妊活は夫婦そろって──「王道の健康食」が、出生率をそっと後押し

不妊症は米国において珍しくない問題で、12か月経っても妊娠に至らないカップルは6組に1組にのぼるとされています。体外受精(IVF)をはじめとする生殖補助医療(ART)は高額な負担を伴い、その費用はしばしば4万ドルを超える一方、ARTの実施件数はこの10年で2倍以上に増加し、年間およそ50万周期に迫っています。

葉酸や脂肪酸といった特定の栄養素、魚介類や大豆、乳製品、全粒穀物といった食品群、あるいはカフェイン摂取など、個別の食事要因と妊娠・出産の関連を検討した研究はこれまでも数多く存在してきました。しかし、不妊治療を受けるカップルに対してどのような食事パターン全体を勧めるべきかについては、十分な科学的根拠が示されていませんでした。それでも妊活中のカップルの間で食事に関するアドバイスへの関心は強く、栄養学や生殖医療の専門家によって、妊娠しやすさを高めることを意図した「フェルティリティダイエット」と呼ばれる食事パターンがいくつか提案されてきました。

こうした背景のもと、Fertility and Sterility誌(2026年)に、米国内4施設で2013年6月から2019年4月にかけて実施された前向きコホート研究が掲載されました。不妊治療を計画する2,370組のカップルを対象に、女性・男性それぞれの妊娠前の食事パターンと、生児出生および妊娠喪失との関連を検証した内容です。

方法──不妊治療を計画する2,370組を、食事パターン別に追跡した

対象は、米国4施設(ソルトレイクシティ、アイオワシティ、シカゴ、ミネアポリス)で不妊治療を計画していた異性愛カップルです。もともと男性への葉酸・亜鉛補充の効果を検証したFAZST試験と、その女性パートナーを対象としたIDEAL研究のデータを組み合わせた二次解析として実施されました。

各パートナーは125項目からなる食物摂取頻度調査票に回答し、過去3か月間の食習慣を報告しました。この回答をもとに、4種類の食事パターンについてそれぞれのスコアが算出されました。「Healthy Eating Index-2015(HEI-2015)」と「地中海式食事」は、米国の食事ガイドラインや伝統的なギリシャの食生活への適合度を反映した、いわば王道の健康食スコアです。一方、「フェルティリティダイエット」は排卵障害による不妊との関連が報告された食事要因を、「プロ・フェルティリティダイエット」は生殖補助医療の成績向上と関連した食事要因を、それぞれ反映するよう設計されたスコアです。各パートナーのスコアを合算した「カップル合計スコア」も算出されました。

主要な評価項目は、妊娠20週未満での妊娠喪失、および生児出生です。年齢や人種・民族、教育歴、喫煙、身体活動量、妊活期間、不妊診断の有無などの要因を調整した対数二項モデルを用い、各食事パターンスコアが1標準偏差増加するごとのリスク比が算出されました。

「王道の健康食」で生児出生率が上昇、「フェルティリティダイエット」は女性のみ

2,370組のうち1,054組が妊娠に至り、287組が妊娠喪失を、821組が生児出生を経験しました。

HEI-2015スコアが1標準偏差高いことは、女性で調整後リスク比(aRR)1.06(95%信頼区間1.00〜1.13)、男性で1.05(0.99〜1.11)、カップル合計で1.05(0.99〜1.12)と、いずれも生児出生の可能性の上昇と関連していました。地中海式食事スコアについても同様の傾向で、女性1.05(0.99〜1.12)、男性1.05(0.99〜1.11)、カップル合計1.06(1.00〜1.12)という結果でした。

一方、フェルティリティダイエットへの適合度が生児出生と関連していたのは女性のみで、1標準偏差の上昇によりaRR1.05(0.99〜1.12)と、王道の健康食とほぼ同程度の関連が見られました。男性やカップル合計では、この関連は確認されませんでした。プロ・フェルティリティダイエットについては、女性・男性・カップルいずれにおいても、生児出生との関連は認められませんでした。

妊娠喪失については、4種類の食事パターンいずれについても、女性・男性・カップルのどの単位で見ても、有意な関連は見られませんでした。エネルギー摂取量を調整から除外した場合や、BMIを調整に加えた場合でも、結果は大きく変わりませんでした。

