.9950)。形態評価別では、グレードの低い胚盤胞で27.5%・23.5%・23.4%(P=0.7636)、グレードの良い胚盤胞で52.1%・51.6%・48.4%(P=0.6390)。胚盤胞に到達した日数別では、5日目胚盤胞で52.7%・52.9%・50.3%(P=0.8234)、6日目胚盤胞で34.4%・28.4%・27.4%(P=0.4088)と、いずれの区分でも3群の間に意味のある差は確認されませんでした。

背景因子を調整した多変量ロジスティック回帰分析でも、母体年齢、発育段階、形態評価、胚盤胞到達日数は妊娠成績と関連する因子として検出された一方(いずれもP≦0.002)、融解プロトコルの違いはどの成績にも有意な影響を与えていませんでした。

レーザー孵化補助の実施率だけは、1ステップで下がった

唯一、3群間で明確な差が見られたのが、透明帯の一部にレーザーで切開を加える孵化補助(レーザーアシステッドハッチング、LAH)の実施率です。3ステップ法96.5%、2ステップ法93.5%に対し、1ステップ法では84.3%にとどまりました(P<0.0001)。これは、1ステップ法では融解液から出た直後に胚が急速に再膨張し、透明帯とのすき間(囲卵腔)が狭くなることで、レーザーを安全にあてられる余地が小さくなるためと説明されています。それでもなお、LAHの実施有無自体は妊娠成績に有意な影響を与えていませんでした。

なぜ単純な融解でも大丈夫なのか──「浸透圧ショック」説の見直し

従来の凍結生物学では、凍結保護剤を含む高浸透圧の溶液から、等張の培養液へと一気に移すと、細胞内へ急激に水分が流入し、細胞膜の破綻など不可逆的な損傷につながると考えられてきました。しかし近年の複数の臨床研究は、この理論的な懸念を覆す結果を積み重ねています。別の研究チームによる前向き研究では、1ステップ融解による臨床妊娠率・継続妊娠率・生児出生率が、従来法と有意差がないことが示されており、さらに大規模な追跡調査では、1ステップ融解で生まれた1,266人の児について、出生時の在胎週数や体重に従来法との差がないことも報告されています。

今回の研究では、1ステップ法で胚盤胞の再膨張速度がむしろ速くなる現象が観察されており、これは別の実験研究の知見とも一致しています。理論上は、この急速な再膨張が細胞への負担を増すとも考えられますが、実際の臨床成績には表れていません。むしろ、段階的な融解操作にかかる時間や、室温にさらされる時間の長さそのものが胚にとっての負担になっている可能性が指摘されており、直近では、凍結保護剤を含む融解液すら使わず、培養液の中で直接胚を戻す、さらに簡略化した手法の可能性も議論され始めています。胚が想定されていたよりも急激な浸透圧変化に耐えられる可能性があるという見方は、今後の融解プロトコルの標準を変えていく可能性があります。

日本の生殖医療現場にとっての意味

今回の研究は日本国内の生殖医療施設で実施されたデータに基づいており、国内の臨床現場にとって直接的な参考になります。融解操作は培養室における作業負担の大きい工程のひとつであり、1ステップ法への移行は、胚を扱う時間や手技者による差を減らし、業務の効率化につながる可能性があります。市販の融解キットを使わない、さらに簡略化した方法まで視野に入れれば、コスト面でのメリットも見込まれます。

一方で、卵割期胚に関するデータは症例数が限られており、流産率にみられた差が実際に臨床的な意味を持つのかどうかは、今後さらに大きな規模での検証が必要とされています。日本の現場では、胚盤胞移植が主流になりつつある一方、卵割期胚での移植を選択せざるを得ない状況も一定数残っており、双方の胚に関するエビデンスの蓄積が引き続き求められます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、1,501周期という規模の大きさに加え、胚盤胞だけでなく卵割期胚も対象に含め、発育段階・形態評価・胚盤胞到達日数という複数の切り口でサブグループ解析を行った点にあります。

一方で限界も存在します。第一に、3ステップ法は研究期間の前半、簡易な2法は後半に導入されており、時期による背景因子の違いが結果に影響した可能性があります。第二に、3ステップ法と簡易な2法とでは使用した市販の融解キットが異なっており、溶液組成の違いが結果に影響した可能性は完全には否定できません。第三に、卵割期胚の解析対象数(150例)は胚盤胞に比べて少なく、流産率に関する所見は探索的なものにとどまります。第四に、単一施設・後方視的研究であるため、他施設への一般化には注意が必要です。同一患者が複数回の移植周期を経ている点についても、初回移植のみに限定した追加解析で同様の結果が確認されてはいるものの、今後は多施設での前向き研究による検証が望まれます。

おわりに

今回の研究は、簡易な融解プロトコルが、胚盤胞だけでなく卵割期胚においても、また発育段階や形態評価、胚盤胞到達日数によらず、従来の3ステップ法と同等の生存率・妊娠成績をもたらすことを、これまでにない規模のデータで示しました。融解操作の簡略化は、培養室の作業負担軽減という実務的な利点にとどまらず、凍結胚が急激な浸透圧変化にも相応の耐性を持つ可能性を示す知見として、今後の融解プロトコルのあり方を検討する土台になると考えられます。単一施設での後方視的研究という限界を踏まえ、多施設での前向き研究によるさらなる検証が今後の課題とされています。

参考文献

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