「良い菌」が体外受精の成績を左右する──40研究が示した膣・子宮内フローラの意味

体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)といった生殖補助医療(ART)は、卵管閉塞や男性因子、反復着床不全などを抱える患者にとって重要な選択肢となっています。ヨーロッパ39か国、90万周期以上のデータでは、胚移植あたりの臨床妊娠率は34.6%、採卵あたりの累積生児出生率は30.8%にとどまるとされ、良好胚を移植しても着床に至らない例は少なくありません。こうした背景から、子宮内環境や子宮内膜の受容能に関わる母体側の因子への関心が高まっています。

近年注目されているのが、腟・子宮頸管・子宮内膜、そして卵胞液に存在する微生物叢(マイクロバイオータ)です。腟内は本来Lactobacillus属の菌が優勢な環境であり、乳酸や過酸化水素の産生を通じて病原菌の増殖を抑え、局所の免疫環境を安定させると考えられています。一方でLactobacillusが減少すると、炎症性サイトカインの増加や子宮内膜受容能の低下につながるとの指摘があります。こうした知見を踏まえ、2026年にBMC Pregnancy and Childbirth誌に、腟・卵胞液の微生物叢とプロバイオティクス介入がIVF/ICSIの成績に与える影響を包括的に検証した系統的レビューが掲載されました(doi:10.1186/s12884-026-09523-1)。

方法──2,546件から40研究を絞り込んだ

この系統的レビューは、PRISMA 2020声明に準拠し、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryを対象に、2000年1月から2025年8月までに発表された文献を検索したものです。IVFまたはICSIを受けた生殖年齢の女性を対象とし、腟・頸管・子宮内膜または卵胞液の微生物叢、あるいはプロバイオティクス介入と、着床率・臨床妊娠率・生児出生率・流産率のいずれかを報告した原著論文が組み入れられました。

検索の結果、2,546件の文献のうち86件が全文評価の対象となり、最終的に40研究(ランダム化比較試験2件、前向きコホート研究28件、後方視的コホート研究5件、横断研究3件、症例対照研究2件)が採用されました。参加者は反復着床不全、原因不明不妊、男性因子不妊、子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群など多様な背景を持つ18〜50歳の女性です。バイアスリスクは研究デザインに応じてRoB 2.0、ROBINS-I、JBIツールで評価され、大半が中等度と判定されました。

Lactobacillus優位のフローラが着床・妊娠・出産に有利

複数の研究を通じて一貫していたのは、Lactobacillus属、とりわけLactobacillus crispatusが優勢な微生物叢が、より高い着床率・臨床妊娠率・生児出生率と関連していたという点です。ある大規模観察研究では、子宮内膜のLactobacillus量が多いほど生児出生と関連し、Gardnerellaなど嫌気性菌に富む異常フローラは着床不全や流産と結びついていたと報告されています。頸管フローラをLactobacillus crispatus優位型・Lactobacillus iners優位型・多様な菌叢混在型の3タイプに分けたある研究では、crispatus優位型が生化学的妊娠率・臨床妊娠率のいずれにおいても有意に良好でした。

腟内フローラについても、複数の観察研究でLactobacillus優位群のほうが臨床妊娠率・生児出生率が高いという結果が示されています。ある研究では、望ましくない腟内フローラ(Lactobacillus比率20%未満、特定のGardnerella型の存在、Proteobacteria比率28%超など)を持つ女性の妊娠率は6%にとどまり、全体平均の約35%を大きく下回りました。別の研究では、重度の腟内ディスバイオシスにより着床率が66.9%から29.6%へ、臨床妊娠率が84.3%から34.2%へと低下したことが報告されています。

ただし、Lactobacillus属の中でもLactobacillus inersが優勢な場合は、crispatus優勢の場合ほど良好な成績と結びつかない傾向が複数の研究で示されており、単に「Lactobacillusが多いかどうか」ではなく、菌種レベルでの構成が重要である可能性が指摘されています。また、菌の多様性(アルファ多様性・ベータ多様性)そのものは、妊娠成立の有無と一貫した関連を示さなかった研究が多く、多様性の指標単独では予測力に限界があるとされています。

卵胞液の細菌は、着床成績とはっきり結びつかなかった

卵胞液の微生物叢を扱った研究は3件にとどまり、結果は一貫していません。ある研究では、卵胞液中にLactobacillus属が検出された場合に胚移植率がやや高い傾向が見られた一方、Propionibacterium、Streptococcus、Actinomyces属の検出は胚移植不成立や陰性の妊娠転帰と関連していたと報告されています。しかし別の2つの研究では、卵胞液中の細菌検出の有無と受精率・着床率・妊娠率との間に、統計学的に有意な関連は確認されませんでした。

卵胞液は本来ほぼ無菌に近いと考えられてきた低バイオマス検体であり、採卵操作時の周辺環境や試薬由来のDNA混入によって、見かけ上の菌シグナルが生じている可能性が指摘されています。今回のレビューでは、卵胞液の細菌叢は胚の質や妊娠成績との一貫した関連を示さず、現時点でこの領域を対象とした微生物叢標的介入は時期尚早と結論づけられています。

