「不妊歴」は2型糖尿病のサインか──50歳までの女性で3割増、原因で分かれるリスク

不妊は、米国では夫婦の8〜16%が経験するとされる身近な健康課題です。その原因には、排卵障害や卵管性不妊、子宮内膜症といった疾患そのものに加え、加齢など多様な要因が関わっています。近年は、不妊の既往が単なる妊孕性の問題にとどまらず、その後の心血管疾患リスクや死亡リスクとも関連するという報告が積み重なってきました。

なかでも2型糖尿病との関係は、これまでにも複数のコホート研究で指摘されてきましたが、追跡期間が短かったり、不妊の原因別の分析ができなかったりする限界が残されていました。年齢とともにリスクがどう変化するのか、そして原因の違いによって差があるのかは、これまで十分には検証されていませんでした。

こうした課題に、約30年にわたる追跡データで応えたのが、Diabetologia誌(2026年)に掲載された研究です。米国の看護師健康研究II(Nurses’ Health Study II、NHSII)の参加者11万6,429人を対象に、不妊歴と2型糖尿病リスクの関係を、年齢や不妊の原因ごとに検証しています。

方法──看護師11万人超を30年近く追跡した

対象は、1989年にNHSIIに登録した25〜42歳の女性11万6,429人です。登録前に糖尿病、脳卒中、心筋梗塞、冠動脈バイパス術の既往があった女性は除外され、妊娠歴のある女性のうち、不妊歴のある女性(21,085人)と不妊歴のない女性(73,720人)が比較されました。不妊は「1年以上妊娠を試みても成功しなかった」という、疫学研究で標準的に用いられる定義に基づいています。

参加者は不妊の原因についても、卵管閉塞、排卵障害、子宮内膜症、頸管粘液因子、男性因子、原因不明など、複数回答で報告していました。2型糖尿病の診断は自己申告後に追加調査票で医学的基準に照らして確認され、2019年まで追跡されています。解析にはCox比例ハザードモデルが用いられ、糖尿病リスクが年齢とともに変化する影響を考慮して、50歳以下と50歳超の年齢層に分けて評価されました。BMIや初経年齢、婚姻状況、出産歴、経口避妊薬の使用歴、食事の質、喫煙状況など多数の交絡因子で調整されています。

50歳までなら32%のリスク上昇、原因別では排卵障害が突出

追跡期間中(のべ268万人年)に8,638人が2型糖尿病と診断されました。50歳以下の女性では、不妊歴のある女性はない女性に比べて2型糖尿病のリスクが32%高いという結果でした(ハザード比[HR]1.32、95%信頼区間[CI]1.22〜1.43、BMIの変化も調整したモデル)。年齢とともにリスクが変化するかどうかを調べた交互作用検定では、50歳を境に関係が明確に異なることが示されています(交互作用のP値0.0004)。

不妊の原因別に見ると、50歳以下の女性でもっともリスクが高かったのは排卵障害で、67%のリスク上昇と関連していました(HR 1.67、95% CI 1.48〜1.89)。卵管閉塞(HR 1.29、95% CI 1.01〜1.64)、男性因子不妊(HR 1.30、95% CI 1.08〜1.57)、原因不明(HR 1.26、95% CI 1.05〜1.51)は、いずれもおよそ3割前後のリスク上昇と関連していました。一方、子宮内膜症や頸管粘液因子による不妊では、有意な関連は見られませんでした。

50歳を境に薄れるリスク──それでも卵管性だけは残った

50歳を超えると、不妊歴と2型糖尿病リスクの関連は全体として弱まり、リスク上昇は12%にとどまりました(HR 1.12、95% CI 1.06〜1.19)。原因別に見ても、排卵障害によるリスク上昇(HR 1.18、95% CI 1.05〜1.32)は統計学的に有意なまま残った一方、男性因子不妊(HR 0.96、95% CI 0.82〜1.13)や原因不明(HR 1.14、95% CI 0.99〜1.30)では有意な関連は見られなくなりました。これに対して卵管閉塞によるリスク上昇(HR 1.26、95% CI 1.05〜1.51)は、50歳以下の女性とほぼ同じ水準で残っていました。

50歳を超えてリスクが弱まる背景としては、加齢に伴い糖尿病を発症しやすい人がすでに発症してしまい、感受性の高い集団が減っていくことや、不妊を経験した時期から糖尿病発症までの期間が長くなることなどが考えられると論文では議論されています。

