子宮筋腫、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜症、骨盤臓器脱、女性不妊、月経前症候群(PMS)といった非腫瘍性の婦人科疾患は、生殖年齢の女性に広くみられ、生活の質の低下や医療費の増加につながることが知られています。近年、周産期から思春期にかけての要因が、成人後の婦人科疾患リスクと関連する可能性が指摘されてきました。長期・反復的な抗菌薬使用と将来の疾患リスクとの関連、初経の早さとPCOSや子宮内膜症との関連、低出生体重や母乳栄養の欠如、母親の喫煙と生殖への影響などが、それぞれ個別に報告されています。
ただし、これまでの研究の多くは単一の曝露あるいは単一の疾患に焦点を絞ったものであり、複数の幼少期要因と複数の婦人科疾患を同時に比較した研究は限られていました。
このような背景のもと、BMC Women’s Health誌(2026年)に、英国の大規模コホートであるUKバイオバンクのデータを用いた観察研究が掲載されました(doi:10.1186/s12905-026-04646-1)。長期・反復的抗菌薬使用(LRAU)、出生体重、多胎、母乳栄養、初経年齢、周産期の母親の喫煙という6つの幼少期要因が、子宮筋腫、PCOS、子宮内膜症、骨盤臓器脱、女性不妊、PMSという6つの非腫瘍性婦人科疾患のリスクとどのように関連するかを、27万2,706人という大規模なデータで検証した内容です。
方法──27万人を対象に、6つの幼少期要因と6つの疾患を解析した
対象は、UKバイオバンクに登録された女性のうち、成人男性、いずれの幼少期要因の記録もない者、18歳未満で婦人科疾患と診断された者を除いた27万2,706人です。6つの婦人科疾患は、入院記録、プライマリケア記録、自己申告(医師による診断が確認できたもの)から特定されました。
幼少期要因のうちLRAUは、「小児期または思春期に年3回以上の抗菌薬投与を受けた」ことと定義されています。出生体重は2,500g未満、2,500〜3,999g、4,000g以上の3区分、初経年齢は12歳以下と13歳以上の2区分で評価されました。統計解析では、年齢、民族、教育歴、Townsend貧困指数、喫煙状況で調整した多変量ロジスティック回帰を主解析とし、Cox比例ハザードモデルを補助解析として実施しています。6つの要因と6つの疾患の組み合わせ、合計36の仮説を検定するため、Bonferroni補正後の有意水準はP<0.0014に設定されました。
解析対象27万2,706人のうち、疾患の有病率は子宮筋腫8.51%(23,214人)、骨盤臓器脱8.17%(22,273人)、子宮内膜症3.73%(10,175人)、女性不妊1.61%(4,395人)、PCOS 0.35%(947人)、PMS 0.07%(200人)でした。
抗菌薬の長期・反復使用は、複数の疾患リスクと関連していた
幼少期にLRAUを経験した女性は、経験していない女性と比べて、子宮筋腫(調整オッズ比[aOR]1.15、95%信頼区間[CI]1.09-1.22)、PCOS(aOR1.93、95% CI 1.55-2.39)、子宮内膜症(aOR1.57、95% CI 1.45-1.70)、骨盤臓器脱(aOR1.29、95% CI 1.20-1.37)、PMS(aOR2.38、95% CI 1.40-3.97)のリスクが高いという結果でした。これらの関連はいずれもBonferroni補正後も統計学的に有意でした。女性不妊との関連は、統計学的に有意ではありませんでした。
LRAUとPCOSの関連は、オッズ比としてはおよそ2倍にあたる値です。ただしPCOSの症例数は947人と限られており、信頼区間の幅も比較的広いため、結果の解釈には慎重さが求められます。
初経が早いほど、複数の疾患リスクが高くなる傾向
12歳以下で初経を迎えた女性は、13歳以上で迎えた女性と比べて、子宮筋腫(aOR1.23、95% CI 1.20-1.27)、PCOS(aOR1.30、95% CI 1.14-1.49)、子宮内膜症(aOR1.20、95% CI 1.15-1.25)、骨盤臓器脱(aOR1.09、95% CI 1.06-1.12)のリスクが高いという結果でした。制限付き3次スプライン解析でも、初経年齢とこれらの疾患との間に非線形の関連が確認されています。女性不妊についても関連がみられましたが(aOR1.08)、Bonferroni補正後には統計学的な有意性を失いました。
妊娠中の母親の喫煙、乳児期の母乳栄養の有無も関連
出生前後に母親が喫煙していた女性は、していなかった女性と比べて、子宮内膜症(aOR1.19、95% CI 1.14-1.25)、骨盤臓器脱(aOR1.10、95% CI 1.06-1.14)、PMS(aOR2.20、95% CI 1.63-2.97)のリスクが高いという結果でした。
乳児期に母乳栄養を受けていなかった女性は、受けていた女性と比べて、子宮内膜症(aOR1.12、95% CI 1.07-1.18)とPMS(aOR1.78、95% CI 1.30-2.44)のリスクが高いという結果でした。いずれもBonferroni補正後も統計学的に有意でした。ただしPMSは症例数が200人と少なく、信頼区間も広いため、他の疾患と比べて解釈には一層の慎重さが必要とされています。