プロバイオティクスは「短期・単回」より「長期・個別化」が効果的か

プロバイオティクス介入を扱った5研究(ランダム化比較試験2件を含む)のうち、採卵直後に腟内へ単回投与したLactobacillus acidophilusとBifidobacterium属の製剤は、腟内フローラの組成にも妊娠成績にも有意な変化をもたらしませんでした。

一方、より長期または個別化された介入では異なる結果が示されています。子宮内膜メタゲノム解析(EMMA)の結果に応じて経口または腟内投与を行った研究では、反復着床不全や流産歴を持つ女性で、Lactobacillus優位の子宮内膜叢への回復と、妊娠成立までの期間短縮が観察されました。90日間にわたりLactobacillus crispatus M247を連日経口摂取した後方視的研究では、対照群と比べて臨床妊娠のオッズ比が1.56、生児出生のオッズ比が1.76と、良好な胚盤胞移植群でとくに効果が顕著でした。さらに、夫婦双方が6か月間Ligilactobacillus salivarius CECT5713を経口摂取したランダム化比較試験では、総妊娠率が51.8%対26.7%、生児出生率が48%対20%(P=0.024)と、プラセボ群を有意に上回りました。

興味深いことに、この最後の研究では腟内フローラの多様性そのものには大きな変化が見られなかったにもかかわらず妊娠成績が改善しており、プロバイオティクスの効果が菌叢の組成変化だけでなく、免疫調節など別の経路を介している可能性も示唆されています。ただし、いずれの研究も規模が小さく、ランダム化比較試験自体が少数にとどまるため、因果関係の確立には至っていません。

見落とされがちな視点──精液の微生物叢

今回のレビューで新たに注目されたのが、男性側、すなわち精液の微生物叢です。組み入れられた1研究では、Prevotella属などのグラム陰性嫌気性菌が優勢な精液を持つ男性のパートナーで、着床率・妊娠率が低い傾向が示されました。また別の複数の研究を踏まえ、Lactobacillus属とPrevotella属が精子の運動性やDNA損傷の程度に対して相反する影響を及ぼす可能性が指摘されています。母体側だけでなく男性側の微生物叢も、間接的にART成績に関与しうるという視点は、今後の研究課題として位置づけられています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、腟・子宮内フローラの評価やプロバイオティクス介入は、一部の施設でEMMAや同様の検査を用いた個別化診療として取り入れられているものの、標準的な診療として広く確立されているわけではありません。今回のレビューの知見は、Lactobacillus crispatus優位のフローラが良好な指標となりうる一方、フローラ評価だけを根拠に治療方針を大きく変更するには、まだエビデンスの一貫性が不十分であることを示しています。

臨床現場では、反復着床不全や原因不明不妊など、通常の検査で原因が特定できない患者に対して、フローラ評価やプロバイオティクス介入を補助的な選択肢として検討する余地はあるものの、それを標準治療として位置づけるにはさらなる検証が必要とされています。患者への説明においても、「フローラを整えれば必ず妊娠する」という単純な因果関係ではなく、「関連はあるが未解明な部分が多い」という慎重な姿勢が求められます。

研究の強みと限界

本レビューの強みは、腟・頸管・子宮内膜・卵胞液という複数の検体部位を横断的に扱い、菌叢評価とプロバイオティクス介入の双方を統合して整理した点、また2025年8月までの文献を網羅している点にあります。

一方で限界も少なくありません。第一に、大半が観察研究であり、ランダム化比較試験は2件にとどまるため、因果関係の証明には至りません。第二に、検体採取方法・シーケンス手法・妊娠転帰の定義が研究間で大きく異なり、直接比較を難しくしています。第三に、ホルモン状態やBMI、不妊原因、卵巣刺激プロトコルといった交絡因子の調整が一貫していない研究が多く見られました。第四に、子宮内膜や卵胞液のような低バイオマス検体は、陰性対照や抽出ブランクなどの汚染対策が不十分だと、見かけ上の菌シグナルが結果に混入するリスクがあります。今回のレビューでは、汚染対策を包括的に実施していた研究は40件中5件にとどまりましたが、それらの結果は全体の傾向と概ね一致しており、観察された関連が汚染由来だけで説明されるものではない可能性も示されています。

おわりに

今回のレビューは、腟・子宮内膜のLactobacillus優位フローラ、とくにLactobacillus crispatusの存在が、IVF/ICSIにおける良好な妊娠・出産成績と関連することを、40件の研究にわたって整理したものです。一方で、卵胞液の微生物叢については明確な関連が確認されず、プロバイオティクス介入も短期的・単回投与では効果が乏しく、長期的・個別化された介入でより良好な結果が報告される傾向にありました。これらの知見は、フローラに応じた個別化診療の可能性を示す一方、現時点ではルーチンの臨床応用を裏付けるだけのエビデンスの一貫性には達していません。今後は、標準化された検体採取法と妊娠転帰の定義に基づく、十分な検出力を持つランダム化比較試験による検証が求められます。

参考文献

1. Ma G, Zeng R, Cai R, He B, Han J, Gao R, Qin L. Reproductive tract and follicular fluid microbiota and probiotic interventions in IVF/ICSI outcomes: a systematic review. BMC Pregnancy Childbirth. 2026. doi:10.1186/s12884-026-09523-1.

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