効果が見えたのはIVF以外のカップル、そしてBMIが高いカップルで顕著

いくつかのサブ解析では、興味深い違いが見られました。BMIが30kg/m²以上のカップルでは、HEI-2015や地中海式食事スコアと生児出生との正の関連が、対象集団全体で見た場合よりも強くなる傾向にありました。ただし、対象人数が絞られる分、推定の精度は下がっています。

治療方法別に見ると、王道の健康食・フェルティリティダイエットいずれについても、生児出生との正の関連が見られたのは排卵誘発や人工授精、あるいは治療を行わなかったカップルに限られ、体外受精を受けたカップルでは、いずれの食事パターンとも関連が確認されませんでした。より侵襲的な治療を受けている場合には、食事の質の改善が結果に及ぼす影響は限定的である可能性が示唆されています。

不妊診断の有無で見ると、HEI-2015と生児出生の正の関連は、不妊診断のない女性・カップルでむしろ強く見られました。逆に、地中海式食事やフェルティリティダイエットについては、不妊診断のある女性・男性でより強い関連が見られ、なかでも多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や無排卵を伴う女性で、その傾向がやや強くなっていました。これは、フェルティリティダイエットへの適合度が高いことによる恩恵が、排卵機能の改善を介して生じている可能性を示唆する結果です。

食事パターンを構成する個々の要素についても検討が行われ、HEI-2015では精製穀物の摂取が少ないこと、地中海式食事では適度な(ゼロでも過量でもない)アルコール摂取が男性・カップル合計で、フェルティリティダイエットでは女性のマルチビタミン使用の頻度が高いことが、それぞれ生児出生の可能性の高さと関連していました。

日本の生殖医療現場にとっての意味

日本では、妊活中の食事指導について、エビデンスに基づいた統一的な指針が十分に整理されているとは言えません。今回の結果は、特定の「フェルティリティダイエット」を新たに取り入れるよりも、地中海式食事に近い、既存の健康的な食習慣を維持することの方が、妊娠・出産の見通しにとって現実的な選択肢となりうることを示しています。

また、今回の研究では、食事パターンへの適合度による恩恵が女性だけでなく男性にも見られた点、そして体外受精を受けるカップルでは効果が確認されなかった点が注目されます。日本の臨床現場でも、より侵襲的な治療を受けているカップルに対しては、食事指導が過度な期待や自責につながらないよう、その位置づけを丁寧に説明することが求められると考えられます。

研究の強みと限界

本研究の強みは、女性だけでなく男性パートナーの食事パターンも合わせて評価した、数少ない研究の一つである点、そして体外受精だけでなく排卵誘発や人工授精を含む幅広い不妊治療を受けるカップルを対象とした、比較的大規模な前向きコホートである点にあります。

一方で限界もあります。対象となったカップルの多くは非ヒスパニック系白人で、高い教育水準を持つ層に偏っており、他の集団への一般化には注意が必要です。また、食事の評価は自己申告による食物摂取頻度調査票に基づいており、測定誤差を伴う可能性があります。もっとも、この誤差は前向きに把握された妊娠・出産の結果とは独立に生じたと考えられるため、結果を大きく歪めるものではないと推測されています。さらに、観察研究であるため、測定されていない要因による残余交絡の可能性は否定できません。

おわりに

今回の研究は、不妊治療を計画するカップルにおいて、王道の健康食への適合度が高いほど、生児出生の可能性がわずかながら高まることを、比較的大規模な前向きコホートで示すものです。特定の「フェルティリティダイエット」への適合は、女性においてのみ同程度の関連が見られたにとどまり、男性やカップル全体では確認されませんでした。両者を天秤にかけたとき、双方のパートナーに恩恵があり、かつ実践のハードルも低いと考えられる王道の健康食は、より特化した「フェルティリティダイエット」に対して実用面での優位性を持つと位置づけられています。今回の知見が食事指導の在り方にどう反映されていくかは、今後の研究の蓄積によってさらに検証されていく必要があるとされています。

参考文献

1. Busse KR, Peri B, Ahmed D, Schisterman EF, Caniglia EC, Sealy NRZ, Mills JL, Johnstone EB, Mendola P, Ryan GL, Peterson CM, Hotaling JM, Hinkle SN, Mumford SL. Preconception dietary patterns in association with live birth and pregnancy loss: a couples-based approach. Fertility and Sterility 2026. doi:10.1016/j.fertnstert.2026.06.028

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