妊よう性(妊娠する力)への関心は、これまで主に女性の年齢に向けられてきました。しかし出産年齢は女性だけでなく男性の側でも上昇を続けており、英国では父親の平均出産時年齢が1974年の29.4歳から2022年には33.7歳へと上昇しています。加齢に伴う精子の質の低下や、子の遺伝的リスクの増加が知られている一方、若い男性自身が自らの妊よう性についてどの程度理解しているのかを扱った研究は、これまで限られてきました。
女性を対象とした調査では、繁殖能力を実際より低く見積もる傾向が繰り返し報告されてきましたが、男性についてはまとまったデータがほとんどありませんでした。最も新しい先行調査は2015年に実施されたものにとどまり、男性生殖生理そのものへの理解や、社会経済的な要因が家族計画に与える影響までは十分に扱われていませんでした。
こうした空白を埋めるため、PLOS One誌(2026年)に、英国の若い男性408人を対象とした横断的アンケート調査が掲載されました。妊よう性に関する知識、態度、そして子どもを持つことへの考え方を、これまでで最も詳細に調べた内容です。
方法──408人の英国人男性に、54項目のアンケートを実施した
対象は、2025年2月13日から9月29日にかけて、SNS(XおよびInstagram)を通じて募集された18歳以上の英国在住男性です。合計408人が回答し、そのうち214人(52.5%)が全項目を完了しました。年齢の中央値は34歳(四分位範囲31〜38歳)で、これは英国における父親の平均出産時年齢とほぼ一致する水準でした。回答者の61.5%が既婚、78.4%が学位以上の学歴、85.4%がフルタイム就労という構成で、全国平均と比べるとやや高学歴・高所得層に偏った集団でした。
アンケートは54の選択式設問からなり、社会人口統計学的な特性、妊よう性に関する知識、生殖に関する希望、そして個人的・社会経済的な影響要因という4つの領域を扱いました。
「加齢が影響する」ことは知っていても、「いつから」「どの程度」かは知らない
回答者の58.6%(133人)は、父親の年齢がカップルの妊娠率に影響することを認識していました。しかし、不妊症のうち男性側の要因が占める割合を正しく(31〜40%程度と)答えられた人はわずか16.9%(38人)にとどまり、多くはこの割合を過大評価していました。
精子の質が低下し始める年齢についても、回答は大きくばらついていました。最も多く選ばれたのは41〜45歳(24.3%)で、30〜35歳(19.9%)、36〜40歳(17.7%)がこれに続きました。9.7%(22人)は「年齢とともに低下しない」と回答しています。実際には精子の質は35歳前後から低下し始めるとする報告があり、回答者の多くは低下の開始時期を実際より遅く見積もっていたことになります。
父親の加齢が子どもの将来の健康に影響を与えうることを正しく認識していた回答者は48.0%(108人)でした。さらに、その中で影響が現れ始める年齢を45歳以上と正しく答えられたのは49.1%(53人)にとどまりました。先行研究では、45歳以上の父親から生まれた子どもは、30〜34歳の父親の子どもと比べて出生後5年以内の死亡リスクが65%高いとする報告もあり、こうした知見と回答者の理解との間には、なお大きな開きがあることがうかがえます。
見過ごされがちな「男性因子不妊」という現実
不妊症の原因のおよそ3割は男性側にあるとされていますが、回答者が最も多く挙げた原因は「女性の排卵の問題」(31.3%)で、「男性側の問題」(33.5%)と僅差でした。一方、精子の基準値に関する知識は比較的良好で、WHOの正常下限値である「3900万」に近い回答が最多(41.8%)でした。精子が作られるサイクルについては、現在の推定に近い「61〜75日」を選んだ回答者はわずか4.0%にとどまり、多くは「7〜10日ごと」(68.1%)と誤って認識していました。
生活習慣のリスクは、よく理解されている
修正可能な生活習慣が精子の質に影響することについては、理解が比較的進んでいました。喫煙が男性の妊よう性に影響すると答えた回答者は99.1%、違法薬物の使用は95.3%、放射線・化学物質への曝露は98.1%にのぼりました。BMI(体格指数)が妊娠のしやすさに影響することも85.5%が理解していました。
この結果は、2016年に実施された同種の先行調査(回答者701人)と対照的です。その調査では、修正可能な危険因子を正しく識別できた回答者は53.1%にとどまっていました。地域や募集方法の違いには注意が必要ですが、この10年ほどの間に、生活習慣と男性妊よう性の関係についての一般的な認知は進んだ可能性が示唆されています。