出生体重は「小さすぎても大きすぎても」影響がみられた
出生体重が2,500g未満だった女性は、2,500〜3,999gだった女性と比べて骨盤臓器脱のリスクがむしろ低く(aOR0.85、95% CI 0.80-0.90)、一方で4,000g以上だった女性は骨盤臓器脱のリスクが高いという結果でした(aOR1.21、95% CI 1.14-1.27)。いずれもBonferroni補正後も有意でした。子宮筋腫については、出生体重2,500g未満で軽度のリスク上昇がみられましたが(aOR1.06)、女性不妊については4,000g以上でリスク上昇がみられたものの(aOR1.13)、いずれもBonferroni補正後には有意性を失っています。
考えられる機序──推測の域を出ない点に注意が必要
論文は、これらの関連を説明しうるいくつかの生物学的機序を紹介していますが、直接的な機序の測定は行われておらず、いずれも仮説の域を出ないと明記しています。抗菌薬の長期使用については、腸内細菌叢の乱れがエストロゲン代謝に関わる「エストロボローム」と呼ばれる細菌群のバランスを変化させ、子宮内膜症やPCOSに関わる経路に影響する可能性が挙げられています。母親の喫煙については、胎盤や胎児卵巣におけるエピジェネティックな変化を介して、胎児期のエストロゲン曝露や卵巣機能の発達に影響する可能性が指摘されています。出生体重については、子宮内環境への適応反応が長期的な組織の構造や機能に影響するという「健康と疾病の発生起源(DOHaD)」仮説との整合性が論じられ、初経の早さについては、エストロゲンへの曝露期間が長くなることが、子宮筋腫や子宮内膜症のような エストロゲン依存性の病態の発生に関わる可能性が示されています。これらはいずれも、直接的な生物学的データに基づく検証が今後必要とされる仮説です。
日本の婦人科診療にとっての意味
日本の婦人科診療では、患者の既往歴として抗菌薬の使用歴や出生時の状況、初経年齢などを詳細に確認する機会は必ずしも多くありません。今回の結果は、幼少期の一部の要因が、成人後の複数の婦人科疾患リスクと関連しうることを示しており、リスクの層別化や、患者への説明のあり方を検討するうえでの一つの材料になり得ます。
特に、抗菌薬の使用や母乳栄養、妊娠中の喫煙といった要因は、程度の差はあれ改善や介入の余地がある一方で、初経年齢や出生体重のように、本人や家族の努力だけでは変えられない要因も含まれています。日本の臨床現場では、こうした非修正可能な要因について、患者を過度に不安にさせたり、責める形にならないよう配慮した説明が求められると考えられます。今回の結果を直ちに予防指導や診療方針の変更に結びつけるのではなく、あくまで将来のリスク評価研究の土台として位置づけることが妥当とされています。
研究の強みと限界
本研究の強みは、UKバイオバンクという大規模かつ情報の豊富なコホートを用いた点、6つの幼少期要因と6つの婦人科疾患を同時に評価した点、そして複数の感度分析によって結果の頑健性を検証した点にあります。
一方で限界もあります。第一に、抗菌薬使用歴や母乳栄養、母親の喫煙、出生体重といった幼少期要因の多くが、曝露から長年経ってからの自己申告に基づいており、想起バイアスや非差異的な誤分類が生じている可能性があります。第二に、疾患の把握には有病例と新規発症例が混在し、自己申告による診断日には不正確さも残ります。第三に、PCOSやPMSは症例数が少なく、信頼区間が広くなっており、結果の解釈には注意が必要です。第四に、UKバイオバンクの参加者は白人系英国人が中心であり、健康な参加者に偏る「健康志願者バイアス」の影響も指摘されているため、他の集団への一般化には注意が必要とされています。最後に、本研究は観察研究であり、幼少期要因と婦人科疾患との間に因果関係があることを証明するものではありません。
おわりに
今回の研究は、長期・反復的抗菌薬使用、初経年齢、周産期の母親の喫煙、母乳栄養といった選択された幼少期の要因が、成人後の複数の非腫瘍性婦人科疾患のリスクと関連することを、27万人規模のデータで示しました。これらの要因の一部は修正可能である一方、初経年齢や出生体重のように修正が難しいものも含まれています。論文は、これらの知見が将来的なリスク層別化研究の基盤になり得るとしつつも、因果関係の証明や予防的介入の根拠とするには、より詳細な曝露評価や客観的なバイオマーカーを用いた前向き研究による検証が必要であるとしています。
参考文献
1. Jiang J, Fu Y, Chen Y, Liu H, Sun Z, Yin Y, Liu Y, Li D, Wan Z, Shuai P. Early-life exposures and risk of multiple gynecological diseases: evidence from a large community-based study of 272,706 women. BMC Women’s Health 2026. doi:10.1186/s12905-026-04646-1.