BMIで調整しても、若い頃にやせていた女性のリスクは消えなかった

不妊も2型糖尿病も、体格(BMI)と強く関連することが知られています。そこで研究チームは、18歳時点のBMIが25kg/m²未満だった女性に限定した解析も行いました。この集団でも、不妊歴のある女性の2型糖尿病リスクは、50歳以下で32%(HR 1.32、95% CI 1.20〜1.44)、50歳超で11%(HR 1.11、95% CI 1.04〜1.19)高いという結果で、全体の結果とほぼ同じ傾向でした。若い頃にやせていた女性であっても、不妊歴があること自体がリスクの手がかりになりうることを示しています。

HbA1cの差はわずかだった

平均44歳時点で採血されたデータ(2,399人)を用いた解析では、不妊歴のある女性のHbA1c平均値は5.35%(標準偏差0.43)、ない女性は5.30%(標準偏差0.38)で、相対差は0.68%(95% CI 0.04〜1.32)にとどまりました。統計学的には差が検出されたものの、絶対値としての差はごくわずかで、臨床的に意味のある違いとまでは言えない水準だったとされています。

過去の研究との整合性

同じNHSIIコホートを用いた過去の研究(2015年発表)では、追跡期間がより短い段階で、不妊歴による2型糖尿病リスクの上昇が20%(HR 1.20、95% CI 1.14〜1.28)と報告されていました。今回の研究は追跡期間を大幅に延長し、年齢層と原因別の分析を加えることで、より詳細な像を描き出しています。米国の保険請求データを用いた別の研究では44%のリスク上昇、糖尿病予防プログラム(DPP)の追跡研究では出産歴のある女性で80%のリスク上昇が報告される一方、オランダの大規模コホート(EPIC)では約9年の追跡で有意な関連が見られなかったと報告されており、研究間で結果にはばらつきがあります。不妊の定義や追跡期間、対象集団の違いが、こうした差の一因と考えられています。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、不妊治療を受けた経験のある女性の割合が国際的に見ても高い水準にあります。今回の結果は、不妊歴、とくに排卵障害や卵管性不妊、原因不明の不妊を経験した女性が、生殖年齢からその後の中年期にかけて2型糖尿病のリスクを見直す一つの手がかりになりうることを示しています。診察の場では、妊娠・出産歴だけでなく不妊歴も、その後の代謝リスクを考えるうえで参考になる情報として位置づけられる余地があります。

一方で、この研究は不妊治療そのものの影響までは検証していません。論文では、不妊治療と2型糖尿病リスクとの関連を検討した近年のメタ解析でも、明確な関連は見られていないことが紹介されています。日本の臨床現場でも、不妊歴を理由に過度な不安をあおるのではなく、他の生活習慣要因と合わせて長期的な健康管理の一項目として扱う姿勢が求められると考えられます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、11万人を超える大規模なコホートを約30年にわたり追跡した点、そして不妊の原因別・年齢層別に詳細な分析を行った点にあります。一方で限界もあります。第一に、不妊歴は自己申告に基づいており、実際に妊娠を試みたことのない女性を比較対象から正確に除外できていない可能性があります。第二に、排卵障害の申告には多嚢胞性卵巣症候群(PMOS)そのものと区別できないという調査票上の制約があります。第三に、対象は看護師という職業集団であり、米国の女性全体を代表する無作為抽出ではありません。第四に、不妊治療の有無に関する情報は今回の解析には含まれていません。

おわりに

今回の研究は、不妊歴のある女性が、とくに50歳になるまでの間、2型糖尿病のリスクが高い傾向にあることを、大規模かつ長期の追跡データで示しました。排卵障害、卵管性不妊、男性因子不妊、原因不明の不妊が、それぞれ異なる程度でリスク上昇と関連しており、加齢とともにその関連は変化していくことも明らかになっています。不妊歴は、生殖年齢における代謝リスクの早期の指標となりうるものであり、今後は不妊治療の現場での血糖スクリーニングの意義や、長期的な予防介入のあり方について、さらなる検証が求められています。

参考文献

1. Farland LV, Degnan WJ III, Wang S, Gaskins AJ, Chavarro JE, Rich-Edwards JW, Tobias DK, Missmer SA. History of infertility, risk of type 2 diabetes and HbA1c levels in the Nurses’ Health Study II. Diabetologia 2026. doi:10.1007/s00125-026-06784-5.

2. Tobias DK, Gaskins AJ, Missmer SA, et al. History of infertility and risk of type 2 diabetes mellitus: a prospective cohort study. Diabetologia 2015;58(4):707-715. doi:10.1007/s00125-015-3493-z.

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