胚が全て発生停止した周期──次の周期の見通しは?

体外受精(IVF)では、受精を確認した胚(前核2個、2PN胚)のうち、およそ40〜60%が胚盤胞まで発育するとされています。しかし実際の診療では、採卵周期で得られた2PN胚のすべてが胚盤胞に到達せず、移植や凍結に用いる胚が1つも得られない周期が一定の割合で生じます。この状態は「完全胚発生停止(complete embryo developmental arrest、以下EDA)」と呼ばれ、加齢や卵巣予備能の低下、染色体異常、胚の代謝経路の異常などが関与すると考えられていますが、そのメカニズムは十分に解明されていません。

胚が1つも得られなかった周期を経験した患者の多くは、その後、追加の採卵周期に進みます。臨床現場では「一度EDAを経験すると、次の周期も同様に不良な結果になりやすい」という見方がしばしばなされますが、それを裏付ける具体的なデータは限られていました。過去の研究の多くはEDAに限定しない幅広い集団を対象としており、胚盤胞形成率が2回目の周期で改善するかどうかについても、報告によって結論が分かれていました。

こうした背景のもと、Fertility and Sterility誌(2026年)に、単一の生殖医療センターで2017年1月から2025年4月までに実施された、着床前診断(PGT-A)を前提とした連続2周期のIVF治療を対象とする後方視的コホート研究が掲載されました。最初の周期で完全EDAを経験した患者が、次の周期でどのような胚培養・妊娠・出産成績を得るのかを、傾向スコアマッチングを用いて検証した内容です。

方法──1年以内に連続した2回のIVF周期を、遺伝子検査を前提に追跡した

対象は、2017年1月から2025年4月にかけて、1年以内に連続して2回の調節卵巣刺激(COS)によるIVF周期を受け、いずれもPGT-Aを実施する予定であった患者です。2回の周期を通じて2PN胚が合計2個以上得られた患者が組み入れられ、代理精子や非自己配偶子を用いた周期、単一遺伝子疾患や染色体構造異常を対象とするPGT-M・PGT-SRを実施した周期は除外されました。

最初の周期の胚培養結果によって、患者は2群に分けられました。胚盤胞形成率が0%であった「完全EDA群」と、1個以上の胚盤胞が凍結された「比較群」です。主要評価項目は、次の周期における胚盤胞到達率(総胚盤胞数÷総2PN数)とし、副次評価項目として採卵数、成熟卵数、受精卵数、総胚盤胞数、正倍数性率、そして単一正倍数性胚移植後の生児出生率が検討されました。両群の背景因子には大きな差があったため、年齢、抗ミュラー管ホルモン(AMH)値、体格指数(BMI)、精子の由来・種類を用いた1対2の傾向スコアマッチングが行われ、マッチング後のデータに対して多変量回帰分析(log-binomial回帰モデル)による調整リスク比(aRR)が算出されました。

マッチング前は、EDA群がもともと不利な条件だった

適格基準を満たした3,917人のうち、501人が完全EDA群、3,412人が比較群に分類されました。マッチング前の時点で、完全EDA群は比較群に比べて年齢が高く(平均38.4歳 vs 37.2歳、P<0.001)、BMIが高く(27.3 vs 26.5 kg/㎡、P=0.008)、AMH値が低く(1.6 vs 2.1 ng/mL、P<0.001)、採卵で得られた成熟卵数も少ない(平均6.6個 vs 9.1個)という結果でした。使用された治療プロトコルにも差があり、完全EDA群ではマイクロフレア法(57.5%)とhCG単独トリガー(73.3%)が多く用いられていたのに対し、比較群ではアンタゴニスト法(64%)とhCG・GnRHアゴニスト併用トリガー(43.3%)が多く用いられていました。

こうした年齢・卵巣予備能・治療プロトコルの偏りをそろえるため、1対2の傾向スコアマッチングが行われ、完全EDA群444人、比較群815人が抽出されました。マッチング後は、平均年齢・BMI・AMH値・採卵で得られた成熟卵数のいずれにも有意差はなくなり、年齢区分や治療プロトコル、トリガーの種類の分布もほぼそろえられました。

胚盤胞到達率は25%低く、「全滅」のリスクは2倍だった

背景因子をそろえたうえでの多変量解析では、完全EDAの既往が、次の周期の胚培養成績に独立して関連していることが示されました。次の周期の胚盤胞到達率は、完全EDA群で33.1%±30.1、比較群で47.0%±31.3となり、完全EDA群では胚盤胞到達率がおよそ25%低いという結果でした(aRR 0.75、95%信頼区間0.70〜0.80、P<0.001)。また、次の周期でも胚盤胞が1つも得られない(再度のEDA)リスクは、完全EDA群で33.6%、比較群で17.9%となり、完全EDA群ではおよそ2倍近く高いという結果でした(aRR 1.82、95%CI 1.44〜2.30、P<0.001)。受精率についても、完全EDA群でわずかに低い値が示されました(76.6%±24.6 vs 81.5%±21.1、aRR 0.94、95%CI 0.92〜0.97、P<0.001)。