一方で、育毛剤として使われるミノキシジルやフィナステリドが妊よう性に影響するかどうかについては、回答者の意見が分かれ、それぞれ51.2%、48.1%が「どちらとも言えない」と回答しています。近年の分析では、これらの薬剤の使用と男性不妊との関連を示す報告も出てきており、今後さらに知見が積み重ねられる領域とされています。
情報を求めない43%、求めてもSNSはほぼ使わない
回答者の43.2%(92人)は、これまで妊よう性に関する情報を積極的に探したことがないと答えました。情報を探した経験のある回答者では、オンラインの医療系サイトが最も多く利用されており(32.9%)、次いで医師への相談(14.6%)でした。SNSを情報源として挙げた回答者はわずか1.4%にとどまっています。
この結果は、同様の手法で女性を対象に実施された先行調査と対照的です。その調査ではSNSを通じて5,482人という大規模な女性の参加が得られていましたが、今回の男性調査の参加者数は408人にとどまりました。健康情報への向き合い方に、男女で違いがある可能性を示唆する結果といえます。
子どもを持つ決断を左右するのは、パートナー・お金・住まい
生物学的なつながりのある子どもを持つことを重要だと考える回答者は76.5%にのぼりました。子どもを持つかどうかを決める際の要因としては、「適切なパートナーが見つかるかどうか」を重視する回答者が94.7%と最も多く、次いで経済的な安定(95.2%)、キャリアの安定(86.4%)、十分な広さの住居(72.4%)が続きました。
将来の妊よう性への不安については回答が分かれ、「心配している」が25.0%、「どちらとも言えない」が23.1%、「心配していない」が25.5%という結果でした。また、精子数のチェックを含む妊よう性の健康診断を受けることについては、75%(合計)が前向きな姿勢を示しており、44.8%は将来的な精子凍結の利用も検討すると回答しています。
日本の生殖医療現場にとっての意味
日本でも、晩婚化・晩産化とともに男性の年齢と妊よう性の関係への関心は高まりつつありますが、これまで女性の卵子加齢に比べると、男性側の情報提供や啓発は限られてきた面があります。今回の結果は、生活習慣要因についての理解が比較的進んでいる一方で、加齢そのものが妊よう性や子の健康に与える影響については、性別を問わず誤解が根強く残っている可能性を示しています。
診療の場では、不妊治療を検討するカップルへの説明において、女性側の年齢だけでなく男性側の年齢についても、いつから、どの程度のリスクが生じるのかを具体的に伝えることが、より現実的な家族計画の助けになると考えられます。また、SNSを介した情報提供が男性には届きにくいという今回の知見をふまえると、通常の診察の機会を活用した情報提供のあり方が、今後の検討課題になり得ます。
研究の強みと限界
本研究の強みは、英国における若い男性を対象とした妊よう性知識調査としては最大規模である点、そして知識だけでなく生殖に関する希望や社会経済的な影響要因まで幅広く扱った点にあります。
一方で限界もあります。第一に、参加者は英国在住者に限られ、SNSを通じた募集であったことから、高学歴・高所得層に偏ったサンプルとなっています。第二に、408人中、全項目に回答したのは214人(52.5%)にとどまり、脱落による偏りの可能性が残ります。第三に、すべての設問が選択式であったため、回答の背景にある考え方までは十分に把握できていません。第四に、横断的な調査であるため、因果関係についての結論を導くことはできません。
おわりに
今回の調査は、英国の若い男性における妊よう性知識と態度について、これまでで最も詳細なデータを提供するものです。生活習慣が妊よう性に与える影響についての理解は比較的進んでいた一方、加齢が妊よう性や子の健康に与える影響については、その開始時期や程度を過小評価する傾向が明らかになりました。これらの知見は、男性を対象とした妊よう性教育や、診療の場での情報提供のあり方を検討するうえでの土台になり得るものです。募集方法に伴う偏りをふまえ、より多様な背景を持つ集団を対象とした調査によって、さらに検証していく必要があるとされています。
参考文献
1. Tighe J, Okorocha E, Mitra A, Anson N, Jones BP, Roberts R, Elshieikh M, Theodorou E, Ben Nagi J, Kasaven LS. Exploring the knowledge, attitudes, and perceptions of young men towards fertility in the UK: A cross-sectional survey. PLoS One 2026;21(7):e0353073. doi:10.1371/journal.pone.0353073.