それでも三分の二は胚盤胞にたどり着き、正倍数性率・出産成績は同等だった

一方で、得られた胚盤胞の質に着目すると、異なる側面が見えてきました。胚盤胞のうち染色体数に異常がない(正倍数性)割合は、完全EDA群45.5%±40.8、比較群46.7%±39.1と、両群間に有意差はありませんでした(aRR 0.97、95%CI 0.81〜1.15、P=0.209)。さらに、正倍数性が確認された胚を1個移植した場合の生児出生率も、完全EDA群(91件)で73.6%、比較群(318件)で74.8%と、統計学的な有意差は認められませんでした(aRR 0.98、95%CI 0.85〜1.12、P=0.817)。

研究チームは、完全EDAを経験した患者のうち約3分の2が、次の周期で胚盤胞を得られたことも報告しています。胚盤胞形成率や再度のEDAのリスクは高いものの、いったん正倍数性の胚盤胞が得られれば、その後の妊娠・出産成績は完全EDAの既往がない患者と変わらなかったことになります。

何が胚盤胞到達率に関わるのか

マッチング後のデータでは、完全EDAの既往に加えて、年齢区分(35歳未満、41〜42歳、43歳以上)、AMH値、BMI 30kg/㎡以上、そして顕微授精(ICSI)時に新鮮精子と凍結精子の両方を用いる必要があった場合(該当数が少なく解釈には注意が必要)が、次の周期の胚盤胞到達率と関連していました。また治療プロトコルについては、ダウンレギュレーション法(aRR 0.70、95%CI 0.56〜0.87)とマイクロフレア法(aRR 0.89、95%CI 0.81〜0.99)が、胚盤胞到達率の低下と関連していました。ただし、これらの因子は「再度のEDA」そのものとは有意な関連を示しませんでした。

プロトコルを変えても、結果は変わらなかった

完全EDAを経験した患者にとって関心が高いのは、「次の周期で治療プロトコルを変えれば、結果は改善するのか」という点です。この研究では、最初の周期から次の周期にかけて刺激プロトコルやトリガーの種類を変更したかどうかを検討しましたが、胚盤胞到達率にも、再度のEDAのリスクにも、統計学的に有意な差は見られませんでした。この結果について研究チームは、卵巣刺激やトリガーの選び方が、胚の代謝や染色体などの遺伝的側面に影響を与えるという知見がこれまで示されていないことと矛盾しない、生物学的に妥当な所見だとしています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本の生殖医療の現場でも、採卵した胚がすべて胚盤胞に到達せず、移植や凍結に至る胚が1つも得られない周期は珍しくありません。こうした結果を経験した患者にとっては、次の治療に進むかどうかを判断する材料が乏しいことが、大きな不安につながりやすい状況です。今回の結果は、完全EDAの既往が次の周期の胚盤胞到達率の低下や再度のEDAのリスク上昇と関連する一方で、それでも過半数を超える患者が胚盤胞を得られており、得られた胚盤胞の質やその後の妊娠・出産成績には差がないことを示しています。診察室での説明においては、「不利な予後因子ではあるが、致命的な予後不良因子ではない」という位置づけで、治療継続の是非を患者とともに検討する材料になり得ると考えられます。また、プロトコル変更が結果に大きな影響を与えなかったという知見は、次周期に向けた治療方針の説明においても参考になると考えられます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、単一施設・単一の胚培養ラボで実施された連続周期を対象としたことで、施設間や培養条件の違いによる交絡を抑えられた点、そして傾向スコアマッチングによって年齢や卵巣予備能などの背景因子をそろえたうえで比較を行った点にあります。完全EDAという比較的まれな事象を対象としながら、500人規模の患者と3,000人を超える比較群という大きな母集団から解析対象を抽出できたことも強みとされています。

一方で限界もあります。第一に後方視的研究であり、治療プロトコルの選択自体が患者の予後予測に基づいて行われていた可能性があるため、選択バイアスを完全には排除できません。第二に、比較群についても、追加の治療周期に進むことを選んだ患者という点で、一般的な不妊治療患者集団全体を代表しているとは限りません。第三に、男性因子不妊など、解析に含まれていない交絡因子が残っている可能性があります。第四に単一施設の研究であるため、他施設への一般化には慎重な検討が必要とされています。なお、事前のサンプルサイズ計算は行われていませんが、研究チームは、最終的な解析対象の規模(完全EDA群444人、比較群815人)が、オッズ比にしておよそ1.19程度(約30%対35.5%)の効果量を検出するには十分な検出力(80%)を持っていたとしています。

おわりに

今回の研究は、完全EDAという特定の集団に絞って、次の周期の胚培養・妊娠・出産成績を検証した、これまでで初めての報告とされています。完全EDAの既往は、次の周期における胚盤胞到達率の低下や、受精率のわずかな低下、再度のEDAのリスク上昇と独立して関連していました。一方で、正倍数性率や、正倍数性胚移植後の生児出生率には差がなく、治療プロトコルの変更も結果を大きく左右しませんでした。これらの知見は、完全EDAを経験した患者への説明や、次周期に向けた治療方針の検討に活用しうるものですが、単一施設のデータであることから、他施設でのさらなる検証が必要とされています。

参考文献

1. George L, Kalafat E, Sachdev D, Whitehead C, Sahin GN, Werner M, Seli E. Complete Embryo Developmental Arrest and Its Prognostic Significance in IVF. Fertil Steril 2026 (in press). doi:10.1016/j.fertnstert.2026.07.005.

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